第130話 爆発――――
「リリア様」
お祭りも進み、色々な屋台を回ったあと。
人混みに入って離れそうになったので、名前を呼んで手を伸ばした。
その時――――
――――街が爆発した
大きな音も、閃光も、爆風も。なんの予兆もなく、突如として街の複数箇所が爆発した。
「っ!!!!? リリア様っ!!!」
僕は吹き荒れる風と強い音の中でそう叫んで、手をのばす……が。
その手が握り返されることはなかった。
「なっ!!!!?」
その変わりに。
爆発をもろともせずに、とても優雅に空を飛んでいた男が、リリア様の手を取った。
「嘘だろ……!?」
僕のそんな声は、再び起こった爆発によってかき消された。
「ど、どうしよう……」
冷静さを取り戻した人々は、我先に遠くに逃げようと動き始める。
人混みでみんなが一斉に動き出せば、どうなるかは想像に容易いだろう。
「どけっ!!」
「俺が先だっ!!」
「押さないで!!!」
「子供がいるの!!!」
僕は人の波に飲まれて、歩くことすらできなかった。
く、クソ……!!
僕は彼女の護衛なのに。
助けなきゃ……!!
僕が、彼女を助けなきゃ。
それに……彼女は。彼女だけは…………。
僕はそう決意して、人波に飲まれながら『ふん』と、一度大きくジャンプをした。
「っちょ!?」
「なんだ!?」
「どうしたっ!!?」
人の戸惑う声を聞きながら、僕はジャンプしたタイミングで飛行魔法を使う。
まずは周囲の確認しないと。
そう思って上へ上へと上がっていったのだが……。
「う、嘘だろ……!!」
上に登るに連れ、衝撃の事実が明らかになった。
「ま、魔物がいる!?」
街の中心部、西側、東側。少し離れた海沿い。南、北。
ぱっと見で数え切れないくらいの魔物が見えた。
「クソッ、どうなってるんだ……!?」
リリア様の誘拐だけなら、まだ対処できたのに。
街中に魔物発生。その上、またいつ爆発するかわからない。
これは、真面目にシャレにならないぞ……。
僕は浮かんできた最悪の想定を、頭を振って追い出した。
考えろ。考えるんだ。
そうならないためにも、必死に考えるんだ。
僕一人じゃない。魔王も精霊王さんも、賢者様もいる。
それは逆に言えば、その三人しかいないということだ。
考えろ。今の状況の最善を。この混乱を治め、彼女を助ける最善を。
僕はしばし思考の渦に呑まれ……そして顔を上げて叫んだ。
「魔王、精霊王さん。力を貸して。」
「もちろん」
「オッケーだよー」
急な言葉にも関わらず、二人は即答してくれた。
「ありがとう! この魔物の対応をお願いできる?」
一人でこれらの対応と彼女の救出をするというのは、いささか不可能だ。
でも、みんなに片方を任せれば。それも可能になる。
「はいよ」
「分かったよー」
二人はそんな軽い返事をして、魔王は透明な体のままで、精霊王さんはしっかりと具現化して笑った。
「僕もこれだけはやらせて」
丸投げで逃げるわけにはいかない。
僕はそうつぶやくと、突き出して手のひらに魔力を集中させる。
ざっと地上を見回し、大きくて強そうなのに標準を合わせる。
そして、
「
最大火力で魔法を放った。
次の瞬間。ピンポイントに大きな魔物がいたそこだけを、空気の弾丸が通過する。
よし、ちゃんと全員倒れてる。
「相変わらずの変態っぷりだな」
「ひゅう、やるぅ」
二人からそれぞれの形でお褒めの言葉をいただき、
「じゃあ、また後で」
僕はその場を彼らに任せて、彼女の救出へと向かった。
◇ ◇ ◇ Side リリア ◇ ◇ ◇
「リリア様」
そう、己を呼ぶ聞き慣れた声が響いたあと、
「ッ!!?」
何者かに後ろに引っ張られた。
リリアはとっさにそちらを振り返ろうとするが、強く腕で掴まれて、それすらもさせてもらえない。
「ごめんね、王女様♪」
誘拐犯であろう男のそんなのんきな声が耳元で響くと同時に――
――――街が爆発した
「ッ!!!?」
「いくよっ!」
驚く彼女を掴んだ彼は心底楽しそうに微笑んで、空へと飛び上がっていった。
どうして
リリアの胸にはそんな言葉が浮き上がってくる。
なんで、私が誘拐なんてされるのだろうか。
ただの第三王女なのに。それも、元々はそうですらなかった。
ただの、ただの少女なだけの彼女が、誘拐される意味がわからなかった。
王国に仇なすなら、もっと違う人がいたはずだ。
リリアの胸の中には、経験したことのない不安や恐怖。怒りや悲しみ。そんないろんな負の感情が渦巻いていた。
しかし、
彼女が助けを求めるように地上を見れば。
そこには彼がいるのだ。他でもない、彼が。
彼女を底なしの暗闇の中からすくい上げた彼が、彼女を探しているのだ。
その姿を見て、リリアはどうしょうもなく胸が高鳴るのを感じながら、小さくつぶやいた。
――助けて と。
そんなことを言わなくても彼が助けてくれることは知っている。
なぜなら、彼はそういう人だから。
多分さらわれたのが自分じゃなくても、彼はなんだかんだ理由をつけて助けに行く。
彼は、不器用だけどもとても優しい人だから。
でも、だからこそ。
彼女は『助けて』と。そうつぶやいたのだ。
姫が攫われたところに駆けつけない王子はいない。
そして、王子の助けを待たぬ姫はいない。
つまりは、そういうことなのだ。
後は、
それまでは。しばし、悪役と姫の物語が続く。
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