第31話 夜に駆ける to ソラの塔
僕は夜空の下で走っていた。
行く先は南、ずっと南。海が見えるまでだ。
街でソラの塔までの道を聞くと、
『ただひたすらに南に行って、海に出たら上見てみろ、塔があるから。』
らしい。
みんなこんな感じの答えしかしなかった。
酔っぱらいに聞いたのが間違いなのか、それが正しい道のりなのか。
はて、明日までに帰れるだろうか?
フローラとスロは心配しているだろうか?
まぁ、彼女たちなら大丈夫だろう。
学園間に合うかな?
朝までに帰ってきたいな。
そんなことを考えていたら、
『君はさ、とことん甘いよね。』
魔王にこう言われた。
「………わかってるよ。今回に関しては僕も甘々だと思うし、何やってんだと思うよ。……本当に、僕らしくない。」
『…いいや、君らしいといえば君らしいさ。平穏に暮らすと決めた2日後に隠された王女様回復作戦を実行してるんだもの。』
魔王が呆れ声でいう。
「そうだね。自分でもどうかしてると思うよ。………でもさあんな顔見て、あんな声聞いて、見捨てるなんてできる?」
『相手はソラの塔。最高到達76階。50階を超えるとAランクの魔物が出だす超 高難易度に分類される遺跡。しかも目指すのは90階以上。100階が最高でそこには生態系の頂点、ランクSSSのドラゴンがいるとされている。75階を超えると特A、90階を超えるとSランクの魔物が出るとされている。対して君は、剣術ランクA、魔法ランク-S、総合ランクSときたもんだ。これで取りに行くとする君のほうがおかしいと思うよ。』
うん。そのとおり。
僕がおかしいな。
初めてあった、信用できるかも分からない見知らぬ異世界の、女の子のために命をかけるなんて。どうかしてる。
「まぁ、楽な事ではないだろうね。でも、僕あのダンジョンクリアしてるんだよ?」
『それは、フローラやスロと一緒だろ?今回はソロなんだよ?』
そうか、ソロだったかぁ〜〜。
「……あのさ、魔王的に僕勝てると思う?」
『普通なら五分五分、私と一緒なら九分一分かな。』
胸を張りあげてえっへんと言っている姿が目に浮かぶ。
「大層な自信だこと。」
『これでも一応魔王ですし。もう譲ったけど。それに、現役時代は勝利の魔王とか言われてたんだよ?強さだって本気のドラゴンとタイマン張ってで負けるくらいだよ?』
「ドラゴンってそんな強いの?」
日本のドラゴンは、結構軽い感じで倒せたりするものから、神と等しくなにがあっても死なないレベルの強さまで結構幅が広かったからな。
『まぁ強いんじゃないかな?一対一ではそれこそ最強。魔神とか神々とかにもちょっかいかけられる感じ。』
「神っているの?」
『私は見たことはないけど、多分いるんじゃない?』
なんか、いきなり信用がなくなった。
『もう少しだから、頑張って。』
「はいよ。」
僕は重ねがけしている強化魔法に、さらにもう一つ重ねた。
◇ ◇ ◇
森の中の細い道を抜けると、崖に出た。
眼下数十メートル下には海。
日本と同じような磯のツンとした香りがする。
崖と相まって、まるで警察官に追い詰められた犯人みたいだ。
「空を見上げるんだっけ?」
僕は上を見る。
左は雲で半分くらい覆われた空、右に行くと………。
「…たっけぇー」
空を突き上げるかのような高い塔があった。
『遺跡。まさにそう言い表すのが相応しいね。』
真っ白な壁は切り込みがなく、一枚板を削ってできているみたいだ。
入り口は………。これか?
一番陸側の壁に少し出っ張っている石があった。
「罠かもだけど、押して見るか。」
できるだけ離れて剣の先で石を押した。
ゴゴゴゴゴ
擦れるような音を立てて、中から木の扉が現れた。
「ごめんくださーい。」
一応、声をかけて中に入る。
中はとてもシンプルで、なんの仕切りもない丸い部屋があり、中心に魔物。(今回はスライム)がいて、倒せば奥の螺旋階段を登れる。
多分これが延々と続いているのだろう。
ズルとして移動魔法を試してみたが、出来なかった。
上の階を見たことがないし、多分イメージが足りないのだろう。
「さぁて、ちょっくら頑張りますか。」
僕は目の前のスライムに向けて踏み出した。
◇ ◇ ◇
「ふぅ、ちょっと休憩。」
今は数えた感じだと55階。
出てくる魔物も一筋縄では行かなくなってきた。
ランクAだっけか?
僕は今身体強化の魔法を3重掛けし、剣に雷付与をしているので、ここまではすんなりと来た。
まぁ、数はこなしたので時間はかかったが。
『注意してね。魔法も使ったほうがいいよ。』
「はいはい。わかってますよ。」
僕は剣から飛び散る雷を払い、階段へと進んだ。
◇ ◇ ◇
只今、85階の魔物を倒したところ。
僕の剣単体のランクよりも一つ高いだけあって、剣だけではきつかったので、78階くらいから魔法を使い出した。
『これは、やっかいだね。』
「そうだね、生理的に受け付けないよ。」
86階は触手が伸びる緑色のきのこの溶けたやつみたいな魔物だった。
「
風の上級魔法で大雑把にダメージを与え、
「空斬っ!!」
雷の剣でその首を切る。
魔物は断末魔をあげることなく倒れ、あとには何も残っていない。
残念なことにこの塔で倒した魔物からは、魔石が取れないのだ。
なら素材と思ったが、倒した魔物は光の粒になり消えてしまうのだ。悲しい。
「上に行くか。」
外の様子はわからないが、もう5時間位経っているだろう。
初めを22時として今は27時。つまり翌朝の3時ということだ。
行き帰りに2時間として、朝7時には着きたいからあと2時間しか使えない。
きついなぁ。
僕は頑張ろうと階段を登った。
◇ ◇ ◇
「さぁて、やってきました90階!!」
………なんかあっさりだなとか言わないの。
書くのが面倒臭いんじゃないの?とか思わないの。
僕のランクはS、そして今までの相手は強くて特A++といったところ。
強さのランクというのは指数関数的に高くなればなるほどその差が開く。
だから僕はここまで無傷で来れているのだ。
でも、疲労感は流石にあるから、この状態で90階の魔物と戦って勝てるかわからない。
『そこで、私の出番じゃない?』
「頼りにしてますよ、魔王様。」
『元だけどね?現魔王様。』
『「はははっ」』
軽い冗談を交わして、眼の前の魔物と向き合う。
3つの頭をブルブルと振る、ケルベロス。
僕を食べたくて仕方がないといった感じだ。
大きさが5m位あり、めっちゃ威圧感を感じる。
『ケルベロスは回復力が高いから、頭を3つ同時に切り落とすか、潰さないとだめだよ。あと、爪と歯の攻撃に注意。闇の魔法を使う場合もあるから、そこにも気をつけて。』
「はいよ。」
僕は繰り出される爪の攻撃を避けながら返事をする。
『これは-Sくらいかな?でもまぁ、強いのは確かだから気を抜かないで冷静にね。あと、ケルベロスはーーーーーだから。』
なるほど。さぁて、どうやって倒すか?
切り落とすのは剣で出来るが、切れるほど近づくと先に3つの頭で噛みつかれるんだよな。
ここは魔法で潰すか。
「
火の魔法で反対側に注意を向けさせ、裏に回り込もうとする。
だが、気づかれてしっぽによる打撃を受けてしまった。
「っ!
とっさに光の魔法で目くらまし兼攻撃をする。
「ギャァオンッ!」
「まじかよっ!!」
立て直そうとするが、ケルベロスは守りを捨てて、目をつむったまま爪で攻撃してきた。
間一髪でそれを躱した僕は剣を抜く。
『魔法のほうがいいってば!!』
魔王の焦る声と、ケルベロスの舐めるようなうねり声が重なる。
ズシズシと相手が近づいてくるのが分かる。
ーーまだ、まだだ。
『おい!ちょっと!危ないって!!』
ーーまだまだだ。
『聞こえてる?ねぇってば!!』
「グォン!!」
ーー今だ!
「光斬!!」
光に迫る速さで体が口をバクバクするケルベロスと交差する。
「はぁ!!」
僕は弱点である首………ではなくその背中に飛び乗り、思いっきり剣を刺す。
「グオオオオオンンン!!」
耐えろ耐えろ!!
ケルベロスが僕を振り落とそうと体を暴れさせる。
「
振り切られずに、詠唱を唱えきった僕はニヤリと笑って、剣の柄を思いっきり殴り、更に奥に差し込む。
「ギャオオオオン!」
ケルベロスの内臓に到達した剣。それをどうにかして抜こうとケルベロスは体を大きく振る。
その時、まばゆい閃光がほんの一瞬だけだが、ケルベロスの傷口から放たれた。
………でも違う。
違うんだよ。
僕が狙っているのは、それじゃない。
ほらね、本命が来た。
ドンッ
「グワァァァ!!!!」
鈍い音とともに骨が潰れる音が響く。
ケルベロスは魔法で呼び出した石で3つ同時に頭を潰されていた。
『……君、えげつないね。私も結構焦っちゃったよ。』
「ケルベロスは初撃無効化があるって言ったのは魔王だろ?一斉に頭を潰すことで倒すのが普通。でも、僕が生み出した石は落ちてくるまでにラグがある。なので避けられてしまうだろう。そこでだ、剣を刺すことでそちらに意識を持っていき、初撃無効もそっちに使わせるという作戦なのだよ。」
大成功!とVサインをすると魔王は苦笑いながらも、よくやったと褒めてくれた。
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