第96話 久しぶりのみんな
「久しぶりだな………。」
僕は魔法学園の門前でつぶやいた。
本当に久しぶりに袖を通したからか、少しだけ違和感のある制服に喜びを感じながら僕は学園内へと踏み出す。
「久しぶりー!!」
「休みの間何してた!!?」
「お前ちょっと太ったか?」
「うっせ!!ほら、早く行こうぜ!!」
周りの生徒たちも久しぶりの学校や友達との再開に、笑みをこぼしている。
ウッドモンスターの依頼をこなしたあの日から数日経って、寮もちゃんと直ったみたいで僕らはようやく学園に通えるようになった。
休みの間、僕は本当に毎日のように色々なクエストを受けていた。
北へ行ったときもあれば、地下に潜ったこともあった。
本当にいろんな依頼を受けた。
色んな場所でいろんなモンスターと戦ったり、探しものをしたり、捕獲したりするのは疲れたけど楽しかったな。
これもそれも、彼女が学園に通えるように。
「……………頑張って下さい。」
彼女がこれからどうするのかは僕には分からないし、関係のないことだ。
学園に通うのか、それともお店でも開くのか。
はたまた、冒険者になるのか。
それは彼女の自由だから。
ただ、僕は彼女がどんな道に行ったとしてもその背中を押してあげたい。
「おぉレスト!!!久しぶりだなっ!!!!」
僕が空を見上げてしんみりとした雰囲気に浸っていると、遠くからそんな声が響いた。
僕は声の主がほぼ分かりながらも、誰かと振り返る。
「元気だったかっ!!!!!」
僕が彼の姿を捉えたとほぼ同時に、バァンと背中を叩かれた。
「マッソ、痛いって。」
僕は背中をさすりながら久しぶりに彼の巨体を見上げた。
いやぁ本当にデカいよね。
それと、変わらないムキムキ筋肉。
…………こころなしか休みの前よりデカくなってる気が……。
「あぁすまん!!で、元気か!!?」
ニッとその真っ白い歯を見せて豪快にマッソが笑う。
「元気だよ。マッソは………元気そうだね。」
僕はその鍛えあげられた肉体を見てながら言う。
「おうよっ!!!!元気モリモリだ!!!」
左手を腰に当てて、右手でサムズアップをするマッソ。
うん。いつも通りのマッソだね。
僕はその姿に謎の安心感を覚えた。
「ヤッホー!久しぶりー!!」
僕らが世間話に花を咲かせていると、後ろから声が聞こえた。
「おぉ!フェルン!!!久しぶりだな!!!」
そこにはちょこんとかわいらしいハーフエルフ。
フェルンくんがいた。
「ほんとにねー!」
笑いながら僕の隣に立つフェルンくん。
うん、こっちも変わらない。
いつも通りのかわいさと、ほんわかとした雰囲気だ。
「久しぶり。」
フェルンくんも交えて三人で話していると、今度は前方から声が聞こえた。
「おぉ!ヒスイ!!!久しぶりだな!!!」
こちらも久しぶりに見る、天才魔術師ことヒスイ。
「おう。みんな揃ってるな。」
彼女魔法専門のはずなのに、何故か騎士みたいな雰囲気なんだよね。
なんか最近語感まで女騎士って感じなんだけど…。
「レストも、元気か?」
マッソの横に立ったヒスイが僕の方を見て言う。
「あっうん、普通に元気だよ。」
……彼女にそんなことを言ったら多分失敬だと怒られるんだろうな。
何気にこの中で一番付き合い長いんだよな。
「ほら!もう時間内から早く行こうよ!!」
時計を見たフェルンくんが焦ったように言う。
「おう!!!競争でもするか!!?」
マッソがニコニコしながら答え、
「私は、走りたくないぞ。てか、なんで朝からそんな元気なんだ。」
ヒスイがそれにツッコミながらも笑う。
うん、本当にいつも通りのみんなだ。
「ほら、レストも早く!!」
感慨に浸っていると、先に行っていたフェルンくんが振り返って言う。
「あぁごめん。」
僕は謝りながら三人に駆け寄った。
こうして、僕達の学園生活は再び始まりを告げた。
◇ ◇ ◇ Side??? ◇ ◇ ◇
「ここが王国の魔法学園。」
レストたちが学園へと入った少し後、生徒がみんな居なくなった校門前で、一人の男がつぶやいた。
「そ。」
男の横に立った女が、たった一文字で返答する。
女は黒と赤の短い杖を握りしめて、校舎を見つめていた。
「目標は、勇者。それとーーーー。」
男はクルクルと回した剣を腰に挿して、自分自身にそれを言い聞かせるようにつぶやく。
「行こう。」
「うん。」
二人は確かな意志をその瞳に宿して、学園へと向かっていった。
◇ ◇ ◇ Side レスト ◇ ◇ ◇
「はーい、じゃあ出席取るぞー。」
久しぶりで少し床がツルツルとしているの教室の窓際の席に座ってから少しして入ってきた先生は開口一番にそう言った。
先生と顔を合わせるのも久しぶりだから、どこかウキウキとした生徒たちの名前を呼んでいく先生。
先生も少し興奮してるのか、いつもと違ってフルネームで呼んでいた。
「レスト」
自分の番に近づい来て少し緊張していた僕を先生が呼ぶ。
「はい…。」
やっぱ名前だけなのね。
まぁ僕もレスト・ローズド・サタンヴィッチ・ルシファーなんて長いの覚えるのにかなり時間がかかったから、先生が覚えてないのは当たり前だし、呼ばれたらそれはそれで恥ずかしいけど。
けど、途中まで頑張ってみるとかしてもいいんじゃないかな…。
「えっと、なんだこういうのはなんか話したほうが良いんだろうが、俺は別に話したいことはない。」
僕が悶々としている間に皆の名前を呼び終わった先生が、名簿を小脇に抱えて言う。
「ふぁああ………よって解散。一時間目魔法技術だからな、外いけよ。」
大きく生あくびをした先生はきっぱりとそう言って、またなと右手を上げるとそのまま教室を出ていった。
「変わらないね。」
僕の横に座っていたフェルンくんが苦笑いしながら言う。
「そうだね。」
僕も苦笑を返して、頷き返した。
「久しぶりの魔法か!!俺ワクワクするぞ!!早く行こうぜ!!!!」
日本の国民的バトル漫画の主人公みたいなことを言ったマッソは、すでに教室の出口に移動していた。
「そうだな。」
こちらもちゃっかりその隣りにいるヒスイがつぶやく。
「いこっ!!」
立ち上がったフェルンくんが、僕の肩を軽く叩いて言う。
「うん。」
僕も自分の道具を持って、外へと向かった。
◇ ◇ ◇
「あれ先生いないね。」
グラウンドに出たフェルンくんがつぶやく。
「本当だな!」
生徒たちはもうほぼ全員集まってるのに、肝心の先生の姿が見当たらなかった。
「どこだろうね。」
僕があたりを見渡したその時。
「ふふふ、皆さんお久しぶりです。」
そんな声が真後ろから聞こえた。
「っ!!!?」
僕は驚きと、敵襲かという焦りで、瞬時にその場から飛び退く。
「といっても、私ははじめましてですけどね。おほほほほ、ご挨拶しますわ。私、マリーローズ。気軽に、マリーちゃんとお呼びくださいまし。」
でも、その心配は杞憂だったようで、その声の主は派手な装飾のついたドレスの裾をちょこんとつまみ、優雅なお辞儀を披露した。
「「「「…………。」」」」
生徒たちは、その様子を見ながらも何も言わなかった。
………いや、言えなかった。
多分だけど、僕たちが思ったことは皆おんなじだ。
そう。このマリーローズ先生は…………
「デケェ…!!!!」
…………おいマッソぉ!!!!!!!!!
なに、皆が黙ってること言っちゃってるの!!!?それおそらくというか、絶対地雷だよ!!!?
「ふんぬっ!!!」
この心配は的中してしまったようで、僕らの心のうちを代弁したマッソは、先生のパンチによって、
「ぐほぉっ!!!!!!」
空の彼方へと消えていった。
マッソ、君は本当に良いやつだったよ。
遠くに行っても絶対に忘れないからね。
「さて、不躾な輩に正義の鉄槌を下したところで。」
あの後、帰ってきたマッソにグラウンド5周を命じた先生が、手をパンパンと叩いて僕らに振り返る。
「紳士淑女の皆様方には、改めて自己紹介をさせて頂きます。私、本日よりこのクラスの魔法技術を担当致します、マリーローズと申します。気軽に、マリーちゃんって呼んでもくださいませ。」
マリーローズ先生が右目を閉じたウィンクを付け加えて、丁寧な自己紹介をした。
「ぐほっ!!」
先生の挨拶が終わるとほぼ同時に、僕たちから少し離れたところに座っていた男の子が、いきなり気を失った。
「ごぅ……」
「くゅ………」
「くぉっ……」
他の男子たちもお腹を抑えたり、口を抑えたりしていて、その場はまるで戦場のように荒れていた。
「あらまぁ大変!!!!皆さん大丈夫ですか!!!!?」
心配したローズマリー先生が、生死の狭間を今丁度彷徨っている男子生徒に近寄り………
「だ、い、じょ、う、ぶ!!!!!!!?」
その肩を掴んでゆっさゆっさと揺らす。
先生。親切心なのは分かるんですけど、それ多分…………逆効果ですよ。
僕がそう思った矢先、
「ぐおぇぇぇぉぉ」
その男子生徒は、旅立った。
「あらまぁぁぁぁ!!!!!!大変だわぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
それを見た先生が更に激しく揺すり、
「ごぉぉえぇぇぇぇ」
また生徒が吐き出す。
「…………こわ…」
僕の隣りにいたフェルンくんが真面目に恐怖した表情で、僕の服の裾を掴んだ。
正直…………僕も結構つらいです…。
◇ ◇ ◇
「ふぅ、なんか生徒さんの数が半減しているような気がしますが。まぁ、気を取り直して、一番最初の授業はじめましょ!!」
あの後男子のほぼ全員がギブアップして、保健室に搬送された。
おかげで、今ここにいる男の子は僕とフェルンくんのみ。
女子たちは耐性が強いのか何なのか、誰一人としてギブアップしていない。
あれは本当にきつかったよ。
僕はここまでの人生柄、精神的耐性は鍛えられてるからなんとか耐えられたけど、フェルンくんが残っているのがすごいよね。
彼も僕のようにたくさんの修羅場をくぐってきたのか、それとも女の子と同じなのか……。
うん、どちらにせよ深くは考えないほうが良いな。
「今回は皆さんの力を教えて頂くために、軽くテストするだけですので、そんなに緊張しないでくださいね。」
マリーローズ先生がにっこり微笑んだ。
「まずはお手本を見せます。あそこに的があるので、そこに向かって本気で魔法を撃ってくださいませ。本当に強い方だったら、破壊くらいならできますわよ、オホホ。」
そう言うと、先生はスッと短い杖を取り出して、それをグラウンドの中央の的に向けた。
「では、失礼。
短な詠唱の後、先生の杖先を中心に渦巻いた水が、ピュンという軽い音とともに放たれる。
…………強い…。
僕が簡単な魔法だからこそ際立つ洗練さにそう感嘆した直後、
スパァァン
そんな軽快な音を立てて、数十メートル先の的が、綺麗に砕け散った。
強い。
この先生、テイチ先生と同じような感じがする。
だてに王国一の魔法学園の教師になったわけじゃない…………っことか。
僕は満足げに的のあった場所を見つめているマリーローズ先生を見て、少しだけワクワクしてきた。
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