第27話 体育の授業

「決まったみたいだな。じゃあクラスの場所を伝えるからそこにいけ。担当の教師が待っている。えー、魔法コース1年C組はM-1-Cと書いてある本棟の2階左側。剣術コース1年C組はK-1-Cで、本棟2階右側。総合コースの1年C組はS-1-Cで本棟2階中央だ。じゃあ各々動け。」


テイチ先生がそう言い残して去っていった。

やる気なさすぎないか?


「本棟の2階の真ん中だな!!覚えたぞ!!」


「いきますか。」


マッソは自信満々といった感じで右腕の筋肉を見せながら、ヒスイはいつも通り言う。


「うん。行こうか。」


「どんな先生だろうな!!」


こういうのは元Sランク冒険者とかがなるってのが定石だが、僕らはCランク。そこまでいい人は来ないだろう。


「そこそこの先生で真面目ならいいな。」


「そうだね。」


ヒスイの言う通りだ。

真面目第一。


 ◇ ◇ ◇ 


マッソが途中で迷うとかのアクシデントはあったが、無事に教室につくことができた。


教室は高校というよりは大学といった感じ。


すでに半分位は席についていた。


順番は初回は適当で、それが今後固定になるらしい。


僕らは窓際の一番後ろにマッソ、僕、ヒスイの順で座った。


「お前ら、さっきぶりだな。俺がお前らの担任だぞー。じゃあ出欠取るな。」


気だるそうに入ってのはテイチ先生。


彼がこのクラスの担任か。


まぁ、やる気はなさそうだがしっかりはしてそう。


「レスト・ロー……。レスト。」


「はい。」


おい、僕の名前呼ぶの途中で諦めただろ。

まぁ、長いし、いいけども。


「よし呼び終わったな。えーっと、こっからの予定をまず話す。1週間後に交流かつ強化として、虎の沼地で二泊三日の合宿を行う。虎の沼地には基本ランクFかEの魔物が出る。強いやつでもDだから安心してくれ。」


ランクDは中堅冒険者が複数人でやれるくらいの強さだ。集団でいれば死ぬことはないだろう。


「しかし、Dだからといって油断して良いわけではない。なので、これから一週間お前らは剣術、体術、魔術、魔法をきっちり仕込む。辛いと思うが死なないためだ。それに、虎の沼地合宿を終えたらかなり強くなるから楽しみにしとけ。」


ザワザワ


生徒たちは訓練への憂いと、合宿への期待を混じらせ、ざわつき始める。


「早速今日一日、俺による剣術の指導だ!お前ら外の訓練場に3分以内剣持って行け!来れなかったら罰があるぞ。」


テイチのその声で生徒たちが一斉に席から立つ。


「俺たちも行くぞ!!」


僕はマッソに頷き、外へと早歩きで向かった。


 ◇ ◇ ◇


「…3分経ったな。来てない奴らは2人か。」


僕らは間に合い座っているが、間に合わなかった彼らは立たされている。


「まずは準備運動だ。近くにいる奴と1分間休まず撃ち合いをしろ。そこの二人は俺とだ。」


やばい。

これはかの有名な『お前ら二人組作れ』だ。


ハブられる〜!

ボッチにされる〜!!


だっ誰か僕と組んでくれないか?


ヒスイは、近くの女子と組んでしまっている。


マッソは………


「レスト!俺とやるぞ!!」


うん!信じてたよ!!

君と僕は親友だもんね!!!


僕は差し出されたマッソの手を両手で強く握る。


「じゃあ一分間、開始!!」


「行くぞ!!!」


開始の声とほぼ同時にマッソが接近してくる。


「っ!完全記憶!!」


剣を横に構えて受け、魔法を使う。


僕の剣術は主に3つのことで強くなる。


1つ 新しい斬り方や戦い方を【完全記憶】で覚える。


2つ 今までの最善と、新しく覚えた形をすり合わせ、賢者様により最適な形を更新する。


3つ 最適な形を体に覚えさせるため、ただひたすらに素振りをする。


他に筋トレやいろいろも大事だがこれが主になっている。


1が出来ないときは、3を行うことによって2が更新されたりで強くなるが、新しいのを覚えることが一番の近道だ。


あれだ、漫画とかの『俺は戦いながら強くなる!!』って奴だ。


今まで僕が覚えたのはゴブリン、オーク、骸骨、魔王、冒険者のお兄さん、金髪美男子の6人(人でいいのか?)だ。


「クッ!強いな!!」


マッソがそう言って離れる。


そりゃ伊達に魔王から特B級の評価もらってないからな。


でも、マッソも強い。


そのムキムキの筋肉から繰り出されるパワーを、確かな努力で裏付けられた精度で放ってくる。


受け流すのにも一苦労だ。


「ま、マッソも強いね。」


「そうだろう!!」


「そこまで。」


僕の剣をマッソが受けたところで止めの声が入った。


「休憩したら集まれ。」


その声で僕は地面に座り込んだ。


疲れた。

 

 ◇ ◇ ◇



「今から俺がお前らを順番に指導していく。自分の番以外は適当に周りの奴らと打ち合いしてろ。じゃあまずお前からだ。」


テイチ先生に指された生徒がテイチ先生と打ち合いを始めた。


「あの、僕とやりませんか?」


その声に振り返るとそこには


コテン


と首を傾げる男の子がいた。


155cmの僕より一回り小さい身長と、少し長めのピンク髪、そして真ん丸のつぶらな垂れ目が合わさり、とても可愛らしい。


耳が少し大きく尖っているのが特徴的だ。エルフとかなのかな?


「いいですよ。」


「あ、ありがとうございます。僕、フェルンって言います!」


頭を目一杯下げてお辞儀する姿はとても和ましい物だった。


「僕はレストです。」


「レスト君ですか!いい名前ですね。じゃあ行きます。せいっ!」


「ッ!」


あっぶね。

その見た目で完全に油断していた。


フェルン君の一撃は軽いが、そのぶん速い。


正直、頑張らないと受けきれない。


「すごいですね!僕の剣を受けられるなんて!」


僕は剣の対応に精一杯だが、彼は喋る余裕もあるらしい。


「じゃあ、少し上げますか。」


少し打ち合うと、一際早い一撃をうってフェルン君は離れ、なぜか空に剣を振った。


「僕に精霊のご加護を。」


そういった彼は剣を大きく引く。


その瞬間、僕は右肩になんとも言えない恐怖を感じた。


「ッゥ!」


慌てて体をずらすが間に合わず、制服の右肩部分が切られる。


「スゴイ!スゴイです!これも避けるなんて!レスト君、こんなの僕初めてですよ!!」


フェルン君は僕を見て無邪気に笑うが、僕は頭の中がいっぱいだった。


彼が剣を引いた時の何とも言えない感じ。

まず恐怖が来たが、そこから徐々に訪れた安心感。


それと、彼の体が動いたときに起こった

彼の体だけを押す追い風。


魔法ではない。しいて言うならば、


「僕達エルフは精霊を愛し、愛される種族なんですよ!まぁ、僕はなので、だけですけどね。」


ヘヘッと笑うフェルン君。


「じゃあ再開しますか。」


なんて言ってくるが、あれがもう一度来たら避けられる気がしない。


何か、何か無いのか?

彼の動きを読める物は。


僕はもう一度彼の動きを思い返す。


まず訪れた恐怖感。それからどんどん安心感がきて、気づいたら反対側に彼がいて、右肩が切られていた。


ん? 


か忘れてる。


何だ?何を忘れてるんだ?


彼の動き。


一見タイミングが読めない動き。


さっきは大振りに剣を引いてくれたから分かったが、今度はわからないだろう。


そんな予測のつかない


気が付いたら終わっている


その一連の攻撃に感じた恐怖感と安心感から生まれるものではない、もっとはっきりした


僕はそこでふと、顔を上げる。


眼の前ではフェルン君がいくよ~と体を動かしている。


左ではヒスイが女子相手にボロ負けして悔しそうにしている。


右ではマッソが暑苦しさで周りに引かれている。


その瞬間、んだ。


確かに。


暖かくて優しい、頬を撫でて全身を包み込むーーーーーが。

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