第40話 魔力超活性薬
「っ!埒が明かないわ!!
月のように輝く球が頭上に出現し、物理法則に従って僕を目掛けて落ちてくる。
「無の先、移動魔法。」
ーー終
「っ!いない!!」
僕は落下地点から移動魔法で逃げ出し、蒸発の範囲外、ヒスイの前に転移した。
先生は僕を見失ったようだ。
「ヒスイ、今助ける。」
腰から刀を抜き、肌を切らないように気をつけながら縄を切り、口の布を外す。
「こ、怖かった………。レスト、ありがとう。」
僕に抱きついたあとヒスイは泣き始めてしまった。
頭でも撫でて優しい言葉をかければいいんだろうが、生憎と僕はそんなことできないし、彼女がさせてくれないみたいだ。
「ったく!手間かけさせてくれるわ。なんか人質の拘束も解かれてるし。」
先生は苛立ちを隠せない様子で今にでも地団駄を踏み出しそうだ。
「
「
いきなり放たれる石の群れを魔法で防ぐ。
「先生、こんなことやめて戻りましょうよ。」
僕は交戦しながら、最終確認として先生にいう。
「嫌よ。元々私の居場所はこっちだもの。火種!」
「
飛んでくる火種を水の玉で消化する。
「元からその気で来てくれないとね。来なさい私も本気を出してあげる!」
そう言った先生は懐から黄色い液体が入った瓶を取り出した。
「なんですかそれは?」
どことなく道中落ちていたピンク目の橙色をした液体が入った怪しげな瓶に似ている。
「これは魔力超活性薬。魔力活性薬はわかるでしょ?あの体内の魔力を一時的に活性化させて力を出す薬の超高濃度バージョン。これを飲めば冗談じゃなくてマジで元気100倍になる。その分過度の中毒症状や身体の崩壊が起こるけど。」
そう言い切り風呂上がりの牛乳のように一気に瓶の中身を飲む先生。
「くぁぁぁあーー!!!!!」
飲み終わると、奇声を上げ、先生は両足を肩幅ほど開き、杖を前に構えた。
「いくわよ!!!!
「っ!!」
放たれた雷は威厳のある龍の形をしており、今までの魔法とは明らかに強さが違っていた。
先生はすぐに決着をつけるつもりだ。
じゃあ、僕も準備ができたあれを使う。
「
雷を打ち消すための闇魔法を使ったあと、抜いた剣で自分の指先を少し切り、血を地面に垂らす。
「な、何してるの!?それは極大魔法の構え、でもあれは膨大な詠唱が………」
先生はかなり焦っているようで、すぐにでも魔法で妨害しようと杖を構える。
極大魔法
魔法の授業でやった。
全属性を扱えるような人でないとできない、世界を滅ぼせるとまで言われた魔法。
僕はそれの劣化版を使おうとしていた。
本来のあれは精霊の補助がいるんだ。僕は魔王だが精霊とは仲良くないから使えない。
「はったりよ!!!!そんなの詠唱省略できるわけないわ!!
「
風の刃物を厚み10cm位の厚みの水の膜で受け止める。
「ちゃんと詠唱してましたよ!」
そう。僕はちゃんと詠唱していた。
火水土風の4属性と闇光の2属性に加え、無の属性の詠唱を。
「なっ!嘘よ嘘よ嘘よ!!!んなこと出来るわけがない!!
完全に取り乱し、先生は杖を何度も振りながら叫ぶ。
「
水でできた槍が盛り上がった地面で受け止められる。
先生の魔法の威力が格段に高まったので、僕もかなり多めに魔力を込めないといけない。
実を言うとかなりキツイ。今にも倒れ込みそうだ。
でも、負けない。
僕はそこで一息区切り、そしてつぶやく。
「極大魔法、
「っ!!!!!!!!!」
その瞬間、夜の暗闇に太陽が現れた。
この魔法は発動者の僕が指定した相手。
今回ならターシャ先生だけがその熱を受ける。
「ぐわ!がぁぁぁぁ!!!!!」
太陽と見間違う光の球。
その熱を一身に受けた先生は体をピクつかせて、案外あっさりと気を失ってしまった。
先生に近寄り、気絶しているかを確かめる。
「よいしょ。」
ちゃんと気絶しているみたいだ。
殺すつもりはないので太陽を引っ込め、先生の腕を後ろで縛る。
「れ、レスト……あなた………」
ヒスイがなにか言いたげだが無視だ。無視。
僕は先生を起こすため水を上からかける。
「くっ、はぁはぁ………。」
「起きましたか?」
髪から滴る水を物ともせず、先生は声を上げる。
「私、生きてるのね………。あなた一体何なの!!?」
先生が自分が縛られてることがわかり、諦めたような顔をするが、どこか笑ってる気がする。
なんだ?なにか隠してるのか?
「先生、何を隠してるんですか?2つの使命のもう一つはなんですか?」
ずっと気になっていた。僕らを捕らえる以外の彼女の目的。
「…いいわ。教えてあげるわよ!!あなた、ここがなんで虎の沼っていうか知ってる?」
ヤケクソなのかなんなのか、先生は顔ごと目を背けながらも話してくれた。
「知りませんけど……。」
大昔虎の魔物がいたとかそんなんじゃないのか?
「虎型の悪魔。それがいるのよこの沼には。いや、居るんじゃない。封印されてるのよ。」
悪魔……なんとも物騒な。
日本だったら笑い飛ばすのだが、ここは魔王がいるファンタジー世界だ。
全く笑えない。
「そしてその封印を解く鍵それを私は持っているわ!!」
勝ち誇ったような顔で叫ぶ先生。
ということは先生は悪魔を復活できるのか。
「悪魔復活、それが先生の目的ですか?」
「半分正解よ。でも半分は間違え!私の使命2つ目は、この学園の生徒を虐殺することよ!!」
誇らしげに先生はニヤける。
「なっ!!!」
後ろからヒスイの悲鳴が聞こえた。
それもそうだろう。教師が自分の教え子たちを大量に殺そうとしているんだから。
「ははは!もう遅いのよレスト君!悪魔を倒せるのは天使、又は大精霊の契約者のみ!!あなたにそんな力ないものね!!?私が鍵となる呪文を唱えれば悪魔は復活する!!あぁ、殺そうとしても無駄よ!!私が死んでも効果を発揮するもの!」
狂気的な笑みを浮かべ、叫ぶ。
ハハハと上から見下されてるみたいで、嫌な感じだ。
「悪魔……か。」
大精霊。
そう聞いてまず浮かんだのは昼間に見たあの石碑。
満月の夜……。
僕は空を見上げる。
そこにはまんまるのお月様が輝いていた。
これなら!
道を走り、あの石碑までたどり着けば悪魔にも対抗できるかもしれない。
「ふふふ、もう一つ絶望的なことを教えてあげるわ。」
そのことを告げるのを心待ちにするような弾む声で先生が言う。
「……なんですか?」
悪魔以上に絶望的なことなんてないと思うが。
「宿までの道に置かれた薬、あなたも見たんじゃない?」
「あの橙色のやつですか?」
確かに見た。
というか、それを辿ってここまで来た。
「あれはね、私がさっき飲んだ魔力超活性薬に魔物が大好きなポーションを混ぜたものなの!そしてあの薬は私が魔力を込めれば爆発するわ!!」
再びしてやったりと言うような見下す顔をする先生。
「うそ…………だろ!!」
もしそんな薬の入った瓶が魔物のいるこの森の真中の道で爆発すれば………
「そうよ!!魔物がウジャウジャ集まって道は通れなくなるわ!!つまり、君たちは帰れないのよ!!!ハハハハハハ!!どう!絶望した!!?後ろは悪魔!!前は魔物の大群よ!!!!」
前門の虎 後門の狼ならぬ、前門の魔物 後門の虎だ。
◇ ◇ ◇
どうする?どうする?
冷静に考えるんだ。
虎の悪魔、これと戦って勝てるか。
とりあえず魔王と賢者様に聞いてみるか。
「っ!そうか………。」
僕は唇をかみしめて、下を向く。
帰ってきたのは魔王からの
『虎の悪魔がどのくらいの悪魔か知らないけど、中級以上だと今の君じゃ無理だね。このまま道じゃない所を通って彼女と逃げるのが最善策かな?まぁそれをするってことは宿の彼らを見捨てるってことと等しいけどね。』
という答えと、賢者様からの
『絶対に無理。逃げたければ道以外を通る。助けたければ道を強引にでも通り、宿を過ぎ、石碑まで行け。さすれば道は開かれん。』
というお言葉。
多分魔王からのの後半は僕に問いかけてるのだろう。
ーーー宿の皆を捨てて逃げるか。
ーーー死を顧みず戦って守るか。
自分は今まで捨てられてきてばっかだった、誰かを救うことも、救われることもなかった。
皆見てみぬふりだった。
それでも助けるのか?
そういう事なのだろう。
まぁ、とりあえず虎の悪魔に僕じゃ勝てない。
なら取れる選択肢は二つ。
一つ、ヒスイを連れて森から抜ける。転移魔法でも走りでも何でもいいから道以外を通り逃げる。
二つ、虎の悪魔から逃げながら魔物が蔓延る道を通り、あの石碑まで走る。
石碑や宿へ転移しようとしてるが、まだ記憶が薄く、イメージが足りないのか転移できなかった。
道以外を通って石碑や宿まで行こうとも思ったが、道の周りにも魔物が集まっていて、森の中な分かえって不利になる。
はっきりいって詰みの状況だ。
「レスト君、私が発動させないからって悠長にしすぎじゃない?フフフ、最後に良いことを教えてあげるわ。魔物を寄せる瓶は宿にも大量に置いてあるの。だから、道を通れたとしても少しでも遅れれば大量の魔物が宿に………。ハハハハハハ!!じゃあねレスト君!!!」
「ちょまっ!!!!」
慌てて止めようとする僕を嘲笑うかのように先生は叫ぶ。
「開放!!!!天の怒りぃ!!!!!!!」
その後起こったのは3つのことだった。
ーーまず道の方、宿の方からドカーンという音が聞こえる。
ーー次に先生がプツンと事切れたかのように倒れる。
ーー最後に、沼の水が揺れる。
先生の言った、天の怒り。
それを体現したように暗雲が立ちめき、雷が沼の一点だけに落ちている。
その一点は丁度沼の真ん中だった。
「……なにが…起こるの?」
ヒスイがまるでモーゼのワンシーンのように割れる沼の水を見て呟く。
「っ!!!!」
水が全て割れた次の瞬間、圧倒的な風が吹き荒れて、僕は飛ばされそうになる。
木々は後ろに倒れ、中には折れてしまっているものもある。
でもなんとか踏ん張り、飛んできたヒスイの腕を掴む。
「ふぅ、収まったの……か?」
風が収まり安堵できたのも一瞬。
「ウルラオオォルル!!!!!!」
圧倒的強者感を放つ、本能レベルと劣っていると分からせてくるような低く、それでいて強い咆哮が響き渡った。
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