幕間

【幕間1 スライムくんの名前】「スライムくん、休む?」


僕は声をかけるがスライムくんは休もうとせず、木に体当たりをしている。


「黒より黒く闇より暗き漆黒に……………エクスプロージョン!」


僕は某アニメの某爆裂魔法の詠唱をするが、何も起きない。


「僕じゃめぐ○んにはなれないのかぁ……。」


疲れたし、もう昼なので僕は休憩のため丸太に腰掛ける。


きゅうぅ……


スライムくんも体当たりをやめて、鳴き声をあげて、僕に寄り添ってくる。


「スライムくんお疲れ!無理しないでね。」


いま不意に思ったがスライムくんって種族名であって個体名ではないよな。

僕が勝手に言っているだけだし。


「おいスライムくん、君の名は?」


きゅう?


スライムくんは不思議そうに体を揺らすだけ。


「まぁ、そうだよね。名前なんてわからないよね。でも悪いスライムじゃないよってね!」


僕はスライムくんの名前を考える。

この子らしい名前………いじめられっ子とか体当たりキラーとか?


………流石にいじめになるなそれ。


こういうのってだいたい神話とかから持ってくるけど僕そんなの知らないしなぁ。


ミカエルとかガブリエルとかそんなの。


悪魔とかの名前もいいね!デビルとか。


「あくま、悪魔かぁ………僕がわかるのは白い悪魔だけだな。」


白い悪魔ことスロ・コルッカさん。

超絶技巧を誇る一流のスナイパー。


知ったときは子供ながらに憧れたなぁ。


「コルッカ…………スロ………!!!」


スロで良くないか!?

カッコイイし、白い悪魔って感じだし!


「おいスライムくん、君の名前は今からスロだ!白い悪魔の名に恥じぬよう頑張ろうな!」


僕はスライムくんを抱き上げはしゃぎまわる。


スライムのスロ………うん!いい感じだ。


こうしてスライムくん改めスロと僕は修業を続けた。







◇ ◇ ◇

【幕間2 修行中の訪問者】


「はっ、はっ、はっ!」


僕は素振りを続ける。正直もうきついがそんなことは言ってられない。


「はっ、はっ、はっ………は?」


僕は広場に客人が現れたのを見て素振りをやめる。


「くまさんかぁ。」


今日の客人は屈強なくまさんだった。


「御用ですか?なんかしましたっけ?音がうるさいとか?」


僕は手を上にかかげて近づいていく。


「ぶうぉぉお!!!」


くまさんは降参している僕に、容赦ない拳を振り下ろす。


「っと……下手に出てもだめか。」


僕は今日もくまさんと戦う。ココ最近毎日のようにやってくるのだ。


「はぁっ!!」


僕は刀をくまさんの首筋で止める。


「グォゥ」


くまさんはそれを見て何もせずにトボトボと帰っていく。


「今日も勝ったか。」


初めは僕もちゃんと闘ったのだが、殺さなかったら毎日来るもので最近はあんなふうに殺し合いはなく遊びのように戦っている。まぁ、あちらとしたら殺しに来てるのだろうけど。


くまさんは自分が殺されるところまで行くと帰っていくので面白い。


 ◇ ◇ ◇ 


「今日も来たか。偉いぞぉ!」


僕は今日もくまさんと戦う。


ブォンという音とともにくまさんが爪を振り下ろしてくる。


「だめだよそれじゃ!もっと角度をこうして力を入れないと!」


僕はそれを余裕で避けて、くまさんの手を取り、正しい形に直す。


「グォゥ!」


くまさんは律儀に頭を下げる。


「あれ?首に怪我してるじゃん。チョット待ってね。」


僕は頭を下げたくまさんに傷があったのを見て、スロに薬草を食べてもらい、癒やす。


「ほら治ったよ!」


くまさんは顔を上げてもう一度礼をする。

僕はそれを見て、素振りに戻る。


「ふん、ふん、はっ!」


僕は数回振ってまだくまさんがいるのを見つける。


「なんだ?忘れ物でもしたのか?」


くまさんはずっとそこにいる。


「あぁ、治してもらったのに恩を感じてるとかかな。動物なのに律儀だな。人間よりもいいやつだよ。」


僕はそれならと、木に体当たりをしているスロを掲げる。


「ほら、スロこのくまさんと戦ってみな。」


僕はスロに向けてくまさんにジャブを打つのを見せる。


「くまさんも、スロ………このスライムと戦ってくれよ。」


僕が離れてパンと手を鳴らすと両者が戦いを始めた。


お互いに殺さないというのはわかっていると思うが。


くまさんはさっき僕が直したとおりにちゃんと相手を見据えて爪を振り下ろす。

スピードはそこそこだが重い一撃で、僕もスロもあたったらそこで終わりだろう。


対してスロはちょこまかと動き回って少しずつくまさんに体当たりをしてダメージを与えている。


そんな攻防が続き、くまさんの手がスロを捉えようとした。


「はい。終了!」


僕は危なかったので二人の間に入って鞘に入れたままの剣で爪を止める。


「今のくまさんのがあたっていたら危なかったけど、スロのダメージもちゃんと入っているから、今回は引き分けだな。」


くまさんは頭を下げ、スロは身をブルリと震わせる。


お互いがお互いに礼をしている。素晴らしい光景だ。


くまというとても強い種族と、スライムという最弱の種族がお互いにお互いをリスペクトし、称え合っているのだ。


「なんか泣きそうだよ。」


僕はとても感動した。


 ◇ ◇ ◇


そこからは、くまさんは変わらず毎日来るが、僕と一戦したあとにスロとも戦うようになった。


お互いに本気で戦っている。


今の所くまさんのほうが一回だけ上だが、すぐに同じになるだろう。


ほら、今もスロが勝って同点だ。


くまさんは数試合すると僕に頭を下げて帰っていく。


「もはや、殺しにじゃなくて鍛えに来てるよな。」


僕は明らかに強くなっている二人を見て今後どうなるのか思いを馳せる。


ライバルってやつだな。僕もそんな存在がいれば頑張れ…………はしないな。

コミュ症だし、人間嫌いだし。


僕は苦笑いしながら魔法を放つ。


「魔法………スロのあれは魔法なのかな?」


賢者様に聞くと魔力は使っているが魔法ではないということだ。




「グゥオオオ!!」


くまさんの素早く重い一撃を僕はすれすれで避ける。


 ◇ ◇ ◇ 


「だいぶ強くなったね!」


僕はくまさんの肩筋に当てた剣を鞘にしまいながら話す。


「ブオ」


くまさんはそう言うと森の中に戻っていく。


?なんだろうか。


少し経つと大きな鹿とともに戻ってきた。

鹿には熊の爪痕がある。


「これ、くまさんが?」


「ブオ」


くまさんは小さく頷く。


「ありがとう!少し待っててね。」


僕は鹿を素早く捌き、焚き火に火をつけて鍋を作る。


「もう暗いし、今日はこんくらいにしてご飯食べよう!!」


くまさんは見るからに肉食だしスロも食べるようになったのでみんなで食卓を囲むことができる。


「ほら、食べて食べて」


僕は大きめの皿によそった肉と汁をくまさんに差し出す。


「ブオォ」


くまさんは美味しそうにそれを食べる。


「きゅうぅ」


スロも野菜を食べてご満悦だ。


「日本にいた頃はさ、こんなふうに誰かと楽しく鍋を囲むなんてできないと思ってたよ。まぁ、その相手がスライムとくまなんだけどね。」


僕がそう言って笑うと、くまさんもスロも楽しそうにしてくれる。


「そういえばくまさんはくまさんのままだから、名前を決めたいね!」


くまさんは僕の言葉に首を傾げる。


「ほら、スロはもともとスライムくんだったんだけど白い悪魔さんからとったスロって名前があるじゃん?くまさんのくまは種族名であって個人名じゃないからさ。」


僕は考える。白い悪魔のスロと同じような名前。

…………あれか!


「同じく白い悪魔こと、シモ・ヘイヘさん。人類最強のスナイパーでスロさんとライバルだった。シモ………どうかな?」


僕がそう問いかけるとくまさんは


「し、も……、?」


とたどたどしいが僕の発音を真似してくれた。


「そうだよ!それがくまさんの名前!今日からシモさんだね!!」


「しも……シモ!!」


くまさんは喜んでくれていて、良かった。


こうして普通ならありえない3種族の会合は夜通し行われたのだった。

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