第42話 宿の攻防−前−
マッソ視点
◇ ◇ ◇
「っ!!居ないな!!!」
俺は少しの喜びを込めた困惑の声を上げる。
我が名はマッソ。
ムキムキ大好きマッソだ。
「やはりか!レスト!!!」
夜中、周りが寝静まった部屋のベランダで考えるのは
彼は俺がヒスイの捜索を手伝ってると言うとなんか思い詰めた顔してたから、励ましたのだが。
やはり、夜中に抜け出して探しに行ったか。
「この部屋は……って!マッソ何してんだ!!」
夜の見回りに来たテイチ先生が俺を見て叫ぶ。
「いや、夜って興奮して寝れないもんでしょう!!!」
友のことを勘付かれないため、なにか適当な話をして先生を返そうとする。
「お前もそんな感性あるんだな。まぁ、丁度いい。まだ寝れねぇんだろ?」
「うむ!!!夜はまだ始まったばかりですぞ!!!」
友を隠したいのもあるが、俺もヒスイが気になって寝れないのだ。
「ならちょっと来い。」
「はい!!!」
手をクイクイとやる先生の元へ向かう。
「静かに歩けよ、生徒たちは寝てっかんな。」
「うむ!了解です!!」
俺はゆっくりと部屋の扉を閉める。
◇ ◇ ◇
「昼間もやったと思うが、夜も最低限の捜索するつもりだ。なんかサイン出してて気づかないとかが最悪だからな。」
「はい!!手伝います!!」
「おう。頼むぜ。」
夜の風が冷たい宿の庭を二人で歩く。
先生の手には照明があるが、あまり意味はない。
なぜなら、今日が満月だからだ。
空に浮かぶ月のあかりで、数m先もバッチリ見える。
「俺らが遭難したら意味ねぇからな。二人で行くぞ。」
「はい!!」
先生の後ろについて道を歩く。
◇ ◇ ◇
「ん?なんか変な匂いしねぇか?」
歩き出して丁度10分が経とうかという時。
先生が立ち止まりそういった。
「ふんふん……本当ですね!!甘い匂いがします!!」
花の香りにしては不自然な甘みのある香りが、微かにだが匂うことができた。
「どこからだ……」
先生が匂いのもとを探ろうと、足を踏み出した瞬間。
それは起こった。
ドッッッッカーーーーン!!!
「なっなんだ!!!」
5m先ぐらいの道の端が突如爆発し、オレンジ色の煙が立ち上った。
「あ、あれ!!!」
俺が少し奥に同じくオレンジ色の煙を見つけたところで、再び爆音が襲う。
ドッッッッカーーーーン
ドッッッカーーーン
ドッッカーーン
ドッカーン
やまびこのように何度も聞こえてくるそれに、俺は危険を感じていた。
「せ、先生!!」
「あぁ、わかってる。普通じゃねぇ。こんなん、誰かがわざわざ仕込んでんだ。」
先生も次々と立ち上る煙と漂ってくる強い香りにその危険性を察知したみたいだ。
「俺らも危ないかもしれん。一時捜索中止!宿に戻るぞ!」
「はい!!!!」
俺らは来た道を逆向きに走り出したーーーー
ウォォォォォォーーンンンン
ギャォォォーーーー
ジャェェェ!!!
ーーーー来る時には微塵も聞こえなかった、魔物たちの叫び声を聞きながら。
◇ ◇ ◇
道をできるだけ速く走り、ちょうど宿が見えてきたとき。
「なっ!!!」
宿を見て先生が手で口を抑え、声を上げた。
「これは……!!!!」
俺も声を上げてしまった。
宿の横にあった小屋が跡形もなく消し去られて、煙が立ち上っており、周りには木の破片とあの、強烈な匂いがしていたから。
◇ ◇ ◇
「大丈夫か!!?」
急いで宿へ走り、先生と一緒に食堂へ向かった。
「テイチ先生。皆無事ですよ。」
「そうか、良かった。」
入り口にいた女の先生が答えてくれていた。
こっちでも異変に気付き、食堂に一時集合となったらしい。
「これはなんなんですか?何が起こって……」
「…俺にもわからん。ただ、何かが起こるんだろう。その何かが俺には予想がつかない。」
女の先生の質問に先生は椅子の上で腕組して、貧乏ゆすりをしながら答える。
「そうですか。」
女の先生はそれだけ言って生徒たちに話しかけに行った。
「なんなんだよ………何が起こってんだ……」
「どうなってるんですかね!!?」
先生が爪を噛みながらこぼした独り言につい反応する。俺も多少なりとも混乱しているのだろう。
「…まぁ間違いなくヒスイは関係してんだろうな。」
「そうですね!!あっ、俺みんなのところ行ってきます!」
「あぁ行って来い。おつかれさん。」
先生を一人にしたほうがいいと思い立ち上がると、ふらふらと手を振ってくれた。
「それでさ……」
「爆発……」
「魔物でも………」
食堂を歩けば生徒たちの話し声が聞こえてくる。
食堂に集められた生徒たちは数人ずつで固まり、ひっきりなしに話していた。
多分不安なのだろう。
「あっ!マッソ!!ねぇレスト知らない?」
うちのクラスの奴らがいる辺りに行くと、まずフェルンに話しかけられた。
フェルンも寝起きっぽく、眠そうにまぶたを擦っている。
さて、どう答えるか?
そうだなぁ………
「レストは……長めの便所だ!!気にしてやるな!!」
サムズアップをしながらできるだけ明るく答える。
頑張って考えて出た答えがこれだった。
流石に強引か?
「そ、そうか!良かったぁ。」
心配してたんだろう。フェルンはそう声をあげて、その場にへたり込んでしまった。
何とか信じてもらえそうだ。
「お前ら、注目!!」
少し経って、食堂の前でテイチ先生が手を叩きながら言う。
ざわざわしていた生徒たちも皆その声に前を向いて黙る。
「今日はもう落ち着いただろうし、部屋に戻って……」
そこで先生が言葉を止めるーーーーというか強制的にやめさせられる。
「ガァァァァアアアアアアオオオオォォォオォーーー!!!!!!」
バリバリという音とともに扉を破って入ってきた魔物によって。
「ガァァァァアアアアアアオオオオォォォオォーーー!!!!!!」
まるで自分が人々から称賛される行動をとっているかのように、堂々とした趣で部屋の扉をぶっ壊して入ってきたのは、蛇だった。
全長10m近く。
鱗は嫌な感じの紫色をしていて、とてつもなく硬そうであり、キシャーと鳴き声を上げる口は鋭利な歯が数え切れないほど並び、それらをガチガチと鳴らすことで威嚇をしている。
強い。
俺は直感でそう感じた。
低くてD、高かったら……B位ありそうだ。
「ギャリャァァァアアアアア‼‼!」
「シャビュァァァァァアアア!!」
「グロォォォォォ‼!!!!!!」
皆の意識が蛇に集中したときに、聞こえてきた3つの野太い叫び声。
「グォォォォォアァアアアアアアアアア!!!!」
「ジャリャギュラァァァァァアアアア!!!」
「シェリンンンンンンンァァァァァ!!!」
「ナジュゥゥゥゥゥウウウウウウ!!!!!」
「オオオオオオオオオオオオオオオヲヲオオ!!!」
それに続いて木霊する、耳を裂くような汚い声。
「う、嘘だろ……」
誰かが不意にこぼした言葉が、その状況を物語っていた。
体を波打たせ挑発するように跳ねる蛇の奥に見える、何百、何千の魔物の群れ。
それらは一見統率をとっていないようだが、明らかに一つの目標を持ち、みな揃ってこちらに向かってくる。
「シャァァァァアア」
蛇が大群の恐ろしさに震える人間たちのことをあざ笑うかのように吠える。
ーー奴らの、魔物たちの目標は、その朧気な瞳で一心不乱に求めているものは、俺たち人間の血肉だ。
「お、おい、嘘だろ」
「え、ええ、え?なになに何!!!??」
「いやぁぁぁぁぁ!!!!!」
生徒たちは一気に押し寄せてきた不安、恐怖、焦燥、嫌悪、諦念、絶望。
その他諸々の負の感情に耐えきれなかったのだろう。
理解できないといったように、人でいっぱいの食堂で奇声を上げたり、走り回ったり、我先にと逃げようとしたり等など皆一様に取り乱す。
「け、結界使える教師、魔力切れとか気にしないで、とにかく全力で張れぇ!!!!」
そんな中、まず最初に冷静に皆に声をかけたのはテイチ先生だった。
「わ、わかりました!!大いなる大地よ………」
「手伝います!混沌を統べる………」
「ま、魔力ポーションを…」
他の先生達も次々とこの場にあった適切な判断を下し、皆自分ができることを模索し始めた。
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