王様ゲーム

「失礼する!!」


「お邪魔します。」


「おじゃましま~す」


僕の部屋の前でそれぞれ違った挨拶をする三人。


「どうぞどうぞ。」


マッソと部屋で遊んだ?話をすると、フェルンくんとヒスイの二人も来たいというので、招き入れてみた。


「変わらずシンプルな部屋だ!!」


「片付いてるな。」


「キレイ~!」


うん、まぁ何か特筆して言うことはないよね。

相変わらず家具ほぼナシ部屋だから。


「ちょっと待っててね、お茶入れるから。」


僕は三人にベッドに腰掛けてもらい、ちょっと前に買ったポットで安物のお茶を入れる。


「すまんな!!」


「ありがとう。」


「ありがと〜!」


マッソは豪快に飲み干し、ヒスイはちょびっと飲み、フェルン君は熱いのかちょろっと舐めただけだった。


「で、今日は何するの?」


部屋に来てみたいというので上げたが、前回と同じで、何をするのかは決まっていなかった。


「俺は何でもいいぞ!!皆がやりたいことないのなら全員で筋トレでもいいな!!」


マッソが両腕を曲げて上腕二頭筋を見せつけながら言う。


………出来ればそれはしたくないな。


「私も特にないですね。」


ヒスイはカップを持ってなにかあるかなぁと考えている。


「はいはーい!!僕王様ゲームってやつやりたい!」


王様ゲームかぁ、そんな陽キャ丸出しの言葉を聞く日が来るなんて。


「王様ゲームってなんだ!!!?」


マッソが聞く。


「えっと王様ゲームっていうのはね、簡単に言うと王様がランダムに決まって、その人の言う通りに動くっていうゲームだよ。まぁ、一回やってみようよ!」


僕、棒持ってきたんだ〜と、フェルン君が懐から4本の細い棒を取り出す。


その棒には既に王様の冠や1、2、3と書いてあった。


事前準備バッチリだな。


「なんか面白そうだね。」


「楽しそうじゃないか!!」


二人も乗り気だ。


「やってみようか。」


僕がそう頷いたのを見て、フェルン君がその棒を机に置いてあった何も入っていない花瓶に入れる。


「じゃあみんないっせーので一本ずつ引こう!」


フェルンくんは手に持った花瓶を僕達の真ん中に差し出す。


花瓶は先が細まっているのでうまい具合に中が見えなくなっていた。


「わ、分かった。」


「わかったぞ!!」


「オッケー。」


みんなが返事をする。


「じゃあいくよ?いっせーので!!」


僕は適当に一番手前の棒を引いた。


2番か。まぁ最初王様は嫌だったし良しとするか。


「じゃあ、王様だーれだ?」


フェルン君が言うと、マッソが


「俺だ!!!!」


と、王冠の書かれた棒を高らかに上げる。


「じゃあ何番が何何するとか、何番と何番があれをするとかいう命令をして。」


それを聞いたマッソが悩みこむ。

マッソだから、筋肉に絡めた命令かな?


少し経って、マッソが決まったと顔を上げる。


「1番が10回腹筋だ!!」


案外軽いな。100回くらいさせるかと思ったが。


「わ、私だ。」


ヒスイが残念そうに棒を掲げる。


「じゃあ、腹筋よろしく!」


「行くぞ?」


ヒスイはベッドから降りて腹筋を始める。


「……はーち、きゅーう、じゅう!!終わりだね!」


「ふぅ、なかなかに疲れたぞ。」


少し汗をかいたヒスイがベッドではなく、学習机の椅子に座った。


「じゃあ二回目行きますか。回収するねぇ。」


僕はフェルン君に棒を渡した。


みんなの分を集めたフェルンくんは隠すようにしてシャッフルし、再び花瓶を突き出す。


「いっせーので!!」


今度は少し奥の棒を引く。


………また2番か。


まぁ偶然だろうな。


「王様だーれだ?」


「私だ!」


ヒスイが嬉しそうに棒を出す。 


「じゃあそうだな、マッソが30回腕立て。」


「あぁ、個人指定は出来ないよ。番号で言わないと。」


あぁ、あるあるだね。やり返そうと思って名前言っちゃうやつ。


まぁ、これが初めてだからしらんけど…………なんか悲しい。


「そ、そうか?なら、3番がえっと………猫の鳴き真似をする。」


良かった、僕じゃない。

猫の鳴き真似はそこまで嫌じゃないが少し恥ずかしい。


「僕だぁ!」


フェルン君が何故か少し嬉しそうに棒を差し出す。


「じゃあ行くね?にゃんにゃんニャン♪」


「「「………………。」」」


僕ら三人は黙り込む。


少し恥ずかしそうに言ったそれは、ただただ可愛いだけだった。


「つ、次行こうか?」


「そ、そうだな!!!」


「そうしよう!」


可愛かったのだがなぜか変な空気になった僕らは、棒を花瓶に戻していく。


「じゃ、じゃあ行くよいっせーので!」


王様がいいとかは言わないが、今度は2番じゃないといいなと思いながら引く。


僕が引いた棒に書かれていた文字は…………2.。


なんだろう、2番しか出ない呪いでもかかってるのかな?


「王様だーれだ?」


僕が落ち込んでいると、フェルン君がそう大きな声で言った。


「俺じゃないな!!」


「私でもない。」


二人が否定する。


「僕じゃないよ。」


僕はもちろんノーだ。


三人が違うと言っているってことは………


「えへへ、僕でしたぁ!!」


やっぱりか。

ニッコリとした顔でフェルンくんが棒を見せる。


フェルン君か、何を命令するのか見当がつかないな。


「じゃあね、2番がこれを着る!!」


そう言って鞄から取り出したのは、フリフリのついたメイド服。しかも猫耳と尻尾付き。


………………嘘だろ。


「2番だーれだ?」


嘘……だろ?


「俺じゃないぞ!!!」


嘘じゃないのか……?


「私でもない。」


嘘………にはならないのか?


「「「じゃあ………」」」


みんなの視線が自分に集まっていることを感じ取り、逃げることはできないと覚悟を決めた僕は手を挙げる。


「僕が2番……………です。」


「マジか!!!」


「お疲れさまです。」


「じゃあこっちに来て!!」


二人の哀れや期待の視線を受けながら、フェルンくんに連行される。


「これ着てきてね!!!」


なんだろう、なんて君そんなに楽しそうなんだろう?

てか、なんで猫耳メイド服なんてもってるんだ君は?


閉まっていくトイレの扉の隙間から、僕は恨みを込めた視線をフェルン君に送る。


渡されたメイド服は白と黒を基調としたシンプルな、みんなが思い浮かべるタイプのやつ。


………チクショーこのメイド服きらいだー!!!


某素晴らしい異世界ラノベ主人公が某嘘発見器に向けていった某セリフを頭の中反復しながら、メイド服に袖を通す。


「…………。」


着終わった僕は、ギーと渋めの音を立てて扉をゆーーっくりと開く。


「おぉ!!いいじゃんいいじゃん!!あとは髪の毛とかだね!ちょっとまってね。」


僕を上から下まで見て、心底楽しそうに言ったフェルンくんは、ドタバタと音を立てて走っていく。


「はぁ………」


トイレを出てすぐの所にある小さな洗面台に備えついている鏡に映った、自分の茶色がかった黒髪を弄る。


………僕、どうなっちゃうんだろうか?


「お待たせぇー!!!」


いや、一生来なくてもえぇんやでとは言えず、僕はこっくりと頷く。


「じゃあまず髪の毛を整えるねぇ!!」


フェルン君は手に持つ可愛らしいポーチからこれまた可愛らしいピンやゴム、リボンを取り出す。


…………オーマイゴッド。


神は死んだとか言われて拗ねちゃったのかな?僕の神様は。


「ほらほら、前向いてー。」


そこからもはや僕はただの人形とかして、前をひたすら向いていた。


頭の中で流れるのは子牛の映像と、ドナドナの音楽。


「ハイ出来た!!!」


フェルン君は肩にぽんと手を置いて、やりきったというように額を拭う。


「ウン、トッテモスゴイネー」


キレイに整えられた前髪と、編み込まれた横の髪、リボンかなんかを使っていい感じにまとまってる後ろ髪。


うっすら桃色に染まった頬と、いい例えが思い浮かばないが強いて言うならばリンゴ飴みたいな唇。


ウン、カワイインジャナイカナー


「最後にこれをつけてね!!」


サムズ・アップしながら渡されたのはこれまた白黒の猫耳。


ウワーカワイー


このやりたくもないことをやらされてるときの、言葉が全てカタカナ変換になってしまう現象僕は、『カナナイ』と呼ぶことにする。異論は認めない。


僕は無心で渡されたそれを髪の毛を崩さないようにつける。


「オッケー、じゃあ立って立って!!」


「分かった。」


心の中はさながらきせかえロボット。ハイご主人さまとは言わないが、ご命令どおりに立ち上がる。


「スカートのここに尻尾をつけたら完成だね!!イェイ!!」


「イ、イエーーイ、アァウレシイナー」


何故かフェルン君とハイタッチを交わす。全くと行って嬉しくない。


ーーーー行ってくりゅ!


棒素晴らしい世界の某変態クルセイダーを真似し、僕は二人のもとに向かった。


 ◇ ◇ ◇ 


「………………!」


「………………。」


「…………………………。」


さて問題です。上記の3つのセリフはそれぞれ僕、ヒスイ、マッソのうち誰のものでしょうか?


十秒待ちます。


……………八、九、十。


では正解です。


まず一番上。これは簡単だったでしょうか?

末尾に!がついているのでマッソのものです。


次に二つ目。これは難しいでしょうか?

三つ目との見分け方はずばり、沈黙の長さです。


当事者である僕のほうが必然的に沈黙が長くなりますので、二番はヒスイのものです。


そして、残る三番が僕のもの。


どうでしたか?当たりました?


そんな茶番クイズ番組を脳内で繰り広げてしまうくらいの沈黙時間が過ぎたあと、二人は再起動したかのように動き出す。


「そ、その似合っているぞ!!うん!すごい似合ってる!!」


「き、キレイだよ。うん、なんだろう女の子より女の子だね。」


……………ミンナホメテクレテアリガトー


その後、2.3回王様ゲームをして三人は帰宅した。


その間僕はずっとメイド服だったのだが、彼らがそのことについて触れることはなかった。


…………チクショーこのメイド服きらいだー!!!!


 ☆ ☆ ☆ ☆ ☆ 

なんかすみません。

…………アリガトウゴザイマス

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