第179話 親父殿の覚悟
ゼロワン改+キャンピングカーを出して、ツンツインテールを運んで寝かせた。
「ミラ、大丈夫なんでしょうか?」
「大丈夫だよ。魔法は魔力をそんなに使わない代わりに精神力を使う。これはオレの感覚なんだが、魔法は脳を酷使する。そのせいで回復するまで深い眠りにつくんだと思う」
オレも土魔法を使いすぎると眠りが深い。たぶん、酷使すると脳に何かしらの害が生まれるかもしれんな。
「あー。先生方も言ってました。魔法を上達させたいなら地道な訓練が近道だって」
「さすが魔女。含蓄があるぜ」
オレも見習って地道に訓練していきますかね。
「少し出て来るから、ツンツインテールを見ててくれや」
せっかく来たんだからコカードを採取していこう。
「あ、わたしも一緒にいきたいです!」
「穴掘りだぞ」
「それでも構わないです。ベーくんのやることはおもしろいですから」
「好きにしな」
レイコさん。そばかすさんの相手してやってよ。あ、館に入るときまた見えなくしてましたので見えるようにします。
「あ、初めまして。レイコと申します」
「あなたがベーくんに憑いてるって言う幽霊さんですね! わたし、幽霊見るの初めてです」
「大図書館なら幽霊の一人や二人いるんじゃねーの?」
「たまに本を借りに来る幽霊がいるみたいですけど、見習いで見た者はいません」
ゆ、幽霊が本を借りに来るんだ。パネー幽霊がいるもんだ。
「もしかすると、お玉さんかもしれませんね。あの方、物理干渉できるくらい霊圧がありますから」
「確かにお玉さんならやりそうだな」
もう幽霊とかの域から出た存在。本を借りにいくくらい造作もねーだろうよ。
「まあ、そばかすさんの相手してくれや」
「わかりました。よろしくお願いしますね、ライラさん」
「こちらこそよろしくお願いします、レイコさん」
魔女と幽霊のツーショット。アニメの中なら映えるだろうが、現実だとなんの感動もねーよな。
二人に構わずキャンピングカーから出て、空飛ぶ結界で前に採掘した場所へと向かった。
「……これが魔大陸ですか……」
ワンダーワンドに跨がりながら魔大陸の風景に感嘆としていた。
土ばかりで感嘆するほどでもないと思うんだが、初めての風景には新鮮さがあるもの。
前に採掘した谷に降下し、底へと到着する。
「なにするんですか?」
「コカードって石さ。バイブラスト公爵領では太陽の石と呼ばれてるよ」
崖に手を当ててコカードを探す。うん、あった。
土魔法で掘り進め、コカードをいくつか集める。
「緋色の石ですか。なにか特別な石なんですか?」
「これと言って特別なことはねーな。ただ、珍しい石ってだけさ」
硬いってこともなければパワーなストーンでもねー。魔大陸で採取できる綺麗な石、ってところだろう。
「そんな石、どうするんです?」
「なんでもないものに存在価値をつけて売り出すんだよ」
かかってるのはオレの労力。その労力も土魔法の訓練の過程で出て来たもの。まったくボロい商売である。
「触っていいですか?」
「好きにしな。欲しいなら好きなだけ持ってってイイぞ」
ここはオレの所有地じゃねー。そこで誰が採ろうとオレにどうこう資格はナッシング。ポケットいっぱいに詰め込め、だ。
大体一トンくらい採掘して終わりとする。最初に渡した量だけでも数年は間に合うだろうからな。
「キャンピングカーに戻るぞ」
レイコさんとおしゃべりに花を咲かすそばかすさんに声をかけて採掘を終了させた。
キャンピングカーに戻ると、ツンツインテールはまだ眠っており、起きる気配はなかった。
「どのくらいで目覚めるんですか?」
「さて。それはツンツインテール次第だな。オレが無茶したときは四日か五日は目覚めなかったみたいだな」
なんかツンツインテールみてたら眠くなってきたぜ。
「ボブラ村時間で深夜に目覚めましたからね、そろそろ寝る時間だと思いますよ」
言われてみれば確かに。ってか、今日は頭をたくさん使ったな。
「あ、親父殿との話もあったっけ」
「それならわたしが言っておくわよ」
あ、プリッつあん、いたのね。いつからオレの意識から外れていた?
「いつから錯覚していた、みたいな言い方しないで。館から一緒にいたわよ」
なんで元の世界のネタを知ってんだよ?
「死神漫画からよ。エリナに借りたの」
ヤダ。メルヘンが元の世界のサブカルチャーに汚染されてる!
「次の巻を借りてくるついでに伝えておくわ」
転移バッチを発動させて飛んでいってしまった。
………………。
…………。
……。
うん。寝よう。
モヤモヤする考えを放り投げて夢の中へと旅立ちました。お休み~。
◆◆◆◆
グッドモーニングエブリバディ。ボンジュールなボンジョルノ。知ってる挨拶を使ってみました。
だからなに? なんて朝から突っ込みは止めておくんなまし。女たちのおしゃべりに入っていけないだけです。
……ゼロワン改のほうで寝るんだったぜ……。
「あ、べー様が起きたようですよ」
そのまま寝た振りしようとしたら幽霊に気がつかれてしまった。
ふて寝もできないので起き上がり、キャンピングカーの洗面台で顔を洗った。
さっぱりしたけど、風呂に入ってねーからなんか気持ちワリーな。シャワーでも浴びっか。
「あ、水は切れてるわよ。ちゃんと補充しておきなさいよね」
そういや南の大陸で水場がなくて補充してなかったっけ。
あ、確か冷蔵庫に水が入ってたはずと開けてみたら、二リットルのペットボトルが三本入っていた。
一本取り出してキャンピングカーから出る。
「夕方か。また時差ボケになりそうだな」
まあ、ぐっすり眠ったし、徹夜することもあるんだから今さらだ。
「なにするの?」
パ○ルダーオンしたメルヘンが不思議そうに尋ねてくる。
「露天風呂を創る」
せっかく崖の上にいるんだし、開放的な風呂にでも入るとしよう。
「あらいいわね。女風呂もよろしく」
「あいよ」
右足で地面を叩き、二十畳ほどの湯船を創り、中央に仕切り壁を立てた。
「シャンプーってあったっけ?」
キャンピングカーは勇者ちゃんやララちゃんに使わせてたからアメニティグッズも足りなくなってるはずだ。あれ? 揃ってるぞ?
「そう言うのはわたしが補充しておいたわよ」
「よく持ってたな?」
トラベルグッズ的なものか?
「プリッシュ号Ⅲ世にも補充しなくちゃならないからね」
「Ⅲ世? Ⅱ世じゃなかったっけ?」
あれ? 改だっけ? なんかスッゲー昔のようで思い出せんわ。
「今はⅢ世よ。フミが改造しまくるから」
「もう新しいのを造れよ」
「さすがにべーの力がないとあんな船飛ばないわよ。結界キーが飛行船の大事なものなんでしょう?」
「まーな」
改造ありきで造ったから元となるキーに結界を仕込んである。だから、飛行船本体をいくら改造しようが結界キーがそれに合わせて纏ってくれるのだ。
「帝国の双子ちゃんも欲しいって言ってたから作ってあげて」
「まだ交流してたんだ、あの双子と」
オレの中では完全に消失してたよ。
「帝国の最高権力者を忘れられるのベー様の記憶力が消失してるんじゃないですか?」
オ、オレの中では双子はモブでしかねーんだよ!
「べーは公爵とレヴィウブ、大図書館の魔女から重要視されてるんだから皇室だって伝は欲しいところじゃない。わたしに名誉大使なんてもんまで与えたわ」
なんだろう。このメルヘンがとんでもねー権利を得たように感じるのは気のせいだろうか?
「少なくともゼルフィング家でプリッシュ様に逆らえる者は誰もいませんでしたね」
オ、オレはプリッつあんに逆らえるもんね!
「でも、最後には言い含められてますけどね」
「……さーて。露天風呂でも創ろう~っと」
左足で岩を創り出し、露天風呂を囲み、脱衣場をあらよっと。雑なできなのはご愛顧。決して動揺しているからじゃありませぬ。
二リットルのペットボトルをデカくして、穴を開けて露天風呂へと流した。
「どちらか火の魔法とか使えるか?」
オレの魔力(火力)では露天風呂の水をお湯にする力はございません。
「結界で温めできるでしょうに、どれだけ動揺してるんですか」
猿も木から落ちる。弘法も筆の誤り。オレだって失敗する生き物なんです!
「あ、わたしができます」
そばかすさんが挙手した。
「じゃあ、この球に火をぶち込んでくれや」
結界球をいくつか創り、そこに火球を入れてもらった。
それらを露天風呂へポイ。水が沸いていく。
しばらくすると湯気が立ってきて、いい湯加減になったら結界火球を取り出した。
「湯が冷めたら結界火球を入れて調整しろな」
「温泉の素を入れてもいい?」
メルヘンさんが湯の華と書かれたボトルを見せた。
君はそんなもんまで持ってんのかい。入れてイイからオレにもくれよ。
ボトルをもらい、露天風呂へと注いだ。
「おー温泉の臭いだ~」
温泉の素、マジスゲー。オレも買おうっと。
結界でゆっくりとかき混ぜ、露天風呂全体にいき渡った。
「んじゃ、各自好きに楽しめ」
男風呂へと入り、服をパッパと脱いで露天風呂へと飛び込んだ。あービバノンノン。
◆◆◆◆
露天風呂でゆったりとし、涼んでからボブラ村へと戻った。
「ほんとお前は、じっとしてらんねーな!」
と、親父殿から怒鳴られた。
まったくその通りなので甘んじて受け入れます。ごめんちゃい。
「ってか、メイド長やサラニラから聞かなかったのか?」
「大事なことだからお前から聞けと教えてくれなかったんだよ」
別にしゃべってくれても構わなかったんだがな。
「そうかい。なら、親父殿の書斎で話そうか。魔女さんたちはテキトーにやっててくれや」
魔女さんたちにそう言って書斎へと向かった。
「なんかもう書斎の体がなくなってんな」
前に入ったときはまだ書斎だったのに、今は完全に酒場である。ってか、バーになってんな!
「うちで働く男たちの憩いの場に変えたんだよ。おれは本とか読まんし、なにか書くときは寝室で充分だからな」
「女の中で働く男は大変だ」
「そうだな。おれも飲むなら騒がしく飲みたいからな」
その辺は冒険者時代の習性だろう。
今は午前中なのでバーには誰もおらず、窓際のソファー席に座った。
「なにか飲むか? 普通の飲み物もあるぞ」
「いや、イイ。フルーツ牛乳を飲みすぎちまったから」
温泉の素がよすぎて長湯しちまった。お陰でいっぱい汗をかいちゃいました。
「親父殿は飲んでイイぞ」
「飲まなきゃやってられないことなのか?」
どんだけマイナス思考になってんだよ。オカンに惚れすぎだ。
「安心しろ。これはどちらかと言うと親父殿の問題だ」
「おれの?」
「あい。親父殿の問題──いや、覚悟かな?」
「覚悟? どう言うことなんだ?」
落ち着けと宥め、オカンのことを説明してやった。が、いまいちピンと来てねー感じだった。
「……もう少し、わかりやすく言ってくれるか……」
「親父殿が先に死にオカンは生き続ける。また未亡人になるってことだ」
まあ、歳を取ればどちらか先にくたばるもの。一緒にご臨終なんてあり得ねー。ただ、親父殿のほうが先に死ぬってことだ。
「竜の心臓を食えば寿命は延びる。だが、それは止めておけ。ただ、死ぬ順番が変わるだけでオカンが悲しむだけだ。生きているうちにたくさんの思い出を作れ。それは一人になっても生きる力になるからよ」
もっとも、イイ思い出があるせいで死ぬに死ねなかったけどな。
「オカンの体は丈夫だ。二十半ばの体と言ってイイ。並みの病気じゃオカンを寝込ませることはできねー。あと、五人くらい産んでもびくともしねーだろう。孫ひ孫に囲まれた幸せな人生にしてやんな」
それは親父殿の役目。夫だけがしてやれることだ。
「なに、親父殿もあと五十年は死ななそうだし、先のことを心配するより今を楽しみな」
二人の老後が幸せになるよう環境を整えてやるからよ。
「以上、オレの話は終わり。あとは親父殿に任せるよ」
ソファーから立ち上がり、親父殿の肩を叩いてバーを出た。
「執事さんを呼んでくれ」
バーの外にいたメイドさんに執事さんを呼んでもらった。
「──お呼びでしょうか」
メイドさんに呼んでもらう前に執事さんが忽然と現れた。あなた、転移して来てんの!?
「大丈夫だとは思うが、しばらくは親父殿の様子をよく見ててくれ。もし、気に病んでいるようならオレに報告を頼むわ」
「公爵様にご相談なさってはいかがでしょうか? 旦那様の相談に乗っていただけるかと思います」
「あ、公爵どのがいたな」
百戦錬磨な公爵どのなら親父殿のイイ相談相手になってくれるかもな。
「じゃあ、話を通しててくれ。オレだといつになるかわからんからよ」
そう言えば、バイブラストの……なんだっけ? 大使みたいなのが三人来てたよな? 誰だったかは記憶の彼方にあって思い出せんけど。
「畏まりました」
まあ、執事さんにマルッとお任せ。イイようにやってちょうだいな。
食堂へいくと、そばかすさんにツンツインテール、あと、サダコがいた。どこのテレビから出て来た?
「これから集落に降りるが、あんたらはどうする?」
「お供します!」
そばかすさん、一旦自己主張を始めると止まらなくなるタイプのようだ。
「じゃあ、いくヤツはついて来な」
魔女さんたちを連れて館を出た。
ん? またプリッつあんが消えたな。まあ、だからどうしたって話だがな。
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