第98話 悪巧み

 なにかうるさくて目を覚ました。


 毛布に包まりながら瞼を開くと、イッツ・ア・スモールファンタジーが広がっていた。なに?


 寝ぼけてんのかと瞼を擦り、もう一度見る。うん、イッツ・ア・スモールファンタジーですね。


「マイロード。お目覚めですか?」


 いや、まだちょっと夢の中かな? なんかあり得ない光景が広がっますわ~。


 これはきっと夢だ。寝ぼけてんだ。そうだそうだ、もう一度夢の中へ出発だぁ~!


 ………………。


 …………。


 ……。


「──なるかっ!」


 なんなの、このファンタジー・オブ・ザ・オバチャーンは? もう悪夢だよ! 夢も希望もねーよ、こん畜生がっ!


「あ、ベー様。起きましたか」


 空飛ぶ箒(仮)で掃除をしているミタさん。


「ベー様、これおもしろいですね。気に入りました!」


 空飛ぶ箒(仮)のどこに嵌まったのか、子どものようにはしゃいでいた。


 ……ミタさんのツボがよくわからない……。


「そうかい。喜んでくれんなら創った甲斐があるよ」


 オレはもう空飛ぶ箒(仮)がなんの役に立つかわからなくなったけどさ。 


「ベー様。他にどんな機能があるんですか?」


 よくわからないでよく使ってたね、あなた。その度胸が万能の原動力か?


「水を出したりお湯を出したりできて、風を吹いたり吸ったりできるな。まあ、やってみたほうか早いか。貸してみ」


 多機能なので口で説明するよりわかりやすいだろう。万能メイドならな。


「と、まあ、掃除機能はこんな感じで、攻撃はこれだな」


「マガジン、ですか?」


「ああ、そうだ」


 マガジンの中から弾丸──ではなく、モコモコビームが込められたビーム弾だ。


「そう言や、アリザってまだビームとか出してんのかい?」


 ってか、最近見てないけどなにしてんだ?


「食べすぎたときに出すと聞いてます」


 ゲップかよ。つーか、殺傷力あるゲップとかはた迷惑だな。


「まあ、出せるんなら補給は大丈夫だな。で、このマガジンをセット」


 カシャンと中央部の柄が伸びてマガジンをセットできるようになる。


「弾数は六発だけど、一〇発は内填させられるから」


 飛んでる最中に撃ちたくなるかもしれんからな。


「あと、バリアーも張れるから。たぶん、竜に踏まれても大丈夫なはずだ」


 これは闇夜の月の魔術師のねーちゃんに売った杖と同じだから簡単につけられたな。ってか、よくよく考えたら空飛ぶ箒じゃなく空飛ぶ杖だな、これ。


 ……そう言やアリテラたち、今どこでなにしてるかな……?


 酷く昔に感じるが、冒険者をやってるなら一年二年会わないこともある。売った武器には秘密の仕掛けを施してあるから死ぬことはねーし、そのうち会えんだろう。それまで心待ちしてろ、だ。


「それと、収納陣で荷車一台分入るから好きなの入れな」


 なにを入れるかはあなた次第。秘密なものを入れちゃって。


「ベー様。これに名称はあるんですか?」


 名称? 空飛ぶ箒(仮)じゃダメ……か。オレの中で箒から杖に変わっちまったし。う~ん。なんだ?


「……ワンダーワンド……」


 なんかポロっと出た。


 うん。イイかも。ワンダーワンド。それに決定だ。


「ワンダーワンドですか?」


「ああ。ワンダーワンドだ」


 空飛ぶ箒(仮)より響きがイイぜ。


「それと、このワンダーワンドを仕舞っておく手段か道具はないでしょうか。持ち運びに不便なので」


 あー。そりゃそうだわな。常に持っていてこそのワンダーワンドだしな。


 ん~。なにがイイ?


「ミタさん、要望とかある?」


「すぐ出せるほうがいいですね」


 すぐか。となると手元か? ポケットか? 鞄か? メイドだとどこが邪魔にならないんだ?


 つーか、メイド服は機能性のある服なのか?


「まあ、呼んですぐ現れるのがイイか。収納陣」


 ワンダーワンドが縦に入るくらいの収納陣を創る。


「この収納陣はミタさんだけしか出せないようにした。出す合言葉を決めてくれ。短くてイイからよ」


「ラン、でよろしいですか?」


「構わんよ。じゃあ、ランで設定っと。ワンダーワンドを収納陣に入れてみな」


「こうですか」


 杖の頭から入れるミタさん。


「で、入れると消える。もう一度ランって言ってみな」


「ラン」


 で、収納陣が出現。ワンダーワンドが飛び出す。


「早さはこれでイイかい?」


「そうですね。もっと速くできますか?」


 もっとか。チチンプイっと。どう?


「もっと速くても構いません。できれば一秒もかからないでいただけると助かります」


 宇宙刑事が蒸着するより速くか? できるか? チチンプイっと。どうよ?


「はい。いい感じです。ありがとうございます」


 見えない速度で現れるワンダーワンドを見えない速度でつかむ万能メイド。君はなにを目指してんのよ?


「では、他のメイドにもお願いします」


 いつの間にかワンダーワンドを持つメイドが並んでました。


「……お、おう……」


 ただその前に、空飛ぶ箒で飛んでるご婦人方の説明をしていただければ幸いかな~と思いますです。


  ◆◆◆


「おもしろそうだから創ってみた」


 メイドたち収納陣を整え終わり、ちょっと仮眠してからオバチャンに尋ねたらそんなことを言われた。


 まあ、オレもおもしろそうだからで創ったから、オバチャンたちの言い分に文句は言えないが、だからって創りすぎじゃね? つーか、よく創れたね。シュードゥ族オバチャン、ハンパねーな。


「まあ、要は魔道具だからね」


 んな横暴な。魔道具と言や片付けられると思うなよ! と言えない身なので黙っておきます。


「創るのは構わんが、こんなに創ってどうしようってんだ?」


 是非、お聞かせ願いたい。今後の言い分の参考とさせていただきたいので。


「買い物に使おうと思ってね」


 ママチャリならぬ……なんだ? 上手いこと言えねーよ! 空飛ぶ箒に跨がったオバチャンのことなんてよ!


「買い物? どこに買い物にいくんだよ?」


「ベー様。レヴィウブで働く者の町がありまして、食料品や日常品はそこで買えるんですよ」


 え? レヴィウブにそんなとこあんの? 知らんかったわ~。


「そこ、こっからだと遠いのよ。わたしら馬車ないしね」


 言ってくれれば馬車くらい用意すんのに。まあ、無理矢理連れて来たオレのセリフではねーから黙っておくけど。


「空飛ぶ箒なんて使って大丈夫なのか?」


「専用の道だから大丈夫そうだよ。馬でも馬車も持ち込み可能だって世話役の人が言ってたから」


 知られざるレヴィウブの裏側。ちょっと興味あるかも。


「そんで、空飛ぶ箒はどんな感じなんだ? 完成なのか?」


「まあ、通う分には大丈夫かね。魔力の消費は多いけど」


 試しに一つ借りて跨がってみる。


「ってか、どうやんの?」


 すみません。優しく教えてくださいませ。


「魔力で動かすんだよ」


 魔大陸出身者はなかなか無茶を言う。が、そこはやればできる。あればできる。考えるな、感じろでやってみろ、だ。


「おっ、浮いた」


 魔力を箒に流すとフワリと浮いた。


「大体の魔道具は魔力で動かすんだよ」


「ってことは、魔力がないと動かせねーってことだろう。人族はそんなに魔力がねー種族だ、魔力がなくても動かせるのを創ってくれよな」


 魔力在りきの魔大陸とは違うのだ。魔力なしでも動くものでなければ売れねーよ。


「……それはまた難しいね……」


 ここで解決法を教えてもイイが、創意工夫は大事なこと。さらなる成長を願って黙っておこう。まずは魔力ありで販売しておこう。


「それは後々やっていけばイイ。それより、これはどのくらいの重さまで耐えられるんだ?」


「重さ?」


「買い物用なんだろう。だったら荷物の重さも考えなくちゃならんだろうが。あと、荷物を入れるなり置くなりの工夫も必要だぞ」


 オバチャンの体重を聞くのは怖いので荷物に変えて尋ねました。


「魔力を使えば、たぶん、二人くらいは乗れるかな?」


 創った本人もよくわからないらしい。案外アバウトなんだな。


「そう言う細かいことも気にしろよ。百個創って百個不具合はねーと言えるものを創れるようになれ。それが一流だぞ」


 趣味でやっているとは言え、オレはその自負を胸に創っている。自信を持って売ってるぜ。


「わかったよ。百個創って百個自慢できるものを創るよ」


 その意気やよし。ガンバってイイものを創れや。


「ベー様。そろそろ約束の日ですが、どうしますか?」


 約束の日? なんだっけ?


「大図書館の魔女との約束です。陽が昇れば約束の日です」


 腕時計を見れば午前三時。おもいっきり生活サイクルが乱れてんな~。 ここ最近、乱れまくってるけどさ。


「それとプリッシュ様から双子とお嬢様の気を引くものを用意してくれとのことです」


「あー。プリッつあんのこともあったな~」


 完全に忘れててごめんなさい。


「ドレミ。エリナに魔法少女的衣装はあるか聞いてくれ」


 オレのレベルではサリーちゃんしか想像できねー。サプルのために創った結界ドレス鎧もトアラにデザインしてもらったしな。それでもサプルには不評だったけど……。


「預かっています」


 と、カラフルでヒラヒラフワフワな衣装が山となって現れた。多いよ!


「可愛らしい服ですね」


 一つつかんで広げてみる。


「まあ、可愛いと言えば可愛いが、派手じゃね?」


 この時代のデザインじゃねーだろう。奇抜と見られねーか?


「大丈夫だと思いますよ。プリッシュ様もたまにこう言う服着てますから。双子、お嬢様方にも受け入られるとかと」


 同じ服着てる姿しか記憶にねーが、ミタさんがそう言ってるのならそうなんだろう。


「なら、イイか。オレが着るんじゃねーしな」


「この服をどうするんです?」


「変身セットだな」


 魔法少女と言ったら変身。ヒラヒラフワフワな服を纏うものだ。いや、よく知らんけど。


 結界に服を仕舞い、結界で一瞬に着させる。女の子なら喜ぶはずだ。プリッつあんが前に一瞬で着られたらイイのにって言ってたしな。


  ◆◆◆


「……なんの悪夢だよ……」


 魔法少女のドレスを纏うオバチャンたち。胸焼けが止まりません。


 どう言う状況? とお嘆きの方々にお答えしよう。


 変身セット──じゃなくて、変身ステッキができたので、動作確認を誰かにお願いしようとしたら、なぜかオバチャンが名乗りを上げ、変身ショーが始まったわけですよ。


「ヤダよ。下着がみえちゃうじゃないか」


「ハハ! 旦那に見せてやりなよ」


「今夜は暑くなりそうだね」


 オレのライフがゼロになりそうな会話があちらこちらから聞こえて来るこの地獄。誰か助けてください!


「ベー様、大丈夫ですか?」


 吐血まであと五秒ってくらいには大丈夫じゃないです。


「ミタレッティー様。ナリューから連絡で大図書館の魔女様方が集まり出したそうです」


「わかりました。何人か応援に出してください。ベー様はどうしますか? 約束の時間まであと三〇分くらいですが」


 もうそんな時間か。変身ステッキに……と言うより魔法少女になるオバチャンに萎えてて忘れてたわ。


「いく。これ以上ここにいたら確実に吐くから」


 別に急ぎではねーし、まだレヴィウブにいる。ゆっくりでイイさ。


「あ、シャワー浴びてからいくわ」


 造船所にあるシャワー室でサッパリ。魔道具の冷蔵庫からよく冷えた牛乳をもらい一気飲み。プッハァ~! ウメー!


 ちょっと気力が回復。あと三時間は戦えるぜ。


「ミタさん。なんか食うもんある?」


「サンドイッチがありますよ」 


 じゃあ、それちょうだい。食いながらいくからよ。


 造船所から出ると、別のメイドさんがランチボックスみたいなものを持って来てくれた。あんがとさん。


 中を見ると、サンドイッチとリンゴとバナナが入っていた。ピクニックか!


 無限鞄から自作の空飛ぶ箒を出し、柄先にランチボックスをぶら下げて、箒に跨がった。ちなみにドレミは猫型になって穂のほうに乗りました。


 オレが浮かぶと、ミタさんと二人のメイドさんが続いた。


 ……この世界だとメイドにワンダーワンド(魔女に箒的な感じ)とか、後の世に伝わりそうだな……。


 オレの責任じゃないもーんと、フュワール・レワロを設置した場所へと向かった。


「ん? なんだ?」


 フュワール・レワロを設置したところに、なんかたくさんの天幕が張られていた。


「戦争か?」


 と思わず口にしてしまうくらい兵士が溢れていた。


「探索のために集められたみたいです」


 まあ、人数制限はしてねーから何人来ようが構わねーが、だからって数を集めても無駄なところだぞ、あのフュワール・レワロは。


「よろしいのですか? あれ、乗っ取りですよ」


 と、久しぶりのレイコさん。


「だろうな。オレもそのつもりで置いたし」


 あの皇帝と弟が企みそうなことぐらい想像はつく。フュワール・レワロを見せたら帝国の利益のために動くってな。


「なにを仕掛けたんです?」


「仕掛けてはいねーよ。ただの釣り餌さ」


 それと情報収集だな。帝国の力を見せてもらおうじゃねーか。


「それに、あのフュワール・レワロの使用権はオレのもんだ。入れるも入れないもオレ次第。さぞや優遇してくれるだろうさ。クク」


 もっとも、あちらもオレの考えそうなことは読んでるだろうが、拒むことはできまいて。さあ、閣下。オレの真の目的を知ったとき、フュワール・レワロを切ることができるかな?


「スッゴい悪いこと考えてる顔になってますよ」


 おっと。これから友好時間。笑顔笑顔っと。


 フュワール・レワロを中心に三〇メートルくらい空間ができてるので、そこに着地する。


「威嚇されてますね」


「重要人物がいるところに降りて来たからな」


 お偉いさんがいるところにどこの馬の骨(表現違うか?)ともわからないヤツが降りて来る。不敬どころか完全に敵対行動だろうよ。


「わざとやってます?」


「はい。わざとやってます」


 必要なら畏まるが、回避できるのなら畏まらないほうが楽でイイ。だから、優勢に立っているときに自分の存在を確立しておくのです。


 地面に着地すると、補佐官さんと士官っぽい感じのにいちゃんがこちらにやって来た。


「ご足労ありがとうございます」


「構わんよ。大図書館の魔女は来てるんかい?」


「はい。ご案内します」


「あいよ」


 さあ、誰が来てるのかな? と考えながら補佐官さんのあとに続いた。

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