第99話 生命の揺り籠
案内された天幕に入ると、なにか偉そうな方々が集まっていた。
簡単に分けるとしたら、大図書館組に軍人組、あと、高位貴族組ってところかな?
ってか、閣下はいないんだ。来ると思ってたんだがな。
右手を胸に当て、左手は腰に回して軽くお辞儀する。
「お待たせしました。わたしは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィングと申します。お見知りおき願います」
一応、帝国式に挨拶をした。
「この子どもが本当にフュワール・レワロの持ち主なのか?」
挨拶が返って来るより速く、貴族組から不満の声が上がった。
帝国にも話の見えないヤツはいるもんだ。まあ、わかるヤツばかりも嫌だけどよ。
「カーテルン卿、失礼ですぞ」
それを嗜める将軍っぽいワイルドなダンディー。感じからしてA級冒険者に匹敵する強さだ。
「不服なら帰ってよいぞ」
それを後押しする大図書館の魔女。派閥争いか。大変だね。
「そちらの方が申すのもごもっとも。この見た目で外国人なんですからね」
子どもにそう言われてさらになんか言いようものならカーテルン卿とやらが恥をかくだけ。そうしたいのならドンドン言え、だ。
「失礼した。想像していたのと違ってな」
謝罪できるか。無理矢理ねじ込んで来たってわけじゃないようだ。こいつらは閣下の派閥かな?
「お気になさらず。こう素直に受け入れると逆に不安になって来ますからね」
バカもときには安心できる存在となる。特にこう言う状況では微笑ましい存在になることを知ったよ。
「ベー様、こちらに」
と、補佐官さんが席を勧められ、皆様の会合(?)にお邪魔します。
「紹介します。こちらは第一衞章軍、軍団長のサラエマル様です」
補佐官さんが司会になり、将軍っぽいワイルドダンディーを紹介する。
「サラエマル様には調査隊の指揮をお願いします」
「よろしく頼む」
「こちらこそよろしくお願いします」
やはり軍で入るのか、つーか、衞章軍ってなんや? 初めて聞いたわ。
「続いて資源署より調査隊の指揮をしますカーテルン様です」
資源署とかあるんだ。いろいろあるんだな、帝国って。
「もうわかってはいるでしょうが、帝国大図書館を纏める図書館長ララ様です」
あ、図書館長なんだ。つーか、皇帝の弟を教える図書館長ってなによ? 帝国での図書館の位置がよーわからんわ。
「わたしたちは勝手に動かせてもらう」
「前にも言いましたが、自己責任なら好きなようにしてくださって構いませんよ。もちろん、採取したり狩ったりもね」
「気前がよいのだな」
と、軍団長さん。
「フュワール・レワロの中は弱肉強食。強い者が法です。その命は強い者のためにあります。なので、弱い方は入らないことをお勧めします。ただ餌になるだけですからね」
どう説明しても止めることはないのだがら、一回入ってどんなものか知るとイイ。ちゃんと自己責任で、って言ってるんだからな。
……あとでそんなこと知らぬ! とか言ってくれたら楽しいんだがな……。
「それと、あのフュワール・レワロはわたしが管理してるので、万が一わたしが死んだら出れなかったり入れなかったりするのでご注意を」
なにを、とは言いません。そちらで勝手に解釈してくださいませ。
「お主は、何歳なのだ?」
「一六歳ですよ」
心だって少年だぜ!
「そうか」
表情筋が死んでるのか、喜怒哀楽がまったくない大図書館の魔女どの。だったらもうちょっと言葉を増やして欲しいもんだが、人外に要求しても無駄。雰囲気で感じろだ。
「譲渡は不可能ですよ」
「なぜに?」
「大図書館の魔女では無理だからです」
「そうか」
「はい」
それ以上は言わない。大図書館の魔女なら予想はできるだろうからだ。
「では、フュワール・レワロにいってみますか。いろいろ説明するより見たほうが早いでしょうから。構いませんか?」
「構わない。頼む」
席を立ち、フュワール・レワロへと向かった。
◆◆◆
「天幕張ったんだ」
フュワール・レワロの上に重圧感のある幕が張られていた。気がつかんかったわ。
「重要機密だからな」
「わたしは別に秘密にはしてませんよ」
大図書館の魔女さんにフフと笑うが、軽く流されてしまった。お堅い魔女さんだ。
「それで、どうするのだ?」
「入らなかったんですか?」
「…………」
「アハハ。冗談ですよ」
やはり引っかからないか。でも、答えないことで真実を言っているようなもの。適合者がいないってことだ。
「帝国のフュワール・レワロは固定式なんですね」
フュワール・レワロは管理者しか入れない。だが、専用の出入口があれは誰でも入れるのだ。バイブラストにあるフュワール・レワロと同じようにな。
「よく知っているのだな」
「大図書館の魔女よりは知っていますが、すべては知ってません。制作者が資料を残してくれなかったのでね」
「そうか」
「はい」
なんてからかうのもあとが怖いので、本題といきますかね。
無限鞄からクナイを仕込んだベルトを出して腰に巻き、鉄球を入れた収納鞄を出して右肩にかけ、鉄粒が入った収納鞄を左肩にかける。
柔軟体操して体をほぐし、両手首を振る。
「……なにをしているのだ……?」
「残虐運動ですね」
大図書館の魔女の問いになぜかミタさんが答えた。なんでよ? つーか、残虐運動ってなによ?
「これからフュワール・レワロに入って門を創るのでちょっとお待ちを」
「門を創るとは?」
「これは単体なので専用の出入口がないので、直通門を中に創るんですよ。それと、門前の掃除ですね。しないと阿鼻叫喚になりますから」
「一人でいくのか?」
「一緒にいきますか? 大図書館の魔女なら死ぬことはないでしょうし」
死なないよね? 人外だし。今さら引きこもりですとか言われても困るんだからね!
「ならばいく」
と、なんかスッゲー魔力を放つ杖をどこかからか取り出した。
……この杖、マジヤベーもんだ……!
「あ、すまんな。久しぶり出したから忘れておった」
すっとヤバイもんが消え、ただの杖っぽくなった。
「……おっかないの持ってますね……」
「初代がグレンに勝つために創ったと言っていたな」
あ、ソウデスカ。ってか、その言い方だと勝ってないね。グレン婆はなにしたんだよ? 怖くて訊けねーな、こん畜生が!
「ま、まあ、大丈夫だと理解しました。容赦なく使ってください」
「よいのか?」
「極大魔術を丸一日撃ってもフュワール・レワロは壊れませんし、極大魔術一発で死ぬようなものは中にはいません。わかりやすく言うとオーガが羽虫にも劣るところです。ヤバイのは金王竜ですね。見たら逃げてください。大図書館の魔女でも勝てないでしょうから」
あれはご隠居さんや暴虐さんでも勝てんな。メルヘン機総がかりでやれば勝てるかもしれんな。カイナなら瞬殺できそうだけど。
「……よく生きておるな……」
「自分でもよく逃げられたと思います」
あれはマジビビった。死ぬかと思った。ちょっと泣きそうになったのは内緒だわ。
「それでもいきますか?」
「これでも大図書館を司る者。金王竜ごときに殺されたりはせぬ」
それは頼もしいことで。危なくなったら助けてね。
「ベー様。あたしもお供させてください」
なんかオーラがバトラーしちゃいそうな万能メイド。どったのよ?
「そんなところにベー様だけをいかせるわけにはいきません」
あ、いや、忘れてるかもしれないけど、ドレミといろはがいるから。特にいろは団はメッチャ強いから。
「まあ、ミタさんなら大丈夫か。好きにしな」
オレを気絶させるだけの力(メイド服がね)はあるし、戦闘能力も高い。大抵のはぶっ殺せんだろう。
「大図書館の魔女どの。わたしの肩につかまってください。ミタさんも」
右肩に大図書館の魔女の手がおかれ、左肩にミタさんの手がおかれた。
「では、いきますよ」
両手でフュワール・レワロ──『生命の揺り籠』に触れた。
◆◆◆
「殲滅技が一つ、鬼は外!」
鉄粒を三〇センチくらいの羽虫の群れへと向かって放った。
大図書館の魔女に言ったように、生命の揺り籠に生息する羽虫はオーガにも勝り、並の攻撃では殺せないだろう。
まあ、五トンのものを持っても平気な体を持つオレが鉄粒を全力で放てばイチコロよ。
鬼は外! 鬼は外! 鬼は外で羽虫の群れを排除するが、何千匹もいると一向に減らねーな。まったくもってウゼーわ。
「焼いてもよいか?」
大図書館の魔女からの冷静な問い。だが、顔は渋そうに歪んでいました。虫が嫌いで?
「やっちゃって!」
と、大図書館の魔女の周りたくさんの火花が散る。
──あ、これヤベーやつ!
ワンダーワンドに立って銃無双するミタさんを結界で包んだ──瞬間、視界すべてが真っ白に染められた。
染められた視界が元に戻ると、羽虫は綺麗さっぱり消えていた。この人外、マジヤベータイプの魔女だ。
なんて愕然としてたら地上まであとちょっと。空飛ぶ結界を出した。
あ、ちなみに生命の揺り籠の天辺から入りました。比較的安全なので。
だだ、世界樹が何本も生えているので枝葉を避けながらのダイブとなっておりますのでご注意を。
「ミタさん! 下に向けてモコモコビームを放て!」
「はい!」
なんか驚くのもバカらしいって感じのミタさんが、柄を下に向けてモコモコビームを発射。まあ、甚大な被害を与えましたとさ。めでたしめでたしっと。
「ベー様! なにか獣がいます!」
見れば濃い緑の毛を持つ、なんかゴリラっぽいものがいました。
「モコモコビームで死なんとはスゲーこと」
「……あたしには満身創痍に見えますが……」
それでも生きてるからここの生き物はおっかねーんだよ。
「とりあえず、もう一発撃っておいてよ。邪魔だし」
「畏まりました」
なんの躊躇いもなくモコモコビームを撃っちゃうミタさんにシビれるぅ~。
いい具合に拓けたので、そこを着地地点とします。
「ミタさん! 先に降りろ! 大図書館の魔女さんは上を頼む! 殺戮技が一つ、雷電!」
着地地点の周りの森から現れるティラノサウルスっぽいトカゲを雷が込められたクナイを連続で投げ放った。
トータが何日もかけて電気を溜めただけあり、イイ感じに黒焦げになるティラノサウルスっぽいトカゲくん。なんか旨そうだ。
着地地点へと降りる。
「殲滅技が一つ、千本桜!」
結界球を打ち、次々と現れるティラノサウルスっぽいトカゲくんをひれ伏させる。
「ベー様! これが通常なんですか!?」
「いや、オレが入って来たから暴走してるだけだ!」
はっきりとは言えんのだが、以前入ったとき、なぜかオレだけ狙われた。たぶん、結界のエネルギーが生命の揺り籠で生きる命に好まれてんだろう。
「しばらく押さえててくれ!」
なんとかティラノサウルスっぽいトカゲくんを排除。その隙に転移結界門を創っちゃいますんで。
チョチョイのチョイで転移結界門を創る。
「ふぅ~。何度創っても転移結界門は疲れるぜ」
まあ、イイ負荷を与えてくれるから訓練にはちょうどイイんだけどな。
「ミタさん! 大図書館の魔女さん! 一度出るぞ!」
転移結界門を開け、外へと飛び出した。
二人が出ていることを確認して門を閉じた。ふぇ~。疲れたぜ……。
「ベー様。タオルです」
なんかガスマスクをしたメイドさんがタオルを差し出してくれた。あ、うん、ありがとね……。
深く追求はせず、ぐっしょりと流れた汗を拭った。はぁー気持ちイイ。
「お水です」
さらにありがたいことにペットボトルを差し出してくれた。うん。ガスマスクがチョー気になりますわ~。
「すみません。ハルは恥ずかしがり屋なのもので」
オレがガスマスクを気になってるとわかったのか、ミタさんが教えてくれた。
あ、そうなの。ならしょうがないよね。恥ずかしいんだもん。
謎が解ければ気にならないので好きにさせておく。個性は大丈夫だし。いや、知らんけど。
水を飲み一息。久しぶりの全力は気持ちイイぜ。
「それで、どうするのだ?」
さすが人外さん。これっぽっちも疲れを見せてませんでした。
「わたしが入るとあんな感じなので、あとは大図書館の魔女さんの好きなようにしてください」
オレはしばらく入らん。疲れたし。まあ、運動不足に感じたら入るよ。ここほど運動できる場所はねーからな。
「多少は落ち着くのか?」
「はい。多少は落ち着きますし、大図書館の魔女なら余裕でしょう」
あの実力ならな。
「わかった。三人ついて来なさい」
「「「はい」」」
魔女の一団から三人出て来て、大図書館の魔女と転移結界門を潜って生命の揺り籠へと入った。
「ミタさん。キャンピングカーある? あるなら出して。ちょっと休憩するからさ」
「畏まりました。すぐに用意します」
ミタさんも疲れたようで、キャンピングカーを出すと他のメイドに任せた。
「ベー様。用意が整いました」
「あんがとさん。ミタさんも休めな」
返事を待たずキャンピングカーへと入り、ソファーへと飛び込み、夢の中に旅立った。
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