第100話 オレ薬師だよ
ん? なんだ? 外が騒がしいな?
ったく。こっちは疲れてんだから静かにしろよ。もうちょっと寝たいんだからよぉ……。
毛布を被り、眠りにつく。
………………。
…………。
……。
「──うっせーな! なんだよいったい?!」
ギャーギャーと近所迷惑だろうが! 静かにしろや!
「マイロード。お水です」
横からコップが現れた。
なんかよーわからんが、喉も渇いていたのでありがたくいただく。うん。旨い。
「で、なんなんだ?」
「フューワル・レワロから獣を狩って来たようです」
そう言われてカーテンを開けて外を見れば……見えん。夜か。にしては人が集まってんな……。
「オレ、どのくらい寝てた?」
「十時間ほどです」
そんなに寝てたんかい。想像以上に疲れて……るわな。いろいろあったし。疲れてないほうがおかしいわ。
「マイロード。なにか召し上がりますか? 外でミタレッティー様が食事の用意をしておりますが」
自分の腹を擦る。ん~。腹は減ってるな。
「食べる。あ、その前にシャワーを浴びる」
思えば四日くらい風呂入ってねーや。このままでは汚いとサプルに会ったときに風呂に投げ込まれるな。
……ってか、サプルのヤツちゃんと平穏に……は無理なような気がする。メイド長さんらに乞うご期待です……。
シャワー室に向かい、溜まりに溜まった疲れと汚れを落とす。あービバノンノン。
ホカホカとシャワー室から出ると、プリッつあんがいた。あ、久しぶり。元気してた?
「どったの?」
なにか疲れたご様子。徹夜したの?
「……もう面倒臭いところだったわ……」
なんか愚痴が始まったが、要約すると堅苦しいところで、楽しめなかったことだった。
まあ、そりゃそうだろうよ。皇族が自由とかあり得んだろう。まだレヴィウブだからプリッつあんが切れないでいられてるはずだ。
「双子ちゃんたちは?」
「なんか用があるとかで、どこかに出かけたわ」
プリッつあんにも教えないか。情報統制はしっかりしてんだな。
「仲良くなれたんか?」
「まあ、程々にはね。いい子たちよ」
メルヘンにも母性とかあんのかね? なんか母親みたいな笑顔してるわ。
「それより、いつまでここにいるの?」
「んー。もうちょっとかな?」
「どう言う意味よ?」
「たぶん、ブルーヴィが南の大陸に着く頃だと思う」
空クジラはそんなに速く飛べないし、今まで小さな世界にいたから外の環境に戸惑っているはず。
それに、航行を任せたみっちょん(黒羽妖精ね)たちも気分屋だから遠回りしてるはずだ。
「南の大陸?」
「勇者ちゃんも心配だし、ラーシュとも会ってみたかったからな、ブルーヴィを手に入れたときに計画したんだよ」
村人としてのアイデンティティーが失われるかもしれんが、ブルー島の開発もしなくちゃならん。南の大陸には乳を出す牛がいるそうだから牧場にしようと思ってんのよね。
「まったく、落ち着きがない村人ね」
「若いうちに旅をしろ、ってな。世界を知るのも人生を豊かにするもんだぜ」
せっかく世界を知る術があるのなら遠慮なく使え。そして、楽しめ、だ。
「そうね。世界はおもしろいわね」
それでこそワールドワイドな妖精だ。いや、テキトーだけど。
「そうだ。これを双子ちゃんに渡してくれ。オレからのプレゼントだ」
空飛ぶ箒を変身ステッキを無限鞄から出す。
「なにこれ?」
カクカクシカジカあーだこーだとそう言うわけよ。わかった?
「ふ~ん。変なこと考えるわね。まあ、箒はともかく変身ステッキはいいわね。わたしも欲しいわ」
了解。作っておきます。
「お願いね」
と、メルヘンが去っていった。
ふぅ~。これで放置した罪はチャラだな。言ったら怖いから黙ってるけど。
「ドレミ。コーヒーちょうだい」
「はい。すぐに用意します」
重要なミッションはクリアした。コーヒーを飲んで落ち着いたら外に出てみるか。
備えつけのお茶セットからコーヒーを淹れてくれ、なんともイイ香りを出すコーヒーを渡してくれくれた。
ん~。マン〇ム。
あ、なんか久しぶりに言った感じ。
◆◆◆
ゆったりまったりしてたら朝日が昇って来た。
朝日を見ながらモーニングなコーヒーを飲むのはまた格別である。
「しっかし、うっせーな。夜通し騒いでんのかよ?」
外はまるで戦場のように騒がしい。いや、戦場に立ったことないから知らんけど。
まあ、イイ。陽も出たし、朝食にすっか。
キャンピングカーから出ると、完全武装のメイドさんたちが壁を作っていた。どったの?
「おはようございます、ベー様」
首を傾げてたらミタさんが現れた。
……この万能メイド、いつ寝てんだろう……?
って思うくらい爽やかである。万能メイド謎多し。
「おはよーさん。もう食えるかい?」
「はい。こちらにお座りください」
やたら手作り感のあるテーブルにつくと、すぐにスープが出て来た。
「いただきます」
スープを飲んでいると、パンやジャム各種、サラダに果物、ソーセージやらが所狭しとテーブルに並べられる。オレ、こんなに食えないよ?
どったの? とミタさんを見たら、なにか一礼して恭しく下がり、武装メイドが銃口を地面に向けた。
なにごとかと首を傾げていると、大図書館の魔女さんと生命の揺り籠に入った一人がやって来た。
「邪魔をしてよいか?」
「大図書館の魔女を閉ざす扉はありませんよ」
そのまま裏口から帰ってもらうことはあるかもしれんけど。
「どうぞ。お好きな席に」
席を勧め、ミタさんが飲み物を二人に出した。
「朝食がまだでしたら、どうぞ。たくさんありますから」
ミタさん、大図書館の魔女さんが来るのをわかってたのか? 裏での調整とかどうやってんだろうな?
「ありがたくいただこう。野戦食は不味くてしょうがないからな」
「帝都の近くなのに粗食なんですか?」
「一応、軍事行動だからな、贅沢はできん」
「それはご苦労さまです」
大変だな、軍人ってのも。オレ、村人でよかった。
村人の優雅な朝食。オレは今、生まれて来た幸せを感じています。
なにか大図書館の魔女さんたちから非難の目を向けられているが、オレも幸せはそんなものでは崩れたりはせんのだよ。ククッ。
嬉しい楽しい朝食をいただき、食後のコーヒーを一杯。今日もまた一日を生きられる力をいただきました~。
「で、なにか用ですか?」
朝食をご相伴しに来たわけじゃあるまい。まあ、ご相伴しに来たら来たで別に構わんけどよ。
「フュワール・レワロをしばらく貸して欲しい」
「譲ってくれ、とは言わないんですね」
「譲れるものではあるまい」
「後先考えないのなら譲ることはできますよ」
その際、責任はそちらにあるのであしからず。
「手に負えんものを無理矢理手に入れても身を滅ぼすだけだ。借りるのがよい」
「賢い判断です」
自分のものは管理が大変。必要なときに借りるのが楽でイイ。まあ、他人任せの丸投げ野郎が言っちゃダメなセリフだけど。
「借りれるか?」
「構いませんよ。放置してるものですから」
元々閣下を釣るためのエサ。有効利用できるなら譲るのも貸すのもどっちでもイイわ。
「助かる。礼はする」
「では、帝都で商売できるよう手助けしてください。来年辺り、帝都に店を出す予定なので」
公爵どのの力でも充分だろうが、皇族の力があるんならそれに越したことはねー。権力はあって邪魔になるもんじゃねーからな。
……借りれる権力のなんと便利なことよ。やりたい放題無限大だせ……。
「それでよいのか?」
「それでお願いします」
使ってないフュワール・レワロを貸すだけで後ろ盾が得られるとか笑いが止まらんわ。
「わかった。話を通しておこう」
「ありがとうございます。ところで、なにを騒いでいるんです? なにか阿鼻叫喚なんですが?」
血がー! とか、腕がー! とか、死ぬなー! とか、なんの最前線だよ? とか突っ込みたくなる。爽やかな朝に血生臭いこと止めて欲しいわ。
「あ、ミタさん。コーヒーお代わり」
「……お主はどんな世界で育って来たのだ……?」
どこにでもある辺境の村ですが、なにか?
まあ、ちょっと生態系を壊しちゃったり、自然破壊しちゃったりもしましたけどね。テへヘ☆
「烈火竜を狩れたのだ」
「烈火竜? あ、あの熱線を吐く竜ですか?」
いたな。そんなの。殲滅技が一つ、結界斬を食らわしても死ななかったっけ。あれを倒すとかスゲーな、帝国軍って。
「ああ。怪我人続出だ。治癒師が足りず困っておるわ」
「魔女は治癒術は使えないので?」
「いるが、管轄が違う」
縦割りか! 魔女(って公務員か?)はコエーな!
「薬は?」
「怪我人続出で不足している」
だったら撤退しろよ。帝国軍ブラックか?
「だったらわたしが協力しても構いませんか? わたし、薬師なんで」
「その歳でか?」
「五歳からやってるので並程度にはできますよ」
最近、やってないから鈍ってはいると思う。せっかく怪我人続出なら練習させてもらおう。オレの血肉(経験ね)となるがイイ。
「なら、頼む」
薬師、ヴィベルファクフィニー、いきまーす!
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