第97話 空飛ぶ箒

 空飛ぶ箒(仮)創りに集中してたら、なにかフリフリと視界を遮るものが現れた。なによ?


 集中力が途切れ、意識を遮るものに向けた。


「ドレミ?」


 の手が振られていた。なにしてんの?


「マイロード。ミタレッティー様が呼んでます」


 ミタさん? なんやねん? 


「ナバリー様と皇帝の弟様から連絡が来たそうです」


 ナバリーって誰や? そして、皇帝の弟がなんだって言うんだよ? 


「船の改装と大図書館の魔女たちをフュワール・レワロに招く相談かと思われます」


 ん? なんの──あ! そうだった!! すっかり忘れったわ!


 いかんいかん。空飛ぶ箒(仮)を創るのに夢中で大事なことを忘れてた。そのまま集中してたらとんでもないことになってたわ。


「ドレミ。ミタさんに入ってもらって」


 今のオレは材料に囲まれて、すぐに動けないんでさ。


 猫になったドレミが材料の隙間を器用に移動してドアを開けた。


「べー様。お客様がいらっしゃってます。客間までお願いします」


「ワリー。もうちょっとかかるから客をもてなしておいてくれや」


 今立つと材料がどこにあるかわからなくなるんでよ。


「畏まりました」


 時間稼ぎ、頼んます。


 あれはこれ。これはあれ。こいつはそっちに移してそいつは無限鞄に仕舞う。えーとあーとうーと、うん、こんなもんか。


「う~ん。これなら携帯工房を創ったほうがイイな」


 いちいち片付けるのもメンドクセー。持ち歩いたほうが楽でイイわ。


 まあ、それはあとだ。客を待たすのもワリーしな。


 ってか、客間ってどこよ? と思う必要もなくドアの横で待機してたメイドさんが案内してくれた。あんがとさん。


 客間に入ると、見た目三〇歳くらいの魔女さんがケーキを美味しそうに食していた。


 ……魔女ルックは正式採用されてんのかな……?


「待たせてワリーな」


「──あ、いえ、お忙しい中、時間を割いていただきありがとうごさいます!」


 なんか魔女っぽくない魔女さんだこと。


「オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィングだ」


「初めまして。わたしは、魔法庁所属調査部補佐長をしておりますイガリ・ロンガルと申します」


 へー。帝国には魔法庁なんてもんがあるんだ。初めて知ったわ。なにするところなんだ?


「補佐長さんか。よろしくな」


 役職があるって覚えやすくてイイよな。うん。


「そんで、用はなんだい?」


「はい。場所を用意しましたので確認とフュワール・レワロへの出発の段取りを話し合いと思いまして」


 あ、ああ。そんなこともありましたね。ほんと、忘れててすんません。


「んじゃ、その場所にいくか。フュワール・レワロも設置しておいたほうがイイだろうからな。大丈夫かい?」


 また忘れたら大変だしな。今のうちに用意しておこう。


「あ、はい。ではご案内いたします」


 と言うので案内してもらう。って、歩いていける場所なんかい?


「あ、すみません。すぐに馬車を用意します」


 あなたはなにで来たのよ? 徒歩か?


「いえ、魔女は空が飛べますので」


「へー。魔法で空を飛べたんだ。魔女スゲーな」


 バリラのような翼を持つ種族なら魔法による飛行もできるらしいが、人の身でその魔法は使えねーと聞いてたんだがな。


 あと、飛行魔術はあるらしいが、それは熟練の技であり、そう大した時間飛行はできないらしいぜ。


「ええ、まあ、魔女による特殊魔法ですので……」


 あまり言いたくなさそうな感じだな。秘技とかか?


「そうか。なら、空飛んで案内してくれや。オレも空を飛ぶからよ」


 せっかくだ。空飛ぶ箒(試作)の飛行テストをやっておこう。


 最初に創った空飛ぶ箒を無限鞄から出して跨がる。


 結界サドルが創り出されているので座り心地はまあまあ。仕込んだ浮遊結晶石に魔力を送ると空飛ぶ箒(試作)が浮かび上がる。


「おーおー浮かんだ浮かんだ」


 いや、できるように創ったんだから浮くんだが、箒に乗ってるってのが新鮮だ。ヌハハ。アニメの中の魔女になったみてー!


「うおっ!?」


 二メートルくらい上がったところでバランスを崩してしまい、クルンとひっくり返ってしまった。


「いけねーいけねー。バランスのこと考えてなかったわ」


 なんかジャイロ的なもの作らんとまともに飛べねーな、これは。


 まあ、今回は結界でバランスを取るか。よっ、とっ、はぁー! でできあがり。さあ、いこうか補佐長さんよ。


「……何者なんですか……?」


 村人ですが、なにか?


  ◆◆◆


 空を飛ぶ魔女。


 字面はファンタジー感があるが、実際の魔女はメルヘンよりだった。


「……まさか鳥に変身するとは思わなかったわ……」


 スライムやヘビが人化する時代(?)である。人が鳥になっても不思議ではない、のか? ま、まあ、魔女ってスゲーってことで納得しておこう……。


「べー様。これ、おもしろいですね!」


 空を飛ぶメイド。


 逆にこっちはファンタジー全開である。


 設置するだけだからオレだけと思ったのだが、それはいけないとごねるので、ミタさんたちメイドに空飛ぶ箒(仮)を渡したのだ。


 ちなみに空飛ぶ箒はほとんどオレの結界術で創られたもので空飛ぶ箒(仮)は見た目が箒じゃないからです。


「じゃあ、やるよ。戦闘にも掃除にも使えるからよ」


 夢中になりすぎて遊びの域を出てしまった。制作者として封印するのも偲びない。使ってくれるのなら万々歳だ。


「……戦闘にも掃除にも、ですか……?」


「ああ。いろいろ機能を詰め込んだから説明するよ」


 ミタさんなら使いこなせんだろう。万能なメイドだし。


 大河な感じに幅の広い河を飛び越えると、鳥に変身した補佐長さんが降下をし始めた。


 ……牧場かな……?


 雪が薄く積もっているのでよくはわからんが、感じが牧場っぽかった。


 雪が積もった大地に着地、といったところで補佐長さんが人へと戻った。メルヘンやな~。


 オレらも着地する。雪から下、草が生えてる感じだな。


「ここは、アルビック公爵の領地ですが、閣下が借り受けましたのでご自由にお使いください」


 へ~。皇帝の弟、閣下って呼ばれてんだ。じゃあ、オレも閣下どのと呼ばせてもらおっと。そのほうが呼びやすいし。


「それで、どうするのですか?」


「こうするんだよ」


 結界術で雪を払い、土魔法で軽自動車が乗るくらいの台座を創り出した。


「な、なんて魔法力なの!?」


 魔女が驚くオレの土魔法。自分でもえげつないとは思ってたが、予想以上にえげつないものだったようだ。


 まあ、今はそんなことに時間を割いている暇はねー。収納結界からフュワール・レワロを出してつけ添えた。


「……これが、フュワール・レワロなの……?」


 見た目はデッカい水晶玉だが、この中には広大な空間が広がっており、幾万もの命が溢れているのだ。


「ここに文字が刻まれている。読めるかい?」


 何語かはわからないが、オレはラーシュからもらった自動翻訳眼鏡があるので難なく読めました。


「……これは、旧サイサル語かしら……?」


 なにやら読めない感じだな。マイナーな言語かい?


「伝わってない文字なのかい?」


「いえ、伝わっている文字です。ただ、分野が違うのでわたしには読めないのです」


 魔女の世界にも分野ってあるんだ。結構幅広くやってんのかな?


「これは命の揺り籠。未来に命を残すって書いてあるんだよ」


「読めるのですか!?」


「これのお陰でな」


 と、自動翻訳眼鏡を出し、見せてやる。


「……凄い。なんて魔法具なの……」


 魔女界では魔道具を魔法具って呼んでんのか? 


「こ、これは、どこで創られたもなんですか?」


「南の大陸だな。大魔法師が創ったらしい」


 ラーシュの手紙には帝国一の魔法師だって書いてあった。名前が書いてあったかは忘れました。ごめんなさい。


「南の大陸の大魔法師。ラレット様かしら?」


「ラレット様とやらは有名なのかい?」


「有名だとララ様から聞いたことがあります」


 ララ? 誰や?


「大図書館の魔女ですよ」


 と、なぜかミタさんが教えてくれました。なんで知ってねん!?


「補佐長様に聞きました」


 あ、うん、そうですか。オレは忘れると思うので覚えておいてくださいませ……。


「そうかい。まあ、長く生きてる感じだし、南の大陸のこともわかんだろうよ」


 人外ならファンタジーの海も越えられんだろうよ。知らんけど。


「まあ、ここに設置したが、丸見えなのが気になるんならそっちでなんとかしてくれや」


「あ、あの、どうやったら入れるんですか?」


「それは、そちらの準備が整ってからだ。今入られても困るからな」


 補佐長さんがどれだけ強いか知らんが、なかなか過酷なところだ。入って死なれたら大図書館の魔女に顔向けできねーよ。


「んじゃ、オレらは戻るんで、用意ができたらまた知らせに来てくれや」


 赤毛のねーちゃんの船の改装せんとならん。あっちも怒らせるとメンドクセーからな。


 空飛ぶ箒に跨がり、造船所へと向かった。


  ◆◆◆


「空を飛ぶのは凄いけど、箒に跨がって飛ぶ理由ってなによ?」


 アンタチャブルなことを平気でぶっ込んで来る赤毛のねーちゃん。この世界に様式美はないらしい。


 いや、魔女の様式美を決めたのは別の世界のアンタチャブル婆だが、そこは空気を読んで流しなさいよ。


「趣味だ」


 と、返しておく。説明すんのメンドクセーし。


「ならしかたがないわね」


 あれ? あっさり納得されちゃいましたよ。なんで?


「あんたの作るものにいちいち突っ込んでられるか」


 だ、そうです。流してもらえるのはありがたいが、それはそれで寂しいものがあるのは勝手と言うものでしょうか?


「これはおもしろいね」


 軽く流した赤毛のねーちゃんとは違い、興味を持ったのはシュードゥ族の奥様たちだった。


「あたしたちにも乗れるかね」


 なんか続々と集まって来る奥様方。結構な数が来てんだな。大丈夫なんか?


「これ、どうやって浮いてんだい?」


「魔力かい?」


「魔力っぽいけど、なんか違うね」


「箒自体が軽いから、箒になんか仕掛けがあるんだろう」


 奥様方も魔道具作りをするのか、不思議そうに議論している。


「箒の柄に浮遊石を仕込んでんだよ。浮遊石は魔力の込め方で浮き沈みするからな。あとは、風を吹かして進むようにしてる」


 隠すほどでもないんで教えてやる。


「それだけだと不安定になるし、乗るの大変だろう」


 へ~。なかなかわかってる奥様だこと。魔道具職人なの?


「ああ。あたいはサンジュ。魔道具職人さ」


 見た目は肝っ玉かーちゃんだが、手を見たら職人の手をしていた。ゴッツいけど。


「そこは独特の技術だな。興味があるなら研究してみな」


「いいのかい?」


 空飛ぶ箒は四、五本作った。一本渡しても困りはしない。気にせずやったれだ。


「なあ、あっちのも一つ、もらえるかい?」


 ミタさんが持つ空飛ぶ箒(仮)を指差している。


「ワリーな。あれは打ち止めだ。それに、あっちはオレの独自技術満載でためにはならんと思う。それで我慢しな」


 結界術てんこ盛りだからな、調べようも想像するのも無理だろう。発想は得られても技術は得られない。それどころか害になるかもしんねーんだ、空飛ぶ箒のほうで我慢しろや。


 そんなことより赤毛のねーちゃんの船の改装だ。


 造船所に入ると、ニューサリエラー号が真っ白に輝いていた。


「船の色、白にしたんだ」


 前の船は茶色っぽかった。色が違うだけで別の船に見えるから不思議だわ。


「ああ。前から白にしたかったんだ。綺麗に見えるから」


 そんな理由でイイんだ。まあ、自分の船なんだから何色にしようが構わんけどよ。


「んじゃ、中を改装するか」


「改装ってどうするんだ?」


「簡単に言えば家具とかソファーを変えたりだな。もうこの船で稼ごうってわけじゃねーんだから快適空間にしねーとな。あ、なんか要望があるなら聞くぜ」


 好みがあるなら最初に言っておいてくれ。あとでクレームされても困るからよ。


「いや、好きにやってもらっても構わないんだが、元のままじゃダメなのかい?」


「別にダメじゃねーよ。そのままがイイってんならそのままにしとくぞ」


 新しくなるから中も新しくしようと思ったまで。これと言った理由はねー。


「あ、いや、やってくれんなら頼むよ」


「おう。任された」


 快適空間にしてやるよ。楽しみにしてな!


 家具やソファーは前に買ってあるし、プリッつあんの柔らかくしたり堅くしたりする能力──メンドクセーから柔堅じゅうけん能力と命名しよう。


 伸縮能力と柔堅能力があれば隙間なく配置できる。改装野郎ベーにお任せよ!


「さあ、やっちゃるぜ!」


 あらよ、ほらよ、どっこいしょー! で、完成よ! ドヤ!


「……ちょっと豪華すぎないか……?」


「快適空間は豪華なくらいがちょうどイイんだよ」


 テキトーだけど。


 あーイイ仕事した──ら、なんか眠くなって来たわ。ってか、二徹してたわ。


 ダメだ。この眠気に勝てる気がしねー。


「ミタさん。オレは寝る」


 造船所の端へといき、無限鞄から毛布を出して包まり、お休み一秒で夢の中。グーグーグー。

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