第96話 創作意欲

 と言うか、嫁とツインズを置いてって大丈夫なんかい?


 なにも言わずさっさと帰ってしまったが、それで夫婦仲や親子仲が悪くなってもオレは知らんからね。


 なんて、あの旦那ならフォローはしてるだろうから気にする必要もねーか。オレが気にするのは残された嫁とツインズの扱いだ。


 身分の割りに護衛の数は少ないが、見えるところにはお付きの者が五人くらはいた。


 見えないところにもいるだろうから最低でも一〇人はいるだろうが、それらを仕切るヤツはどいつだ? 感じからして嫁さんについているおば──ではなく、おねえさまっぽいが……。


「手練れが三人います、マイロード」


 と、白いメイド服を着た美女バージョンのいろはが現れた。


 影だか異次元だかに潜んでいるから常に側にいるんだろうが、潜みすぎて存在すら忘れてしまいそうになる。たまには出て来て存在を示しなさいよ。


「どんくらい?」


「戦闘力で言えばミタレッティー様に匹敵します」


 そりゃまたスゴい。あの万能メイドに匹敵するとは。世の中、広いでごわす。


「特に、奥方の横にいる者は人ではありません。ご隠居様と同じ種族かと」


 ご隠居さんと同じ種族? って確か、魔人族、あれ? 人魔だっけ? 人外になると種族とか関係なくなるからよく覚えてねーや。


「さすが帝国、ってところか。おっかねー」


 いや、ミタさん以上に強いスライムが軍単位でいるオレのほうがおっかねーか。己のことでもビビるわ。


「ミタさんは、まだ戻って来ねーのか?」


 万能メイドにしては遅いな。なんかあったんかい?


「あちらの護衛と調整しているようです」


 と、教えてくれたのはドレミさんです。


「調整? なんの?」


「お互い、過剰な反応はしないようにです」


 あ、うん。そうだね。あちらはともかくとしてうちは過剰な反応しちゃうもんね。アレとかコレとかいろいろとな……。


 どうしたもんかと悩んでいると、ミタさんが戻って来た。調整は終わったの?


「ベー様。申し訳ありません。あちらのお嬢様方がプリッシュ様と離れたくないと駄々をこねてまして、我々ではどうにも説得できませんでした」


 随分と気に入られたもんだ。まったく、メルヘンのなにがよいのやら……。


 とは口が割けても言えませんので、心の中で嘆息しておきます。


「プリッつあんはなんて?」


「プリッシュ様も困っております。無理矢理帰ると泣かせてしまうと……」


 そのままツインズのお家に遊びにいけば……って、よくよく考えたらレヴィウブに泊まりに来てんだよな。なら、しばらく一緒にいてやればイイじゃん。


 と、思いつくくらいプリッつあんにもできるだろうから、理由は別にあるか。なんだ?


「お嬢様方の周りがうるさいそうです」


 なるほど。プリッつあんを物扱いするヤツとは相成れないか。まあ、オレもそんなヤツとは一緒にいたくはねーな。


「なら、こちらに呼ぶか?」


 周りが納得するかは知らんけど。


「プリトラスでは少々手狭かと。あちらの侍女方も来るでしょうから」


 今さらだけど、プリトラスってなによ? なんか意味あんの? いや、ちょっと気になっただけだから深くは追及しねーけどさ。


「ヴィアンサプレシア号は、今どこにいるんだ?」


 オレの手からどころか頭からも離れたからどこにいるかもわかんねーんだよね。


「帝都にいます」


「帝都に? よく許されたな?」


 飛空船なんて現れたら大騒ぎになんだろう。どこの所属で許可をもぎ取ったんだ?


「シフ──メイド長が公爵様に働きかけて飲ませたそうです。ハイルクリット連合諸国の船として」


 ハイルクリット諸国連合? なんやそれ?


「ハイルクリットって確か、ミタパパに任せた島だよな? いつの間に連合になったんだ?」


 丸投げしたからなにをしようと構わんが、連合ってことは二つ以上の勢力があってこそだろう。うちと──あ、カイナーズか。なるほど、隠れ蓑としてもハイルクリットの名を売るにも好都合だな。


「二代目のメイド長ってスゲーな。なに者なの?」


 なんか顔が思い浮かばんが、公爵どのに交渉して要求を飲ませるとかなかなかできねーことだぞ。


 オレだってたくさんの益を与えて、その見返りとして要求しているのに。二代目さんはなんてネゴシエーターよ?


「……なんと言いましょうか、シフはつかみどころのない子ですね。ただ、ゼルフィング家のメイドとボーイが纏まっているのはシフの働きが大きいです。それと、ベー様の要求に即応できるのは完全にシフの力です」


 そ、そうなの? それは感謝感激雨霰です。ってか、うちってボーイまでいたのね。なにも知らない雇い主でごめんなさい。


「今度、メイドさんやボーイさんの慰労会でもやろうか。特別手当てもつけてさ」


 特に二代目メイド長さんには感謝を形にして示そう。これまでも、これからも、助けていただくために……。


「はい。そうしていただければ幸いです」


 こちらで年末とか新年とかはないが、うちではやっていて、五日くらいは家族で祝うようにしている。


 そのときに長期休暇にして、ヴィアンサプレシア号を開放して家族と過ごさせてやれば喜ばれんだろうよ。


「んじゃ、ヴィアンサプレシア号に泊まれるように調整してくれや」


 レヴィウブから帝都までは近いし、シュンパネを使えば一瞬だ。ミタさんならなんとかしてくれんだろう。


「畏まりました」


 あなたにも感謝を形で示させていただきます。なので、ガンバってくださいませ。


 去っていくミタさんを感謝の敬礼で見送り、消えたら買い物の続きを開始した。


 あ、赤毛のねーちゃん。どーこー!?


  ◆◆◆


 激オコな赤毛のねーちゃんを宥めすかして買い物再開。アレやコレやを買いまくり。夕方になったので終了としました。


「……疲れた……」


 プリトラスに帰宅。居間として使っている部屋のソファーへと倒れ込んだ。


「ベー様。夕食はいかがなさいますか?」


「食べる。それと、ツインズ──お嬢さま方とプリッつあんはどうなった?」


 ツインズにつき合ったようで買い物には来なかったが。


「ヴィアンサプレシア号に移りました。あとはシフに任せれば問題ないかと。ベー様も移りますか?」


「止めとく。女の集まりに男が混ざったら無粋だからな」


 と言うか、混ざりたくねーよ。拷問だわ!  


「まあ、なんか問題あれば教えてくれ。なければメイド長さんに任せるよ」


 できるメイド長がいるならオレが口を出さないほうが上手く回るだろうさ。


「ねぇ。明日はどうするの?」


 とは赤毛のねーちゃん。どうしたい?


「予定がないならサリエラー号を見にいきたいんだけど」


 サリエラー号? あ、ねーちゃんの船か。


「別に構わんが、まだ改造してると思うぞ」


 まだ一日目だし、大して進んでねーだろうよ。


「船を見て落ち着きたいの」


 なんとも重いセリフだこと。根っから船乗りなんだな、赤毛のねーちゃんは。


「好きにしな」


 引き止めるのも可哀想だしな、船(海か?)パワーを充電してこいだ。


 夕食ができるまでソファーに埋もれ、できたら食堂へ移動していただきます。うん旨い。


 愛情たっぷりかは知らないが、旨い料理をごちそうさまでした。


 食後のコーヒーをいただき、腹が落ち着いたら風呂へとレッツらゴー。イイ湯だなとビバノンノン。ポカポカ気持ちで借りてる部屋へとふ~らふら。フカフカベッドにダイビング。お休みなさ~い。


 グ~グ~グ~。


「──あっ! 空飛ぶ箒作りたくなった!」


 ガバッと起き上がり、自分でもわからないことを叫んでしまった。


「な、なんですか、いきなり!?」


「──うおっ!!」


 びっくりしたー! 突然横で叫ぶなや!


「いや、最初に叫んだのベー様じゃないですか! 心臓飛び出すかと思いましたよ!」


 幽霊のどこに心臓あんだよ! 心臓あるオレに謝れや!


「ベー様! どうかしましたか!?」


 部屋の外から誰か声。不寝番のメイドか?


「なんでもねーよ! 寝ぼけて叫んだだけだ」


 と、なんか悪寒が走る。慌ててベッドから出てドアを開けると、銃を構えた一団がそこにいました。


 やっぱりか! ミタさん、あなたどんな教育してんのよ!? 


「寝ぼけただけだから心配ねーよ。ご苦労さんな」


 夜も一生懸命働いているメイドに怒鳴るのも申し訳ねーので、労いの言葉を口にしてドアを閉めた。


 まったく、うちのメイドは過激でたまらんよ……。


 ベッドに入り、夢の中に入る……のは無理か。すっかり目が覚めてしまったわ。はぁ~。


 まあイイや。無理に寝ることもねーと起き上がり、真夜中のジェットなストリームなコーヒーをいただく。


「ベー様、夜更かしは体に悪いですよ」


 幽霊からの理不尽な嗜め。眠くなったら寝るよ。


「レイコさんは、魔女がいるって知ってたか?」


「ええ。知ってますよ。魔女結社は有名ですから」


 魔女結社? なんか物騒な響きだな。大丈夫なの、それ?


「そんな物騒なものではありませんよ。ただ魔法を研究する集団です」


「種族的なものかい?」


「いえ、魔女にはいろんな種族がいますし、世界中に散ってます。ただまあ、あの魔女のような格好をしているわけではありませんけどね」


 大図書館の魔女が特別か。人外の考えることはわからんわ。


「……あいつも拘るんならちゃんと拘れよな……」


「なにがです?」


「いや、なんでもねーよ」


 レイコさんの問いを軽く流し、無限鞄から錬金の指輪や道具箱、材料を出した。


「よし。やったりますか!」


 燃え上がれ、オレの創作意欲よ!


  ◆◆◆


 で、試作として一つ、作ってみた。


「……ただの箒だな……」


 いや、空を飛ばなければ箒なんだが、なんか想像してたのとちがう。


「……もっとファンタジー溢れるもの想像してたんだがな……」


 一応、結界を纏わせて飛ぶようにはしたよ。


 三センチもないところに乗っても大丈夫なように自転車のサドルのようなものを見えないようにも創った。


 跨がり浮いてみる。


「うん。空飛ぶ結界に乗ってるのと変わらんな」


 いや、オレが乗るために創ったわけじゃねーから空を飛ぶ楽しみは感じんでもイイんだが、なんかこう、ワクワク感と言うかドキドキ感と言うか、盛り上がれるものが欲しいのだ。


「……オレの想像力、貧困すぎる……」


 クリエイターと言ってるクセに想像力が貧困とか、泣けてくるぜ……。


「マイロード。創造主が「これを観て学ぶでござる」とDVDを送って来ました」


 エリナが? DVDを? 


 なんかそこにある段ボールを開いてみると、DVDとポータルプレイヤー、あと、単三電池がいっぱい入っていた。


「アニメ?」


 DVDの一つを取ってみると、なんか派手な服を着た女の子が描かれていた。


「空飛ぶ箒が出て来る魔法少女系のアニメだそうです」


 魔女っ子なサリーちゃんな感じか?


 いや、平成の、日曜日の朝にやってた魔法少女らしきものを観たことはある。と言っても毎週観てたわけじゃなく、日曜日たまたま起きてテレビをつけたら観た、くらいなもの。


 内容なんてまったく記憶にもねーが、キラッキラな衣装を纏って敵と戦ってた記憶はある。


 ん? 敵と戦う? え? 魔法少女ってバトル系だったの!? 平成魔法少女荒れてんな! 平和にやれよ!


 なんかオレの想像と違う方向にいきそうな予感がするが、オレの貧困な想像力では出て来ねーんだから参考にさせてもらうか。んじゃ、これから観るか。


 ………………。


 …………。


 ……。


「戦ってばっかりだな! 平成の魔法少女は!!」


 なんなのコレ? 世の女の子を戦いの世界に送り出したいの? 弱肉強食な世界で生きるためのバイブルなの? 前世の世はそんなに荒れてたのか!?


「魔法少女ってもっと夢と平和に溢れてるのかと思ってたよ」


 なんかもう愛と勇気に溢れてたよ。完全にバトルな世界だよ。ちょっと熱くなった自分が恥ずかしいわ……。


「クソ。バトルが激しくてなんの参考にもならんかったわ」


 そもそも空飛ぶ箒が出て来たのなかっただろうが。なんか不可思議なビーム出したりナックルつけて殴り合いしたり、あまつさえ銃まで出しやがって。これならまだ夢と冒険の世界の方が乙女的だわ。


「……やっぱこれが一番なのか……?」


 試作として創ったものが一番魔女らしい空飛ぶ箒だわ。


「まあ、これはこれでイイか。別にお遊びだしな」


 近場ならともかく箒で長距離とか馬車より苦痛だろうよ。


 でも、遊びならとことん遊ぶのがオレである。どうせならおもしろおかしく作ってみるか。


「ベー様! 起きてますか! ベー様、いるんですか!」


 なにやらミタさんが部屋の外で騒いでる。ドレミ、ちょっと言って来て。


 ミタさんのことはドレミに任せ、遊び満点の空飛ぶ箒を考える。あ、いや待てよ。なにも箒に拘ることもねーだろう。自転車だって飛ぶんだからな。


「そう言や、掃除機に乗った魔女がいなかったっけ?」


 なにで見たかは忘れたがそんな記憶があるぞ。


 なんで掃除機? と言う謎は横に置いといて、だ。そのアイデアはいただきだ。


「吸うことができて吐く──ではなく噴くこともできるってイイな」


 掃除機にもなれば空を飛ぶこともできるじゃん。イイぞ、それ! 


「あ、柄のほうからビームを出すのもおもしれーな」


 モコモコビームを撃てるとか、なんか波動砲みてー! ダハハハハ!


 イイねイイね。乗って来たよ。クリエイターの血が騒ぐぜ!


「……ご主人様と同類だったんですね、ベー様は……」


 なんか後ろで言ってますが、今のオレには構っている暇はありません。さあ、創るぜ!



 ◇◇◇◇◇


 二代目メイド長シフのお話は書籍11巻の番外編で。

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