第127話 メイドって……
空に浮かぶ七つの影。V字編隊と言っただろうか? ファンタジーの空にはなんとも不釣り合いな光景である。
「カイナーズの空挺部隊です」
うん。知らないけど知ってる。あんなことするのが二つとあったら発狂するわ。
ホケーと空を見詰めていると、村の外から光の玉がいくつか打ち上げられた。な、なに!?
「着地地点を知らせるものです」
あ、うん。ソウデスカ。
もう理解しようと思うのもバカらしい。あるがままの状況を受け入れよう。
……受け入れられないときに言うセリフ。これ、テストに出るから覚えておきなさいね……。
「べ、ベー殿、なにが起こっているのだ?」
ゴメン、長さん。オレにもわかんねーんだ。アハハ。
「村に危害を加えようってわけじゃないから安心してくれ。仲間を呼んだだけだ」
安心なんてできないだろうことはわかっているが、そうとしか言いようがないわたしめをお許しくださいませ。
飛行機から人だと思わるるものが規則正しく飛び出し、次々とパラシュートが開いていく。
「……皆さん、怖がってますよ……」
知っているオレですら胸の奥がザワザワしてるんだから知らない者はそりゃ怖がるだろうよ。
「長殿。実はこの姿は偽りなんだよ」
「はぁ?」
なんてマヌケ面名な長さん。まあ、至極当然な反応やね。
だが、正体を現すなら今。この状況を飲み込めてないときなら正体を現してもこれ以上は驚愕しないはずだ。人の驚愕のキャパはそれほど多くはないからだ。
轟牙に纏わせている結界を解き、背中から出る。
皆さんの視線がオレに集中するのがわかる。そんなに見ちゃイヤン。
「ワリーな、騙すようなことしてよ。さすがにこの姿だと話も聞いてくれないだろう?」
籠城しているところに身綺麗な一六歳の若造と幼女が来たら怪しさ満点。普通なら追い返されるか攻撃されるかのどちらかだ。迎え入れるなんて絶対にしないだろうよ。
「…………」
「何度でも言う。村に危害は加えることはねーから安心しな。加えるつもりなら食料も薬も渡したりしねーよ」
「マイロード。ミタレッティー様がこちらに来ます」
空に目を戻すと、黒い点が真っ直ぐこちらに向かって来る。
……なんか以前、見たような光景だな……?
「あのまま降りて来るんでしょうかね?」
さすがにそれは無理やろう。ジェット推進力がないと。
ミタさんのことだから大丈夫だろうと見てると、パラシュートが開き、減速するが、地上まで一〇〇メートル。あ! サプルだ! これと同じことしたの!
確かリューコのときだっけ? 地上ギリギリのところでパラシュートを開いて減速し、すぐにパラシュートを外して魔力を全開にしてさらに落下速度を殺した。
ちょっと高いとこれから飛び降りた感じで着地。乱れたメイド服を整え、オレの前へとやって来た。
……メイドってなんだろうな……?
答えの出ない問題を考えたくなるのが人とは言え、パラシュートで降りて来るメイドをスルーできるほど無関心ではいられねーよ。
……スルー拳も乱用しちゃうと無関心な人間になっちゃうしな……。
「ベー様。出かけるときは一声かけてください!」
「ワリーワリー。咄嗟だったんでな」
つーか、強制労働させたカイナーズホームのヤツらに文句を言ってよ。オレはなにも悪くねーし。
「まあ、そんなことより降りて来るのがカイナーズなら村の周りにいる魔物を駆逐するよう伝えてくれや。大暴走が起きてるんでよ」
薬草採りにいかなくちゃならんのよ。速やかに駆逐してチョンマゲ。
「畏まりました」
スマッグをポケットから取り出して誰かにかけた。
「ミツエモンさん。空挺団は村の周りにいる魔物を駆逐してください」
そう告げて通話を切り、違う者にかけた。
「キツリ。護衛メイド隊は拠点作りをお願いします」
テキパキと指示を出すミタさんがカッコイイです。
「わたしも一応メイドですが、ゼルフィング家のメイドを見てるとメイドがなんなのかわからなくなりますよね」
悠久の時を使って答えを導き出してくださいませ。
◆◆◆
ヤンキー退治はカイナーズに任せ、メイドさんたちに炊き出しをお願いし、その間にオレはザイライヤーを診て回る。
とは言え、五体満足なのが生き残っただけに病気な者はいない。野生で生きてるからか、治癒力も高く抵抗力も高い。薬師、いらねーじゃん。
……回復薬は大人気だけどな……。
「さすがに材料がなくなって来たな」
誰かコピー能力持ってるヤツいねーかね? 錬金の指輪と魔力の指輪で短縮できるようになったが、材料集めはどうにもならんからな~。
「魔女さんたちに採取させるか?」
魔女さんたちに回復薬作りを教えなくちゃならんし、それなら採取から教えるのもイイかもな。
「長さん。薬草の採取ができるヤツを何人か貸してくれ」
薬師のばーさんの年齢を考えると、自ら採取に出ることはねーはずだ。
「……それは構わんが、今から採取にいくのか? なにか凄い音がしてるが……」
あん? 音? あ、ああ。銃撃音や爆発音が響いてますな。なんかもう当たり前すぎて気にもならんかったよ。
……いや、銃撃音や爆発音に慣れる人生もどうかと思うけどな……。
「なに、すぐ終わるよ。この世でもっとも強い集団だから」
カイナーズにかかれば大暴走などよいゲームでしかねー。野蛮人の血の気を抜くにもイイしな。
「それまで食って寝て鋭気を養え。その分は働いてもらうからよ」
薬草採取は体力と手間がかかるもの。どんなに飲み食いしようが微々たる損失でしかないわ。
「ミタさん。魔女さんたちはまだトカゲさんたちのところにいるのかい?」
ほんと、放置してばかりでスンマセン!
「はい。フィールドワークをしております」
フィールドワークって、そんな言葉、誰が教えたんだよ? 丸投げしたいから誰か教えてよ。
「カイナーズの調査隊が教えていましたね」
ほんと、なんでもいるな、カイナーズって!
「なら、その調査隊も一緒に魔女さんたちを連れて来てくれや」
「畏まりました。リナイ。お願いしますね」
控えていたメイドに指示を出すミタさん。ってか、いつもいる三人組のメイドの他にもメイドさんがいっぱいいるな。
……武装してるのは見えないことにする……。
オレはジャッド村の長さんのところへ向かい、勇者ちゃんの情報をいただきますかね。ってか長さん、どこや~?
村のもんに尋ねたら、お家で休んでいるとのこと。まあ、ヤンキーに囲まれて気が気じゃない日々だったのだから疲れも溜まっていよう。
「でしたら、あとにしてあげたらいいじゃないですか」
「今訊いておかないと絶対忘れる自信がある」
出会い運に任せればイイのだが、情報があるなら仕入れておきたい。勇者ちゃんってなんか、オレの出会い運をすり抜ける感じがするんだよな。
「長さん。休んでるとこ済まないが、ピンク髪の少女のことを教えてくれや」
お家の中には主要メンバーな感じのご老体たちがいました。
「勇者と名乗っていた娘か?」
「そうそう。その勇者ちゃんだ」
ってかオレ、勇者ちゃんの名前知りませんわ~。まあ、聞いたところでオレの中で勇者ちゃんは決定だがよ。
「グランドバルにいったよ。かれこれ一月前になるかかの?」
「グランドバル? それは町かい?」
「隣の党が支配している地だ。ちなみにここはサイルアン党が治めている」
党? 派閥統治なのか?
「ここって、帝国傘下なのかい?」
ラーシュの国は帝国で、いくつもの国を傘下にしていると書いてあったが、党とかは書かれてなかった。他所の国と書いてあったし。
「そうだとは聞いているが、わしらにはよくわからん。上に従っているだけだからな」
まあ、末端の者からしたら村がすべて。三〇キロ先など別世界だ。ましてやこんなジャングルに住んでたらわかるはずもねーか。
「よくわからんが、そのグランドバルとやらは遠いのかい?」
「歩いて二日くらいだな」
あれ? 意外と近い? 一日三〇キロ歩いたとしても六十キロなんて近所やろ。まあ、それはちょっと言いすぎかもしれんけどよ。
「勇者たちは、そのとき食料は足りてたかい?」
「大丈夫とは言っていたな」
まあ、女騎士さんにも収納鞄や予備の収納ポーチも渡してある。無茶しなければ半年は余裕なはずだ。
しかし、なんで徒歩移動なんだ? ルククに乗っていればラーシュのところにいけるはずなんだがな? なんかトラブルに見舞われてルククとはぐれたのか?
無鉄砲な勇者ちゃんだし、あり得そうだ。いかなきゃ! で、ルククから飛び降りている光景が目に浮かぶぜ。
「ミタさん。周辺の地図とかある?」
カイナーズなら航空写真とか撮ってそうだ。
「地図はまだですが、周辺には探索隊を出しているそうですから三日もあればできると思います」
三日か。まあ、よさげな時間だな。
「明日から薬草採取をするから魔女さんたちに服とか装備を用意してくれ」
どんなかはミタさんにマルッとサクッとお任せします。
「畏まりました。用意します」
もう夕方だし、明日のために早く寝るかと、ゼロワン改+キャンピングカーを出した。
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