第114話 ジュラってる
丸投げが怖くて村人なんてやってられるか!
なんて言ったら全方位から石を投げられるので、プリッつあんがいないときに心の中で叫んでおく。ハァースッキリ。
「……今、ゲスいこと考えてましたね……」
幽霊に心の中を覗く能力がないので怖くはありませーん。知らんぷり~。
「ベー様。周囲五キロの地図ができました」
サプルやレニスがトカゲさんたちの集落見学に出てる間、オレはのんびりマ〇ダムタイムしてると、青鬼っ娘さんが地図を持って来てくれた。
「地図ってか航空写真だな」
写真をコピーして繋ぎ合わせた感じだ。
「はい。ドローンで製作しました」
そんなものまで使いこなしてるんだ。ファンタジー感台無しだな。
「ってかあんた、休みじゃなかったっけ?」
赤鬼っ娘さんとおしゃべりしてたような記憶があるんですけど。
「休みでしたが、カイナ様からベー様警護を任されました!」
昨日はなんか嘆いてた記憶もあるんだが、今日はやけに晴れやかやね。なんかあったの?
「ベー様護衛は臨時ボーナスが出て昇進できるんです! カイナーズでは競争が激しくてわたしみたいな下っ端にはなかなか回って来ないからラッキーです!」
突っ込みどころ満載でどこから突っ込んでイイかわからない。誰かヘルプミー!
「あ、うん、そうなんだ……」
とりあえず、誰も助けてくれなさそうなので地図に集中です。
カラーなのでなにがあるかははっきり見えるのだが、沼地や湿地帯ばかりだな。
ウパ子の暴れ食いやカイナーズの八岐大蛇狩りはスルーするとして、なんもねーところだよな。
……ウパ子やカイナーズには天国だろうがよ……。
地図を結界で広げ、チーズケーキをいただきながら眺める。
南北に伸びるのは道か。蓮っぽいものがあちらこちらにあるな。これは木じゃなくてはシダかな?
「今の気温ってわかる? 湿度も教えてくれ」
「気温は三〇度。湿度は七八パーセントです」
武装メイドさんの一人が答えてくれた。
オレは結界を纏ってるから快適だが、武装メイドさんやカイナーズの連中も平気な顔してんな。
「魔大陸より湿度あるけど、大丈夫なの?」
「メイド服は温度調整できますから平気です」
「わたしたちは訓練で克服してます」
あ、そうなんだ~。と納得しておきます。
これと言って面白味のない地図を眺めていたら、北西側になにか尻尾? みたいなのが写っていた。
ワニ、ではない。八岐大蛇、でもない。尻尾? のサイズからしてワニくらい。うん? 巨大生物、か?
「北西ってどっち?」
「あちらです」
カイナーズの一人が北西を指差してくれた。
「ちょっと出て来る」
気になったら即行動がオレ。空飛ぶ結界を創り出し、北西へと飛んだ。
「あたしたちがいきます!」
背後でミタさんが叫ぶが、止める気もないので構わず向かいます。空飛ぶ箒出してたし、文句は言われないだろう。たぶん。きっと。オレは信じてるからね!
空飛ぶ結界で進むこと五分。前方に湖? が見えて来た。
少し上昇させると、地図に写っていたものが視界に入った。
「モンゲベベレですね」
気の抜ける名前だが、そのサイズは三〇メートルくらいあった。
……恐竜に詳しくないが、最大の恐竜と言われてる……なんとかサウルスに似てんな。背中に毛は生えてるけど……。
「有名なの?」
「わたしはご主人様の見聞録でしか知らないのですが、亜竜のようです。水棲の生き物で、ほっとけばどこまでも大きくなるとのことですよ」
まあ、五〇〇メートル級の地竜がいる世界。三〇メートルなんてお笑いレベルだろうよ。知らんけど。
「食えるの?」
「ベー様の中では食えることが優先されるんですか?」
生きとし生けるもの食わなきゃ死ぬ。オレはもう空腹で苦しむなんてしたくないんでな。
「どの種族かはわかりませんが、祭りのとき一番大きいものを狩ると書いてあったから食べられるとは思いますよ。どの種族にも、とは言えませんからね」
まあ、食料に困ってないんだから試しに狩って食ったりはしないさ。
「……ジュラ紀だな……」
「ジュラ紀? なんですか、それ?」
「なんでもない。気にすんな」
それを説明できるほど詳しくないし、ファンタジーワールドになにがいても不思議ではねー。軽く流してくださいな。
「楽しいな、世界は」
そうだ。あるがままの光景を楽しもうじゃねーか。
◆◆◆
「今日から君はモンゲベベレザウルスだ」
なに言ってんの?
勝手に命名しただけですがなにか?
なんてノリツッコミは冗談として、圧巻な光景だよな。言葉は変だが妙にリアルで心が奪われるぜ。
ファンタジー感全開の世界で生きて、信じられないものをたくさん見て来たし、信じられない経験もした。なのに、モンゲベベレザウルスにワクワクしやがる。
……ふふ。ジュラ紀にタイムスリップしたみてーだ……。
「この世界は謎ばかりだよな」
「なにがです?」
「大昔に天地崩壊なんて未曾有の天変地異があったのに、あんな巨大生物が生き残ってるんだからよ」
いや、生き残った理由は知っている。フューワル・レワロと言う箱舟があったからだ。
「神の守りし大地ですからね。奇跡の一つや二つ、不思議じゃありませんよ」
うちの大陸は精霊信仰が多いが、他では創造神ラーゲを讃えているところが多いそうだ。
この世界を牛耳ってるのが創造神ラーゲかは謎だし、馴染みがないんでわからないが、神に守られてるとのことには納得だな。そもそも神(?)に転生させられた者にしては否定したくても否定できねーよ。
「あいつらってなに食ってんのかな?」
見た目は草食っぽいけど。
「水草や柔らかい草らしいですよ」
見た目通りか。よくそれであんな巨体になるもんだ。水草、そんなに栄養あるもんなのか?
「草食竜か。いるんだな、そう言うの」
前世の記憶があるだけに意味違うんじゃね? とは思うもの、気にしたら負けと流しておこう。
湖畔に降下して土魔法で整地し、無限鞄に仕舞ってある未加工の石を出す。
「殲滅技が一つ、結界パーンチ!」
で粉々に。土魔法で土台にして結界で強化。ゼロワン改+キャンピングカーを出した。
「ここをキャンプ地とする!」
「なんの宣言ですか?」
そんな素で問わないで。ノリと勢いなんだからさ。
「ミタさん。イイ感じの出して。今日はここで過ごすからさ」
どうせ皆が来るのだろうからミタさんの好みに任すわ。それなら誰も文句は言わないだろうからよ。
「畏まりました」
よろしこ~と任せ、さらに無限鞄から岩を出して結界パンチ。湖の深さを確かめながら桟橋を作っていった。
「おっ? 急に深くなったな。しかも固まってる」
「モンゲベベレに踏み固められましたかね?」
ってことになるとモンゲベベレザウルスの通り道になっちゃうな。踏み潰されちゃうかな?
「モンゲベベレザウルスって縄張り意識高いの?」
「どうでしょうかね? それは書いてありませんでした」
まあ、先生は邪魔なら殺そうホトトギスだからな。
「一応、ヘキサゴン結界を張っておくか」
オレの結界なら竜が一〇〇匹乗ってもダイジョーブイ。イナバさんにも負けんぜ。
クルーザーを接岸させても大丈夫なくらい伸ばし、先端で「デケー」と湖を眺めていたら水面に影が。
なんや? と思った瞬間、水面から黒髪美女の人魚が現れ、槍をヘキサゴン結界に突き立てた。
「……淡水人魚……」
あっと驚くベー太郎。いや、そこまでは驚いてないか。立ってたらなんか来るかな~と思ってたし。
「人魚って結構いるんやね」
一度淡水人魚見てるから感動もねーよ。あ、ダーティーさん、元気に冬を越えてるかな?
忘れてる人もいよう。バイブラストの湖で会った人魚さんのことだよ。水輝館みずきかん辺りかな? 気になったら思い出して(読み直して)くんなまし~。
「ご主人様が何百年をかけて出会った種族をベー様半年もかからないで会いますよね」
呆れられても困ります。オレの出会い運はそう言うふうにできてんだからさ。
「ベー様!」
後ろからミタさんたちが駆けて来て、黒髪美女の人魚に銃口を向けた。
「ベー様。囲まれています」
カイナーズの誰かの声に周りを見れば確かに人魚さんたちに囲まれていた。
「ミタさん。銃口を下げろ」
「畏まりました」
で皆さんの銃口が下がりました。
「オレはベー。あんたらの住み家を騒がせたのは謝る。話し合いには話し合いを。力には力を。拒否には拒否を。あんたらの意を示してくれ」
どれを選んでもプリッつあんから罵られる未来しか見えないけど!
◆◆◆
「返答はいかに?」
黒髪美女の人魚の金色の瞳から目を離さない。外したら負け? 的な感じがするので。
金色の瞳には知性的で理性的な光が宿っている。今にも目からビームを出しそうな勢いだけど! 体中にも傷が多いけど! メッチャ怖いんですけど!
……湖の中はどれほど修羅っちゃってるのよ……?
「あんたらバルバラット族と繋がりがあるのかい?」
そう言うと、黒髪美女の人魚の目つきが気持ち柔らかくなった。
「……人、なのか……?」
ヤダ。人であることを疑われてる!?
「まあ、従えてるのが魔族ですし」
あ、うん、そうだね。人か疑いたくなるよね。アハハ!
「オレたちは別の大陸、って言ってわかるかい? 海の向こうから来てバルバラット族と交流を始めた」
「海は知っている。我々は海に出られないが」
やっぱり淡水人魚なんだ。生命は不思議です。
「海にもあんたらの同族がいることは知ってるかい? 髪の色は違うが」
「魚人から聞いたことはある。この槍も海の人魚から流れて来たものだと聞いている」
槍に目を向けると、確かに人魚の使う槍とは違うな。刃部分は聖銀かな? 微かにそんな感じがする。
「そうか。なかなかイイもんだな。子々孫々に受け継ぐとイイよ」
鍛冶のできない人魚には貴重なもの。土魔法でも使えなければ修復もできないだろうよ。
「わかるのか、これのことを?」
知らずに使ってるのか。まあ、聖銀自体が珍しいもの。地上の者でも知ってるのは少ないかもな。
「ああ。前に持ってたからな」
すぐに他人の手に渡ったけど。
「これはどう使うのだ? よいものだと聞いたが、あまりよくわかってないのだ」
どんな業物も使い方を知らないとナマクラになるか。ましてや作るほうも魔法とか魔術とか使っちゃう。説明書でもつけてくれなくちゃわかんねーよ。
「武器は一点物だから誰でもわかるわけじゃない。たとえわかったとしても地上で戦えるのに適したものかもしれないぜ」
「ただまあ、刃部分に魔力を込めたら強度は上がるんだろう」
武器は強度があってこそ。ナマクラじゃその手には握ってないだろうよ。
「ああ。切れ味は他のものに勝っている」
「ベー様。あの槍、もしかすると風の魔槍かもしれませんよ」
風の魔槍? なんでわかんのよ。霊視か?
「魔槍や魔剣には魔法陣が刻まれてるんですよ」
あ、あれ、模様じゃなかたんだ。シャレオツ~としか思ってなかったわ。
「風か~。水ん中では……どうなんだ?」
使ったことねーから想像もできんわ。つーか、風の魔槍ってどう使うのよ? 強度や切れ味アップならわかるけどよ。
「まあ、宝の持ち腐れとか豚に真珠ですね」
君も君でどこで仕入れて来るねよ、前世の諺なんて? 霊界アンテナはあちらまで届いてんの?
無限鞄から白銀鋼の槍を出して黒髪美女の人魚に石突きのほうを向けて突き出す。
「もし、この場所を貸してくれるなら礼としてこれを渡す」
物々交換で成り立つところではまずは与えよ。それで相手の心を開かせる。まあ、調子に乗るようなヤツなら力で示してやらなくちゃならんけどな。
「すぐに答えを出せとは言わない。そちらで話し合って決めてくれ。それはそれまでの礼とさせてくれ」
ファーストコンタクトはゆっくり慌てず信頼関係を築きましょう。
あ、説得力ねーな! とか言っちゃイヤン。出会いはインスピレーションなのさ!
「なぜ、ここを借りたいのだ?」
「眺めがイイからさ」
理解不能な眼差し。まあ、八岐大蛇やワニがいて、モンゲベベレザウルスがいるところで眺めがイイからなんて理由は理解できんだろうさ。
「こちらにはそれだけの力がある」
見たことのない種族は知らないだろうが、ただならぬ気配なのは理解できるはず。できないようでは弱肉強食な世界で生きられないわ。
「……わかった。少し待て……」
「わかった。大人しく待つとするよ」
ミタさんに下がるよう指示を出し、最後にオレが下がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます