第113話 まさに勇者
「レイコさん、事件です。種が滅びそうです」
「いや、わたしに言われましても……」
滅んでしまった方の助言をいただきたかったのに。
「勇者さん。どうする?」
なにをだよ? なんて目を向けられてますが、負けてはならぬ。目を逸らしたら食われてしまう。
「……いや、ボフガットはすぐ増えるから問題はない……」
それはよかった。ワニの未来はまだあるようだ。
ウパ子による暴れ食い。クラーケンに脅えていた頃が懐かしい。すっかり捕食者になりやがって。違う意味で涙が出て来るぜ……。
「しかし、よく食べるよな。もう二〇匹は食ってるぞ」
骨も残らず食い尽くす。本当に胃にブラックホールでも飼ってないと説明がつかんぞ。
「ウパ子さんも竜ですからね」
あ、ウパ子、竜だったね。オレのなにかが拒否してたから忘れてたよ。
「ってか、竜って魔力があれば生きられんじゃねーの?」
リューコはそうだったじゃん。あ、皆、リューコって覚えてる? オレはチラッとしか覚えてないから追及しないでね。
「竜もいろいろですよ。魔力を食らう竜は希少ですね」
そうなんだ。まあ、どうでもよさそうだからすぐ忘れそうだけど。
「竜が少ないのはあの食欲のせいですね。あんなに食べられたら食料不足になりますし、脅威と思われて狩られるから」
言われてみれば確かにそうやな。ほんと、種として終わってるよな、竜ってよ。
「ワニ、飼えたらイイんだがな」
つーか、ワニってどんな味するんだろう? 前世では鶏のササミに似てるとか聞いたことがあるが。食ってみるか?
「ミタさん。あれ、一匹狩って。食うから」
オレがやってもイイのだが、仕事を与えるのも雇い主の役目、かどうかはわからんけど、メイドの誇り(説明しろと言われたら困るけど)を大事にしましょうね、ってことだ。
「畏まりました。タエコさん、ベー様をよろしくお願いします」
「は、はい! お任せください!」
ビシッと敬礼する青鬼っ娘さん。あ、タエコって言うんだ。まあ、オレの中では永遠に青鬼っ娘さんだがな!
ミタさんたちがピータたちから飛び降り、ウパ子を避けて沼地を駆け抜け、ちょっと小さめのワニを瞬殺。なんで三人でいったか意味がわからない。
「狩りました」
四メートルくらいのワニを引きずって来たミタさんがお淑やかに笑った。うん。サラッとスルッとスルーだぜィ☆
頭がないワニを結界で吊るして血抜きをする。
「勇者さんらはコレを食うのかい?」
血が抜ける間、勇者さんと世間話。コミュニケーションは大切だからな。
「いや、食わんな。皮は売れるので剥ぐがな」
「じゃあ、皮はやるよ」
オレは肉さえあれば充分だしな。
「よいのか? 人の間では人気があると聞くぞ」
なんとも誠実な勇者さんだこと。いつか人に騙されるぞ。
「使い道を見つけるのメンドクセーからいらないよ。そちらで使ってくれ」
不慣れなオレでは皮に傷つけると思うので勇者さんに剥ぎ取りを任せ、肉をいただいた。
場所を移して肉を料理する、と言っても薄くスライスして鉄板で焼くだけなんだけどね。
イイ感じに焼けたら塩を振ってパクッとな。うん。クセはなく不味くはないが、ちと固いな。好んで食べたいもんじゃねーわ。
「ミタさん、ちょっとこの肉使ってなにか作ってみてよ。凝ったものじゃなくてもイイからよ」
好んで食うもんじゃないが、保存食にするは手頃だろう。無限鞄の在庫も寂しいしな。
「畏まりました。では、いろいろ作ってみますね」
料理メイドを呼んでワニの肉料理を開始。なんかいろいろできあがっていく。
「勇者さん、食ってみるかい?」
トカゲさんたちの舌がどうなってるかわからないが、料理の匂いに釣られてたくさんの方々が集まっていた。
「よいのか?」
「ただ、あんたらが食ったことがないものも混ざっている。体に合わない場合もあるから何人かに食わして大丈夫だったら皆に食わせることを勧めるよ」
種としての違いはある。注意せず食わして死んで拗れたらメントクセーからな。
「そうなのか?」
「種によって食える食えないはある。オレらが食えてもあんたらが食ったら毒ってこともある。だから食うなら慎重にな」
これまで魔大陸出身者が作っていたから気にもしなかったが、さすがに繋がりがないところの種族には気を使わなければいかんでしょ。こちらの人との関係を崩すわけにはいかんぜよ。
「わかった。まずはわたしが食べる」
と、自ら毒味を試みた。
まさに勇者。さすが勇者。惚れてしまいそうである。
◆◆◆
味覚、あるんだ。
そして、意外とグルメでやんの。見た目からは生肉囓ってそうだけど。
なんて種族差別と罵られそうだが、二足歩行のトカゲが筑前煮(誰だよ、考えたヤツは?)を旨そうに食ってればそう思いたくもなる。世界にケンカ売ってるようなものだわ。
いやまあ、お前が言うなってこと重々承知の助。だから心の中で止めておいてくださいね。
「人はこんなに旨いものを食っているのだな。驚きだ」
オレは旨いと感じる味覚を持ってるあんたらに驚いてるがな。
「ただ、塩辛いのは受けつけん」
塩辛いと言うことは塩は伝わってるんだ。刺激物が苦手なのかな?
「この甘さがよい!」
とくにご機嫌なのは厚焼き玉子、と言うか、甘さがイイみたいだ。シュークリームを八個も食いやがったよ。
「我らにも食わせろ!」
「食わせてくれ!」
勇者さんが嬉しそうに食っている姿に我慢できなくなったのか、他の連中も料理に手を伸ばしてしまった。それなら自己責任で頼むよ。
料理メイドさんには申し訳ないが、たくさん料理を作ってくださいまし。さあ、トカゲさん達の胃を侵略するのだ!
「すまぬな。バンボラウトのせいで食料が不足して皆が飢えてるのだ」
「被害は大きいのかい?」
狩猟が主なのか、畑とかは見て取れないし、トカゲさんの標準体型も知らん。なので被害の大きさが想像もつかんかった。
「ああ。バンボラウトの群れが現れて我らの主食たるボンゴが採れんのだ」
ボンゴ? なんや? と思ったら勇者さんが見せてくれた。
「……レンコン……?」
見た感じはソレ。割ってみるとレンコンと同じく穴が空いていた。
……肉食な見た目なクセに雑食な種族だよな……。
「どう食うんだい?」
「こうだ」
レンコンをそのままパクリ。バリバリと咀嚼? した。今さらだが、トカゲさんたちの口の構造どうなっんだ?
まあ、それほど知りたいわけじゃないんで流すが、料理するとかしないんだな。まあ、レンコンをどう料理しろって話だがよ。
「そう言や、イモも交換してたがイモも採れるのかい?」
イモが採れる土地だとは思わねーんだかな? ファンタジーイモか?
「いや、人と交換する。我らには貴重なものだ」
よくここまで持って来るもんだ。そんなに道事情がイイのかな?
「ミタさん。筑前煮、いっぱい作って収納鞄に入れてくれや」
収納鞄を出してミタさんに渡した。
「あ、あのワニの肉使ってよ」
「ワニ? ボフガットですね。畏まりました」
理解力のあるメイドで助かります。
その日はそれで終わり、次の日も来ると約束してブルー島に戻った。
離れに戻るとサプルやプリッつあんが帰っており、夕食が用意されていた。
「あんちゃん、お帰りなさい」
「遅くなって悪かったな」
オレを待っててくれだろうから謝罪する。
「大丈夫だよ」
妹の笑顔が眩しいです。直視できません。
「悪いことしてるからでしょう」
悪態をつくメルヘンにはめんちを切ります。つーか、してないし!
「なにかおもしろいことはあった?」
席に座ると、レニスが興味深そうに尋ねて来た。
「八つの頭を持つヘビやデッカいワニがいて、ギンコやウパ子が暴れ食いしたよ」
「へ~。それはおもしろいね」
「なにかしら、この似た者同士は? どこにおもしろいことがあったのよ」
似てるか? まあ、なんかシンパシーは感じるけど。
「あんちゃん、あたしもいきたい!」
どこに興味を持ったかわからんが、ダメだと言っても聞きやしないのだから了承する。駄々っ子神と戦う気はありません。
「わたしもいきたい」
レニスもかい。つーか、動いて大丈夫なのか?
「無茶はしないよ。したくてもじーがさせてくれないし」
あ、離れの外にいた武装集団はソレか。なにかと思ったよ。いや、全力でスルーしましたけど!
「好きにしな」
レニスのことはカイナがなんとかすんだろうし、オレは妹の監視で精一杯だろうからな。
「きっと碌なことにならないわね」
そんな予言などノーサンキュー。
◆◆◆
「あらよっ、そらよっ、どっこいしょー」
は魔法の言葉。館と繋ぐ転移結界門の横に、トカゲさんとこに通じる転移結界門を設置した。
「南の大陸トカゲさんちっと」
間違えると不味いので札をつけておく。うん、ぱーぺき!
「……また碌でもないことを……」
メルヘンの呟きなど右から左に流してあっちへポイ。オレの優秀な耳をナメるでない。
「レニスねーちゃん楽しみだね!」
「そうだね」
「……こっちはこっちで楽しんでるし……」
オレはその後ろにいる武器集団が楽しんでるのが気になってしょうがねーよ。ピクニックじゃねーぞ。
「八岐大蛇か。楽しみだな」
「勇者かよって話だよな」
「一人一匹だぞ。破ったら奢りだかな」
なんなのほんと。カイナーズって頭のネジが緩んだのしかいねーのかよ。いや、トップからして頭のネジがぶっ壊れてるけど!
「ベーもでしょ」
心の声に突っ込まないで!
転移結界門を開け、トカゲさんところへとお邪魔します。なんか大勢の方々に迎えられました。な、なんやの!?
「待っていた。物々交換してくれ」
なにかとおもたら、近隣からも物々交換して欲しくて集まったとのことだった。トカゲさんたち、意外といるんやね。
人影? で見えないが、相当な数が集まってることがわかった。こりゃ千人とか軽く突破してそうだ。
「ミタさん、できる?」
オレはできないのであしからず。
「はい。大丈夫ですよ。こうなるだろうと思って用意しておきました」
ヤベー。ミタさんが女神に見える。ちょっと拝んでご利益をいただこう。オレが幸せになりますように。
エプロンのポケットに金貨を一枚入れて二礼二拍一礼しておいた。あ、参拝の仕方は許してね。女神への賛美は本物なんだからさ。
「……な、なんでしょうか……?」
「気にしなくていいわよ。どうぜベーにしかわからないベーだけの脳内お花畑ワールドだから」
ヤダ。メルヘンがワールドとか使い出してます。教えたヤツちょっとこっちに来て殴られろや。ワールドの彼方にぶっ飛ばしてやるからよ。
「こちらはお任せください。フィアラ様にも話を通していますので」
「え? ちょっ、婦人に? 婦人、なんか言ってましたでしょうか?」
メッチャ怒ってたらメッチャ逃げますけど。
「呆れてました」
それをニコニコ言われると股間がキュッとするんですけど。ちょっと止めてよ! 婦人にシメられるじゃないのよ!
「大丈夫ですよ。フィアラ様は笑ってましたから」
笑いにも種類があるじゃない。どんな笑いだったか教えてよ。冷たい笑いなら全力ダッシュで頭下げにいくからさ!
「ワリー。婦人にはオレが旅に出たと伝えてくれや。あと探さないでくださいとも」
「ふふ。大丈夫ですよ。ここにいますからわたしの目を見て言ってください」
股間がキュッとどころが胃がギュッとなる。
「違うんだ! 誤解だから! 話し合おう!」
「浮気したヤツがよく言うセリフね」
あなたの人生でどれだけ浮気者に会ったんだよ! メルヘン界では浮気が流行してんの?! 幻滅……はとっくにしてるからなんでもイイや。じゃなくて! 助けてくださいませプリッシュ様!!
「怒ったりしてませんよ。呆れてはいますがね」
「なーんだ。それならよかった」
怒ってたら全力ダッシュしてたぜ。
「……あなたは……」
「フィアラ。一度シメたほうがいいわよ。まあ、それで直るとも思わないけど……」
ケッ! オレの性格がそんなことで直ると思うなよ! 何人たりともオレの性格を直すことはできんのじゃー!
「もう諦めてるわよ。この性格は死んでも治らないってね」
いやいや、死んだら性格結構変わるもんだぜ。ってまあ、変わらないヤツがほとんどだけど! 悪化させてるヤツもいるけど!
「つーことであとはよろしく~」
オレにはなにもできないけど、上手くやってちょうだいな。
「プリッシュ。ミタレッティー。よく見張っててね」
「任せなさいとは言えないけど、やるだけはやってみるわ」
「なるべく被害が小さくなるよう努力します」
ヤダ。オレの信頼ゼロなんですけど!
と言っても聞き届けられないだろうから黙ってます。オレツレェェェェッ!!
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