第七章
第112話 バルバラット族
沼地にオレたち現れた。
「ベー様。あたしたちがいきます」
あい。万事あなたにお任せですと頷いた。
……八岐大蛇っぽいの見たときからオレの管轄じゃないと理解してたしな……。
ミタさんの指揮で一〇人の武装メイドさんがデカいライフル銃を構え、トカゲさんらに当たらないように発射した。
集中攻撃により八岐大蛇っぽいヤツの頭が一つ、吹き飛んだ。
ファンタジーな世界の生き物のクセに再生能力はなしかい。ちょっとガッカリだよ。
突然の乱入にトカゲさんたちは戸惑い(たぶん、そんな動きをしている)ながら、戦いから遠ざかっている。
装備もまともだし、知性はそれなりにあるみたいだな。魔大陸のキ……なんだっけ? あの竜人さんたち? まあ、再会したときに訊いたらイっか。
「……美味しそうでし……」
小さくして肩に乗るウパ子が八岐大蛇っぽいヤツ……ではなく、トカゲさんたちを見て呟いた。
ん? あれ? え? そっち? そっちだったの!?
「がまんできないでし! 大きくしてでち!」
うん。無理。確実に阿鼻叫喚なことになるから。止めてください。あちらとも戦うとか冗談じゃないわ。
「あの首いっぱいのを食えよ」
旨そうには見えないが、食い応えはあるでしょ。
「不味そうでち」
不味くても食えよ。お前、最近贅沢になってんぞ!
「ウパ子が食わないならわたしが食ってよいか?」
と、オレの足を噛んでいたギンコが八岐大蛇っぽいヤツを見ていた。なんか獲物を見る目で……。
「食うのか、あれ?」
「ああ。食う。美味そうだ」
犬のような姿してても竜は竜、なのか? 竜らしい竜の姿を見てねーから竜と思えねーんだよな。
まあ、食いたいと言うなら好きにしろと、八岐大蛇っぽいヤツと同じくらいのサイズにしてやる。
「ミタさん! あのヘビをギンコが食いたいって言うから任せろ」
「畏まりました! 皆、退いて!」
速やかに武装メイドさんたちが退き、ギンコが八岐大蛇っぽいヤツに向かって駆け出した。
すでに武装メイドさんたちにボロボロにされていたので、難なく八岐大蛇っぽいヤツの首を噛み千切り、目を逸らしたくなるくらいの踊り食い。R18に指定されそうである。
「……あたちも食べたいでし……」
うん。本当に止めて。トカゲさんたち、こっちに槍を向けてるんだからさ。
「ベー様。どうなされますか?」
うん。どうしましょうね?
魔大陸ならまだしも南の大陸(だと思う)にはなんの繋がりもねー。あちらも人と繋がりがあるかもわからねー。どうファーストコンタクトすればイイのやら。こんなことならプリッつあんを連れて来るんだったぜ。
「しょうがねーな」
ウパ子をミタさんに渡し、殺戮阿をポケットに戻してトカゲさんたちに向かって歩き出した。
「ベー様!」
「手を出すなよ。話が通じなきゃ転移バッチで逃げるからよ」
抵抗する手段も逃げる手段もあるので怖くはねーが、異種族とのファーストコンタクトってのは緊張するぜ。
トカゲさんたちの中から一際大きい体格のトカゲさんが出て来た。
灰色の肌(?)にはたくさんの傷があり、感じからして老人だと思う。長老かそれに準ずる者だろう。
「オレはベー。言葉はわかるかい?」
自動翻訳の首飾りはしている。魔大陸でも通じたんだから大丈夫だろう。
「ああ。わかる。どこの人族だ?」
人族か。言葉があるくらいには認識されてるってことか。
「別の大陸、大陸ってわかるかい? 海の向こうの大きな島の人族だ」
「わかる。グロッドから聞いている」
グロッド? 翻訳されないところをみると名前かな?
「オレはそこから友達に会いに来た。ここに来たのは偶然で肉が欲しいから現れた。あんたらと争うつもりはない。許さぬと言うならすぐに去る」
たまたま降りただけ。ダメだと言うなら去るだけである。
「少し、待ってくれ」
と言うと、仲間たちの中に入り、なにか話し合いを開始。その間、オレはその場で待つ。こちらの誠意を見せるためにな。
数分後、さっきのトカゲさんが戻って来た。黒いトカゲさんを連れて。
「わたしは、グロッド。バルバラット族の勇者だ」
勇者? あ、群れの中でってことね。ってことは、あまり外との交流はない感じだな。親父殿より弱い感じがするし。
……井の中の蛙だな……。
「オレはベー。村人だ」
って答えたらなんか怪訝な感じをされた気がした。なんでや?
「……肉が欲しいとのことだが、なんの肉を求めてる?」
あんたら。とか言ったら全面戦争になりそうだな。
「なんの肉がある? どんなのがあるのか用意してくれるのなら礼はする」
魔大陸で手に入れたギなんとかから交換した酒、ガルメリアが入った樽を出した。
「酒だ。飲めるか確かめてくれ」
蓋を開け、カップをいくつか出してトカゲさんたちに飲ませる。竜人とトカゲ人間の味覚や嗜好が同じかわからんが、オレはメルヘンの舌を信じる。
「……旨い……」
とのこと。よかった。口にあったようだ。
「他にも欲しいものがあるなら用意する。肉は生きたまま持って来てくれ」
「わかった。用意しよう」
トカゲの勇者が右拳で胸を叩いたので、こちらも同じく胸を叩いた。
◆◆◆
デジャブリターン。
と思いながらトカゲさんたちと物々交換をしていた。
まあ、キなんとかとの物々交換とは規模は小さく、屋台規模のものだが、トカゲさんたちの状況を示すかのように大盛況だった。
「最近、人族の商人が来なくて助かった」
なんでや? と訊いたらグロッドさんがそんなことをおっしゃいました。
「あの多頭ヘビが原因か?」
「ああ。バンボラウトが現れて商人を襲っているのだ」
その言い方からして八岐大蛇っぽいのは複数いるってことか。おっかねー場所に降り立ったもんだぜ。
「それは大変だな」
トカゲさんたちのことはトカゲさんたちが解決すること。オレが口出すことじゃねー。余計なお節介はしないでおこう。
ってか、物々交換が途絶えることがねーな。どんだけ滞ってんだよ。結構追い込まれてたのか?
その割には荒れてないし理性的だよな。腰蓑しかしてない文化なのに。
「人族との交流は長いのかい?」
トカゲさんたちにお茶を飲む習慣がないので、日本酒を出して話を訊いています。あ、物々交換は応援に来たボーイさんに任せてます。
「長いな。ただ、交流は少ない」
ふ~ん。人族の領域からかなり外れた場所なのかな、ここ?
「グロッド。ここで狩りをさせて欲しい。もし許してもらえるなら酒を融通させてもらう」
ペラペラとおしゃべりするタイプでもなかろうから単刀直入に訊いた。
「バンボラウトか?」
「他にも狩れるなら狩りたい。もちろん、そちらが困るほど狩らない。それ相応の礼はするよ」
槍を使ってるならと、
「……こ、これは……」
「オレの知り合いが作った魔槍だ。水を操れる」
人魚用なので陸地では効果が薄いだろうが、沼地でならそれなりに使えんだろう。強度的にも石の槍よりは勝るだろうしな。
「許されるならこれをあと三本渡す。どうだろうか?」
悪い取引ではねーはずだぜぜ。
「……よい、のか? 業物だろう……」
「こちらはそちらと無駄に争いたくはない。友好の証でもある」
さらに三本を出して地面に刺した。
「わかった。お前たちを歓迎しよう。好きに狩るがよい」
ハイ。お許しをいただきました~。
「感謝する。あ、案内を頼めるか? 狩ってイイもの、狩ってダメなものを教えてくれると助かるのだが」
監視者がいればそちらも無駄に警戒する必要もなかろうし、こちらも無駄な争いを避けることもできるはずだ。
「いいだろう。おれが案内する」
勇者自ら案内とはね。まあ、八岐大蛇っぽいヤツを倒せるような一団なら当然な人選だわな。
「……美味しいそうでし……」
ほんと止めて。トカゲさんたちを見ないで言わないで。こっちは仲良くやれるようガンバってんだからさ~。
「ミタさん。少し狩りに出るよ」
「畏まりました。すぐに用意します」
なにを? と問うのもメンドクセーのでミタさんにお任せ。
「あ、あの、ベー様。カイナ様に報告してカイナーズを呼びよせたいのですが、よろしいでしょうか?」
と、青鬼っ娘さん。あ、いたね、君。ってかついて来たんだ。すっかり忘れてました。ごめんなさい。
「まあ、構わんが狩りするだけだぜ?」
武装メイドだけでも間に合ってるのにカイナーズを呼んでどうすんだよ。
「あ、いえ、ベー様が動くときは報告する義務がありますので……」
なんか乾いた笑みを見せる青鬼っ娘さん。つーか、どんな義務だよ?
「勝手にしな。ただ、あんまり大勢は連れて来んなよ。あちらさんに変に疑われると困るからよ」
どんなに友好を示そうが、武装した一団を見たら心穏やかではいられねー。テメーら生意気なんだよ! なんて因縁ふっかけられて全面戦争とかごめんである。
「わかりました。カイナ様にはそう伝えておきます」
ビシッと敬礼。ズボンのポケットからシュンパネを出すと、ゼルフィングの館へと飛んでいった。
なにか大事になりそうな感じだけど、成るようにしか成らねーのだから慌ててもしかたがねー。用意が揃うまでゆっくり待ちましょう、だ。
ってか、ギンコの踊り食いが美観にそぐわない。オレのスローライフは全年齢仕様なのによ……。
◆◆◆
「バカじゃない」
やって来たメルヘンからの心ない一言。傷つくわ~。
「なんなの? ベーは平和に暮らせない病気にかかってるの?」
君、現役薬師に向かって失礼なこと言うね。あと、そんな病気ありませんから。
「オレ、なにもしてないもん」
と言うか、オレ、なにしたよ? ここに降りてからコーヒーしか飲んでねーよ。
「ベーは動くだけで問題を引きよせるのよ」
なにその理不尽。いや、否定できないので黙ってますけど。
「はぁ~。で、今回はなによ? 今度は誰に丸投げするつもり?」
うちのメルヘンが容赦ありません。誰か助けてください。
ミタさんに助けを求めるが、なぜかサッと視線を逸らされた。ヤだ、見捨てないで!
「……ウパ子が肉を食いたいって言うから狩りにいくだけだもん……」
「それがどう拗れたらこうなるのよ?」
ベースキャンプを建ててるカイナーズを見て呆れている。
本当に理不尽。オレのせいじゃないのに……。
「今回は狩りがメインなの! 狩ったら帰るの!」
オレはうるさいメルヘンから逃げ出した。
「逃げんなやアホー!」
でもドロップキックで吹き飛んだ。
「アーホアーホプリッつあんのアーホ!」
「アホはお前じゃボケがー!」
全力ダッシュで逃げたのに後ろからまたドロップキックをかまされた。最近、うちのメルヘンが狂暴で困ってます。誰か助けてください……。
「まったく、このバカは。そう簡単に逃げられると思わないでよね! あんたの行動はお見通しよ!」
なにやら行動を見透かされてます。クスン。
「ミタレッティー。このバカから目を離しちゃダメよ」
と言って転移バッチを発動して消えてしまった。って、君はなにしに来たのよ?
「ったく、鬼か」
「プリッシュ様は羽妖精ですが?」
クソ。鬼がいる世界で鬼と言っても通じんわ。つーか、種族差別で非難されるわ。
泥はついてないけど、起き上がって架空の泥を払った。
「ベー様。狩りに出るなら供をつけてくださいね」
なんでだよ? と言ったらメルヘンがやって来そうなので素直に頷いておいた。
「狩りだから少人数で頼むな」
それがオレの精一杯。チキンなオレを責めないでください。
「畏まりました。では、四人つけます」
と、なぜか青鬼っ娘さんが四人の中に混ざってた。なにかオレに助けを求めているように見てるのは気のせいだろう。とりあえず「ガンバ!」とサムズアップしておこう。
「……ううぅ。なんでわたしが……」
よくわからないけど、きっとイイことあるって。なくてもオレは責任取らないけどな!
「勇者さん。狩りの案内を頼む」
「……あ、ああ。わかった……」
トカゲさんの表情はわからないが気配が薄くなってる感じがする。なんでや?
「種が違えどベー様がヤバいってわかるんですね」
種の枠に入らない幽霊に言われたくありません。
「まずはボフガットを狩る」
勇者さんを先頭にボフガットなるものを狩りに向かった──のだが、沼地すぎて歩き難い。なので珍獣どもをデカくして背に乗せてもらった。勇者さんも乗りなよと誘ったら丁重に断られました。
「美味しそうとヨダレを垂らすウパ子さんに乗りたいと思うわけないじゃないですか」
あ、うん、そうだね。油断したら食べられちゃいそうだしね。ギンコは八岐大蛇っぽいのを踊り食いしてたし……。
ちなみにオレはウパ子に乗り、なんかどんよりした天候の下を進むこと約三キロ。また八岐大蛇っぽいのが現れた。
「えげつないのが生息してるところだ」
鉄球を出して八岐大蛇っぽいヤツに投げ放つ。
七割の力で投げたが、防御力が低いようで体にメリ込んでしまった。いや、弱すぎんだろう。
「……見た目負けしてんな……」
これならC級冒険者でも狩れんじゃね?
「食べていいか?」
「まだ食うのか? 一匹丸々食ったのに」
ゾウくらいある体に八つの頭がついて、ギンコもそのくらいにしている。珍獣ってのは胃にブラックホールでも飼ってるものなのか?
「いくらでも食べられる」
ソウデスカ。なら食っちゃいなさいよ。
弱った八岐大蛇っぽいヤツに飛びかかり、R18な踊り食い。神よ、どうかオレにモザイク処理能力を与えたまえ。
「ベーよ。ボフガットだ」
勇者さんが指差す方向に目を向けると、六メートルはあろうかと言う目が四つあるワニがいっぱいいました。
「美味しそうでし!」
珍獣どもの味覚が謎である。まあ、理解したいとは思わないけど。
ウパ子を元のサイズ(だと思う)に戻して背から降りた。
「思う存分食うがよい」
ただ、生態系を崩さないていどにしてもらえると助かります。
これから散るたくさんの命に合掌。ナンマンダブ~ナンマンダブ~。
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