第111話 フラグを全力で振るのがベー

 フ◯ーチェを美味しくいただき店を出た。


「……種族は違えど女の香りはキツいわ……」


 あ、別に嫌悪とか非難してるわけじゃないよ。ただオレにはキツいってだけ。女の香りが大好きな人は喫茶店岬に是非ともお越しくださいませ。


 いけねーよ!


 なんて突っ込みは聞きませんのであしからず。


「おーい! お前らいくぞ~!」


 なにやら客に餌をもらっている珍獣ども。ブルー島のマスコットになったか?


 餌付けされてこなければここに放置──ではなくそれぞれの意志を尊重してやったのに、珍獣どもがやって来てしまった。


 ……なんでオレはこんな珍獣に好かれるんだろうな……。


 おっと。同類だから? なんて言ったら泣くからな。言葉には気をつけてくれよな。


 目的地に向かって歩いていると、迷彩ズボンにTシャツを着た青鬼の少女とメイド服を着た赤鬼の少女がベンチに腰かけて楽しくおしゃべりしていた。


 ……赤鬼と青鬼を見ると泣いた赤鬼を思い出すな……。


「ん? あの青鬼っ娘さん、どこかで見たような……?」


「──魔大陸のシーカイナーズにいた娘ですよ。確かタエコ、と言ったはずですよ」


 と、レイコさんが出現して教えてくれた。


 本当にこの幽霊は突然出て来るよな。いやまあ、完全に忘れてるオレが言っちゃダメだから黙ってるけど!


「あ、ベー様!」


 二人がオレに気がつき、慌てて腰を上げて九〇度に近いお辞儀をした。オレ、恐れられてる?


「休みなんだからそんな大仰なことしなくてイイよ」


 仕事とプライベートを分けてこそ立派な社会人だぜ。オレはまだ子どもなので仕事もプライベートも一緒にしちゃいますけどね!


「はい、すみません」


 謝ったのは赤鬼っ娘のほう。青鬼っ娘さんはなぜか敬礼している。なんでや?


「まあ、休みは楽しくすごせや。んじゃ」


 雇い主がいたんでは気がやすまらないだろうと、さっさと退散することにした。


「あ、あの、ベー様はどちらにいかれるんですか?」


 と、なにか慌てた様子の赤鬼っ娘さん。なんやねん、いったい?


「ちょっと外にな。こいつらが肉食いたいって言うからよ」


 肉を持って来なかったことにギンコが足に噛みついてるが、オレのズボンは竜に噛られても大丈夫な仕様である。さらに五トンを持っても平気な体なので甘噛みにも劣るぜ。


「あ、あの、それをミタレッティー様とかにおっしゃいましたか……?」


「いや、言ってねーけど?」


 すぐ帰って来るし、いちいち言う必要もねーだろうが。


「タエコ、ベー様についていて! 絶対よ!」


 と叫ぶと、どこかへと駆けていってしまった。だからなんやねん?


「え、あ、な、なんなの!?」


 わからないのは青鬼っ娘さんも同じらしく右往左往していた。


「変な友達だな」


 まあ、友達に変なとは失礼な物言いだが、そうとしか言いようがないんだからしょうがない。どうオブラートに包んでイイかわからねーよ。


「あれ、絶対ベー様がなにかやらかすと思って報告に駆けていったんですよ」


 なんとも失礼なことを言う幽霊ですこと。ただ下に降りるだけじゃねーか。それでどうやらかすんだよ?


「転移結界門を設置したらすぐに帰って来るよ」


「そうならないのがベー様じゃないですか」


 いやまあ、そうならないことは確かに多いですよ。でも、だからと言って毎回ではねーですたい。今回はなにもないってオレの勘が言ってるたい。


「別について来なくてもイイからな。休日を楽しんでろ」


 青鬼っ娘さんの休日を潰すのは忍びねーからな。


「い、いえ! ついていきます! なにかあったらミカホシ様に怒られます!」


 ミカホシ? 誰や? 


「まあ、そう言うなら勝手にしな」


 青鬼が真っ青とかなんの冗談かと思うが、今にも漏らしちゃいそうな勢いだ。そうなられても困るので同行を許すことにした。


「せっかくの休日なのに可哀想」


 トラブルメーカー扱いされてるオレのほうが可哀想だと思うんですけど。とは言わないでおく。なんかフラグを立てそうで怖いから……。


  ◆◆◆


 う~~~~!


 なんかサイレンが響き渡った。なんや? ダムの放水か?


 疑問に思ったが、まあ、オレが知らないからオレに関係ないのだろうと意識から放り投げて目的地へと向かった。


 ブルー島にはもう一つ岬がある。と言っても二〇メートルもない。オレ以外は岬と思ってねーんじゃねーかな?


 のんびり歩いていると、空飛ぶ箒に跨がったミタさんが現れた。なんか息を切らして。


「ベー様、どこにいかれるんですか!?」


「え、外だけど?」


 なにやら詰問されるオレ氏。なんでや?


「ハァ~。わかりました」


 なにが? とは思ったけど、ミタさんがわかったのならそれでよし。オレは気にしません。


「ベー様。ここはなんですか? なにも置くなとは聞きましたが……?」


「黒羽妖精の住処だよ」


「……なにもありませんが……?」


 いけばわかると岬の端に向かう。あ、珍獣どもを小さくしないと。チチンプイっと。


 ここには結界を張っており、岬の先を隠しているのだ。こちらからいかないようにな。


 結界を越えると目の前に金色の樹が現れる。


「……な、なんですか、これ……?」


「名前もわからん摩訶不思樹まかふしぎ。便宜上、黄金樹って呼んでるよ」


 世界樹とも生命の樹とも違う。なにかの実がなるわけでもなければ花を咲かすこともない。ただ黄金に輝く樹。命名はレイコさんだ。


「本当に不思議ですよね。水も土も必要とせず、宙に浮いている。なんのために存在するのやら」


「神のみぞ知る樹。なんでもイイさ」


 人の身で探求しようなんておこがましいにもほどがある。オレは人として生まれ、人として死ぬのが目標だ。黄金樹の謎は知りたいヤツに任せるよ。


 綺麗だから持って来たまでの摩訶不思樹に用はなし。そのまま通りすぎる。


 結界橋を渡ると転移結界門が現れる。


「この先に黒羽妖精がいるが、黒羽妖精は警戒心が強い。みっちょんとは違うから驚かすなよ」


 扉に仕掛けた呼び鈴を鳴らし、五秒くらい待って扉を開いた。


 入ったそこにはメルヘンな世界。どうメルヘンかは君次第。そのイマジネーションを爆発させるのだ!


 ……うん、まあ、九龍城みたいなことになってんだけどね……。


「どこから材料とか持ってきたんですかね?」


 最初、ここはドーム状のなにもない空間だった。さすがになにもないでは暮らしていけないと、サリネが作った家をいくつかと木材を渡した。それが二月くらいで九龍城みないなもの作るとか、誰か協力してんのか?


「誰もいませんが、どうしたんですか?」


「黒羽妖精は人見知りで、慣れないと出て来ないかもな」


 オレはみっちょんが好奇心旺盛だったからそれなりにコミュニケーション取れたけどよ。


「まあ、黒羽妖精はほっとけばイイさ」


 黒羽妖精とブルーヴィは精神感応? している。ブルーヴィを面倒見てくれてるなら好きにやってろ、だ。


「つーか、道を塞ぐなよ。通り難いな~」


 ここは外と繋ぐところ。なんで無造作に作るんだよ。出入りが大変だろうが。


 結界で建物を避け、ドーム状の中心へと向かった。


「ついて来るヤツはこの転移陣に入れ」


 ってか、なんか増えてね? 武装したメイドさん、どこから湧いた?


 ここは大量に人を出入りさせるためか、ドームはちょっとした校庭くらいあり、転移陣は五〇人くらい入れるくらいになっている。


「これはベー様しか発動させられないのですか?」


「ああ、オレだけだな」


 なんともメンドクセー作りだが、なんかそうする都合があるんだろう。まあ、転移結界門創ればイイだけだから問題はねーけどよ。


「わかりました」


 そう言うと武装したメイドさんを二〇人くらいを転移陣に入れた。残り十人くらいは残した。


 それにどんな意味があるかわからないが、ミタさんがそうするならオレに否さなし。好きにしたらイイさ。


 転移陣内に入っていることを再確認して発動させると、周りが外の景色を映し、意識を下に向ける。


 下は……ん? 湖? いや、沼地かな? なんか二足歩行するトカゲさんが八岐大蛇っぽいものと戦ってました。


「さすがベー様です」


 そんな感心なんていりません。


「どうするので?」


 見なかったことにしたいが、ウパ子が「美味しそう」と騒いでいるので諦めます。説得するほうがメンドクセーから……。


「はぁ~。やるしかねーか」


 ズボンのポケットから殺戮阿を抜いた。


「やるぞ」


 ミタさんに向けて言う。こちらも説得するのメンドクセーからな。


「畏まりました。皆、やりますよ」


 覚悟も決まったので戦いから少し離れた場所に転移陣を指定。転移した。

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