第153話 毒花、セーサラン

 R−18な解剖をして一言。


「オレには手にあまるわ」


 まさにお手上げ。謎の宇宙生命体は正真正銘謎だわ~。


「あんたはわかるかい?」


 カイナーズから参加した神経質そうな男、セイワ族か蒼魔族のハーフ(どちらも青い肌をしてるが、セイワ族は黒髪に耳が尖っていて、蒼魔族は灰色の髪に普通の耳をしているる)なのかわからんが、解剖とか好きな顔している。いや、どんな顔だとかの突っ込みはノーサンキューだぜ。


「……わたしもわかりません。なぜこんな構造しているのか謎すぎます……」


 普通は筋肉があるのだが、丸いグミみたいのが連なり、ドロッとした液体が四種類詰まっていた。甲殻類かと思ったら外皮は黒く変色してなんだかわからなくなっている。博士級の頭脳を持った者をダース単位で連れて来ないと仮定すら思いつかんわ。


「やはり、先生を連れて来ないとダメだな」


 こんなの先生でもなきゃわかんねーよ。マッドではあるが、この世界で一番のマッドサイエンティストだろうからな。


「もしかして、凶血のプリグローグ様のことですか?」


「ん? 誰だそれ?」


 オレの知り合いにそんなヤツいねーぞ。


「いや、ご主人様の名前ですよ! 忘れないでくださいよ!」


「あ、そう言や、そんな名前だったな。忘れてたよ」


 たぶん、三秒後には忘れているだろうが、オレの中では先生だ。先生と呼ぶのは先生だけなんだから問題ナッシングだ。


「先生を知ってんのかい?」


「魔大陸で凶血の名は有名ですよ。実験のために町一つ潰すような方ですからね」


「ほんと、マッドな先生だよ」


 先生の所業にどうこう言うつもりはねー。弱い者は強い者に搾取される。弱肉強食な世界なら弱いは罪だからな。


 ……一度死んで、また死にそうになったら嫌でも理解できるぜ……。


「プリグローグ様は来られるので?」


「少し寝ると言ってたからな、二、三年は起きて来ないんじゃねーかな?」


 あの先生の寝るは人の物差しでは測れない。ちょっと眠るつもりが十年くらい眠ったことがよくあると言ってたからな。


「映像は録ってるな?」


「はい。五台で録画しております」


「じゃあ、部位ごとに切り分けてあらゆるものを振りかけたりして、なにに強くてなにに弱いかをこと細かく調べろ。特に熱は念入りにやれ。ミサイルの爆発熱が効かねーってことは冷気に弱いかもしれんからよ」


「わかりました。そうなると検体がもっと必要ですな」


「Xはまだいるはずだ。ってか、あいつらの総称と個体名をつけねーと不便だな。なににする?」


 セイワ族と蒼魔族のハーフな男に尋ねた。


「わたしが決めるのですか?」


「これから第一人者になるんだからあんたが決めな」


 解剖担当に選ばれたなら優秀ってことだろう。セイワ族も蒼魔族も長命種。オレが死んでも生きてるはずだ。


「では、セーサランではどうでしょうか? 魔大陸に咲く毒花の名前ですが、増えると大地を枯らす花なのですよ」


「あーあの花ですか。確かにXみたいに厄介ですね」


 レイコさんも知る害になる花のようだ。


「なら、セーサランと命名する。あんたの名を刻んでおけよ。未来に託すものなんだからよ」


「……わかりました」


 満更じゃない顔で敬礼してみせた。名誉心が強いよな、魔大陸に生きるヤツってよ。


「あとは任せる。オレじゃ手にあまるからよ」


「はい、お任せください。あと、プリグローグ様が起きたら一緒に研究をしてくださるようお口添えお願いします」


「あの先生なら来るなって言っても無理矢理来て、問答無用で仕切るよ。そうならないために先をいってな」


「ふふ。凶血より先を、ですか。それは心をくすぐられますな」


「先生が凹むところを見せてくれや」


 上には上がいるってことを知るのも先生のためだろうよ。あの負けず嫌いには、な。


「ご期待に添えるよう鋭意努力致します」


 楽しみにしてるよと結界ドームを出た。


「魔女さんたち。叡知の魔女さんに報告頼むぜ」


 見てるしかなかった委員長さんにニヤリと笑ってみせた。こっちもこっちで上には上がいるってことを教えんとならんからな。


「どう報告したらいいかわからないわよ。わたしたちの理解を超えてるわ」


「なら、もっと上のヤツを連れて来な」


 置いてきぼりにされたくなかったらな。


「ドレミ。ちょっと眠るわ」


 さすがに疲れた。ちょっくら眠らせてもらうわ。


 結界クッションを創り出して、その上に倒れ、おやすみ三秒で眠りへとついた。


   ◆◆◆◆


 目が覚めたら暗かった。


「……夜か……」


 と言うか、オレ、いつの間にテントの中で寝たっけ? テキトーな場所で寝たような気がするんだが……?


 とりあえず、結界灯を創り出す。


「ベー様、お目覚めですか?」


 外から女の声。メイドさんかな?


「ああ。起きたよ」


「なにかお持ち致しましょうか?」


「そうだな。コーヒーとなにかあっさりした食いもんを頼むよ」


 腹はまだ減ってねーが、いつから食ってねーのかも忘れた。なにか胃に入れておかねーと体にワリーだろう。


「畏まりました。お風呂が沸いてますので、入るときはお声ください」


「あ、んじゃ入るよ。頭痒くなってきたし」


 風呂もいつ入ったか忘れた。さっぱりしておかないとサプルに文句言われそうだ。


「畏まりました」


 大きく伸びをしてから結界クッションから起き上がり、テントから出た。


「眩しっ!」


 出たら光の強いライトがあちらこちらを照らしており、目の奥が痛くなりちょっと眩んでしまった。


「……なんなんだよ、いったい……?」


「ベー様がお眠りについて小型のセーサランが襲って来ましたので、夜間も光をつけているそうです」


 水蒸気爆発で根絶やしにはできないとは思ってたが、これだけの数がいて襲って来るとか状況判断ができてねーのか?


「被害は?」


「ありません」


 だよね。カイナーズは被害を与えるほうだし。


「お風呂はこちらです」


 と、案内されたのはテントで、メイドの湯って看板が掲げられていた。はぁ?


「中にメイドでもいるのか?」


 それとも冥土の湯だったら回れ右して安らかな眠りへと旅立つぞ。


「いえ、メイドが設営したのでメイドの湯と命名しました」


 命名する必要あるん?


「カイナーズの方も設営したので区別するために名前をつけました」


 言われてみれば似たようなテントが設営されてんな。ってか、カイナーズは風呂に入る習慣とかあったんだな。


「誰も入っておりませんのでごゆっくりお入りくださいませ」


 脱衣場的な場所で服を脱ぎ、体を洗って湯船に入った。


「と言うか、誰もヴィアンサプレシア号にいけば問題なかったのでは?」


 と思ったけど、気持ちイイからなんでもどうでもイイか。あービバノンノン。


 ホカホカな気分で風呂から上がり、冷蔵庫(どっから電気を取ってんだ?)から牛乳を取り出し、いっき飲み。ぷはー! 旨い! もう一本!


「ゲフ。二本は飲みすぎたな」


 空ビンを箱に入れて外に出た。


「あれ、叡知の魔女さん、来てたんだ」


 叡知の魔女さんと年配の魔女さんズ。なぜか委員長さんは離れたところで小さくなっていた。


 ……上の方々かな……?


「アレの報告ではさっぱり要領を得ないのでな」


 アレとは委員長さんのことだろう。叡知の魔女さんに睨まれてさらに小さくなってしまってるよ。上下関係が厳しいところは大変だ。


「もちろん、お主はわかりやすく説明してくれるのだろうな?」


「それは、叡知の魔女さんたちの理解力にかかってるな。これは、星の世界の話だからな」


 今さらだが宇宙と言ってるが、魔女さんたちに宇宙と言う概念はあるんだろうか? 


「あのバカ、また変なこと言ってるよ、って思われてるんじゃないですか?」


 最近の幽霊は突っ込みに容赦がありません。もっと愛のある突っ込みをしていただけると嬉しいです。


「どこか場所を移そうか」


 メイドさん。ありますか?


「カイナーズのテントをお借りしております」


 うちのメイドは優秀でなによりです。


 その借りているテントへと向かい、お茶とお菓子を出してもらう。オレは失礼してサンドイッチをいただきます。あーウメー。


「……それで、いったいなんだと言うのだ?」


「この世界が丸いってことは知っているかい?」


「村人が知る理ではないんだがな」


「ってことは知っているのか。どこのどいつが教えたのやら」


 オレたちの前にも転生者がいて、さらに数千年前にもいた。それは、フュワール・レワロでわかる。浅草っぽいの創っておいて違ったら詐欺もイイところだわ!


「星の世界、宇宙も教えられてるのかい?」


「知っている」


 それはよかった。宇宙ってなに? とか問われてわかりやすく答えられる自信はオレにはねーよ。


 結界でX1~X4を創り出す。細かいところはご容赦を。


「これらが宇宙から来た」


「攻めて来た、と言うのか?」


「おそらくとしか言えねーな。こいつらと意思疎通してねーからよ」


 どうやら知能はないが、やることはDNAに刻まれているようで、種を増やすことを優先させている。


「この世界に、宇宙から来た種族がいることは知ってるかい?」


「……そう言う説は出ておる。が、証明はできておらん」


「少なくとも人魚は宇宙から来た種族だな。星を渡る船があったから」


 そうなると魚人も怪しいところだよな。この星で進化したとは思えねーし。


「それらの情報を繋ぎ合わせると、こいつら──セーサランに追いやられてこの星に逃げて来たんじゃねーかと思うわけだ」


 そう考えたらこの世界にたくさんの種族がいるのも納得できんだよな。


「つまり、この星は狙われていると?」


「確実に、とは、まだなってないとは思う。星を渡る船を造るヤツらが逃げるしかないのなら、もっと強いヤツがいるってこと。そいつらが来てないのだから位置はわかってないはずだ」


 それも時間の問題だろうな~。


「帝国も覚悟しておけ。未曾有の厄災にな」


 オレもスローなライフを守るために、タケルを鍛えておかんとな。なんたってアニメな潜水艦を持っているんだからよ。


   ◆◆◆◆


「なんて、口で言ってもわからんだろうから実物を見せるよ」


 ここにはモニターがいくつもあり、パソコンも何台もあった。地下に降りたときの映像……は、誰に言ったら見せてくれるんだ?


 メイドさんに視線を向けたら理解してくれ、パソコンを弄って映像を見せてくれた。やっぱり記録って大事だよな。


「まあ、長くなるから寛いで見てくれや」


 まあ、寛げない者が一人いるけど、下っ端なんだからガマンしろ、だ。


 映像に驚くかと思ったが、魔女さんたちはそのことにはスルーし、セーサランのことに集中していた。


 柔軟性があるのか、映像を創れる魔法があるのか、やはり魔女さんたちはスゲーよな。これだけで敵にしたらダメだってわかるぜ。


 所々早送りし、水蒸気爆発まで見てたら朝になってしまい、外が騒がしくなって来た。


 なんだ? と思ってたらメイドさんが入って来た。


「べー様。新たなX4が現れ、ブラックサウザンガー隊が出ました」


 あんな巨体なものどうやって運んで来たんだ? と思いながらテントから出ると、ブラックサウザンガーが一体、体育座りしていた。


「いや、もっと違う姿勢があっただろう」


 なんで体育座りなんだよ? 片膝立てる姿勢とかあっただろう。シュールすぎて笑いが湧いて来るわ。


「ん? なんか小さくね?」


 三〇メートルくらいにした記憶があるんだが、なんか二回りくらい小さくなっていた。


「プリッシュ様にお願いして輸送機に入るサイズにしてもらったそうです」


 あのメルヘンはオレの知らないところでなにやってんだか。


「プリッシュ様もきっと同じこと思ってますよ」


 共存体と言いながら一緒にいないメルヘンが悪い。


「どこで戦ってんだ?」


「ここより東に三キロとのことです」


 あちらですと指を差してくれた。


「三キロか。歩いていくには遠いな」


 村人感覚では近いが、魔女さんたちを連れていくには距離がありすぎる。空飛ぶ結界でいくか? 


「問題ない。飛んでいく」


 と、箒を出現させる魔女さんたち。ワンダーワンドか?


「シュードゥ族が急いで作ってくれた」


「無茶させてねーだろうな?」


 オバチャンたちの怒りがこっちに回って来るとか勘弁だぞ。


「急がせた分の報酬は渡しておる。あちらも喜んでいたよ」


 それならイイが、本当に頼むぜ。


「なら、ワンダーワンドでいくか。あ、ミタさんからの連絡はまだか?」


「一度ありました。勇者様がまだ目覚めないとのことでした」


 まあ、あれだけのことがあったんだから一日二日では目覚めんか。


「了解。んじゃ、いくぞ」


 オレは空飛ぶ結界にて出発した。


 上昇すると、遠くに土煙が上がっているのが見えた。あそこか。


「結構激しく戦ってんな」


 白いのが土煙の中から吹き飛ばされ、猫のような動きで回転して着地し、また土煙の中へと入っていった。


 五〇〇メートル付近で一旦停止。ここで観戦することにした。これ以上は危険っぽいしな。


「強さを確かめたいなら参戦してイイぜ」


「遠慮しておく。で、フュワール・レワロの中にいる生き物より強いのか?」


「う~ん? フュワール・レワロのがかな? 単体としては、だけど」


 数の脅威はセーサランが上だろう。その繁殖力も、な。


「ってか、ブラックサウザンガー数体で相手してんのに、よくサプルは一人で倒したな」


 アニメな中の兵器とは言え、ブラックサウザンガーもそれなりに強いはず。それが倒せないでいるのだからX4の強さがわかると言うものだ。


「あんなのが何百何千と押し寄せて来たらこの世界は終わるな」


 天地崩壊以来の大厄災だぞ。


「なにか策はあるのか?」


「ねーな」


 オレをなんだと思ってんのかね? 神や悪魔じゃねーんだからなんともならんよ。


「ただまあ、悲観はしてねーな。アレくらいならなんとかなる戦力はあるからな」


 カイナにエリナ、そして、タケルがいる。X4、いや、X6までなら対処できるはずだ。


「それにしては顔色はよくないな」


「斥候を四方に放ち、戻って来なければどう思う?」


「なにかいると思うな」


 まっとうな思考を持っていればそれが当たり前だ。


「前途多難だな」


「そうだな」


「……なにかあるのなら教えてもらいたいのだがな」


「叡知の魔女さんは、神を信じるかい?」


 この世界、なんとか神を信仰するってことねーんだよな、不思議なことに。オレらのいる大陸は精霊信仰だし、聖国でも聖女信仰だ。南の大陸は聖竜信仰のはず。


「わたしは会ったことはないが、いるとは聞いておる。お主も会った口か?」


 グレン婆の代の転生者から受け継がれてたのかな?


「会ったことはねーが、それっぽいのには人生を弄ばれてる感じはするな」


 オレは前世の記憶なんて願わなかった。なのに、前世の記憶を持ったまま生まれた。エリナやタケル、カイナと出会うまでは気にもしなかったが、こうも転生者と出会うならわざと前世の記憶を消されなかったと見るほうが自然だわ。


「やはり、お主は導き手だったか」


「導き手?」


 なんだい、それ?


「この世に厄災が起こるとき、神が導き手をこの世に呼ぶそうだ。まあ、古のときから伝わっている言葉だ」


「……オレは、そんな大役を任せられるような男じゃねーんだがな……」


 ただ、悠々自適に、自由気ままに、のんびりゆったり生きて、イイ人生だったと死にたいだけの男なのによ……。

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