第152話 未来へのバトン

「お前の妹、死神かなにかなの?」


 うちの妹、化け物とか死神とか酷い言われようである。まあ、違うと否定できない戦いがすぐそこで起こっているけど……。


「ってか、X4がなんか飛ばしてんな?」


 リューコのときはメルヘン機で倒したのに、X4にはF−4で相手している。どんだけ気にいってんだよ。メルヘン機より性能は落ちるだろうに。


「しかし、X4は硬いな。ミサイルを何発も食らってんのに」


 少なくとも二〇発は直撃している。なのにX4の動きに衰えは感じなかった。


「べー様」


 と呼ばれて結界双眼鏡を外して振り返ると、二代目のメイド長と武装メイド隊がいた。え、どう言うこと?


「サプル様のお供で参りました」


 あ、ああ、うん、そうだよな。サプル一人でよこすわけねーか。なにするかわかんねーし。


「べー様の妹なだけありますね」


 否定はできませぬ。あんな性格になった一端はオレにあるだろうからな。


 ……あんな妹に育ててごめんなさい……。


「あ、うん、ご苦労さまです」


 気苦労の多いメイドの皆さま方に兄として感謝申し上げそうろう。


「いえ、わたしたちの勤めなので」


 サプルのお守りが勤め。オレならノーサンキューだがな。あのゴーイングなマイウェーイにはついていけんよ。


「どの口が言ってるんだか」


 この口ですがなにか?


「べー様。サプル様よりこちらを着れるようにお願いされました」


 メイドさんが白い毛皮──って、もしかしてアリザの脱け殻(毛)か? あいつ、まだ暴飲暴食してんのかよ?


「ま、まあ、やれと言うならやるが、なんでまた?」


 サプルにこんなもん必要ねーだろう。単独でも強いのによ。


 ……確か、勇者ちゃんより強くなかったか……?


「身長が欲しいそうです」


 ん? 身長? ホワイ?


「体がコックピットに合わなくて操縦し難いそうです」


 いや、今そこで人にはできない操縦を見せてますが!? あれで本気出してないとでも言うのかよ?


「魔力をコントロールして操縦しているそうです。わたしどもにはよくわかりませんが」


 うん。オレにもわからないから大丈夫だよ。安心して。


「ま、まあ、要するに、パイロットスーツ的なものが欲しいと言うことだな」


 テキトーな解釈で納得させていただきます。


 アリザの脱け殻(毛)を受け取り、伸縮能力と堅柔能力で獣型から人型に、いや、女性型にする。同じだと区別がつかんからな。


「こんなもんか?」


 サプルの好みとして可愛いより格好イイだからな。


「なにか小物をつけたいときは言え。付け足すからよ」


「はい。そうお伝えします」


 と、武装メイドさんが照明弾を打ち上げた。なに?


「用意が整いましたので、サプル様にご報告です」


 どう言うこっちゃ? と首を傾げていたらF−4が不時着して来た。おいおいおいおいっ!!


「シフさん!」


「こちらです」


 メイドさんズがモコモコスーツの腕をつかみ、開いた背中を見せていた。


「あんちゃん、ありがとね!」


 モコモコスーツの背中へと飛び込み、背中が閉じる。今さらながら謎機構だよな。


「──メロディ、装着!」 


 はぁ? メロディ? ホワイ?


 モコモコスーツを纏ったサプルがどこかへと駆けていった。


「……いったいなにが起こってるんだ……?」


「サプル様専用機が参ります」


 はぁ? 専用機? ホワイ?


 もうなにがなんだかわからない。そんなときはスルー拳八倍! で気にもならん。


 椅子に座り直してコーヒーうめ~。もう流れに身を任せますかね。


「……現実逃避だな……」


 ハイ、現実逃避です。もうオレの理解を超えてますんで。


「なんか飛んで来たぞ」


 そう言う実況止めてください。もうオレはマン○ムタイムに突入してんだからさ。


「この世界、著作権とか大丈夫なのか?」


「カットすればなにも問題ない」


 イイかい、皆。戦いは君たちの心の中でイメージするんだ。そうすれば世界は平和だ。著作権とかない。ないんだよ。イイね!


「戦いは結果だ。過程はどうでもイイんだ」


「誰に言ってんだよ?」


「事情を察せれる大きなお友達にだよ」


 すべては君たちにかかっている。頼むよ、マイフレンド!


   ◆◆◆◆


 戦いはサプルが勝利した。


「だが、サプルの戦いはこれから。打ち切りエンドでさようなら~。次回作へ乞うご期待。あるかないかは君たち次第だ」


 よし。オレはオレの物語を進めるとしましょうかね。


「お前の苦悩はまだまだ続く、の間違いだろう?」


 そんな打ち切りエンド嫌だよ! いや、オレの人生、打ち切りにはさせねーけど!


「クソ。オレのスローライフはもっと穏やかなのによ!」


「スローライフってアレだろう? 冒険したり厄介事に巻き込まれたりハーレム作ったり……まんまお前の人生だな……」


 厄介事に巻き込まれるのは、百歩譲って認めるが、冒険もハーレムもしたことねーよ! 


「べー様」


 口の減らない猫をつかんで投げようとしたら、二代目メイド長さんに入って来られてしまった。


「サプル様が帰還しますので、わたしたちはこれで失礼します」


 二代目メイド長さんがお辞儀し、メイドさんズを連れて去っていった。


「……優秀なメイド長さんだよ……」


 ダークエルフってどうなってんだろな? メイドになるために生まれて来たのか? いや、メイドらしい仕事してないほうが多いけど!


「中尉。X4の死亡が確認されたら教えてくれ。オレも見たいからよ」


「はっ! 了解しました!」


 それまでに精神を落ち着かせておこう。地下に下りるより地上に出てからのほうが精神的に追いやられてるぜ。


 コーヒーを飲んでいると、ヴィアンサプレシア号とプリッシュ号改がやって来た。


 どうやら湖に着水するようで、徐々に降下して来る。


「戻る必要あったのか?」


 まあ、あちらはあちらのやり方があるからどうでもイイが、まだ物体Xがいるかもしれんのにアブねーだろう。いや、物体Xのほうがアブねーか。


 ヴィアンサプレシア号とプリッシュ号改が着水。クルーザーが何隻も出て来た。プリッつあんは飛んでこちらにやって来ました。


「ヤッホー」


「ヤッホーじゃねーわ。騒がしくしやがって」


「べーほど騒がしくしてないわよ。流通を遮断しておいて」


 クッ。見透かされてる。どこでバレた?


「やってること見てたらわかるわよ。べーは悪辣だからね」


「お前のストッパーは優秀だな」


 オレを止めるなど片腹痛いわ。やれるもんならやってみるがイイ!


 ……でも、全力で来られたら嫌なのでこそっとやりますけどね……。


「それで、勇者ちゃんはどうしたの?」


「ミタさんに任せてるよ。そのうち連絡来るだろう」


 あれからまだ三時間。まだ連絡は来ないだろうよ。


「そうなんだ。じゃあ、それまで待ちますか」


「そう言や、レニスってどうした? もう腹もデカくなってんだろう」


 何ヶ月かは知らんが、ちょっと腹が出てた記憶はある。つーか、あれで出歩いてるとか、妊娠舐めてんだろう。


 ……いや、オカンも産まれる数日まで働いてたけどよ……。


「アサクーサに閉じ込めてるわ。ちょっと目を放すといなくなるからね」


 ん? アサクーサ? って、浅草のことか? 


「カイナが名付けたのよ」


 ま、まあ、浅草っぽいしな、使う者がイイならオレに文句はねーよ。


「カイナーズの医療班がつきっきりで見てるから大丈夫よ。予定では一月から二月くらいだって」


 もうそんな周期になってたのか。ほんと、妊娠しちゃダメな女だよ。


「安全に産まれるとイイな」


「そうね。妊婦が妊婦だしね……」


 この世界に安産祈願できる場所はないのか? ヤオヨロズの国に造っておくか?


「べー様! X4の死亡が確認できました」


「あいよ。オレらはちょっと調べて来るよ」


「物好きね、あんな気持ち悪いの調べるなんて」


 物好きは認めるが、物体Xを調べるのは今後のことにかかわって来る。見逃すことはできねーよ。


「わたしはパスね」


 最初から期待してねーよ。


 スネーク大隊に案内してもらいX4のところへと向かった。


 四時間かけてX4のところに到着したらテントがいくつも設営されており、防護服を着たヤツまでいた。


「ちゃんとバイオハザードに気をつけてんだな」


 まあ、もうバイオハザードが起きてるようなもんだけどよ。


「べー様。防護服を着ますか?」


「いや、いらんよ。オレの力で防護するからよ」


 ってか、地下に下りるときに結界を纏わせてある。鳥インフルだって防ぐさ。


「もう解体してるのかい?」


「血液は採取しましたが、解体はしておりません。刃物が通じませんので」


 まあ、著作権保護の兵器で倒したからな、刃物なんて通じるわけねーだろうよ。


 X4のところへ向かうと、肌? 皮膚? が黒くなっている。生きてるときは小麦色してたのにな。


「こんなのが大量に生まれてたかと思うとゾッとするな」


 視界に入るだけで三〇以上はあった。あれが孵化したら世界は酷いことになっていることだろうよ。


「水蒸気爆発が収まったらまた調べにいかんとな」


「それでしたらブラックサウザンガー隊を呼び寄せております。あれなら溶岩の熱さにも耐えれますので」


 アリザ、どんだけ最強生命体なんだよ。あいつらも宇宙から来たのか?


「ん~。解体するにはデカいし、変な病気を撒き散らしても困るし、小さくするか」


 宇宙から来た物体Xに効くかな? と思ったら効きました。メルヘンの力は宇宙レベルだな。


 三メートルくらいにして、外に漏れないよう結界ドームを展開した。


「解体、いや、解剖する。カイナーズからも人を出せや。あと録画してくれ。未来に託すからよ」


 今のオレにできることをして未来にバトンを渡すよ。

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