第151話 害虫駆除
結界灯をいくつか展開させた。
「なんと言うか、生物の体内みたいだな」
今自分が踏んでいるところを足で叩くと、肉っぽい弾力があり、結界刀で斬ったら透明な液体が滲み出て来た。
「……生きてると言うより装置って感じだな……」
一帯を結界で包み込み、いっきに圧縮する。
厚みは一メートルくらいあり、切り口からは透明な液体が漏れている。
「爆発することはないか」
「あったらどうするつもりだったんですか!? 無謀すぎますよ!」
「爆発してくれるなら万々歳だよ」
それなら問題はいっきに解決だし、オレの結界なら噴火したって防げるさ。
「と言うか、最悪のほうに流れてるよ」
切り口がまるで細胞分裂かのような働きを見せている。
まあ、一瞬にして治癒、とかじゃない。じわりじわりと治癒している感じだ。
「このスピードを考えると、落ちて来たのは一〇〇年も前かな?」
なんともゆっくりな侵略だな。
「一〇〇年もかけた侵略を村人に阻止されるんだから、Xさんたちはたまったもんじゃないでしょうね」
仲良くしましょうってんなら仲良くもするが、問答無用で侵略して来るヤツらの事情など知るか。惨めに潰されろ、だ。
一通り、結界圧縮して一帯を元に戻した。
「反撃がねーな?」
「その敵を呼び寄せる姿勢、止めたほうがいいですよ」
滅ぼしても心が痛まない相手にしかしないよ。
「そう言って村周辺の魔物を根絶やしにしたじゃないですか」
それを反省してのことです!
「……もう、いないの……?」
「いや、分散してるんじゃねーかな? スネーク大隊もXをぶっ殺してるだろうし」
カイナーズも敵には容赦はねー。見つけたらミンチにしてるだろうよ。
「……Xさんも落ちて来るところ間違えましたね……」
それで諦めてくれたらいいんだがな。どうも侵略する手口が確立された感じがするし、繁殖力が異常だ。多少の失敗など恐るるに足らん、って感じだぜ。
「さて。どちらに向かおうかね?」
肉の壁は幾方向かに続いている。
「まるで樹の根だな」
おそらく、どれもマグマにまでいってると思うが、そのままマグマにダイブは御免被る。
「ミタさん。爆破できるようにしてくれや」
「畏まりました」
「逃げ道を塞ぐ気?」
「大丈夫だよ。オレの土魔法は神の域だ」
文字通り、土魔法は神(?)からもらった能力。間違ってはいない。
「どれにしようかな? 神様の言う通り。よし、あの穴にいくか」
「また、そんな適当な……」
オレの当てずっぽうも神がかっている。ダメなときは神様が悪いってことだ。
……こんなことにオレに強要させる神様が憎いぜ……。
結界圧縮排除しながら先を進むと、Xがわらわらと現れた。
「べー様、ここは我々がやります」
と言うのでスネーク大隊に任せた。
「今さらだけど、補給なしてよく戦えるな?」
ってか、装備も変わってるな。ランボー者が持ったら似合いそうな機関銃をぶっ放しているよ。
「いえ、一小隊には補給兵がいて弾薬を召喚しています」
「召喚って、また凄いことやってんな」
それはもう無敵じゃねーか。いや、最初から無敵の軍隊だけど!
「……あなたたち、いったいなんなのよ……」
「帝国だけが発展してるわけじゃねー、ってことだよ」
小人族がイイ証拠だ。努々忘れるなかれ、だぜ。
「背後からXが現れました!」
メイドさんからの報告。
「ミタさん」
「畏まりました。皆殺しにしなさい!」
メイドから出る言葉じゃねーが、うちのメイドからはよく聞く言葉だ。
「オレも手榴弾に慣れておくか」
前はスネーク大隊に任せ、ポケットから手榴弾を出してピンを抜いて、メイドさんの間から全力投球。Xを何匹も粉砕しながら五秒後に……爆発しねーな。
「不発か?」
「……壊れたと思いますよ……」
「貧弱だな、手榴弾って」
もっと硬いイメージがあったんだがな。これなら鉄球のほうがまだ殺傷力があるぜ。
「べー様、四〇メートルから五〇メートルくらいの場所に投げてください」
ミタさんからの言葉だと、もう殲滅されてますけど。
「しょうがねーな。なら、大リーグボールハリケーンだ!」
手榴弾を結界で包み込み、渦巻くような動きをさせてXを薙ぎ払い、百メートルくらいのところで爆発させた。
「やっぱり威力がショボいな」
もっとこう、家が吹き飛ぶくらいの威力が欲しいぜ。
「生き埋めになっちゃいますよ」
「大丈夫。土魔法で補強させながら進んでるからな」
結界圧縮排除したら土魔法で補強する。イイ訓練になるぜ。
少しずつ先に進んでいると、後方からのXが潮が引くようにいなくなった。
「……不味い流れですよね……」
だな。
「つまり、この状況を不味いと判断できて、違う対処を考える存在がいるってことだ」
ただ、人並みの知能があるとは思えない。決められたことを決められた通りに動いて、問題が出たら考える知能はある感じっぼいな。
「メイドさんズ、下がれ」
土魔法で砲弾をいっきに二〇発創った。
「害虫駆除はオレに任せておきな」
「頼もしいのに、なぜか不安を感じさせるのがべー様ですよね」
ちょっと黙っててくれません。今、シリアスな場面なんですから。
「やっぱりX2か。害虫に不足はねー」
結界灯に照らされた領域にわしゃわしゃさせた触手が現れた。
結界砲に砲弾を詰める。
「殲滅技が一つ、殲滅拳!」
砲弾の尻を全力で殴って撃ち出した。
◆◆◆◆
連打! 連打! 連打! で、X3をぶっ潰す。
「……お前の能力、チートすぎんだろう……」
カイナやエリナと比べたらオレの能力など児戯なもんだよ。
「力は使いようだ」
前世は趣味もなく、ただ漫然に生きていたが、こんな能力があったらイイな~と妄想することは多々あった。
……まあ、前世の記憶が受け継がれたのは妄想(いや、想像か)できなかったけどな……。
「飛竜より堅い、な」
砲弾に纏わせた結界からX3の強度がなんとなくわかった。
「……比べる対象がおかしすぎるだろう……」
「オレが倒した中で飛竜が上なんだからしょうがねーだろう」
捌いたのはまだ八歳だったサプルだけどな。
計二十五発でX3が沈黙したが、まだ生きてる感じがする。さすが宇宙から来た生き物。生命力が高いこと。
結界弾を創り出し、殴って撃ち出した。
X3に直撃。結界に包まれる。
「圧縮」
で、トドメを刺した。
「し、死んだのか?」
「お前、フラグ立たせるなよ。言わないようにしてたのによ」
まあ、立ったら立ったでへし折ってやるまでだがな。
「べー様。我々が確認して来ます」
スネーク大隊の一人が確認しに向かった。
「ってか、勇者はこっちにいるのか? いや、そもそも生きてるのか? いくらチート勇者でもまだ七歳の女の子だろう」
あれ? 勇者ちゃんって何歳だっけ? 一一歳? ま、まあ、なんでもイイか。
「生きてはいるよ」
どんな状況になっているかはわからんけどな。
「べー様。X3の死亡を確認しました」
「ご苦労さん。なら、肉塊一つ残らず片付けておくか」
宇宙産のDNAはおっかねーからな。
結界に収められなかったX3の肉塊を結界で集め、サンプル以外は圧縮して消去した。
「静かだな」
「今のがラスボスだったのか?」
「だからそう言うフラグを立てるなや」
最後、油断したところで、なんてなったら泣くに泣けんわ。
「いくぞ」
またスネーク大隊が先頭に立ち、穴の奥へと進んだ。
「……穴が小さくなって来たな……」
あと、温度が高くなって来ている。結界を施してなかったら確実に死んでたところだろうよ。
しばらく進むと、また縦穴が現れた。
「……熱風が凄いな……」
空気が歪んでいる。結界を解いたら一瞬にして熱死してしまうかもな。
「この下にいくのか? とても勇者がいるとは思えないだろう」
「普通はそうだろうな」
だが、勇者ちゃんは野性的な直感を持っている。咄嗟に物体Xが来ない場所と判断してここに逃げたんじゃねーかな?
「そう言や、カイナーズの先遣隊って見つかったのか?」
「いえ、まだです。ですが、補給召喚をしているので生きてるとは思います」
とはスネーク大隊の一人。
「カイナーズは、この熱に耐えられるのか?」
さすがに勇者ちゃんたちに施した結界は分裂仕様にはしてなかったぞ。
「先遣隊や偵察隊は、カイナ様が直接魔力を分けているので溶岩に落ちても死んだりはしません」
カイナってそう言うところは徹底してるよな。安全第一って感じか?
「下りるぞ」
土魔法で螺旋階段を創って下へと向かった。
「物体Xもさすがにマグマには勝てんのかね?」
「銃弾で死ぬくらいだからそうかもな」
「エイリアンやプレデターじゃないだけマシだな」
「物体Xが数種類だけ、だったらな」
侵略するにしては物体Xは弱い。どんなに繁殖力が高く数が多くてもその星の生き物に淘汰される可能性のほうが高いだろう。
「今まさに村人に滅ぼされそうとしてますしね」
幽霊さんは皮肉が利いてますこと。
「止まれ!」
と、先頭にいる中尉が声を上げた。
「なにか来るぞ!」
確かになにか這いずる音がする。ヤヴイ感じのな……。
すぐに土魔法で横穴を掘り、皆を中へと入れた──その瞬間、なにかが通りすぎていった。
「……X4かよ……」
もう数字じゃなく個別呼称をつけたほうがいいかもな……。
「ミタさん、上にいるヤツに連絡してくれ」
「わ、わかりました!」
スマッグを出してどこかへと連絡した。エリナの能力、マジチートで助かるわ。
穴から顔を出し、上を見るが、X4の姿はなかった。
「……あれは、ヤヴイものだったな……」
オレの考えるな、感じろが働いた。X3の比ではねーくらいのヤヴイものだ。
「時間が惜しい。飛び降りるぞ!」
言って穴へとダイブした。
勇者ちゃん、この先にいてくれよ!
◆◆◆◆
「マイロード。ミタレッティー様から通信です」
久しぶりに幼女メイドになったドレミがスマッグを差し出して来た。
「通じるんだ」
結界の外は酷いことになってるのに、スマッグは当たり前のように通じるとか、エリナは神か? あ、腐を撒き散らす腐神兵だったな。
スマッグを受け取る。しもしも?
「べー様。勇者様を保護しました。全員無事です」
「おう、ご苦労様。そちらと繋いでも大丈夫かい?」
「いえ、もう少しお待ちください。身を綺麗にしますので」
まあ、何日も風呂に入ってないだろうし、汚れたままで野郎の前に立つのは嫌だろうしな。
「ん? もしかして、先遣隊って女なのか?」
とはスネーク大隊のヤツに尋ねた。
「はい。勇者様は女性と聞いていたので」
「それはまた、気の利いたヤツがいること。あの氷のような青鬼レディか?」
それでわかったのだろう、スネーク大隊のヤツらがオレから目を逸らした。
「わかった。こちらは先に上がるから終わったら連絡してくれや」
「畏まりました」
と、通信が切れた。あちらから切るとは、どうやら忙しそうだ。
「あちらは大丈夫なようだし、地上に戻るか」
「どうやってよ」
こうやってだよと、転移結界門を創り出し、塩湖の湖畔に設置しておいた転移結界門に繋いだ。
「……このチート野郎が……」
なんの罵りだよ。お前だって神(?)から三つの能力をもらってんだから平等だろうがよ。お前が望んだ能力を、な。
転移結界門から出ると、なんか爆音が轟いていた。なによ?
音がする方──結界双眼鏡で山脈方向を見ると、鋭角な怪獣が暴れていた
「……もしかして、X4か……?」
一瞬の邂逅だったが、感じる気配が同じっぽい。地上に出るまで成長したのか?
「ってか、水蒸気爆発の威力はスゲーな」
結界双眼鏡を右にずらすと、水蒸気だか灰だかがもくもくと天高く上がっている。
「お前がやったんだけどな」
「もっとスゴいことになる予想してたんだが、これなら問題ねーな」
「自然災害を問題ないとか、サイコパスの基準で語んなや」
まったく、突っ込みのうるさい猫だよ。
「まあ、これでこちら側にやって来るヤツはいねーな」
災い転じて福と成す。シープリット族にガンバって支配してもらおうかね。クケケ。
「……お前、どこまで計算してやってるんだよ……」
「そうなったらイイな~、ってくらいかな?」
オレはそこまで計算高くねーよ。まあ、状況状況で最良の選択をしてはいるがな。
「べー様。スネーク大隊がアレと戦っているようです」
連絡を取ったのか、スネーク大隊のヤツが教えてくれた。
「状況は?」
「あまりよろしくないようです。対戦車砲で対応していますが、足止めが精々とのことです」
「スネーク大隊だけでいけるか?」
「援軍が来るそうです」
「援軍?」
なんだろう。このパターン、前にも経験したような気がするんだが……。
「あと五分で到着するそうです」
あーこれはあれだ。もうオレの出番はねーってことだ。
「うん。コーヒーでも飲むか。山岳隊、スネーク大隊は酒でも飲め。オレが許す」
土魔法でテーブルと椅子を創り出し、酒とツマミを出してやる。
「お、おい、のんきにもほどがあんだろう」
「もうのんきにしててイイよ。X4の未来は決まったんだからよ。ほら、ペ○シとハンバーガーだ。食え」
魔女さんたちにはパンケーキと紅茶を出してやった。
「いったいどう言うことだよ?」
「ヴィアンサプレシア号が来ている時点で気がついておくべきだったな」
あと、プリッつあんもついて来なかったことにも。
「はぁ? どう言うことだよ? 説明しろよ」
「耳をすませてみろよ」
もうオレの耳には届いているぞ。ファンタジーの空では絶対に聞くことはない音が、な。
「……こ、これって……?」
「べー様、来ます!」
空に目を向けると、いくつものミサイルが飛び越えていった。
察しのよい方ならもうおわかりだろう。ファンタジーの空を翔る少女のことを。
「うちの妹はなにになろうとしてんだろうな?」
X4へとミサイルが直撃。大爆発を起こした。
そして、オレンジ色のF−4とメルヘン機がV字編隊を組んで上空を飛び抜けていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます