第154話 導き手
それから三〇数分。ブラックサウザンガーがX4を倒した。
「ってか、殴り合いだったな」
まあ、モコモコスーツにビームを出す機能はねー。殴り合いしかやれねーか。
土煙が収まるまで待ち、X4のもとへ降下した。
カイナーズはすでに集まっており、テントを設営していた。
「べー様」
と、スネーク大隊のアパッチ少佐(赤鬼)がやって来た。
「少佐も戦ってたのかい?」
「ブラックサウザンガーが戦うまでは、ですがね」
不満がありありと出ているな~。
「まあ、スネーク大隊は即応力がもの言うところだからな。しょうがねーさ」
オレには慰めてもやれん。カイナーズはカイナの管轄だからな。
「X1からX3までスネーク大隊でもなんとかできるんだから一匹残らず駆除してくれや」
X4が生きてるなら他もまだ生きているはず。一刻も早く平和にしてくれや。
「そうですな。腐っていてもしかたがありません。べー様にいただいた名前に恥じぬ働きをしましょう」
魔大陸のヤツらってほんと、名前をつけてもらうのが好きだよな。ただそれっぽいからつけた身としては心苦しいぜ……。
「おう。ハイスコア狙ってガンバれや」
「はっ! ご期待に添えるよう撃ち殺して来ます」
イイ笑顔を残して去っていくアパッチ少佐。頼もしい限りだよ。
「魔の者を従えるのも大変だな」
さすが叡知の魔女さん。よくわかってらっしゃる。
「多民族を統治する帝国ほどじゃないさ」
どちらも大変ちゃ大変だが、人口の多い帝国よりはまだこちらがマシだろうよ。オレの配下ってわけじゃねーしな。
「X4にどんな毒があるかわからんから魔女さんたちに結界を施すが、構わんかい?」
「構わぬ」
と言うので、魔女さんたち全員に結界を纏わせた。
X4のところに向かうと、セイワ族と蒼魔族のハーフの男──なんて言ったっけ、こいつ?
「デオラです」
「あーうんうん。デオラデオラ。知ってるよ」
「今、名乗りましたけどね」
「──叡知の魔女さん、こちらカイナーズのデオラさんだよ。セーサランの第一人者だ」
「今のところ第一人者はべー様だと思うのですが?」
い、言うじゃねーか、デオラさんよ。さすが先生に張り合おうとするだけはあるぜ……。
「すぐにあんたが第一人者になるんだからイイんだよ!」
「なんの逆切れですか。まあ、いいです。解剖してください。これを解剖できるのべー様だけなんですから」
……ストイックなやっちゃ……。
「わかったよ」
X4を小さくして結界ドームを創った。
「……神聖魔法ですって……?」
一人の魔女さんがそう口にした。
「帝国ではそう言うんだ」
オレらの前に転生者がいるのだから結界使用能力のような能力を持ったヤツがいても不思議じゃねーし、名称がつくのも当然だか、なんとも仰々しい名称なこった。
「お主はなんと呼んでいるのだ?」
「これと言った呼び方はしてねーな。魔法とは次元の違う力とかなんとかだな」
気の利いた名称なんて思いつかんかったしよ。
「まあ、そんな名称があるなら使わせてもらうよ」
ないならないでよかったが、あるならあるで使うまでだ。
「しかし、今回は撲殺か。あれだけ殴って死なないとか打撃には強いみたいだな」
「そうですな。サプル様はレーザーナイフで斬り裂いてましたから熱には弱いのでしょうか?」
「レーザーが何度かは知らんが、アーク溶接なら焼き切れるってことか」
アーク溶接も詳しくないが、数千度になるとか聞いたことはある。あのくらいならX4は斬れるってことだ。
「通常兵器で倒すのは大変そうですな」
「そうだな」
熱兵器か。カイナじゃ無理だな。西暦2000年台くらいの兵器までしか出せんだろうからな。
「少し、試してよいか?」
と、叡知の魔女さんが話に入って来た。
「ああ、イイよ」
なにか考えがあるならいくらでも示してくれや。
X4に近づくと、叡知の魔女さんの手のひらが蜃気楼のように揺らめくと、X4に触れた──瞬間にX4の体が砂塵のように崩れた。
「……効果はあったか……」
「な、なにしたんだ?」
アーク溶接で切り裂くような体だぞ!?
「消滅魔法だ」
しょ、消滅魔法? なんだ、そのご都合感がスゴい魔法は?
「初代様から受け継がれる魔女の秘技だ」
「そんな秘技をオレらに見せてイイのかよ?」
他の魔女さんたちが口を開けて驚いてんぞ。
「導き手たるお主が秘密を晒しているのだ、こちらも晒さねば礼儀に反するだろう?」
やはり叡知の魔女さんは敵にしちゃダメなタイプだぜ。
「魔女は帝国がまだ一勢力だった頃から支えた集団。千年以上の歴史を持っている。あの地を平定するまでにはたくさんの強敵を葬って来た。その中な強靭な体を持つ竜もいた。そんな相手を屠るために初代様が生み出したのがこの消滅魔法だ」
おそらく、その初代様とやらは転生者だろうな。
「初代様も神聖魔法の使い手であり、魔法を創り出す力を持っていた」
もう確定。転生者だわ。
「つまり、その初代様は、導き手だったってことか」
「ああ。グレンも導き手だったと聞く」
人外どもの導き手か。あいつらしいぜ……。
◆◆◆◆
どうやら自分は導き手として転生させられたようだ。
「まあ、なんでもイイがな」
オレはオレの思うままに生きて、満足して死ぬだけ。そのためにオレの都合のイイ環境を整えるまでだ。
「魔女さんたちに対抗手段があるならなによりだ。そちらがよければ駆除作業に参加するかい?」
カイナーズだけで駆除してしまいそうだが、魔女の目からセーサランを見てもらいたい。オレらじゃ見えないものを見てくれそうだからな。
「よいのか?」
「帝国とはイイ関係でいたいしな、仲良くできることは仲良くしようや」
魔女=帝国だ。魔女として見るのじゃなく帝国と見て相手するべきだ。
「……アレが気に入るのもよくわかるよ……」
アレとはおそらく皇帝の弟だろう。
「村人には恐れ多いこった」
なるべくなら二度と会いたくはねーな。アレは厄介だからな。
「帝国貴族になれば少しは和らぐぞ」
「……オレの情報、だだ漏れだな……」
まあ、別に隠してもねーし、金髪ねーちゃんズが村に来た時点でバレるのも時間の問題だったが、それでもよく調べたものだ。さすが帝国だよ。
「お主には正統な継承権があるぞ」
フェリエのことにはまだ触れないか。ってことはまだ猶予があるってことだな。
「オレは、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。ボブラ村生まれの村人だよ」
オレは死ぬそのときまで村人で、ボブラ村から離れることはねー。
「今、メッチャ離れてますけどね」
これは旅行です! あと、メッチャとか使うなや!
「ふふ。そうだな。帝国に来られてかき乱されるのも困るしの」
「オレはことなかれ主義なんだけどな」
「お主が歩くと波乱しか生み出しておらんだろう」
叡知の魔女さんからの突っ込み。厳しいわ~。
「オレ自身が波乱を生み出してるわけじゃねーし」
「自ら突っ込んでいればもはやお主が起こしているのと同じだ」
クッ。突っ込みに容赦がねーな、叡知の魔女さんは。
「まあ、よい。波乱を解決できぬ男ではないしな。ここに支所を置かしてもらうよ。リンベルク」
「──はい!」
と、委員長さんが返事をした。あ、リンベルクって名前なんだ。まあ、明日には忘れてるだろうけどな。
「側にいてよく学ぶがよい」
そう言って結界から出ていき、消えると同時に委員長さんが膝から崩れ落ちた。
「あの方、それほどの方なので? あ、デオラですよ。難しいようでしたらベー様の呼びやすいように呼んでください」
「じゃあ、
博士ははかせ、な。
「博士ですか。その称号に恥じぬ働きをしましょう」
期待してるよ。全種族の命運がかかってるんだからな。
「それで、あの方はベー様が気を使うだけの方なので?」
「あの叡知の魔女さんはおそらく、セーサランを知ってるな」
勘でしかねーが、外れてはいないはずだ。
「あの消滅魔法ですか?」
「ああ。あれはセーサラン対策で考えたものだと思う」
必要だから創られたのなら、それだけの存在だったってこと。そんな存在ならなにかしら伝わっているはずだし、伝わってないのなら隠蔽されているかだ。
しかも初代様とやらは転生者で導き手。グレン婆と繋がりがあるような口振り。他にも転生者の影がある。ってことはその時代にも転生者を呼び込むなにかがあったってことだ。
「帝国はいろいろと謎があり、あの魔女さんが受け継いでいる感じだ。こちらの知らない情報を持っているなら仲良くしたほうが得だろう?」
「それをそこの魔女に聞かれてもよろしいので?」
ギクリとする委員長さん。まだまだ腹芸ができないお年頃か。
「叡知の魔女さんは、こちらの考えなんてお見通しだよ」
あれはオレより遥かに強かな存在だ。
「まあ、こちらはこちらの事情で進めたらイイさ。目的は同じなんだからな」
オレが生きているうちにこの世界が一つになることはないだろう。なら、それぞれの思惑のうちでやっていくしかねー。
「誰よりも強者たれ。昔、わたしが仕えていた魔王様が言ってました」
それを倒したのがカイナってオチだろう。
「それはちょっと違うな。弱者でも知恵を使えば強者を屠ることはできるからな」
「では、ベー様ならなんと申します?」
「死にたくなければ強く賢く味方を集めろ、だな」
数に勝る力なし。皆で幸せになりましょう、だ。
◆◆◆◆
「ベー様。魔女と協力し合うなら代表者を決めねばなりませんが、誰か推薦してください。あ、わたしは外してください。そう言う面倒事はしたくありませんので」
「じゃあ、魔女さんたちから出してもらうか」
そう言うの得意そうだしな。
「カイナーズには対策チームみたいのはあるのかい?」
「対策と言うか対応チームはありますね。空挺部隊とシーカイナーズが当たってます」
「博士以外はいねーのかい?」
解剖のときも博士一人だけだったが。
「わたしのような物好きは少数。カイナーズに拾ってもらわなければ死んでましたよ」
そりゃそうか。運がよかったんだな、博士は。
「これから博士のようなヤツが必要だってのに、なんとも泣けて来る話だな」
今すぐ必要じゃないとは言え、これから育つのを考えたらため息しか出ねーよ。
「──いや、そうでもねーな。いたな、こう言うの得意なの」
「いるので?」
「ああ。小人族にな」
竜機や水竜機など生体兵器を扱っている。技術だけなら何百年も先をいっている種族である。
「小人族ですか。わたしは会ったことがないですが、セーサランに興味を持ちますか?」
「それはわからん。だが、話をしてみるのもイイかもな」
ダメならダメで違う方法を考えたらイイ。成るように成るさ。
「ドレミ。殿様のところに連絡入れられるか?」
主要なところには分離体がいるはずだ。
「はい。できます」
「なら、生体学に詳しい者を貸してくれと伝えてくれ」
「わかりました」
ドレミに任せて結界から出ると、魔女さん──前に会ったな、この人。
「魔法庁所属調査部補佐長イガリ・ロンガルです」
あ、あー、そんな感じの魔女さんだったな。
「あんたが窓口かい?」
「はい。館長より命じられました」
「前も思いましたが、なんだか幸薄そうな方ですよね」
なんかわかる。星の巡り合わせが悪く、貧乏クジ引きそうな感じだ。
「そうかい。これから小人族と会うから付き合ってくれや」
あと、影が薄くなっている委員長さんもだぞ。
「あ、ベー様。この近くに研究所を造ってください。住む場所も」
「まったく、やることいっぱいだな」
「自業自得ですよ」
オレが原因じゃねーのに、自業自得とか理不尽である。
「まあイイ。まずはカイナーズホームにいくか」
木材を買って家を建てちゃるか。
「補佐長さん、委員長さん、いくぞ」
と言うことで、二人を連れてカイナーズホームへ転移。カイナーズホームのドロティアの港入口へと出現する。
「そう言や、ここに来るのも久しぶりだな」
タケルの潜水艦、ここに戻したんだ。
「タケル、ちゃんとやってるかね?」
この世界が現実だとタケルだけが知らない作戦──だったっけ? まあ、なんでもイイか。タケルを鍛える作戦なんだから。
「あ、あの、これは?」
「海の中を進む乗り物だな」
今度、様子見に行ってみるか。まあ、いつになるかわからんけどよ。
「こっちだ」
こちらから入る者はいないのか、店の中に入っても店員の姿は見て取れなかった。
「──あ、いらっしゃいませ~!」
と、シープリット族の……女? が現れた。カイナーズホームでも働いてんだ。
「邪魔するよ」
「はい。ごゆっくりどうぞ。コンシェルジュ、お呼びしますか?」
カイナーズホームで働くと言動が軽くなるのかな?
「ああ、頼むよ」
女の買い物もあるだろうからコンシェルジュをつけたほうがイイだろう。
しばらくして赤鬼のコンシェルジュさんがやって来た。あの……なんだっけ? 白いコンシェルジュさん?
「コンシェルジュのカノアと申します」
「この二人についてくれ。金はオレから引いてくれや」
「わかりました。ベー様はコンシェルジュ、よろしいので?」
「もう慣れたよ」
さすがに何度も来てるんだから迷子にもならんし、大体のものはどこにあるかわかるよ。
「わかりました」
「委員長さん、必要なものを必要なだけ買っていいから。補佐長さんと相談しな」
「あ、あの、まずは説明をお願いしたいのですが?」
「それはコンシェルジュさんに訊いてくれ。ここがなんなのかオレには説明できんからよ」
ここで働いているヤツからの説明が一番わかんだろう。
「コンシェルジュさん。五時間後にここに連れて来てくれや」
五時間もあれば大体のものは買えんだろう。
「じゃあ、五時間後にな」
この際だから一通り揃えておくか。あと、ココノ屋にも寄るか。カイナーズホームに来て駄菓子買っていかないとミタさんが不貞腐れるからな。
まずは工作コーナーへと向かった。
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