第155話 望んだ道を歩くのは厳しいもの
「おや、ベーじゃないか」
工作コーナーに来たらサリネがいた。
「おう、久しぶり。ここで買い物するんだな」
工房を持ってたんだから道具なんて買うことねーし、木なんてそこら辺から伐ってくればイイんじゃねーの?
「まーね。作るものが多くて材料や道具の消耗が激しくてね、たまに来てるんだよ。ここならなんでも揃うしね」
まあ、職人だってホームセンターを利用するしな、サリネが利用するのも当然か。
「金は足りてるか?」
いや、出してもいないで足りてるかもどうかと思うけどよ。
「ベーにつけといてくれと言ったらなんでも買えるから大丈夫さ」
あ、うん。そうだね。オレの名、便利~。
「そうか。必要ならサプルに言ってもらえな」
村で金を使う機会があるかどうかは知らんけど。
「ああ、わかったよ。で、ベーはなにしてるんだい? 最近……どころか半年以上見てないような気もするが」
オレは何年も見てなかったような気もしないではないが、まあ、それだけ濃い毎日だったってことだ。
「今は南の大陸にいるよ。魔女さんのために家を造ろうと思って材料を買いに来たんだよ」
「わたしを差し置いてよく言えるね」
「いや、お前、忙しいだろう?」
なにかどう忙しいかは知らんけど、材料や道具の消耗が激しいってことは忙しいってことだろう?
「忙しくともベーの仕事を優先するさ。そのために来たんだからね」
律儀なやっちゃ。好きなように生きたらイイのによ。
「それに、弟子が三人できたから練習させたいんだよ」
「弟子? いつの間にできたんだ?」
浦島太郎のようにうちは時間が流れてます。いや、当然だけど!
「前に地下団地造りの手伝いにいったときに弟子入りしたいと言われてね、忙しいから受けたんだよ」
「弟子とか取るタイプだったんだな」
「タイプがなんなのかわからないが、わたしも四〇数年やっているからね、弟子の一人や二人取るさ」
四〇数年?
「サリネ、結構若かったんだな」
一〇〇歳はいってると思ってた──ふぎゃん!
「殴るよ!」
「いや、殴ったんだよ!」
近くにあった角材で、折れるくらいの力で殴ったんだよ! オレでなければ死んでるぞ!
「わたしはまだ五〇歳だよ!」
いや、長命種、いや、ハーフだけど、長生きする種族の年齢に対する考えがよーわからんわ。
「……五〇歳って、人にしたら何歳なんだよ……?」
カーチェやリュケルトの話だとエルフの一〇〇歳はまだ若いほうらしいが、人の年齢にしたらいくつなのかは訊いたことはねー。
「殴るよ!」
と、また角材でこめかみ辺りを折れるくらいの力で殴られた。
「殴ってから言うなや!」
つーか、動きが速くて反応もできんわ! お前、何者なんだよ!?
「女性に年齢のことを訊くのが悪い!」
いや、そうだけども!
「ベーはデリカシーなさすぎだ」
タイプは知らんのにデリカシーは知ってんのかよ! 誰が広めてんだよ! いや、オレもいろいろ前世の言葉広めてるけど!
「それは悪かったよ。おねーさん」
ここは素直に謝っておくのが吉。誠心誠意の謝罪を致します。
「まあ、ベーからしたらおねーさんだから許すけど、次はないからね」
なにがないのかはわからないが、同じ失敗はしないと胸に誓っておく。
「──親方、ありましたぜ」
と、パンチパーマなガタイのイイ赤鬼と筋肉もりもりな下半身がヘビの女、鳶職な格好をしたセイワ族の少年が現れた。
「わたしの弟子だよ」
「また個性のあるヤツを弟子にしたな」
個性は大事だが、協調性も大事なこと教えろよ。いや、これもオレが言えたことじゃないけど!
「あはは。でも、才能はあるから教えるのが楽しくてたまらないよ」
「そうなんだ。そりゃ将来が楽しみだな」
木工(大工か?)職人はまだまだ足りてねー。三人が育ってまた弟子を取ってくれるなら木工職人の未来は明るいってもんだろうよ。
「見るのは初めてだろう。これが雇い主だ」
雇い主がこれ扱い。まあ、誇れる雇い主じゃないからイイけどよ。
「サノンです。よろしくお願いしやす」
とは、パンチパーマなガタイのイイ赤鬼。
「ミヨロンです。よろしくです」
とは筋肉もりもりな下半身ヘビの女。
「ダルガイっス。よろしくっス」
とは鳶職な格好のセイワ族の少年。
「オレはベー。こちらこそよろしくな。イイ仕事してくれや」
ミタさんに言って給金出すようにお願いしとこ。
「皆。家を建てるから店員に言って材料を集めてくれ。ベーは運ぶのを頼むよ」
「本当にイイのか? 仕事を投げ出して?」
「急ぎの仕事はないから大丈夫だよ。作るのはどこでもできるからね」
まあ、サリネがそう言うなら任せるのみ。
「わかった。んじゃ、頼むよ」
「ああ、任せたまえ」
ほんじゃオレはトイレと風呂釜とかを調達するか。誰が住もうが快適にするのがオレのポリシー。妥協はせんのだ。
「あ、店員さん。トイレと風呂のコーナー教えてや」
ちょうどいた店員さんに声をかけて案内してもらった。
◆◆◆◆
家の材料、計一七万円でした~。
──安っ!!
なんて思ったもののここはカイナーズホーム。この世界で一番の激安店。そんなところで一七万円分も買うオレらのほうがおかしいのだ。
……いや、何百億円と使って今さらなんだけどな……。
「わたしも無限鞄が欲しいよ」
すべての材料を無限鞄に入れたらサリネが羨ましそうに口にした。
「店員さん。無限鞄って売ってねーの?」
自分が持ってたからカイナーズホームに売ってるのか気にもしなかったよ。
「申し訳ありません。只今品切れで、次、いつ入荷するかは不明です」
「へー。カイナーズホームでも売ってないもんがあったんだ」
まあ、愛が売ってない時点でカイナーズホームは常識的ってことだ。
「ここを常識的と言えるの、ベー様だけですから」
うっさいよ! 幽霊なら黙ってうらめしやしとけや! いや、恨まれても嫌だけど!
「それなら移動用の乗り物作ってやるよ。荷物がたくさん入るヤツをな」
弟子も増えたならトラック的なもんが必要だろう。
「お、それはいいね。遠出するときリヤカー移動だったから助かるよ」
「遠出するんだ」
村にいくくらいはしてると思ったけどよ。
「最近、近隣の村から頼まれるときもあるし、道作りの宿舎とかも頼まれてるんだよ」
「大忙しだな。本当に大丈夫なのか?」
「問題ないさ。わたしはベーの専属。ベーに頼まれたら優先するとちゃんと言ってるからね」
あ、そう言や、オレの専属だったな。すっかり忘れてたよ。
「んじゃ、その材料も買っていくか」
車コーナーにいってニトントラックのガワやハンドル、錬金の指輪で変化できそうな金属類、小物類を買った。
締めて七千八百円なーり~。うん。精神衛生上そんなものだと納得しておこう。うんうん。
大体のものは買った──いや、大事な買い物忘れてんだろう! ココノ屋にいかんとミタさんに恨まれるよ!
急いでココノ屋に向かい、買えるだけ買い占める。またタヌキばあーさんの性格を忘れててぼったくられたのはイイ思い出でした。
さて。買うものは買ったし、南の大陸──って、地名がねーと不便だな。まあ、今は塩湖と仮称しておくか。あそこに建てるんだしな。
サリネたちを連れて塩湖へと戻ると、周囲にX1の死体だか残骸が転がっていた。
「な、なんだい、これは!?」
「オレが買い物にいっている間に襲撃されたっぽいな」
まだいるとは思ってたけど、これほどいるとは思わなかったよ。最低でも千匹には襲われてんな。
「ベー様!」
と、武装したメイドさんズが駆けて来た。
「おう、ご苦労さん。怪我人は出たかい?」
これと言って心配はないが、さすがにこの数では怪我人は出ただろう。
「新人が数人誤射して打ち身になった者が四人でました」
誤射して打ち身とか意味わから──あ、いや、メイド服、鎧並みに強度があったっけな。
「前にミタレッティーさんを盾にしましたしね」
そ、そんな過去もありましたよね。結界でレイコさんを見えないようにしてからは撃たれる心配ないから忘れてました。
「誰にも認知されないって寂しいですよね」
認知されたらオレが撃たれんだから見えないままでいてください。
「でも、魔女さんたちには微かに見えてるっぽいですね。叡知の魔女さんは確実に見えてるみたいですけど」
まあ、強い結界じゃねーし、魔女さんなら見えても不思議じゃねーか。神聖魔法を知ってるんだからな。
「魔女さんたちは?」
「地下に潜っていきました。試したいと申されて」
「大図書館の魔女と言いながら結構武闘派なんだな」
ヤヴァイ感じはしたが、それは間違いじゃなかったってことだな。
「家を建てる前にX1を片付けんといかんな」
「魔女さんたちは?」
「地下に潜っていきました。試したいと申されて」
「大図書館の魔女と言いながら結構武闘派なんだな」
ヤヴァイ感じはしたが、それは間違いじゃなかったってことだな。
「家を建てる前にX1を片付けんといかんな」
腐って変なもん撒かれても困る。さっさと片付けてしまおうかね。
「サリネ。まずは仮小屋を造ってくれ。拠点は必要だからな」
「ああ、了解した」
サリネに任せてX1を結界で回収。圧縮排除する。
「メイドさんズは、身を綺麗にしろ。服も念入りに消毒だ。X1の体液がかかった者がいたらしばらく隔離しろ。カイナーズにも知らせてくれ」
宇宙からの生命体はなにを持っているかわからんしな、念には念を入れておいて悪いってことはねーだろう。
「畏まりました」
しかし、結構広範囲に散らばってな。こりゃ、日が暮れるまで終わらんかもしれんな。
「さて。パッパとやっちゃいますかね」
まずは多いところから開始した。
◆◆◆◆
片付けでその日が終わってしまった。
「無駄な労働ほど疲れるもんはねーな」
まったく、数だけ増える生き物は厄介でしかたがねーぜ。しかも、肥料にも使えねーとか愚痴の一つも吐きたくなる。セーサランを駆除できる薬品があったら口から突っ込んで奥歯ガタガタさせてやるわ。
「お、ご苦労様。風呂を作っておいたよ。入るかい?」
湖畔に戻って来たら小屋が二軒建ててあり、二〇人くらい入れそうな岩風呂ができていた。
「岩風呂なんてどうしたよ?」
継ぎ目がないところを見ると、土魔法で創った感じだな。
「ヨミロンが創った。土魔法が得意なんで土台とか任せているんだよ」
ヨミロン?
「蛇人族ですよ。土魔法に長けた種族ですね」
あ、筋肉もりもりな下半身ヘビの人か。
「なかなかの使い手だな。スゴく綺麗じゃん」
できもそうだが魔法に淀みがねー。これは日頃から使ってる証だ。見習うべきところがあるぜ。
「水はどうしたんだ?」
「メイドさんにお願いしたよ」
そう言や、メイドの湯もそうだけど、水ってどうやってんだ? なんか魔法の壺でも持ってんのか?
「ってか、衝立てはねーのかい?」
見られて恥ずかちぃーって年齢でもねーが、魔女さんたちが入る風呂だろう? さすがに衝立てがないと不味いんじゃね?
「明日造るよ。魔女さんたちが何人か帰って来たからね」
サリネの視線を追うと、委員長さんら留学組がいた。
「こっちに来たんだ」
いや、放っておいてなんだけど。
「あなた、留学させた義務は果たしなさいよ」
「世界を見せるのがオレの役目。自由にしてイイんだぜ」
「放置と言うのよ、それ!」
ぐうの音も出ない正論です。
「ま、まあ、しばらくここにいるから好きなことしな。必要なものがあればメイドさんに言いな」
結界で衝立てを創り、一番風呂をいただいた。
「広い風呂に一人で入るとか贅沢だぜ」
風呂のときはレイコさんはどこかにいくし、ドレミも外で待っている。風呂に入ってるときが一人になるときだ。
さっぱりして風呂から出ると、魔女さんが団体でいた。ど、どうした?
「せっかくなので風呂をいただくわ」
「お、おう。どうぞ」
横に退いて魔女さんたちに道を譲った。
明かりの点いた小屋にいくと、サリネたちが夕食を摂っていた。
「先にいただいてるよ」
「ああ。メイドさんが用意してくれたのか? ってか、どこで作ってんだ?」
周りに炊事場はなかったはずだ。
「船で作って運んで来てるそうだよ」
あ、ヴィアンサプレシア号がいたっけ。完全に意識から外れていたわ。
オレも夕食をいただき、食後のコーヒーを飲んでいたらメイドさんがやって来た。
「べー様。ミタレッティー様より連絡がありまして、明日には戻るそうです」
あ、まだ戻ってなかったんだ。と言うか、すっかり忘れてました。ごめんなさい。
「あいよ。で、勇者ちゃんの様子はどうだ?」
「かなり衰弱してましたが、体調は戻りました。ですが、まだ気落ちしているとのことです」
「そっか。まっ、しゃーねーか。まだ小さな女の子だしな」
命の危機に陥って、なんともないでいられるヤツは頭がおかしいか、人の心を持ってないかだ。そう考えれば人らしい心があってなによりだと感謝し、イイ経験をしたと認めて次に活かせ、だ。
「それこそ頭がおかしいか、人の心を持ってないかじゃないですか? そんなことできる人なんてなかなかいませんよ」
できなきゃ負け犬人生のスタートだ。それが嫌なら乗り越えるしかねーんだよ。
……まあ、負けたオレが言っても説得力がねーけどな……。
「ここが勇者ちゃんの分岐点。試練の時だ。勇者としての心が試されている。ガンバって乗り越えろ、だ」
自称勇者などいるだけで邪魔だ。求めるのは真の勇者だけだ。
「ふふ。厳しいね~」
「望んだ道を歩むのは厳しいもんだよ」
それがどんな道でも試練や問題は立ち塞がる。こちらの思いなど関係なしに、な。
「相変わらず歳に見合わない言葉を吐くね」
「フフ。そうかもな」
こんなガキ姿じゃ笑われるだけだな。
「メイドさん。ヴィアンサプレシア号にも話を通しててくれや。そう簡単に立ち直れんだろうからな」
「はい。畏まりました」
「よろしく頼むよ」
メイドさんが下がり、コーヒーを注いで考える。
さて。どう勇者ちゃんを再生させるかね?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます