第156話 領事館的なところ
次の日は朝から雨だった。
「しょうがねー。結界ドームを創るか」
今のオレなら半径三七メートルまで使用能力が広がった。まあ、ヘキサゴン結界ならそれ以上にも広げられるが、あれは結構集中力がいる。
訓練としてやってもイイんだが、家を造ることに集中したいので、使用能力範囲の結界ドームで作業することにした。
「便利だね、べーの力は」
「そうだな。この力にはいろいろと助けてもらってるよ」
昔は濁していたが、魔女さんたちにはバレている。なら、素直に認めるまでだ。
「よし。サリネ親方。今日はなにをする?」
「お、親方って、なんか歳を取った気になるから止めてくれ」
「もう弟子を取ってるんだから親方でもイイだろうが」
ハーフとしては若いかも知れんが、弟子を取れるくらい生きてんだから現状を受け入れろよな。
「それでも親方は承服しかねる!」
なに難しい言葉使ってんだよ。インテリか。
「じゃあ、マイスターにしろよ。どこかの国の言葉で巨匠って意味だから」
ヨーロッパの……どこだっけ? まあ、親方よりはお洒落な響きだろう。
「……マイスター。巨匠……」
なんか気に入った様子。ミーハーか。
「マイスター、いいね! よし。皆、今日からマイスターと呼んでおくれ!」
「「「はい、マイスター!」」」
素直でノリがイイ弟子だな!
「よし! べーとヨミロンは地盤高くして固めてくれ。湖畔は地盤が緩いからね」
「サリネは──」
「──マイスター!」
どんだけマイスターを気に入ってんだよ。まあ、気に入ったならイイけどよ。
「マイスターは、木工職人なのに家とか橋とかよく作れるよな?」
木工職人なら家作れんだろうと言う軽いノリで頼んじゃってごめんなさいね。
「木工職人だけでは食べていけなかったからね、いろいろやったんだよ」
そう言や、前にそんなこと言ってたような? 芸術肌なのに泥臭いことするヤツだったんだな。
「あいよ、マイスター」
「わかりました」
「べー。ヨミロンに土魔法を教えてくれないか? わたしは土魔法が使えないんでね」
「別に教えるまでもねーだろう。筋肉ねーさんの土魔法は匠の域だぞ」
こちらが学ばせて欲しいくらいだ。
「べー様さえよければ教えて欲しいです」
頭を下げる筋肉ねーさん。
「ってことだから教えてやってくれよ」
「まあ、そう言われたら断れねーな」
頭を下げられて拒否できるほどゲスじゃねー。教えられることは教えてやるさ。
「んじゃ、やるか」
「よろしくお願いします」
ってことで土魔法を教えることとなり、まず手本を見せた。
「凄い。どうしてこんなに固くできるんです?」
「土は粒の集合体だ。でも、それは一つじゃなくさらに小さい粒の集合だ。その集合体には隙間がある。それをなくすと土は固くなる。ただ、土にも種類があり、いろんな種類が集まっていて、不揃いのままだと脆くなるんだよ」
土は土と言う概念だから土魔法を学ぶ者が少ないのだ。
「土の種類や特性を学ぶとこう言うこともできる」
手のひらを地面に向け、鉄を集めて剣を創った。
「今は軽くやったが、もっと集中すれば良質な鉄を集めることも可能だ」
「……そんなこと考えたこともありませんでした……」
「知ったなら学んでいけばイイさ。あんたには土魔法の才能があるんだからよ」
筋肉ねーさんは感性がイイ。知識が加わればオレ以上になると思うぜ。
ゆっくりと教えたいところだが、今は地盤を固めることを教えるとしよう。
手本を見せながら実践させ、細かなアドバイスをするを繰り返していると、ミタさんがやって来た。
「おう、ミタさん。ご苦労様。任せちまって悪かったな」
男のオレじゃどうしようもないとは言え、面倒なことを押しつけちまった。労いと謝罪をしておこう。
「いえ、これもべー様のメイドとしての仕事ですから」
本当に頭が下がる思いです。
「で、勇者ちゃんは?」
あまり褒めても困るだろうからそこで止めておく。仕事の評価はココノ屋の駄菓子で報いよう。
「まだ気落ちしておりますが、体は回復しました。今はヴィアンサプレシア号でサプル様とプリッシュ様が慰めております」
プリッつあん、ヴィアンサプレシア号にいたのか。まったく、落ち着きのないメルヘンだよ。
「似た者同士ですね」
似てねーよ。まったく違うわ。
「まあ、サプルが慰めてんならしばらく放っておくか」
自由気ままなサプルだが、結構年下の面倒見はよかったりする。完全に、とまではいかなくてもそれなりには心を和らげてくれるだろうよ。
「オレはしばらく家造りしてるからその間休んでな」
ココノ屋で買った駄菓子が入った収納鞄を出してミタさんに渡した。
「……こ、これは、ココノ屋の……!?」
収納鞄を受け取っただけでわかるミタさんクオリティー。きっと特殊能力があるんだろう。追及はナッシングだ。
「ありがとうございます!」
喜んでもらえてなにより。さて。仕事の続きをしますかね。
◆◆◆◆
トンテンカン。トンテンカン。
オレは村人大工の子。朝から晩まで家を造ります~。
トンテンカン。トンテンカン。
とーちゃんに負けない立派な家を造るぜトンテンカン。
「ベー様のお父様、冒険者ではありませんでした?」
ちょっと、オレの心の歌に突っ込まないでよ!
暇ならどっかいってろよ離脱式幽霊が。
セーサランの襲撃は度々起きて、カイナーズや魔女さんたちが撃退してる。ここで家造りを見てるより好奇心が満たされんだろうがよ。
「巻き込まれて滅されたくありませんよ。あの消滅魔法、わたしまで消滅させる力があるんですよ」
まさに消滅魔法。おっかねーな。
「ベー。休憩しようか」
サリネ──ではなくマイスターの言葉で休憩に入った。
「ご苦労様。ベーがいると仕事が進んで助かるよ。もうわたしの弟子になりなよ」
「ふふ。マイスターにそう言われるのは光栄だが、オレは器用貧乏。本気でやるヤツらには勝てないよ」
ある程度まではできるが、飛び抜けた技術を得られるまでにはならない。まあ、人生を楽しむなら器用貧乏は最高だがな。
「まあ、ベーは自由でいるのがいいのかもね。そのお陰でわたしは最高の職場を得られたんだからね」
「そう言ってもらえることが最高に光栄だよ」
自分の人生を快適にするために誘ったが、それで満足してもらえるなら素直に嬉しいぜ。
休憩も終わり、また家造りを開始する。
オレ一人でも数日で家を建てれるが、匠レベルのサリネと才能ある弟子が三人もいると一日一軒のペースで建てられ、一〇日にはちょっとした町レベルになった。
「店とかあるとイイかもな」
住むだけの家だけってのも味気ねー。食堂か喫茶店が欲しくなるぜ。
「やっても儲けが見込めないだろう。魔女さんしかいないんだから」
「なら、魔女さんにやらせるか」
大図書館に魔女が何人いるかわからんが、伝手は無駄にありそうな気がする。やりそうなヤツくらいダース単位で用意できんだろう。
「ってなことで補佐長さん。叡知の魔女さんに話を通してよ」
窓口係か監視係かわからんが、委員長さんと一緒にずっと家造りを見ていた。他人事ながらご苦労様だよ。
「なにが、ってことよ! 簡単に言わないで!」
「帝国と南の大陸がどれほど離れているかわかってるんですか?」
「繋げばイイだろう。帝国にも転移魔法ぐらいあるんだからよ」
前に公爵殿が言っていた。転移は特級機密事項だと。ないのならそんなこと言わないだろうし、広めたくないから隠しているってことだ。
ましてや知識の管理人みたいな立場にいる魔女が知らないわけがない。それどころか総元締めでもオレは驚かないよ。
「……な、なぜそれを……」
「叡知の魔女さんが転移結界門に驚かなかったからな」
無表情な叡知の魔女さんだが、興味があることには正直だ。初めてのことには目を輝かし、視線を動かしている。なのに、転移結界門にはそんな反応はなかった。
「ふーん。補佐長さんくらいまでなら周知されてんだ」
委員長さんも驚いてはいるが、補佐長さんとは違う驚きのように見える。重要な役職者までは周知の事実なんだろうよ。
「帝国の秘密を触れ回ったりしないから安心しな。まあ、そちらがなにを秘密にしてるかわからんからついしゃべっちまうこともあるかもしれんけどな」
長い歴史があると秘密も多い。どこかから流出して、オレに流れて来ることもある。こちらには帝国の公爵や情報屋との繋がりがあるんだからな。
「すぐに話を通します──」
バビュンと駆けていく補佐長さん。ガンバれ~。
「……あなた、どれだけ怖いもの知らずなのよ……」
「怖いものなんてたくさん知ってるよ」
アレとかアレとかアレとかアレとかな! 考えただけで股間がキュッとするわ……。
「帝国とは仲良くしたいからな、しゃべらないでってことはしゃべらない。墓まで持っていくよ」
なので知られたくない秘密があるなら事前に教えてくれよな。
「……悪辣な村人ですね……」
帝国と仲良くするんだから情報を共有するのは大事なことだろう?
しばらくして魔女軍団がやって来た。
……どんな暗殺集団よりおっかねーかもな……。
「話は聞いた。帝国から人を連れて来よう」
話が早くて助かるよ。
「人員は任せるが、住むところはそちらで用意してくれ。力は貸すんでよ」
仲良くするなら資金や人材も仲良く出し合うもの。片方だけ負担するなんてナッシングだ。
「ここら辺一帯は帝国に貸し出す。帝国の法で管理してくれ。そちらの許可がない限り、こちらは踏み入れたりしないからよ」
ここを領事館的な一帯とする。
「随分と譲歩するの?」
「帝国にもそんな場所を作るときはよろしくな」
ヤオヨロズが国と成ったときの布石だ。帝国が認めたなら他の国も認めざるを得なくなるからな。クク。
「よかろう。話を通しておく」
「境界線はそちらで決めて、壁とか造ってくれな」
たくさん金を使ってこの一帯を開発してくれや。発展すれば経済も生まれるだろうからな。
「わかった」
ニヤリと笑い、マイスターたちに撤収準備を伝えた。
◆◆◆◆
魔女と言うのは本当に行動が速いよな。昨日の今日でたくさんの人を連れて来ている。
「どんだけ権限持ってんだよ?」
帝国にはたくさんの派閥があると公爵どのが言ってたが、魔女はかなり強い派閥のようだな。まあ、皇帝の弟と繋がりは強そうだったし、五指に入るのかもな。
「堅気じゃねーのも混ざってるな」
目つきが一般人とは違う。魔女ではないところから送り込まれたかな?
「よく目だけでわかりますよね」
目は口ほどにものを言うってな、目を偽るにはそうとうな技量か、催眠術的なもので偽るかじゃないとわかるものさ。
「よろしいので?」
構わんよ。うちやカイナーズの真贋を見抜く糧となってもらうからな。
「メイドさん。メイド長さんに魔女さんたちと交流を持てと伝えてくれや。この機会に人を学べってな」
これから帝国との付き合いは増えていく。なら、今から人のことを学んでいってもらおうか。
「畏まりました」
よろしこ。
珍しくオレから離れていた補佐長さんと委員長さんが戻って来た。
「べー様。木材を分けていただけませんでしょうか?」
「代金をもらえたらいくらでもやるぜ」
ワリーがここからは有料にさせてもらうぜ。帝国の領域を作るんだから自分たちで負担しな。
「なにでお支払いすればよろしいでしょうか?」
「可能なら本でいただきたいかな。うちの本棚を埋めたいからよ」
せっかく大図書館のヤツがいるんだから本を分けてもらえると助かるな。
「市販されている本でも構いませんか? 大図書館の本は貴重なので譲ることはできませんので」
「それでイイよ。帝国にいるうちのもんに渡してくれ」
こちらに持ってくる手間を考えたら帝国にいるゼルフィング商会の者に渡して館に運んでもらうほうがオレも楽だしな。
「わかりました。欲しいものの目録です」
と、紙の束を渡された。業者か!
「やたらと食料が多いな。帝国から持って来れないのか?」
食料くらい帝国から運んだほうがコスト的にイイんじゃねーの? つーか、単位が元の世界の単位になってんぞ? 帝国には独特の単位があっただろうに。どこから仕入れたんだ?
「転移には大量の魔力を必要とします。そう頻繁には使えません」
「……ふ~ん。魔女さんがあれだけいてダメなのか……」
どこまで本当かわからんが、頻繁に使えないのは本当のことなんだろう。魔女さんの姿が見て取れないからな。
「まあ、イイさ。本、二千冊で手を打とう。どうだい?」
「同じものが混ざっても構いませんか? すべて違う本と言うのは難しいので」
「同じ本が一〇〇冊、とかじゃなければ問題ねーよ」
館だけじゃなくヴィアンサプレシア号や別荘とかにも置きたい。いつどこにいくかわからん身だしな。
「わかりました。お願いします」
目録はメイドさんに渡す。オレ一人じゃどうしようもない量だし。カイナーズホームに任せて持って来させよう。
「今度はなにをしているの?」
補佐長さんが消えると、委員長さんが尋ねてきた。上司がいると無口になるタイプか?
「乗り物だよ」
マイスターに頼まれた作業車だ。
「ダメだ。なんか違う」
イメージと違うので錬金の指輪で分解させた。
うーむ。ハイエース型では人が乗るにはイイが、荷物が出し難い。二トントラックだと四人は乗れねー。つーか、筋肉ねーちゃんの体がネックだ。
こう言うとき、種族が違うって面倒だよな。どこに合わせてイイかわかんねーよ。
「車じゃなく飛空船がイイか?」
いや、それだと維持管理が大変だし、置く場所にも困るか。
やはり、ハイエースサイズがベストなんだよな~。
気分転換に作業場としていた小屋から出て、散歩に出かけた。
「なんの行進ですかね?」
オレの後ろからついて来る団体さん。今は一人にしてもらいたいんだがな。
「べー様を一人にしたら確実に厄介事がやってきますよ」
違うと言えないところが悲しいです。
まあ、思考すれば一人でいるようなもの。集中しろ、オレ。
そこら辺を歩くが、これと言った案は出て来ない。クリエーターとして失格だぜ。
また湖畔に戻って来て、マ○ダムタイムとする。
しばらくコーヒーを飲みながら湖を眺めていたら、砂浜にトラックが転移して来た。
「カイナーズホームの配送か」
もう珍しくもないのでスルーしようとして、止めた。
「そうか! 牽引すればイイのか!」
配送トラックがトレーラーなのを見て答えが出た。
ゼロワン改+キャンピングカーみたいに、人が乗る用と荷物を積む用に分けたらイイだけじゃねーかよ。
クソ。こんな簡単なことに気がつかないとか、本当にクリエーターとして失格だぜ。
だが、思いついたらイメージはできた。マイスターが満足するものを作ってやるぜ!
そこから我を忘れて作業に没頭するのであった。
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