第157話 オラオラオラオラオラ!
「よし。完成だ」
二度ほど作り直したが、満足いくものができた。
四人乗り用のピックアップトラック型に多種機能をつけて箱形のトレーラーをつけた。
筋肉ねーちゃんには申し訳ねーが、ピックアップトラックの荷台に乗ってもらう。ちゃんと雨が降ったら屋根が出るようにはしたからよ。
「ちょっと試運転してくるか」
ピックアップトラックに乗り込むと、メイドさん二人に委員長さんが乗り込んできた。え?
「あなたを一人にするとどこにいくかわからないから目を離すなときつく言われてるわ」
誰にだよ!
「全方位からじゃないですか? 実際、一人になったらいなくなるじゃないですか」
違う! と言えない我が人生。なので黙ってピックアップトラックを出発させました。プップー。
「どこに向かうの?」
「湖の反対側までかな?」
せっかくなので街道を整備しながらいってみるか。
セーサランのせいで行き来がないのか、街道の左右は草が生えて道を塞ぐ勢いである。
「道の整備もなんとかしなくちゃな」
結界で左右の草を刈りながら走っていると、前方にシープリット族の連中がいた。散歩か?
ピックアップトラックを止めると、シープリット族の連中が近寄って来た。
「ベー様でしたか」
「おう。どうしたい?」
「巡回です。小さいセーサランを逃さないように」
お。そうなんだ。そこまで考えもしなかったわ。
「そいつはご苦労さん。気をつけてな」
「はい。ベー様も」
巡回の邪魔にならないようすぐに立ち去った。
しばらく走るとまたシープリット族の連中がいて、結構距離を狭めて巡回してんだな。もしかして、巣別れみたいなことしてんのか?
まあ、カイナーズやシープリット族に任せておけば安心だろう。そう言うことに長けた連中だからな。
夕方には湖の反対側に到着し、港と化したところで一泊することにした。
「委員長さん。今日はここで夜営するから仲間のところに帰ってイイぞ」
無限鞄からシュンパネを出して委員長さんに渡した。
「わたしも夜営するわ。朝になったら消えてそうだからね」
なんか不吉な言い回しすんなや。一三日に金曜日じゃあるまいしよ。
……まあ、うちのメイドならジェイソンでもフレディでも返り討ちしそうだけどな……。
「好きにしな」
お偉いさんたちから離れて羽を伸ばせてイイだろう。
薪を出して火を焚き、湖で捕まえたワカサギを揚げて食べることにする。
準備をしていると、メイドさんズが転移して来た。ついでに茶猫も。
……この猫も神出鬼没だよな……。
「どうしたんだ?」
「魚を食う感じがしたからメイドさんについて来た」
「なんのニューなタイプだよ」
「どんな突っ込みだよ。魚、くれよ。なあなあなあ」
だから鳴き声みたいに要求してくんなや。鬱陶しい。
よじ登ってくる茶猫の首をつかんで委員長さんに放り投げてやる。
「相手しててくれ」
「わかったわ」
茶猫を抱き、喉を撫でる委員長さん。猫好きか?
イイ感じに揚がったワカサギを皿に乗せ、茶猫に出してやる。
「この魚はクセになるぜ!」
「お魚咥えたどら猫か」
「……お前、突っ込み、いちいち昭和すぎんだよ……」
「昭和を生きてきたんだからしょうがねーだろう。お前も平成生まれだったのか?」
「いや、昭和だよ。八〇年代半ばだ」
なら、三〇歳くらいか。早死にしたな。
「魚を食うと米が食いたくなるな」
「お前の舌と胃はどうなってんだよ?」
実は猫じゃないとかか?
「最強の体だからな。胃もそうなんだろう」
オレが五トンのものを持っても平気な体を願ったように副次的効果を狙ったのか。死んだ直後だってのに冷静だったんだな。
「久しぶりに米でも食うか」
そんな米に執着はねーが、たまには食いたくはなる。焼きおにぎりなんてイイかもな。
米や調味料は買ってあるし、焼きおにぎりなら作ったことはある。
結界飯ごうで米を焚き、三角おにぎりにして醤油を塗り、炭火で焼いていく。
「イイ匂いだ」
転生して初めて作ったが、忘れてないもんなんだな。作り方も作ったときの思いも、な……。
「いっぱいあるからたくさん食いな」
米初体験だろうに、委員長さんにも好評だ。
あ、けんちん汁飲みたくなった。また集落にある食堂に食いにいくか。
「平和が一番だな」
こうして星空の下、旨い魚と旨い焼きおにぎりを食える。生きてる幸せを感じる。
「明日も楽しい日だとイイな」
「お前の頭はいつもハッピーカーニバルだろうが」
「そう言うお前は皮肉を言わないと死ぬ病気か?」
「常に問題を発生させないと気が済まないお前に言われたくないわ」
「仲いいわね、あなたたち」
まあ、茶猫とのやりとりも悪くはねーな。前世を知り、歯に衣着せぬ性格。腹を割って話せる相手はなかなかいねーからな。アハハ。
◆◆◆◆
ゆったりとした時間が流れ、星を眺めていたらいつの間にか眠ってしまい、なにかを感じて目を覚ました。
「……なんだ……?」
考えるな、感じろがけたたましく騒いでいる。
「マイロード?」
「──結界!」
全力で張った瞬間、視界すべてが真っ白に染められ、爆音が轟いた。
なにがなんだかわからんが、攻撃されたのは理解できた。
「ドレミ、皆を守れ! いろは、結界を解いたら前方に向けて攻撃しろ!」
「「イエス、マイロード」」
「解くぞ!」
視界が開けた瞬間に結界を解くと、いろは隊がなんかわからん攻撃を仕掛けた。
「結界灯!」
を四方に放って辺りを明るくした。
「なっ!?」
湖に巨体なものがいた。セーサランか!?
X4のフォルムじゃない。え? んじゃX5かよ!? 進化早すぎだ!
いろは隊の攻撃に肉片が飛び散る。
「いろは、一片たりとも肉片を散らかすな! 散らしたら拾え!」
無茶な要求をしているのはわかる。だが、未知の生命体を残すなど恐怖でしかねー。なにが起こるかわかったもんじゃねーよ!
「殲滅技が一つ、ジャイアントパンチ!」
結界で巨大な拳を創り、X5を殴りつけた──が、びくともしない。
「なら、連続パンチじゃあ! オラオラオラオラオラオラオラオラ!」
どこぞのスタンド使いばりにフルボッコにしてやる。
「硬化!」
右足で大地を叩き、土魔法で硬化させる。
ジャイアントパンチを食らわせながら大地を硬化。X5を囲むように壁を創る。
「しぶてーな、こん畜生が! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
結界越しだが、まるで分厚いゴムを殴っているかのようだぜ。
「硬化! オラオラオラオラオラオラ! 硬化! オラオラオラオラオラオラ! 硬化!」
右足で大地を叩き、土魔法で硬化させる。
ジャイアントパンチを食らわせながら大地を硬化。X5を囲むように壁を創る。
「しぶてーな、こん畜生が! オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラ!」
結界越しだが、まるで分厚いゴムを殴っているかのようだぜ。
「硬化! オラオラオラオラオラオラ! 硬化! オラオラオラオラオラオラ! 硬化!」
全力全開。反撃させる暇なくX5を壁で囲い込んでいく。
「マイロード! 止めてください!」
「ベー様! それ以上は危険です!」
うるさい! 話しかけてくんな! 返してる余裕はねーんだよ!
鉄のような硬さでX5を少しずつ囲んでいき、左右、背後、頭上を囲むことができた。
……クソ! 意識が霞んで来やがったぜ……!
「魔女! 早く来やがれ!」
オレに打撃や斬撃に特化して、爆発とか凍らせるとか苦手なんだよ!
「──待たせた」
横から声がしてジャイアントパンチを止めた──ら、足から力が抜けてしまった。
「ベー様!?」
なにか柔らかいものに支えられたが、叡知の魔女さんが放った白い光がX5を包み込み、オレの全力全開で硬化させた土壁を消滅させ、暗闇に消えていった。
……これが消滅魔法かよ。デタラメだな……。
この威力はオレの結界でも防げるかわかんねーな。叡知の魔女さんを絶対に敵にしないよう全力全開で心がけよう。うん。
「ベー様! 大丈夫ですか?!」
ミタさんの声がして、霞む視界にミタさんの顔があった。
「無茶をしすぎです!」
あ、ああ、確かに無茶しすぎたな。なんか体の芯が今まで感じたことがないくらい冷たいぜ。
「……死にやしないから心配すんな……」
これは結界を使いすぎたときに起こる感じだ。休めば回復するものだ。
「鼻血まで流して今にも死にそうですよ!」
あーなんか鼻が熱いと思ったら鼻血か。つーな、この世に生まれて初めて鼻血を流したな。
「それより、X5はどうなった?」
「館長様が倒したわよ」
視界に委員長さんが入って来た。なに泣いてんだ?
「……そうか。期待を裏切らない魔女さんだよ……」
真っ先に駆けつけて来るのは叡知の魔女さんだとは思っていた。神聖魔法が使えるなら転移もできるとは思っていたからな。
「ベー様、しゃべらないでください。すぐにヴィアンサプレシア号に運びますので」
「ああ。頼むわ。あ、マイスター、サリネにピックアップトラックを渡してくれや。使い方はダッシュボードに入れてあるからよ」
「わかりましたからしゃべらないでください!」
ハイハイ、わかりましたよ。
ストレッチャーに乗せられ、ミタさんの転移バッチでヴィアンサプレシア号へと転移した。
ハァ~。平和だな~と思ったことでフラグが立ったのかな? 神はそんなにオレが憎いのかよ、こん畜生め……。
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