第5話 猫の中では最強
静かに泣く、茶猫を黙って見守る。
できることならしばらく一人(いや、匹か?)にしてやりたいが、コミカルな動きがおもしろく、つい見とれてしまったのです。
趣味悪っ! とか言わないで。自分でもわかってるんだからさ。でも、見ててスゲーおもしろいんだよ。
……しかしほんと、人間臭い動きをする猫だぜ……?
背中にチャックとかねーか探ってみてー!
そんな気持ちと戦いながら残りのペプ○を飲みきる。ゲプッ。
炭酸で膨れた腹を擦ってると、ドアが開いてダークエルフのメイドとこの城のメイド……って言うか侍女さんが入って来た。
「お話中申し訳ありません。カティーヌ様がお話したいとのことです。お通ししてもよろしいでしょうか?」
と、侍女さん。公爵夫人自ら来んのかい。
「あいよ。通してくれ」
来たものはしょうがねー。客の身で家人を追い払うのは失礼だしな。
「お話中、申し訳ありません。カレットより牙ネズミが出たと聞いたのですが、本当でしょうか?」
第三夫人の問いを華麗に茶猫へとパスした。
「え? おれ!?」
「しゃべった!?」
互いに驚く猫と人。コミカル~。
「まあ、一番コミカルなのはベーだけどね」
見れば押し車の上でお茶をするメルヘン。人の心の呟きに突っ込まないでください。ってか、いつの間に姿を現した!?
「ベーの力を使うのは難しいけど、解くのは意外と簡単よ。なんで?」
知らんがな。まだ、共存ってなんだろうって問いにも答えが出てないんだからよ。
「──ではなくて! ベー様、どうなのですか?」
「オレが知るわけねーだろう。バイブラストに来たの最近だし、牙ネズミなんて今日、耳にしたんだからよ」
オレ、この中で一番の部外者だよ。
「なのになぜか中心にいるこの不思議。ベーは謎ね」
謎の生命体に謎扱いされるオレ。納得いかねー!
「……牙ネズミは全て退治したのか?」
とりあえず、メルヘンは放置だ。おっと、いつもじゃんって突っ込みはノーサンキューだぜ。
「いや、全てはしてない。牙ネズミはすばしっこくて繁殖力が高いからな。ただ、一万匹は殺したと思う」
牙ネズミがどんなものか知らんが、普通のネズミだって一万匹殺すなんて至難の技だ。
「どう倒したかは口にするな。それは、お前やお前の家族を守る力だ。誤魔化すなり隠蔽するなりしろ」
「ベー様! 牙ネズミは疫病を撒き散らす魔獣です。殺す手段があるなら教えてください」
「じゃあ、訊くが、バイブラストはどう対処して、どう対応した? 今はどう対策している?」
その問いに第三夫人が押し黙る。
そりゃそうだろう。二度も滅びかけてるんだからな。
「過去の教訓をまるで活かしちゃいねー、とは言わない。こうして立て直しているんだからな。だが、三度、ことは起こった。まず、やるべきことは、実状調査じゃねーの? 役所に下水道を管理する部署があんだろう? こいつらは仕事をしてるって言ってたからよ」
だが、第三夫人の顔からして、どうもそうじゃないようだ。
「まさか、役所にそんな部署はねー、とかは言わねーよな?」
いくらなんでもそこまで愚かじゃねーよな?
「……役所には下水道管理の部署はあります……」
ありはするが有効には動いてねーってことか。
「上から下に命令して、下は対処も対応も対策も他に任せた、ってことか。そりゃ三度も起こるわ。つーか、それで滅びねーのが奇跡だわ」
バイブラスト、どんだけ運がイイんだよ。神の加護でもあんのか?
「第三夫人がやるべきは、まあ、多々あるが、上から下に命令がいくようにするより、下から上に情報がちゃんと上がるように組織的改革しろ。四度目は滅びるぞ」
「……はい。そのように進めます……」
「それと、牙ネズミを狩った者には懸賞金をかけるとか、下水道を定期的に掃除するとか、月に何度かは下水道を見回りするとか、それらをできるように役所と部署の改革もな。国はいつだって足元から崩れるぞ」
村人のオレが言っても説得力はねーが、土台が大事なのは全ての共通点。崩れるのがイヤなら土台はしっかりと築け、だ。
「……わかりました……」
いろいろ反論したいことはあるだろうが、それらを抑え込み、右の膝を軽く曲げ、貴婦人の一礼をして部屋を出ていった。
「ミタさん。コーヒーちょうだい」
「はい。どうぞ」
さっと出されたコーヒーを受け取り、香りを楽しんでから口に含んだ。
「……悪い顔してるわよ……」
失敬な。これはイイアイデアが浮かんだときの笑顔です。
「商売は奥が深いな」
前世の記憶がありながらそのことに気がつかないんだから、オレに商売の才能はねーや。
でもまあ、今生のオレはアグレッシブ。思いついたらゴー! だ。
◆◆◆
転移バッチで水輝館へ。婦人いる~?
なにかオフィス的になった部屋でデスクワークする方々。ご苦労さまです。
「あ、リューコ。婦人は?」
また成長したようなドラゴンガール……ってか、もう、ドラゴンレディになってんな。
「フィアラさんなら会議ですよ。バイブラストとの取引先協定やら商業協定、活動の根回しとか、いろいろ忙しいんです。あまり、仕事を増やさないでくださいね」
なにやら物事をはっきり言うようになってるリューコさん。レディになったら強気ですね。
「え、えーと、ハイ、わかりました~」
と言って退散した。
「婦人には頼れんか」
城の客間に戻って計画(丸投げ)を考え直す。
「あ、あのさ、いったいなにをしようとしてんだ?」
炭酸を飲む猫が戸惑いがちに訊いてくる。
「なにって、お前たちが一緒にいられるように、かつ、生きられるように考えてんだろうが」
他になにがあんだよ。
「それはありがたいが、おれは、あいつらが幸せになってくれるのなら……」
「アホか。幸せになるならお前も一緒だ。でなきゃ、あの三兄弟は納得しねーだろうが」
自己犠牲を否定する気はねー。だが、そんなことするヤツを、オレは絶対に尊敬はしねーよ。
「ちなみに、お前は、あの三兄弟にどうなってもらいたいんだ?」
オレとしたことが、どう助かりたいか要望を訊くのを忘れったわ。危うくオレのエゴを押しつけるトコだったぜ。
「……どうと言われると、困るが、あいつらには学を身につけて欲しい。おれは、勉強してこなかったから……」
「学ぼうと強い意志があるなら壁の落書きからだって学べるし、いくつになってからも勉強はできる。してこなかったことに逃げるな」
学ぼうとしないヤツになにを教えたって、なんも身につかねーよ。
「確かに学があったほうがイイだろう。だが、それを活かせる社会か、環境がなくちゃ意味はねー。お前らに必要なのは居場所だ」
お前らが笑っていられる場所で、今度は自分の力で望む未来を勝ち取れ──では、それも押しつけか。意外と難しいものだな。
「そい言や、お前らってどこに住んでんだ?」
家なし子、っ感じだが、路上で寝ている感じはしねー。どこか拠点としている場所がありそうだ。
「たぶん、地下牢だったところだ。産まれて間もない頃、牙ネズミと戦って偶然見つけたんだ」
地下牢? なんだそりゃ?
「そんなところで暮らせんのか?」
なんか不便そうにしか思えんのだが?
「台所はないが、水は近くの水道から汲んで来れるし、食い物は安い屋台があるから一日一回は食える。なぜかトイレもあるから汚くはない。なにより、安全に眠れるのがいい」
まさにストリートなチルドレン的発言だな。ほんと、村人に転生できてよかったぜ。
「そこは、スラム街なのか?」
「いや、大手町の下だ。まあ、スラム街の下水道から出入りはしてるが」
「なんで?」
「他は鍵がかかってるし、ボロボロの服を着ているのが大手町を歩いてたら噂が立つからな」
ほ~。からっきしの考えなしってわけじゃねーようだ。
「それに、スラム街だと牙ネズミを買い取ってくれる場所があるんだよ。牙ネズミは肉と魔石が取れるからな」
まあ、この世界では、ネズミも立派な食材。忌避はねーが、さすがに下水道に住んでるネズミは食わねーだろう。
と、思えるのは餓えたことがねーヤツのセリフ。飢餓に襲われたら雑草だって旨そうに見えるんだぜ。
「大丈夫なのか? 寄生虫とか病原菌とか」
「それが不思議で、牙ネズミを食って死んだヤツはいないそうだ。おれも最初は生で食ってたが、腹を壊したことはなかった」
疫病は振り撒くのに食っては大丈夫って、どう言う理屈だ? 別の原因があるのか?
「まあ、それは第三夫人に任せるとして、魔石が獲れるってことだが、価値があるのか?」
「それほどはない。だが、牙ネズミの魔石一つで火が買えるんだよ」
はぁ? 火を買える? なんじゃそりゃ?
「金を持っているヤツなら暖炉で温まるが、貧乏人や路上で生きているヤツは火売りから火を買って温まるのさ」
そんな商売があることにもびっくりだが、暖を取れるほどの魔術、または魔法を使えるヤツがスラム街にいることのほうに驚いたわ。
「そう言うからには、お前、魔術、または魔法を使えねーな」
茶猫から魔力は感じる。だが、驚くほどはない。精々、中級魔術師程度だろう。
「誰よりも強く、魔法にも負けない世界最強の男に、って願ったんだけどな。ハハ……」
乾いた笑みを見せる茶猫。
確実に神(?)に介入されそうな願いだが、だからと言って、弱くなる介入の仕方は、前世の神(?)のお詫びを無視しているような気がする。
まあ、神(?)同士の繋がりがどうなっているかわからんが、願いそのものを変えることは無理なんじゃねーかと思う。
なかったことにできるなら、すべての転生者から願いを奪っているばずだ。どいつもこいつも理から外れた能力を持ってんだからな。
そうなると、考えられるのはオレのように規制されたか、条件を変えられたか、だな。
「これはルール違反だから、答えたくないのなら答えなくてもイイ。二度と訊かない」
違反はするが、約束は絶対に守る。
「二つ目の願いはなんだ?」
「世界中の女をおれのものにしてくれ、さ。ほんと、バカだろう? 笑ってくれていいぜ」
笑いはしない。人それぞれの願いで、願望だ。男のオレがどうこう言うつもりはねーよ。それより謎が解けたことに満足? って表現もどうかと思うが、胸のつっかえは取れてすっきりはした。
「つまり、猫の中では世界最強ってことか」
そして、世のメス猫も独り占め。もう悪意しか感じねーよ。
◆◆◆
茶猫の願いも願望も、オレがどうこう言う資格はねーし、どうこうはつもりもねー。だが、アホだな~とは心の中で思った。
……エリナやタケルに通じる残念さだな……。
人間、ほどほどがイイってことだ。まあ、オレも介入されてそうな感じなので、他人にどうこうつもりはねーがよ。
「まあ、不幸中の幸いと思うしかねーな。魔物に産まれてたら討伐される未来しかねーからな」
ファンタジーな世界中なクセに、しゃべる魔物は不気味がられ、脅威としか思われねー。なんせ、魔物が進化すると魔王化すると信じられてるのだ。
……オレの周りでは珍生物扱いされてるけどな……。
おっと。お前が一番の珍生物だけどな! って突っ込みはノーサンキューですぜい!
「……そう、だな。猫だったお陰で子猫時代を過ごせたからな……」
「ちなみに、産まれて何年間なんだ?」
見た感じは成猫だが。
「よくはわからないが、たぶん、五年くらいだと思う」
「へ~。結構 生きてたんだな」
願いからしてまともに生活しているようには思えないし、猫として生きるには厳しい時間だろうに。
「ハハ。世界最強は伊達じゃなかったからな」
自虐ネタか? まったく笑えんけど。
「健康でなによりだが、お前、雑食なのか?」
ニンジンっぽいもの食ってたが。
「雑食って、まあ、好き嫌いはないけどよ。ちなみにジャンクフードが主食だな」
いや、猫としての生態を訊いているんであって、お前の舌の趣向を訊いてんじゃねーんだよ。
「あ、ハンバーガー食いたくなった。ミタさん、カモーン!」
ちなみに部屋にいるのはオレと茶猫だけ……ではねーが、水輝館から戻って来たらミタさんたちはいなくなってました。
プリッつあん? 知らん。気がついたらいませんでした。
「はい、お呼びでしょうか?」
部屋の外にいたのか、すぐに現れた。
「ハンバーガー食いたくなった。こいつの分も一緒に持って来て」
「ポテトはLで! ナゲットもお願いします! あと、ペ○シをお代わりです!」
遠慮もなければ躊躇いもねーな。つーか、この状況を受け入れてるとか、プリッつあん級に適応力ありやがんな、こいつは……。
「はい、畏まりました」
今さらだけど、ミタさん的にしゃべる猫に、どう答えを出して、どう受け入れてんだろう? まあ、藪を突っ突いてヘビを出しそうなので訊いたりはしないけどさ。
「お前、本当に猫なのか?」
いや、それも今さらな問いだけどよ。
「……自分でもよくわからん。この世界の猫、よく知らんし……」
「まあ、猫の枠から出てんなら出てるで構わんか。可能性は広がるしな」
「どう言う意味だ?」
「猫の枠から出てんなら人化できるかもしれんしな」
オレもこの世界の猫は知らんが、ファンタジーな世界だ。化け猫の類いがいても不思議じゃねー。
「……人に、なれるのか……?」
「世界最強ってことは、この世界にいる猫ができることはお前にもできる理屈だろう。でなきゃ、世界最強がウソになる。これは想像の域だが、お前が人語をしゃべるのもどこかに人語を話せる猫がいるからじゃねーかな? もし、世界最強って願いが叶えられているのなら、お前は可能性の塊だ。なんたって、世界最強って称号が最初からついているんだ、できないってことはねーだろう」
曖昧ゆえに範囲は広い。広いゆえになんでもできるってことだ。
「あくまでもオレの勝手な解釈だ。そう期待するな」
と釘を射しておく。下手に夢を持たれても責任を持てんからよ。
オレの言葉が届いてないようで、なにか思い詰めたような顔(器用だな、ほんと)をしていた。
やれやれ困ったもんだと呆れていると、ミタさんがハンバーガーを持って来てくれた。
久しぶりのハンバーガー。こんなに味が濃かったっけ?
カイナーズホームで、Mなマークを見たからアレなハンバーガーだろう。
前世で三十を過ぎてからはそんなに食ってねーが、味の記憶はある。でも、濃さに関して自信が持てなかった。
……でもまあ、今は若いので嫌な濃さではないな……。
二つ目には手が伸びないが、メロンソーダで口の中をさっぱりさせ、フライドポテトに手を伸ばした。
モグモグ食っていると、スッキリサッパリさせた三兄弟がメイドさんズに連れられて来た。
「マーロー!」
知らないヤツらに囲まれて不安だったのだろう、茶猫の姿を見るなり駆け寄る三兄弟。
……残念な野郎だが、三兄弟には必要とされてんだな……。
「お前ら、腹減ったんだろう。旨いものをもらったから遠慮なく食え」
ほ~ん。面倒見もイイんだ。根は優しいんだな。
Mなハンバーガーを食う三兄弟や茶猫を眺めながら、今後のことを考えた。
◆◆◆
満足な食事を取ってないかと思ってたが、Mなハンバーガーをがっつくことなく静かに食べる三兄弟。ちゃんと食えてはいるようだ。
「報酬は安いが、下水道の掃除は毎日あるからな」
ファンタジーな世界でも安定的に収入を得られるのは正義らしい。
「掃除はどこから依頼が出てるんだ?」
「冒険者ギルドからさ」
まあ、清掃業者がいねーんだから、なんでも屋たる冒険者ギルドに流れるか。
「どうしたら達成とみなされんだ?」
「役人が見回りで確かめるそうだが、未だに見たことないな」
なんでも朝、冒険者ギルドで依頼を受け、夕方報告にいくと報酬をもらえるそうだ。大丈夫なのか、それで?
「下水道掃除はだれもやらないし、牙ネズミのしっぽを見せると冒険者ギルドは信じてくれるんだよ」
なんつーか、よくそれで済まされてるよな。ザルどころか底が抜けてんだろうがよ!
「よくそれで真面目に掃除しようと思えるな」
下水道に入るのも辛いだろうによ。
「下水道掃除ってよりは牙ネズミ退治がメインだな。なんたって壁をブラシで擦ればいいんだからよ」
依頼そのものが底抜けかよ!
「まあ、この時代じゃそんなものか」
「清潔なんて言葉があるのかさえ怪しい時代だし」
疫病が蔓延しないほうが不思議だわ。
「もっとも、そんなんだからつけこむ隙があるんだがな」
商売敵がいない今がチャンス。なんだが、婦人が認めるかだよな……。
「なに考えてんだ?」
茶猫が不審そうに尋ねて来る。なんでだよ?
「いや、なんか悪巧みしてる顔だったから」
なんだろう。自分的には名案を思いついて笑ったのに、なぜ他には悪巧みしてる顔に見えるのでしょうか? オレ、気になります!
もっとも、謎を解いてくれる少年も少女もいないので軽く流しちゃいますけどねっ!
「悪巧みじゃねーよ。清掃会社を作れねーか考えてんだよ」
「清掃会社? 儲かるのか、それ?」
「それはやりようさ。だがまあ、公共工事は儲かるな。適性な値段で仕事をさせてくれんだからな」
「適正? 搾取されるだけだろう」
ほ~ん。搾取されてるってのわかってんだ。
「そこはやりようさ。ここの公爵とは仲がイイんでな」
「それ、談合とか言わね?」
「談合ですがなにか?」
コンプライアンスなんてねー時代であり、縁故がまかり通る時代でもある。だからこそ、この時代のヤツらは自分を守るために縁(親類縁者)で固めちまうのさ。
「人は一人では生きていけない。だから仲良くしましょう、さ」
クックックッ。オレ、イイこと言った。
「……あんた、絶対悪党だろう……」
「失敬な。オレほど自由と平和を愛する村人はいねーぞ」
自由と平和を守るためならオレは手段は問わねーぜ!
こいつ、胡散臭えぇ~って目は止めなさい。地味に傷つくから。
「なんてことはイイんだよ。それより、お前らの今後だ。この街で暮らしたいと言うなら清掃会社を任せるし、他の場所に移りたいと言うなら家と仕事を与えてやる。旅に出たいと言うなら用意は整えてやる。どうしたいか希望を言え。そうなるように助けてやるからよ」
甘い未来でもイイんだよ。どうなりたいか、どうしたいかを言え。すべてはそれからだ。
「……本当に、いいのか……?」
「ああ、構わんよ。世界の王にだってさせてやるぜ」
やってくれんなら全力で応援するさ。
「……あんたの傀儡になりそうだから、それは遠慮するよ……」
チッ。根性なしが。男なら世界征服くらい言ってみろや。オレはメンドクセーので死んでも言わないがよ。
「新しい場所で、こいつらを人並みに幸せにしてやりたい」
ありきたりな願いを口にする茶猫。だが、そのありきたりな幸せを叶えるのが一番難しいのだ。
「人並みに幸せになりたいのなら、人並みなことをしなくちゃならない。お前にできるか? ありきたりな生活が?」
たぶん、前世じゃありきたりな生活をしてなかっただろう。それがどう言った理由からは知らないが、それをつまらないと感じていたのは想像できる。
なくしてからわかるものだからな、ありきたりな生活がなによりの幸せだってことによ。
「生きるために嫌なこともしなくちゃならない。毎日が同じことの繰り返し。自由とは程遠い日々だぜ」
オレの言葉に言い淀む茶猫。苦労はしただろうが、吹っ切れる域には達してないか。
「もし、お前がすべての苦労を背負うと言うのなら、三兄弟はありきたりな生活より、ちょっと裕福な生活をさせてやるぜ」
「──ダメだ! マーローがいないのなら今のままでいい!」
「そうだよ! マーローばかり苦労するなんて嫌だ!」
「どこにもいっちゃ嫌だよ!」
なんとも泣かせる三兄弟じゃねーか。
「別に離れろと言ってるわけじゃねー。三兄弟を幸せにしたいのなら割りのイイ仕事を紹介してやるって言ってんだよ」
まあ、オレなら絶対嫌だがよ。
「……危険な仕事なのか……?」
「それは状況によりけりだな。国を守る仕事だからよ」
ウソは言ってない。
「公務員か?」
「あーまあ、公務員っちゃー公務員か? 国から給金が出んだからな」
そこまで考えてなかったわ。
「おれなんかに勤まるのか? 言っちゃなんだが、おれ、そんなに頭よくないぞ」
「いや、同僚の中では頭がイイほうだよ。理性的でもあるしな」
あいつらにないものを持ってるしよ。
「……なんか不安になるセリフだが、なんの仕事なんだ……?」
「なに、魔王の配下になる、簡単なお仕事さ」
ニヤリと笑って見せた。
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