第4話 猫転生

 三兄弟(仮定)は、スラム出身なのか、身なりは汚れていて、ボロ……とまではいかないが、村人の服が大富豪の服に見えてしまうくらいの差があった。


 たぶん、親はおらず、三人(+猫)で生きているのだろう。見てわかるくらい団結心が強かった。


「心が豊かなんだろうな」


 身なりは汚れて貧しいだろうが、目の輝きは純粋で、笑顔でいられるなんてそうはねー。


 オトンが死んでから家族を安心させるために無理矢理笑っていたが、たぶん、オカンもサプルも無理してると察して、泣き言は言わなかった。


 その心にあったのは負けまいとする意地。オレがしっかりしなければならないと言う責任感。楽しいなんて一ミリグラムもなかった。


 ……幸せそうな笑顔だ。見てるこっちまで心が温かくなって来るぜ……。


 だが、そうなって来ると謎が生まれる。


 親なし。貧しい。汚ない。そんな逆境にてあんなふうに笑えるものか? 


 仮に三兄弟の長が主人公体質だとして、逆境を乗り越えたとする。そうなると、それは完結、または、完結に近い状況となるはずだ。


 あの笑顔を見たら「めでたしめでたし」と言いたくなるが、だったらもうちょっと身なりなり、健康状態なり、なんらしか見た目に出て来るものだ。


 ならば、物語は中盤戦。これから完結に向けてとなると、また新たな謎が生まれてしまう。


 あの三兄弟を支援、または庇護している者は誰かってことだ。


 この時代、親なしの子どもが生きるなんて生やさしいものじゃねー。それもスラムで生きてるなら尚更だ。あそこまで育つなんて奇跡に近い。大体が一、二年で死ぬそうだ。


 まあ、聞いた話なので真実かどうかはわからんが、厳しいってのは想像できる。


 支援、または庇護する者。と、考えたら、真っ先に目がいくのは妹に抱かれている猫だ。


 猫が? いやいや、あり得んでしょう。とか言うヤツもいるかもしれんが、この世界に猫は……いるかもしれんが、この大陸にいると聞いたことはねー。


 猫型ドレミを見て、大半の者が驚くなり、不思議そうな顔をしていたからな。


 ……なぜかオレを見て納得するヤツは死ねばイイと思う……。


「なあ、レディ・カレット。バイブラストに猫を飼っているヤツは多いのか?」


「いないと思うわ。ドレミで猫がどう言うものか知ったし」


 もはや公爵令嬢としての体裁もなくしたお転婆お嬢さん。公爵どのの一番濃く引き継いだのは君かもね……。


「レイコさんは、猫は知ってるか?」


 今さらな問いですまんけどさ。


「はい、知ってますよ。まあ、実物を見たのは今回が初めてですが、東の大陸にたくさん生息しているそうです」


 東の大陸? が、なんでこの大陸にいるんだ?


「ネズミでも狩るために東の大陸から連れて来たのではないですか? 猫はネズミを主食にしてるそうですから」


 なんか雑な理由だと思うのはオレだけか? さすがにネズミを主食にとかあり得んでしょう。


「あの猫、肉団子食べてるね」


 屋台から肉団子のスープを買った三兄弟が、仲良く分けながら広場の端っこで食っていた。


「野菜も食べてる」


 ニンジンのような形の白色根菜を、なんか悲しそうに食う猫。まるでウサギじゃねーんだよって感じで。


「ドレミ。ちょっとあいつらの前にいってみろ。猫のように」


 いや、その指示もどうかと我ながら変に思うが、超万能生命体に不可能はなし。ニャーと返事をして三兄弟のところへと歩き出した。


 ドレミに気がついた次男が、目を丸くして驚いている。


 驚くってことは、あの猫以外は見たことがないってことか。


 ニンジンのようなものを齧る猫も、ドレミに驚いている。


 ……なんか、人間臭さが出てるな……。


 とても猫とは思えねー動きをしている。まるで中身は人間のようだぜ。


「……な、なんで猫が……!?」


 距離的に結界使用能力内に入っているので、声を届くようにしたら、猫の口から男の声が出て来た。


 ……まず間違いなく転生者だな……。


 それ以外だったら、超力全開に「なんでもありかよ!」と、この世界に突っ込ませてもらうわ。


  ◆◆◆


 猫にそれほど興味がねーので何種(に近い)かは知らんが、毛の色は茶色に黒、しっぽが白と言う変わった色合いだった。


 ドレミに驚く……茶猫は、妹の膝から飛び降りた。


「しゃ、しゃべれるか!? おれはたつ──じゃなくて、マーローって言うんだ!」


 勢いよくドレミにしゃべる茶猫。ほんと、しぐさが人間っぽいこと。


「ドレミ。自己紹介してやれ」


 声を飛ばして指示を出した。


「え? な、なんだ? 誰だ、今の声は!?」


 後ろ足で立ちながら辺りを見回している。ブーツを履かしたくなるな。


「初めまして。わたしは、ドレミと申します。残念ながらわたしはスライムで、猫に擬態しております」


「……ス、スライム? まさか……」


 まあ、納得しろと言うほうが悪いわな。


「証拠を見せてやれ」


 黒猫からスライムへとトランスフォーム。あのポヨポヨ感は神である。


「……スライムだ……」


 肉球でドレミを触る茶猫。なんつーか、コミカルな絵だよな。いや、あの茶猫がコミカルなのか?


「ドレミ。面倒だからメイド型になれ。あと、興味本意で声をかけたまでだから、迷惑ならこのまま去るよ」


 おもしろいもの見れたしな、オレはそれで満足さ。


「いや、迷惑なんかじゃない。もし、あんたがおれに興味があるなら助けてくれ! こいつらを救ってくれ! 頼む!」


 器用に土下座をする茶猫。お前の骨格、どうなってんのよ?


「まあ、助けてくれと言うなら助けるのは構わんが、それをそいつらが望んでいるのか? 見たところ、その三人に笑顔を与えたのはお前だろう? 今、幸せなときを過ごしている者に急激な変化は不幸しか生まねーぞ」


 あの三兄弟の中心人物はこの茶猫だ。こいつがいるから三兄弟は笑ってられる。救うならお前の手でやらなければ、本当に救われたことにはならねーぜ。


「……おれじゃ、こいつらを幸せにできないんだ……」


 どんな物語があったか知らんが、価値観が逆転するほどのなにかがあったのだろう。そこから育んで来た三兄弟との絆は、本人が思う以上に強固なはずだ。


「……まあ、イイ。これもなにかの縁だ。お前が望む方向にいくよう助けてやるよ」


 どうもオレは、三兄弟に弱いらしい。見捨てることができねーよ。


「……すまない……」


 石畳に頭をついて感謝する茶猫。その感じからして若いな。タケルと同じかちょい上くらいかな?


「気にするな。オレの気分でやってるまでなんだからよ。それより、そのブラシを持っているところを見ると、清掃関係の仕事をしてるのか?」


 煙突掃除用ではなく、床や壁を掃除する仕様に見えるが。


「下水道を掃除している」


「どこから金が出てんだ?」


 子どもにやらせんなよ、とは思うが、仕事をさせる社会的仕組みがあることにびっくりだわ。意外と成熟してんな、バイブラストは。


「役所からさ。区間を受け持ち、一月単位で仕事を受けられるのさ。報酬はびっくりするくらい安いけどな……」


 まあ、スラムの子どもを使ってんだから安く上げよとはするわな。


「それでもお前が見つけて来たんだろう。そいつらをなんとかしたくて」


 オレの言葉に目を大きくして驚いた。お前、本当に猫か……?


「わかるくらいには人生経験はしているよ。見た目は──って、面と向かって話すか。ドレミ。そいつらを連れて来てくれ」


 距離的に二十メートルも離れてねーが、話し難いわ。


 ドレミに連れられて来た三兄弟は、不審そうに、警戒するようにオレらを見ている。


「オレはベー。外国人で、この領都には商売で来た。まあ、見た目はこれだが、ちょっとした商会を仕切っている」


「仕切ってるのはフィアラで、ベーは放り投げてるだけでしょう」


 びーくわいえっと! 先生怒りますよ!


 思わず中学校のときの英語の先生の口癖が出てしまったが、そう言いたくなる気持ちがファンタジーな世界に転生してわかりました。ロッテン先生とアダ名をつけてごめんなさい。


「まあ、変なガキだと思っておけばイイさ」


「実際、変だしね」


 とりあえず、頭の上のメルヘンは遠くに飛ばしておく。先生、ブチ切れますよ!


 ……あ、先生の名誉のために言っておきますが、それは生徒たちの後付けですんであしからず……。


「おほん。これから時間はあるのか? 仕事ならまた今度にするが?」


 オレの謎の行動にキョトンとする三兄弟+茶猫。気にしないで。


「……あ、いや、だ、大丈夫だ。仕事は終わったから……」


「なら、まずは風呂だな。ミタさん。城に戻るから連絡先頼む」


「はい。では、先に戻りますます──」


 転移バッチで戻ったミタさん。これだけ人の目があるのに、まったく気がつかれず転移するとか、メイド忍法かよ。


 でも、村人忍法、ドロンのほうが優秀だけどな!


 三兄弟+茶猫のキョトンなど眼中になし。村人忍法の優秀さに自画自賛するのが優先よ!


  ◆◆◆


 用意もあるだろうからオレたちは徒歩で城に戻ることにした。


 話は落ち着いた場所でってことで、オレたちに会は話ない。が、どこに連れていかれるんだろうと、戦々恐々の三兄弟を宥める茶猫の声をなんとはなしに聞いていた。


「マ、マーロー。大丈夫なのか?」


 弟と妹を後ろに隠しながら気丈に茶猫に問うている。


「心配するな。スライムを従えるヤツに悪いヤツはいない」


 いやそれ、どう言う理屈だよ! 


 思わず振り返って突っ込みたくなったが、必死で堪えた。なんかそれを否定したらオレのアイデンティティー(的なもの)が壊れそうだったのでよ……。


 なにかエリナやチャコに似た方向性を感じるが、この世界に猫として産まれ、逆境を乗り越えてまともになった感じがある。


 ……あの二人は百回転生しても変わらなさそうだが、こいつはまだ救いようがある。なら救ってやりたいぜ……。


 何度か突っ込みたいのを堪えて城へと帰って来た。


「いやいやいや、城だよここ!」


「ああ。城だな」


 そう言や、こうしてこの城を眺めるのは初めてか。さすが帝国の公爵さま。立派な城だね~。


「千年も残ってたら世界遺産になりそうだな」


 まあ、千年後にユネスコみたいな協会があれば、だけどよ。


 ちょっとした国の王宮よりデカいので、門には金ぴかな鎧を纏った門番? 兵士か? まあ、見かけ倒しではない、ガチに城を守っている鎧マンズが持っていた槍をクロスさせてオレたちの進行を止めた。


「これよりローレント城なり! 資格なき者は去れ!」


 随分と変わった口上だな。つーか、この城、バイブラストじゃねーんだ。一つに統一しろよ。紛らわしわ。


「オレはベー! 資格ある者なり!」


 とかノリで返したらクロスした槍が解かれた。え!? そんなんでよかっかたの?!


「「お帰りなさいませ、ベー様!」」


 やっててなんだが、スゲー恥ずかしいな。周りの目が心に刺さるわ。


 正門なはずなのに、なぜか人が多く、何事かとこちらを見ているのだ。


 両手で顔を覆いたいのを堪え、堂々と正門を潜った。


 玄関から出てすぐに馬車に乗り、外なんて見なかったからわからなかったが、意外と正門から城まで距離感があったんだな。


「なんでこんなに広いんだ、この城は?」


「なにかあったとき、領民を避難させるためよ。バイブラストは森が深いだけあって森が溢れるときがあるからね」


 バイブラストでは大暴走を森が溢れるって言うんだ。ってか、なにが溢れるんだ?


「一番多いのはマテリアって呼ばれる鹿よ。人は食べないんだけど、草木を根こそぎ食べるから田畑に甚大な被害が出るのよ」


 鹿か。前世でも増え過ぎて問題になってたっけ。このファンタジーな世界じゃ災害級の被害だろうな。


「怖い世界だな。街の中では牙ネズミが大繁殖するしよ」


 茶猫がボソッと言ったことに、横を歩いていたレディ・カレットが勢いよく振り返った。


「……今、なんて言ったの……?」


 なにやら青い顔になるレディ・カレット。どったの?


「なんて言ったの!」


 長男の肩に乗る茶猫をつかみ、激しく揺らしている。死ぬぞ、茶猫。


 殺されたら敵わんので、結界でレディ・カレットを引き離した。


「牙ネズミってなによ?」


「小さな魔物よ! 牙ネズミが溢れて二度、アムレストは滅びかけたのよ!」


 にしては建物に被害は見て取れねーが? 


「牙ネズミは疫病を撒き散らすから建物に被害はないわ」


 あ、なるほど。ペストみたいなものか。


「お祖父様の代のことだからわたしも実感は薄いけど、公爵の娘として、その歴史は必ず教えられるのよ」


 しっかりした教育をしてんだな。まあ、それがイイほうに育った子どもがいるかは疑問だがな。


 ……長女は腐に侵食されてるしよ……。


「すぐにカティーヌ様にお知らせしなくちゃ!」


 駆け出そうとするレディ・カレットの襟首をつかんで強制的に停止させる。


「落ち着け。見たこいつらがこうして生きてんだからだろう繁栄とやらは解決してんだろう?」


 茶猫を見ると、目がぐるぐるになっていた。猫の形は見た目だけか? 三半規管、弱すぎんだろう。


「どうなんだ?」


 役に立たねーので長男に尋ねてみた。


「マーローが死にそうになりながら退治してくれた」


 たぶん、そこにはこいつらもいたのだろう。そのときの辛さや悔しさが顔に出ていた。


「そうか。立派な家族がいて羨ましいよ」


 家族を守り、こうして生き残った。それだけで尊敬に値するぜ。


「……家族……」


 不思議そうな顔をする長男。


「人だろうが猫だろうが、相手を大事に思えたらそれは家族だ。それともこいつは便利な愛玩動物か?」


「違う! マーローは家族だ!」


 愛玩って言葉を知ってるか。こいつ、意外と賢いな。多少なりとも教育されたのかな?


「ああ、そうだ。家族だ。なら、そいつに恥じない家族になれ」


 オレもオトンに恥じぬよう、生きて生きて満足して死ぬと誓った。


「オレが家族といれるようにしてやる。任せろ」


 そんなカッコイイ男を見捨ててなるかよ。


  ◆◆◆


「お帰りなさいませ」


 と、なぜかダークエルフのメイドさんズに迎えられた。なぜに?


「遠征メイド隊の教育が整いましたので、現場に出すことにしました」


 なに一つ、ミタさんの言っていることが理解できないが、背後のメイドさんズはミタさんの配下ってのは理解した。


 言って聞くようなミタさんでもねーし、オレの行動が制限されるわけでもねー。好きにやってちょうだい、だ。


「こいつらを風呂に入れて、新しい服を着せてやってくれ」


「畏まりました。レータ、ハルフィー、サラン、任せます」


「「「はい。畏まりました」」」


 ささっと三兄弟の背後へと回り込み、ささっと風呂場へと連れていった。


 ……メイドって、そんな動きを要求される職種だったっけ……?


 なにか違うものへと教育したような気がしないではないが、うちのメイドはそう言うものなんだろう。いや、知らんけどよ。


「ゆっくり話せる部屋はあるかい?」


 勝手知らない他人の家。ってか、客の身で勝手に動いて大丈夫なのか?


「カティーヌ様より許しを得ています」


 許すなよ! 自分んちだろうが!


 いや、好き勝手しているオレが言ってイイことじゃないがよ。


 なんかどうでもよくなったので、すべてをミタさんに任せた。


 案内された部屋は、上等な客室で、上等なソファーや上等な家具が揃えてあった。あ、下等な描写ですんません。


「好きなところに座──れねーか。まあ、気に入ったところで丸くなれ」


「完全に猫扱いかよ。いや、猫だけどさ……」


 なにか通じる感性に、キャラが被っているように感じるのは気のせいだろう。他人の空似だ。


 向かいのソファーに腹這いとなる茶猫。なんか温いって顔になってるな。


「なんか飲むか? 牛乳と羊乳ならあるぞ」


「……猫だけど、猫扱いしないでくれ。人としての矜持をなくしそうだからよ……」


 別になくしてもイイだろうよ。オレもどうせなら猫に転生して毎日食っちゃ寝したいもんだぜ。まあ、食うにも困る野良猫はイヤだけどよ。


「矜持を大切にしたいと言うなら大切にしたらイイさ。で、なにを飲む? なんでもあるぞ」


 オレやプリッつあん、そして、ミタさんの無限鞄を合わせたら大抵のものは出せんだろう。


「ペ○シが飲みたい」


 いきなり変化球をぶっこんで来やがったな。誰か持ってる?


「只今ご用意致します」


 メイドの一人がお辞儀をし、部屋を出ていった。え! 用意できんの!?


 しばらくして出ていったメイドさんが戻って来た。盆にサンゴー缶のペプ○を載せて。


「カイナーズホームの宅配サービスを使いました」


 あ、ああ。そう言や、そんなのあったな。つーか、そんなサービスして儲けがあるのか?


「お待たせしました」


 テーブルに置かれたペ○シ。で、どーすんのよ? と見ていると、なんとも器用に歯でプルタブを開けやがった。


 ……ってか、プルタブ式なんて久しぶりに見たよ……。


「ペプ○だー!」


 本当に器用な猫だな。缶を両手(前足か?)でつかんで飲みやがったよ。


 長靴を履いた猫ならぬ炭酸を飲む猫。童話どころか笑い話にしかならねーよ。


「猫の器官的に炭酸とか大丈夫なのか?」


 よくゲップも出さずに飲めるよな。


「おれにとってペ○シは命の水。五臓六腑に染み渡るのさ!」


 安上がりだな命の水だな。ってのはヤボか。オレにとってコーヒーが命の水だしな。


「お代わり!」


 その体でよく飲むものだ。あ、オレも飲みたくなったから一缶ちょうだい。


 久しぶりに飲むペプ○。こんな味だったっけ?


 炭酸ジュースなんて夏しか飲まなかったし、どちらかと言えばコーラ派だ。ペ○シの味なんて忘れたわ。


「……旨かった……」


 腹を上にして、懐かしさに涙していた。


「それはなにより。欲しけりゃ言いな。ケース単位で用意してやるからよ」


 どうせ不安になるくらい安いだろうし、ペ○シで手懐けられるんなら安いもの。ケースどころかパレット単位で買ってやるよ。


「……今さらだが、どうして助けてくれるんだ……?」


 起き上がり、不審な目をオレに向けて来た。


「家族を守り抜いた男がカッコイイと思ったからさ」


「……カッコイイ? おれが……?」


 キョトンとなる茶猫。体もそうだが、表情筋もどうなってんだよ?


「ああ。最高にカッコイイぜ」


 きっと前世の自分がキライで自信が持てず、周りから否定され続けたのだろう。自分のしたことがどれだけカッコイイことかわからないのだろうよ。


「カッコイイ男が見てくれを気にしてんじゃねー。カッコイイ男は黙っていたってカッコイイものさ」


 まあ、大半の人は愛らしいと思うだろうけどよ。


「……ありがとうございます……」


 なぜか泣きながら土下座して感謝を口にした。


 オレの知らない物語を経て今がある。ならば、受けてやるのが男ってものさ。

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