第30話 リボン

「──なんじゃこりゃー!!」


 なにか叫び声で深い眠りから強制的に起こされた。


 ……なんだよもう~! 静にしろよ。寝たばっかりなんだからよ……。


 ゴロンとドレミに顔を埋もれさせる。あーぽよんぽよん気持ちイイ~。


 深い眠りに……とか思ったら、なんか頭に衝撃が。なんだよ、も~。


「起きさらせ、アホんだら!」


「──ふべしっ!」


 また衝撃が生まれ、凄まじい勢いで吹き飛ばされた。


 なんか硬いものに激突。バウンドしてさらに激突。意識が深いところに……。


「──って、なにすんじゃい! 二度と戻れない眠りにつくとこだったわ!」


「何度でも起こしてあげるわよ!」


 それは止めてください。なんかメルヘンの傀儡になりそうなんで……。


「はぁ~。なんだって言うんだよ。まだ眠いんだよ、オレは」


 ドレミベッド(キングサイズ)に戻ろうとしたら、ドロップキックを食らいました。


 ……クソ! オレの能力をここまで使いこなせるようになるとは。メルヘン、侮りがたし……。


「目覚めるまでぶっ飛ばす!」


 ヤダ、このメルヘン怖い!


 畜生、ふざけんなとは思うが、今は寝不足で本来の力の一〇パーセントも出せない。これでガルルと唸るメルヘンには勝てない。君子、危うきときにはごめんなさい。誠心誠意、目の前の危険に従順になりましょう、だ。


「んで、なんなんだよ?」


「なんなんだよはこっちよ! なんでドレミが部屋中にいるのよ! 怖いわよ!」


 言われて見れば部屋中にドレミさんがいっぱい。少なくても四〇はいるかな?


「しかも、なんか年齢が上がってない? と言うか確実に大きくなってるわよね?」


 確かに。メイド型のときは、一〇歳前後の年齢(分離が多いと五歳くらいまで小さくなります)だが、今は一五歳くらいになっている。


「想像以上にスライムがいたんだな」


 一〇〇匹くらいまで融合を見てたが、一向に減る様子がなかったので、七つに分離して手分けして融合することにしたのだ。


 それでも減らないので、いろはも七つに分離して融合を始め、二時間して尽きた。かどうかはわからないので、いろは本体を残し、探索に出させたのだ。


「まだ帰って来ないところを見ると、まだいるみたいだな」


「……スライムって謎よね……」


 説明したら、プリッつあんがそう感想を漏らした。


 ……オレとしては、スライムより君のほうが謎すぎると思うな……。


「と言うか、なんで大きくなってるの?」


「融合した量が多いからだろう」


 部屋中にいるドレミは、だいたい一五歳くらいになっている。


 今までのドレミがメイド型になると、基本、一〇歳前後。分離数により年齢が上がったり下がったりする。ハイ、今さらな説明で申し訳ありません。


「ドレミ。もう元に戻ってイイぞ」


 スライムベッドがぷるるんと揺れ、メイド型ドレミにトランスフォームする。ただし、二〇歳半ばのボン・キュー・ボンなおねーさまに、だけど。


「ベーの趣味?」


「なんでだよ! それがメイド型の成長限界点なんだよ」


 スライムの姿なら夜叉丸やしゃまるまで大きくなるが、人型だとそれが精一杯なんだとさ。


「ふ~ん。まあ、メイドのときの大きさなんてどうでもいいけど、猫になったら不味いんじゃないの? その体で猫になったらスゴいことになるわよ」


 あ、確かに。そこまで気にしなかったわ。ドレミさん、ちょっとトランスフォームしてみ。


「……ベーが跨がったらべーナイトになるわね……」


 語呂はいまいちだが、なんか引かれるものを感じ、ドレミに跨がってみた。


 ……あ、なんかイイかも……。


 うむ。プリッつあんがなかなか降りない理由がわかった。メッチャ、乗り心地がイイじゃねーか!


 このまま跨がっていたいが、なんかダメなほうに転がりそうなので、自分を叱咤してドレミから降りた。


「さすがに街中じゃ騒がれるわね」


 いや、そうでもないようが気がする。魔獣を手下にする従魔化の歴史も結構古くからあるし、それを狩りに利用する狩人もいる。確か、冒険者ギルドで従魔の登録できる話を姉御から聞いたことがある。帰ったら聞いてみるか。


「まあ、大人な姿なら猫にならんでもイイだろう」


 最初、五歳くらいの姿だから猫の姿にしたんだし、まともに見えるならメイド型でいても構わんだろう。まあ、人のいないところなら猫になって跨がらせてもらうけど。


「もうイイぞ」


 ボン・キュー・ボンなメイドになるドレミさん。見た目がイイのはこっちだな。


「ミタレッティーの立場が危ぶまれるわね。それじゃなくてもベーの側にいられないんだから」


 別にいなくてもオレは構わんのだが、雇い主として雇用者の矜持を守るのも大切な役目。守るべきは守ってやらんとならんか。


 ん~どうすっぺ?


「わたしの能力みたいなのを道具にして創ったらいいんじゃない? それぞれ変身しても違和感のないやつを」


 なるへそ。そう言う手がありましたな。で、なにがよろしいと思います? オレにはまったく想像できませんわ。


「まったく、少しは考えなさいよ」


 ハイ、ごめんなさい。お叱りは甘んじてお受けします。なので、アドバイスよろしくです。


「リボンなんていいんじゃない。猫とメイドなら違和感はないでしょう。スライムはどうかな~っては思うけど」


 いや、リボン、イイんじゃね。


 よし、猫とスライムになるときに小さくなれるようにして、頭に来るように調整。リボンはポピュラーなのでイイか。派手だと邪魔になるしな。色は赤。こんなんでどうでしょうか、ドレミさんや?


「はい。それでよろしいと思います」


 なぜかスライムに戻り、たぶん、頭と思う方向をこちらに向けた。


 まあ、ドレミなりのなんかがあるんだろうと思い、頭にリボンをつけてやった。


「ありがとうございます」


 口調は平坦だが、体は嬉しそうにぷるるんと震えていた。


 ……うん。やっぱメルヘンと同じくらいスライムもよくわからん生き物だわ……。


  ◆◆◆


「それより、この増殖したドレミ、なんとかならないの? 同じ姿で同じ顔って怖いわよ。せめて髪の色を変えるとか、特徴を加えるとかしなさいよ」


 どれもドレミなんだからイイじゃねーかと思うが、まあ、同じ顔ってのも味気ねーか。


「じゃあ、髪の色ごとに隊を作って、メガネをかけたり髪型を変えたりしてみるか」


 ドレミさん、よろしこ。


「では、変えてみます」


 で、一二色の髪に変わり、メガネ、ポニテ、ちょいふっくら、お胸さん、東洋顔、西洋顔、小麦色肌、あと、メイド服の色違いと、辛うじてドレミなんだろう特徴を残して変化した。


 どうでしゃろ?


「まあ、マシにはなったけど、さすがに多くない? この数を連れて歩くの? 非難ゴーゴーよ」


 四〇人以上のメイドを引き連れるオレ。うん。想像しただけで胃が痛くなってきた……。


「……これはなんとかせんといかんな……」


 どうしたらイイと思う? と、プリッつあんを見る。眠くて頭が働から知恵を貸してくださいな。


「どこかに仕舞っておけばいいんじゃないの? こんなにいてもやることないんだし」


「仕舞うって言っても、どこに仕舞えばイイんだ?」


 なぜかは知らんが、オレが持つ無限鞄もプリッつあんが持つ無限鞄も生き物は入らない作りになっている。なので、ドレミが持っている謎の収納能力(エリナ系の力はよくわからん)もダメだろう。


「べーの収納鞄じゃダメなの?」


「入るには入るが、オレの能力では一〇人しか入らんし、変身するドレミには鞄とか邪魔じゃね?」


 鞄じゃなく庫にしてもイイんだろうが、オレの結界は人の思考を元に発動するように組んである。だから、スライムの思考には効かないんじゃねーかな?


 と、試してみたら、やはり上手く発動してくれなかった。なんか、思考を邪魔されてる感じだな? 超万能生命体による弊害か? いや、知らんけどよ……。


「じゃあ、どこかに待機させておくとかは? 例えば飛空船とかに乗せて、必要なときに呼ぶとか」


 待機か。まあ、仕舞うよりはマシな案だな。


博士ドクターに頼んである魔力炉が完成したらオレ専用の飛空船はできるが、まだ時間はかかるだろうし、すぐには無理だよな……」


 新しく作るか? いや、さすがに魔力炉の構造なんて知らんし、想像もできん。あれは超魔術の集合体。博士ドクターでも一から作るとなると一月二月はかかりっきりになるとか言ってた。


 そんなものを想像して創造するなんてオレには不可能だ。


「……すぐには無理だな……」


 何ヶ月か試行錯誤したら、それなりの飛空船を創ることは可能だと思うが、そんなに時間などかけてられん。いろいろやることあるしな。


「なら、今はいろんなところにバラしておけば? 何人いたところでべーはそれをすり抜けていなくなるんだし」


 別にすり抜けているわけじゃない。皆がついて来ないだけだい! とかは言わないよ。これ以上監視など増やされたらたまったもんじゃねーからな。


「ドレミ。ここを出たらテキトーに振り分けてくれ。余るようならブルーヴィで待機してろ」


 なにかしていたいって言うなら好きなようにやってろ。ただいるだけなのも辛いだろうからな。


「畏まりました。マスターの邪魔にならないように配置します」


 ハイ、とりあえず問題は片付きましたのでおやすみなさい。ドレミさぁ~ん。またベッドになってくださいしぃ~。


 メイド型に抱きつく──には抵抗があるのでベッドにトランスフォームするのを待つ。


「プリッつあん。あとは任せる」


 好きなことしててよ。なんなら探索でもしててくれ。おもしろいのがあったら確保ね。よろしこ。


 トランスフォームしたドレミベッドへダイブ。おやすみ一秒で夢の中。なにか閉じ込められる夢を見たような気がしないでもないが、まあ、快適に起きられた。


「……ん?」


 あれ? なんか視界がやけに狭くね? キャンプに選んだ部屋、大広間的なとこのはずだったのに……。


「ドレミ、移動した?」


「いえ。動いておりません」


 じゃあ、オレの記憶違いか? いや、んなわけねーよ。大広間的なとこだったよ!


 ドレミベッドから起き上がり、無限鞄から濡れタオルを出して眠気を拭き払った。ふぅ~。さっぱり。


 改めて辺りを見回す。


 ……なんだろう? オレ、まだ夢を見てんのかな? あり得ないものに囲まれてるんですけど……。


 もう一度濡れタオルを出して顔をゴシゴシ。ふぅ~。さっぱり。て、気分一新させて辺りを見回す。


 ………………。


 …………。


 ……。


 ハイ、さんはい。


「──なんじゃこりゃー!!」

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