第31話 扉に到着

 なにこれ? なんなのこれ? どうなってんのよ? 誰か説明してよ? これはどんな状況になってんのよ~~!?


「オレはどこの不思議の世界に迷い込んだんだよ!」


 って言うか、ホラーハウスに来た感じか? メチャ怖いんですけど!


「ほんと、なんだって言うんだよ! 悪夢でも見てんのか、オレは?」


 なぜかオレを見詰めるように置かれたリアルな人形の数々。四方をリアルな人形に囲まれるとか、幽霊に慣れてなかったらおしっこじゃじゃ漏れだわ。


「なにドールって言ったっけ、これ? 関節人形? あれ? 西洋人形だっけか?」


 まったく興味のないもので、テレビのニュースで観ただけの知識しかない。なんで、これがそれと同じかはわからんが、リアルな作りをしているのは同じ……だと思う。


「……人の趣味嗜好はそれぞれとは言え、よくわからん物を作るヤツがこの世界にもいたんだな……」


 人形好きとかのレベルじゃねーだろう。つーか、これを愛でるのか? 飾って眺めるのか? マジで意味わかんねーわ。


「ってか、どうなってんだよ? ドレミ、なんなんだ、これは?」


 オレが眠っている間になにが起こったんだよ。


「プリッシュ様がこの建物で発見して、ここに運ぶよう命じられました」


 君の中でプリッつあんはどんな存在なのよ? いやまあ、ドレミがイイのなら構わんけどさ……。 


「つーか、これはなんの包囲陣だよ? それともなにかの儀式か?」


 オレを呪ってのことなら無意味だぞ。もうレイコさんに呪われているようなものだからな!


「……わたし、清く正しい幽霊ですからね……」


 なんだよ、清く正しい幽霊って? イイ幽霊は成仏した幽霊だけだ。


「なんでもイイが、これ、呪われた人形じゃないよな?」


 幽霊博士。鑑定してください。


「ただの人形ですよ。ただ、自動人形かもしれませんね」


 自動人形? って、動くってことか?


「何百年か前に自動人形が流行った時代があったんです。愛玩具として」


「これをか? 不気味なだけだろう」


「時代時代で趣味嗜好は違いますし、美醜にも違いが出て来ます。最高級の人形は一体で城が買えたとか言われてましたよ」


 流行りってのはよくわからんな。


「でも、自動で動くほど高度なものなのか? 結構華奢じゃね?」


 材質がなんなのかわからんが、そんな丈夫な感じじゃねーぞ。木か? 陶器か? なんだこれは?


「魔力で強度を高めますし、魔術で動かしますから。けど丈夫ですよ。まあ、複雑な動きはできませんけど」


 あくまでも愛玩遊具、って感じか? まあ、遊ぶくらいなら単純な動きでも子どもには喜ばれると思うがよ。


「にしても、こんなに集めてどうしようって言うんだ?」


 人形が着ている服でも回収すんのか? 


「ん? 人形が身につけてる指輪や装飾品って本物なのか?」


 ガラス製品でも今の時代なら高価なものだが、本物の宝石ならその数倍はするだろう。


「本物ですね。水色のクランなんて初めて見ましたよ」


 クラン? トパーズのことか? オレも初めて見るな。


 人形の指から紫と白の石がついた指輪を外し、錬金の指輪で解体してみる。


「……ここで創り出されたものじゃねーな……」


 まあ、証明できるほどの証拠はないのだが、土魔法の反応がいつもの感じがするのだ。ここで創り出したものは、土魔法が微妙に鈍くなるのだ。


「まあ、宝石を創造するってのも難しいだろうからな」


 見たこともないもの、知らないものは創造できない。まず、創造するには知識と想像力が不可欠。設定か神の介入か、えげつないところなのは間違いねー。


 ここは、決して都合のイイ場所ではない。前世の記憶と知識がなければ宝の持ち腐れだ。


「ホー! ホケキョ!」


 ん? ミミッチーの鳴き声? どっからだ?


 四方をリアル人形に囲まれている割りには、鳴き声の響きが小さいな? なんかに阻害されてる感じだな?


「ってか、完全に閉じ込められてるよな、これ」


 わざとだったら覚えてろよ。


「ミミッチー! どこだ!」


「ここ! なんか箱の山に囲まれてる! 助けて!」


 オレが言うのもなんだが、囲まれる前に気がつけよ! お前の野性が心配でならんよ!


 リアル人形を無限鞄に放り込み、声がするほうに道を作っていく。


「クローゼット? こんなものまで運んで来てんのかよ!」


 リアル人形の中からクローゼットと言った家具が現れ、それも無限鞄に放り込む。


「おもしろいものは確保しろとは言ったが、集め過ぎだわ!」


 家具が消えたら今度は服の壁が現れた。たぶん、ドレミ団を使ってるんだろうが、少しは自重しやがれってんだ! こんなに集めてどうすんだよ! 


 なんとかしてミミッチーと合流。だが、ミミッチーが言ったように箱が天井まで積まれており、心を折るには充分な状況だった。


「……一旦、落ち着くか……」


 慌てず騒がす、まずは冷静になろう。それに、腹が減った。万全の体調と健やかな精神を復活させよう。


 料理を出して腹を満たすことにした。


  ◆◆◆


 食後、コーヒーを飲んだら身も心も完全復活。これから一六時間は戦えるぜ!


「……でも、これを前にすると萎えるな……」


 超万能生命体が四〇人以上いるせいか、量がハンパない。つーか、なんでここに持って来るんだよ? 無限鞄があるんだからそれに入れろよな、まったく。


「ドレミ。分裂体がどこにいるかわかるか?」


 音がしないことからして部屋の中にはいないとはわかるがよ。


「かなり広範囲にバラけているようです。プリッシュ様はあちらの方角、五〇〇メートル先にいます」


 大遠征してんな。プリッつあん、そんなに冒険大好きっ子だったっけか?


「とりあえず、ここだと息が詰まるから外に出るか。ドレミ、窓の方向わかるか?」


 なんだか方向感覚が狂ってて、どっちがどっちだか全然わからんのだ。


「あちらです」


 と言うので、無限鞄に物を放り込みながら目指した。


 ほんと、よくもまあ、こんなに集めたものだ。ってか、絨毯まで持って来ることねーだろう。メルヘンの通った後に草木も生えないとか止めてくれよ。


 二〇分かけてようやく窓に到達。つーか、なんでぴっちりと部屋に運び込んでんだよ? 他の部屋に置けよ!


「ふぅ~。やっと出られた」


 清々しい空ではないが、この解放感が素晴らしいぜ。


「ミミッチー。狭間はこの下なんだよな?」


「うん、そう。この下にある」


「ドレミ。いろはは?」


「お側におります」


 と、背後からいろはの声が。いたんかい!?


「つーか、いろはは元のままなんだな?」


 いや、オレくらいにまで成長(?)してんな。なんでだ?


「大きいと動きが鈍りますので、このままにしております。ですが、護衛は増えたのでご安心ください」


 なに一つ安心するものはないが、いろはの場合は見えないようにしているからまだ心が穏やかだわ。


 ……まあ、Gのごとく、見えないところにいるんだろうと思うと、なんか背筋がゾワゾワするがよ……。


「スライムは駆逐したのか?」


「周囲一キロ内にはおりません」


 つまり、他にはいるってことか。繁殖力が高い生命体だよ。


「こちらを狙って来る感じか?」


「いえ。離れていってます。どうやら危機を感じる能力はあるようです」


 ふ~ん。スライムとは言え生命体は生命体。危機を感じる能力がなければ生きられないか。


「プリッつあんには、ドレミの分裂体がついてるんだろう?」


 あのメルヘン、意外と言うかなんと言うか、結構慎重派だったりする。まあ、たまにはっちゃけたことはするが、危機と感じたら絶対にやらないのだ。


「はい。四体ついておりますからご安心ください」


 別に心配はしていない。あれはなにがあろうと最後まで生き残るタイプだ。


「なら、放っておいても大丈夫だな」


 無限鞄からツルハシを取り出す。


 もちろん、このツルハシはここで創ったもので、魔道具でもある。


 これは、超振動ツルハシ。どんな硬いものでも破壊する。ほぉ~らよっと!


 軽くツルハシを振り下ろした。


 パシーン! と、波紋が広がったと思ったら足下が消失。一瞬の浮遊感を感じ、すぐに喪失感が襲って来た。


「ベー!」


「ワリー!」


 と、皆で仲良く落下しましたとさ。めでたしめでたし──なんて言えるわけもなく、完全に埋もれてしまいました。


 まあ、オレの体ならこのくらいの瓦礫に埋もれても傷などまったく負わないし、痛みもそれほどない。ただ、煙が酷いので結界で吹き飛ばした。


「ふー! びっくりした~!」


 ツルハシ、凶悪過ぎ! 竜の鱗ですら粉々にするぞ!


「これ、封印だな」


 殺戮阿吽より危険だぜ。


「つーか、そもそもオレの力なら普通のツルハシでも問題なかったわ」


 なんで創ったんだろう? 謎だ。


「ホー! ホー! ホー!」


 おっと。ミミッチーもいたっけ。忘れてたわ。


 瓦礫に埋もれるミミッチーを助けてやる。


「意外と頑丈だな、ミミッチーって」


 上を見たら三〇メートルほどあった。並の生物なら軽く死んでるぞ。


「ホー! ミミッチー生き物! 死んじゃうの!」


 元気なようでなにより。丈夫に産んでくれた親に感謝しろよ。


 ミミッチーの嘴攻撃を受けながら辺りを見回す。


「礼拝堂的なところか?」


 破壊が激しくよくわからんが、結構広いところは確かだ。


「掘ろうにも瓦礫が邪魔だな」


 まあ、結界でサクッと掬い、伸縮能力で縮小。そして、遠くへポイ。今度は普通のツルハシで掘り進めていく。


 夢中になって掘り進めること一時間。なんか硬いものに突き当たった。なんだ?


 本気の一撃を食らわすが、謎の硬いものはビクともしない。それどころか傷一つついてなかった。


「ミミッチー、これなんだ?」


 なぜかいろはに銃口を突きつけられているミミッチーに尋ねた。


「それ扉。その下が狭間」


 どうやら下に到達したようだ。で、どうやって開けるんだ?


「狭間への扉は大きいから、開けたらこのまま落ちちゃう」


「じゃあ、どうするとイイんだ?」


「非常用の通路が何ヶ所かある。近いのはあっち」


 と言うので、翼で指した方向へと掘り進んでいく。


 二十メートルほど掘り進むと、また硬いものにぶつかった。


「それが狭間への非常用通路」


 その周りを排除していくと、半球形のものが現れた。


「で、どうするとイイんだ?」


「パージメントオープン」


 ミミッチーの合言葉だか音声認識だかが働き、半球形のものが上昇。螺旋階段が現れた。


「謎の構造だな」


 まあ、今さらか。


「場所もわかったし、一旦上に戻るか」


「いかないの?」


「狭間から帰るほうが早いからな、集めたものを回収するんだよ」


 あと、プリッつあんの回収もな。置き去りにしたらスライムに迷惑だろうしよ。


 帰りは空飛ぶ結界でササッと撤収です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る