第32話 メルヘンアイ

 外(?)に戻って来ると、なぜかプリッシュ号が巨大化してあった。なんで?


「あー、メガネなドレミさんや。なにやってんだい?」


 分離ではなく分裂したので、ドレミ風ではあるが、別個体となったので、とりあえず優しく声をかけた。


 あ、別個体になったとは言え、ドレミの指揮下には入っているそうですよ。なのでドレミ軍団なのです。


「はい。プリッシュ号の内装を変えております」


 内装? あ、ああ。プリッシュ号の中、大したもの置いてなかったっけな。


「プリッつあん、そんなにプリッシュ号を気に入ったのか?」


 作り手としては嬉しいが、そんなに建物に執着するような性格だとは思わねーんだが。あ、たくさん持つのは好きか、あのメルヘンは。


 メガネなドレミが中心に動いているようで、プリッシュ号の周りにはメガネなドレミばかり。どんなチョイスなんだ?


「プリッつあ~ん! 出てこぉ~い!」


 色違いのメガネをするドレミがひっきりなしに出入りしているので、外から呼びかけた。


「今忙しいの~! 集めたやつの片付けてて!」


 居住区の丸窓から顔を出してそんなことを叫んで来た。


 ハイ、了解でーす。


 と、素直に返事をしたものの、メンドクセーのでマ○ダムタイムと洒落込んだ。あーコーヒーうめ~!


「ベー! サボらないでよ!」


 ちっ。うるさいメルヘンだ。わーたよ。


 しゃーね。おもしろものを集めろと言った手前、放置もできんしな。


「さて。メルヘンの琴線に触れたものはなんですか~」


 キャンプした建物に入り、手近な箱を開けてみた。


「箱?」


 なにやら高価そうな意匠を施した長方形の箱がいくつか入っていた。なんじゃこりゃ? 


 箱を取り出し、留め具を外して開いてみる。


「スプーン?」


 がぎっちり詰まっていた。なんでじゃ?


 一つ、取り出してみる。


「銀、ではねーな。ん? この感じ、聖銀……に似てるが、聖銀でもねーな。初めて触る感触だわ」


 土魔法に反応しないところをみると、金属でもない。よくわからん素材だぜ。


「まあ、こんだけ意匠を施した箱に入ってんだ、安物ではあるまい」


 あんちゃんにでも卸してやるか。錆びなければ人魚の世界で売れそうだしよ。


 人魚もスプーンやフォークを使ったりする。需要はあるはずだ。


 いろいろ開けて行くと、どうもこの一角は食器類のようだが、なぜにこんなにあるんだ? この建物が城だったとしてもあり過ぎだろう。製造工場の倉庫から持って来たかのような量だぞ。


「工房的なのが近くにあったのか?」


 まあ、人魚に売るなら多いほうがイイし、気にするなだ。


 ホイホイと無限鞄に放り込む。


「さて。次はなんじゃらほい?」


 茶箱みたいな箱の蓋を外してみる。


「缶詰め?」


 緑色した円柱形のものが詰まっていた。


 一つ取り出し、いろんな角度から見たり、振ったりしてみる。うん。よくわからん。


「おもしろだけで持ってきたな、あのメルヘンは」


 まったく、中身がわからんものを持ってくんなよ。毒だったらどうすんだ。


「膨らんでる様子はないし、中身を示すものもなし。食い物じゃねーのかな?」


 不安ではあるが、気にもなる。よし。開けちゃえ。


 もちろん、万が一に備えて結界で包み込み、結界の刃で上部をくり貫いてみる。


 煙が出るわけでもなければ飛び出すものもなし。中身は……黒い豆? いや、木の実? 種? なんだ?


「たくさんあるが保存食って感じはしねーな。なにが入ってるかわからんしよ」


 茶箱っぽい箱には、この世界の数字が書かれており、保管を目的につけられてるっぽい。いや、勘だけど。


「もしかすると、植物の種かもしれませんね」


 と、レイコさんが声がして結界の中にある缶詰めっぽいものを覗き込んだ。


「知ってるやつ?」


「たぶんですが、コノカだと思います」


 コノカ? 初めて聞くな。どんなものよ?


「イモの一種です。不味くはないようですが、そんなに美味しいものではありません。ただ、不毛の地でも成長すると、昔は魔大陸でも植えてました。まさかこの大陸にもあるとは驚きです」


 ほー。そりゃイイものが出て来たじゃんか。こりゃかけ値なしにおもしろいぜ。メルヘンアイに脱帽です。


 他のを開けてみると、カボチャやニンジン、大根などの種も出て来た。


「つーか、なんのために保管してあったんだ?」


 このクリエイト・レワロの下に箱庭がある。わざわざ種にして保管することもねーと思うんだがな? 


「この土地の気候では育たないものですしね」


 そうなんだよな。まあ、コノカってのイモならわからないではないが、レイコさんの鑑定では、もうちょっと暖かいところで栽培されるらしいのだ。


「まるで魔大陸に持っていくような感じです」


 言われてみればそんな感じだな。


 昔は魔大陸と交流があったのか? 箱庭は全世界にあるって石碑に刻まれてたしよ。


「まあ、なんにしろだ。メルヘンアイは正解ってことだ。ちょっと、いや、スゲーやる気が出て来たぜ」


 さあ、次はなんですかぁ~。


  ◆◆◆


「ベー。外のなーに?」


 詰め込まれたおもしろいものを見聞していると、プリッシュ号の内装替えが終わったのか、プリッつあんがやって来た。


「外の?」


 なんのことだ?


「なんか水槽にいろんなものが入ってたんだけど」


「あ、ああ、あれな。あれは実験してんだよ」


 見聞に夢中になって忘れったわ。


「なんなの、あれ?」


「人魚に売れそうなものを海水に浸けて様子を見てんだよ。並のものじゃ海の中に持っていけんからな」


 結界を纏わせれば問題はないが、そればかりではあんちゃんも困るだろう。結界発生具の貸し賃として一日金貨四枚もらっている。


 まあ、オレはタダでも構わないんだが、それでは示しがつかないと、金貨四枚で貸し出しているのだ。


「どうだった? なんかふやけてたり錆びついてたりしたか?」


 早く結果を知るために塩分濃度と、錆びた鉄棒を入れて置いたのだ。


「そこまで見なかったけど、これと言って変わりはなかったわよ。なんで水に浸けてるんだろうと思ったし」


 やはり時間を進めないとわからないか? まあ、一日浸けて変化なければ大丈夫だろう。ダメなら結界を纏わせればイイんだしな。


「了解。プリッシュ号はもうイイのか?」


「うん。中は終わったわ」


 外をなんかやって欲しそうな感じだったが、今の状況を読んでか、口にすることはなかった。成長しやがって……。


「なら、中の家具類や絨毯、人形はプリッつあんの無限鞄に入れてくれ。このままじゃ終わんねーよ」


 一二時間ぶっ通しでやってるが、全然終わる気配がねー。つーか、腹減りました!


「わかったー。ファーミは家具ね。ソーミは絨毯。ラーミは人形よ」


 メガネなドレミたちに名前をつけたメルヘンさん。もうあなたの手下ですね。了解です。


 建物に消えていくドレミ軍──ではなくプリッ隊。なんかプリン体みたいだが、まあ、なんでもイイわ。食事にしよう。


「ミミッチー、肉食べたい!」


 どこにいたのか、突然現れた役立たず。ニートはデッカイねーちゃんだけで間に合ってんだよ。


「肉ー! 肉ー! 肉ー! 肉食わせろー!」


「突っつくな! 日に日に図々しくなりやがって! 焼き鳥にすんぞ!」


「ミミッチー、鳥も食える。岩窟鷲、ちょー好き!」


「共食いだろ!」


「ミミッチーはミミッチー。ミミッチー以外は食べられる」


 おっかねー梟だな。油断したら食われそうだ。


「大丈夫。ベーは食べない。プリさまも食べない。なんか不味そうだから」


 食わないのなら不味かろうがなんだろうが構わんが、なぜプリッつあんがさま呼び? お前らの力関係どうなってんのよ?


「ミミッチー、黒羽妖精苦手。あいつら、ミミッチーいじめるから。でも、プリさま、ミミッチーいじめない。食べ物くれる」


 いや、くれてんのオレだよね! プリッつあん、一回もあげてないよね! まさか、プリッつあんが頂点だと思ってんのか!? 


 クソ! そんな格付け、オレは絶対に認めねーぞ! オレは宿主だぞ! 


 ………………。


 …………。


 ……。


 いや、それだと下だよ! 寄生されてるほうが弱いよ! なに言ってんだオレは! そ、そうだ。オレたちは共存体。どちらが上なんてないのだ。


 オレたち皆平等。格付けなんて獣がすることだ。知的でインテリジェンスな村人は、人を獣を上にも下にも置かない。だって命は平等たもの!


「ベー、肉ー!」


 ──ふべし! 


 ミミッチーに蹴られ、建物にぶつけられてしまった。


「なにすんじゃい!」


「肉ー! 肉ー! 肉食わせろー!」


 テメーの羽根むしって焼き鳥にしたるわ! と、本気で思ったが、腹減ってむしるのもメンドクセー。まずは食事だ。


 無限鞄からオーク肉のシチューを出し、トマトを何個か出した。


「美味しい~!」


 本当になんでも食う梟だ。つーか、熱々の鍋に嘴突っ込んで平気なのか? まあ、問題なさそうだが……。


 鍋一つでは足らないだろうから、もう一つ出して、自分用に皿に盛る。


「肉食え。ほれ」


 シチューは飽きないが、オーク肉は飽きたのでミミッチーの鍋に放り込んでやる。


「この肉なに? メッチャ美味しいんですけど!」


「オークって言うブタだよ。バイブラストにはブタいなかったっけ?」


 そう言や、いるって聞いたことねーな。


「ブタ? 知らない」


 やっぱいないのか。じゃあ、なんの肉が主流なんだ?


「角が大きいヘブランって生き物を食べてる。でも、ミミッチーは好きじゃない。臭いから」


 そりゃ血抜きしてねーからじゃねーのか? 


「ヘブランか。興味あるな」


 地上に出たら狩りにでも出てみるか。一頭仕留めてサプルに料理してもらおう。旨けりゃヘブランも売ってもらおう。


「ミミッチー、食ったら手伝えよ。働いたらもっと旨いもの食わしてやるからよ」


 まあ、いないほうが捗るような気がしないでもないが、役に立たねーニートにタダ飯食わせるほどオレは優しくねー。食った分は働かせるからな、覚悟しろ!


「……働きたくないけど、美味しいもの食べたいからガンバる……」


 んじゃ、いっぱい食え。ほら食え。もっと食え。オーク肉はすべて食い尽くしやがれ!


「ミミッチー太らせてどうするの!?」


 それは食ってからのお楽しみだ。オラオラ、もっと食いやがれー!

 

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