第33話 腐嬢三姉妹

 その後、ミミッチーは美味しくいただきました。


ってことはなく、ただ無駄飯くらいの梟には風見鶏がお似合いだと、建物の天辺に追いやった。


 ……ほんと、使えねー梟だぜ……。


 ドレミ軍団の応援により、なんとかおもしろいもの仕分けが終わり、無限鞄へ仕舞うのも一時間で終了した。


「なんだかんだで四日も費やしたぜ」


 箱庭と言い、ここと言い、やたらと時間を費やしてしまったな。帝国での計画が狂いまくりだぜ。


 まあ、自業自得なんだが、こうも狂うと修正もできん。バイブラストでの計画も最初から練り直しだわ。


「ベー。中は終わったよ~」


「おう、お疲れさん」


 いや、プリッつあんもプリッ隊にやらせて大して仕事はしてないが、名指揮官ぶりを見せたので、ミミッチーよりはマシだ。


「んじゃ、骸骨嬢のところにいくぞ」


「見た目で相手の名前を決めるベーが骸骨って言うからには骨だけの人なの? あと、嬢ってことは女の人?」


「ドレスを着た骸骨だな」


 日頃からインパクトのあるヤツらを見てるからか、あまり細部まで記憶に残ってない。つーか、そのまま記憶から消えて欲しいわ。


「訊いても無駄だろうけど、名前は?」


「確か、ニンジンとかカラメルとか言ったかな?」


 呼び方の感じではキャラメルかな? 意味は前者だったような気がする。


「キャロリーヌですよ、ベー様」


 あ、うんうん! それだそれ! これまでにないくらいかすってんじゃん! オレ、やるぅ~!


「……喜ぶほどのことでもないし、喜ぶところがわからないけど、しゃべる骸骨さんなのね……」


「はい。驚きですよね」


 ……幽霊がしゃべるのと骸骨がしゃべるの、どっちが驚きなんだろうな? 誰かオレに教えてくれや……。


「まあ、なんでもイイだろう。いけば会えんだからよ」


 下に通じる穴に空飛ぶ結界を創り出し、飛び乗った。


「──ミミッチー! いくわよー!」


 呼ぶなよ。そのまま野生に帰してやろうと思ってたのに。


「はぁーい!」


 まあ、イイ。ミミッチーの世話(してんのはオレだけどな!)はプリッつあんに任せた。


 空飛ぶ結界を操り、下へと降りる。


「そういや、他のドレミはどうした?」


 腰につかまる猫型ドレミ(オリジナル?)に尋ねる。


「半数は戻しました。公爵様やミタレッティー様にご連絡を入れるために」


 あ、うん。連絡は大切だよね。お気遣いありがとうございます。


 下へと到達して、あとは歩きで非常用通路へと向かう。


「なんか綺麗に、ってか、瓦礫が排除されてんな?」


「いろはたちが退けました」


 Gがごとく蠢くいろは団。敵にしちゃいかんヤツらだな。


 はっ! うちの国にはいないがラーシュのいる大陸にはいるそうだし、先に送り込んで絶滅させるのも手だな。勇者ちゃん、なるべく早く里帰りしてくんねーかな。あ、その前にいろは撲滅団を組織せねばならんな。


 なんて真剣に考えてたら非常用通路に到着していた。


「なに真剣な顔で考えてたの?」


「Gを──いや、害虫を滅ぼすことを考えてた」


「ベー、虫嫌いだったっけ? ミミズや丸虫、平気で触ってたじゃない」


「まあ、平気は平気なんだが、サプルが大嫌いでな、ムカデとか見ると炎を放つから危険なんだよ」


 田舎暮らしだからミミズや丸虫を見ただけで暴走はしないが、Gなら完全に暴走どころか破壊神になりかねない。いや、なると断言してもイイだろう。


「あー、確かに。サプル、ハエを殺すのに壁焼いてたからね」


 うちのはすべてに結界を施してあるから燃える心配はないが、まだ結界を上手く操れない頃は毎日がヒヤヒヤもんだったぜ。


「ん? 非常用通路がねーぞ?」


 確か開けっ放しで戻ったよな。


「一定時間過ぎたら勝手に閉まるようになってる」


 ほーん。ちゃんと考えて造ってあんだな。


「んじゃ、また開けてくれ」


「パージメントオープン」


 半球形のものが上昇して螺旋階段が現れた。


「ミミッチー、先にいけ」


 梟だけどカナリアになれ。そして、なんかある前にオレに知らせよ。


「ミミッチーお願いね」


 なぜかオレを見るミミッチー。表情筋なんてないのに、渋い顔をしているのがわかった。だが、プリ様のご命令。さっさといけや、ほれほれ。


 ミミッチーを蹴って螺旋階段を下りさせた。


 数十段下りたところで安全だなと判断し、オレも螺旋階段へと足を踏み出した。


 素材不明な螺旋階段を下ること三百段以上。深過ぎね!?


「ミミッチー、まだなのか?」


「ミミッチー、下りるの初めて。知らない」


 そこからさらに数百段。疲れたのでマンダ○タイム。あーコーヒーうめーと体力を回復させる。


 よしと下りるが、まったく下に着かねー! どうなってんだよ、こん畜生が!


「ベー。飽きた」


 オレもだよ。だが、ここから上に戻るのも拷問だ。なら希望(?)がある下に向かうほうが建設的だわ。


 もう根性で下りてると、なにかガコンと音がした。なによ?


「狭間に着いた」


 数十段先をいくミミッチーがそんなことを言った。


 さらに下りると、壁がなくなり、前に嗅いだ下水道の臭いが鼻をついた。


「臭っ!」


 プリッつあんには辛いようで、オレの頭の上で悶えていた。


 オレはまだ大丈夫だが、どうしても嗅ぎたいわけじゃないので結界を纏った。


「あ、ヴィどの! やっと来たでごさる!」


 その声に手すりから顔を出すと、数メートル下のリビング島にエリナと骸骨嬢、そして、見知らぬ白いエルフがいた。誰!?


 ◆◆◆


 不気味ガールが現れた。


「ベーは逃げ出した」


「──クク。おやおや、どちらへおいかれですか?」


 ヒィ!


「でも、回り込まれた」


 ってか、頭の上からのゲーム的な状況説明なんていらねーんだよ! なんとかしてー!


「アヤネ、久しぶり」


「はい。プリッシュお姉様。お元気そうでなによりです」


 いろいろ突っ込んで、心の底から叫び倒したいが、今はこの状況をなんとかして! この腐界から一刻もおさらばさせてくださいませ!


「ヴィどの、いきなりダッシュなんかしてどうしたでござる? 忘れ物でござるか?」


「はい、そうです! 忘れ物したのでアデュー!」


 ──村人忍法、壁走りの術!


シュタタタと壁を走り、不気味ガールの横を通り抜ける。


「──おやおや。忘れ物でしたらこのアヤネが持って参りますよ」


 ヒィィィィィィッ!!


 なんだこいつ!? なんで一緒に壁を走ってんだよ!!  なにに進化してんだよ!?


「器用ね、アヤネ」


 もう器用ってレベルじゃねーよ! 変態だよ! いや、変態だよ! じゃなくて、変態だー!


「クフフ。お姉様に仕える者とこのくらいできねば恥ずかしいですわ」


 この状況でなに和やかに会話してんだよ! この不気味ガールをなんとかしてくれ!


 こいつ人だろう? なんで壁を走れんだよ! いや、オレも人で壁走ってるけどさ!


「諦めなよ。逃げられないんだからさ」


 男は負けるとわかっていても逃げたくなる生き物なんだよ! 察せよ! そして、助けてよ!


「ミミッチー! ベーに頭突き!」


 頭からプリッつあんが離脱。そして、横を走る不気味ガールが消失した。


 ──殺気!


「ホー!」


 ミミッチーの頭突きと思われる攻撃を紙一重で回避。オレは殺意があんなら感じ取れんだよ! つーか、殺す気で来やがったな! 逃げ切ったらぶっ飛ばしてやる!


 村人忍法、隠遁の術!


 プリッつあんがいないのなら隠れるまで。オレの隠遁は神ですら見つけられないぜ!


「フギャン!」


 なんか壁にぶつかった。なんで壁があるんだよ!?


「非常用通路は狭間に着いたら消える」


 それを早く言いやがれってんだ!


 壁に押され、螺旋階段を転げ落ちてしまった。痛いぃ~!


「バッドエンドね」


 だから、そんなゲーム的表現なんていらねーんだよ! 不運のメルヘンがっ!


 なんで黒い息子には幸運のメルヘンがついてオレには不運メルヘンがつくんだよ! 不公平だ!


「……いったいなにがあったでござるか……?」


「気にしないで。いつものベーにしかわからないベーだけの茶番劇だから」


「……プリどのは、ヴィどのをよくわかっているでござるな……」


「長い付き合いだしね」


 いや、君と出会ったの、春だよね? まだ一年間も過ぎてないよね? いや、もう何十年と一緒にいる気がしないではないけどさぁ……。


 はぁ~。逃げられないのならしょうがない。ならば、正攻法で立ち去るまで。


「んじゃ、またな~」


 さあ、おうちに帰るべ。


 空飛ぶ結界を創り出し、乗り込もうとしたらオレンジ色の脚がヌルッと体に巻かれた。


 え、なに? と思った瞬間、浮遊感が襲って来て、なぜかエリナたちがいる席へと座らされた。


「……帰してください……」


「なんで産まれたての小鹿のように震えているでござるか?」


 それは恐怖と嫌悪とその他諸々からです。


「それはそうと、キャロのことはどうなったでござるか?」


 プリッつあん、説明よろ! オレはこの渦巻く感情を押さえるのに必死なんです。


「事情はまったくわからないけど、なんとかなったんじゃない? カーレントが上に住むことになったから」


 ハイ、なんとかなったので帰してください!


「それはよかったでござる! さすがヴィどのでござる!」


「ありがとうございます。安心して暮らせますわ~」


 お礼なんてイイです。帰してくれればもうそれだけでオレは報われます。


「あなたが骸骨嬢さん? よく骸骨で動けるわね。あ、わたしはプリッシュね」


「はい。よろしくです。わたしは、キャロリーヌと申します。エリナの妹です」


 妹?


「と言っても義姉妹ですけど。でも、本当の姉妹以上に仲良しですわ」


「初めまして、プリッシュ様。わたしは、マリナリア。キャロの妹です」


 この、白いエルフ、どっかで見たようなないような、まったく思い出したくないのはなんでだろう?


「エリナがおねえさんなんだ」


「あはは。本当はマリが年上なんでごさるが、妹だと譲らないでござるよ」


「だって、昔のわたしは死に、ベー様の力により甦りました。産まれて間もないんですもの、姉なんて名乗れませんわ」


「わたしも一九で死にましたから、エリナの妹ですわ」


「死んでから七年過ぎてるのでござるから拙者より年上でござろうが」


「いえいえ。エリナは二四で死んで、五年は過ぎてるじゃありませんか」


「この中でエリナがしっかりしてるんだから長女でいいと思いますわ」


「マリの意見に賛成です」


「もー! 拙者、そんなにしっかり者じゃないでござるよ~」


 なんだろう、これ? オレはどこのなに空間にいるわけ? 誰か説明プリーズです。


「仲良し三姉妹ね」


 いえ。腐嬢三姉妹です。

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