第29話 スライム
「……ミミッチーの背で好き勝手やってるお二人さん。そろそろ中心部に着くんですけど……」
と、ミミッチーの声に我に返った。
「んお? もう着いたのか? 早かったな」
あまりの広大さに、何日かかかる覚悟はしてたんだがな。
「いや、一日近く飛ばされましたから」
そうなの? オレ的には一時間も過ぎてねーんだけどな?
「プリッつあん。一旦片付けるぞ」
いつの間にかプリッつあんも混ざって秘密の魔道具創りに入り、あれやこれやと創ってしまった。
「わかった。また後で創りましょう」
おう。オレもまだまだ創りたいし、プリッつあんの発想もおもしろいからな。
無限鞄にとりあえず仕舞い込み、固定結界を解除してミミッチーの背から下を覗き込んだ。
「……風景は変わらずか……」
どんだけ廃棄したんだよと突っ込みも失せるほど、飛び出したときと変わらない風景だった。
「ミミッチー。本当にここが中心部なのか?」
これと言った目印もなければ、らしい建物もない。箱庭に通じるところなんだから、それらしいものを置けよな。
「ミミッチー、場所は知ってるけど、来るのは初めて。でも、ここだとはわかる」
そう記憶か遺伝子に組み込まれてんだろう。よー知らんけど。
「中心部、あそこら辺。下りる」
そうミミッチーが言うと、降下し始め、城塞と言うか要塞って言うか、ちょっと斜めにはなっているが、ほぼ形が残るくらいの建物のテラスに着地した。
「ふ~。疲れた……」
「ご苦労さん」
「ミミッチー、ありがとうね」
労いの言葉を送って、ミミッチーの背から下りた。
「さて。骸骨嬢のところへはどういけばイイんだ?」
辺りを見渡す限り、瓦礫や建物が隙間なく積まれている。これでは下にいけねーぞ。
「掘るか建物の中から行くしかねーかな?」
まあ、そうなるだろうと掘る魔道具は創ってあるが、ほぼ形が残る建物を壊すのも偲びねーな。
「ベー。ミミッチーお腹空いた。疲れた。眠りたい」
翼を大きく広げて主張してきた。
そう言われたらオレも腹減ったな。それに、コーヒーも飲みてーわ。
「よし。今日はここでキャンプするか」
「なら、中に入ればいいんじゃない。ここから中に入れそうよ」
て、ガラスが吹き飛んだ窓から建物の中へと入っていく不法侵入なメルヘンさん。それ、キャンプじゃなくなるんですけど……。
「ミミッチー。寝るなら屋根のあるところがいい」
おい、お前の野性はどこにいった? と問う暇なく中へと入っていくダメ梟。一〇年くらい箱庭に放り込んだろか?
「……まあ、瓦礫って中でキャンプしても風情はねーか……」
キャンプをするには環境も大事。味気ねー場所でしてもおもしろくねー。なら、建物中で一夜を過ごすか。
オレも建物の中へとお邪魔します。
建物の形はほぼそのままとは言え、あの高さから落ちて、中のものまでそのままなどあり得ない。テーブルやソファー、家具などが滅茶苦茶になっていた。
「……可愛い家具なのにもったいないわよね……」
修復ボックスを創ったが、さすがにここまで粉々になると修復は無理だろうな。いや、再生でいけるかも?
「ベー。食べるもの出して。ミミッチー、空腹で倒れそう」
おっと。オレの悪い癖。まずは腹ごしらえだ。
「ミミッチー、なに食う? 肉か? 木の実か?」
「前にベーが食べてたものがいい。あれ、ちょー好み。あと、あのビリビリする飲み物も」
茶猫とキャラかぶりだな。とか思いはしたが、ファンタジーな世界に生きる摩訶不思議な生命体。好みが一致したところで大した驚きもなし。たーんと食えだ。
ハンバーガーとペプ○を大量に出してやる。
「プリッつあんは、なに食う?」
「わたしは、魚。バリエの炙りがいいかも」
通なところをチョイスしやがるな。なら、オレもバリエにするか。人外どもと釣りしたときいっぱい溜め込んだしな。
バリエを一本出して捌いていく。
「ミミッチーも食べたい」
食えんのか? と、一切れやってみたら、なんの抵抗もなく口に入れた。
「うん。これも好き」
なんでも食う梟だよ。
バリエを捌き、皿に並べる。あ、切り身で炙ったほうがよかったか? でもまあ、まずは刺身でいくか。まだまだあるんだしよ。
「ねえ、ベー。日本酒を温める道具ない? バリエは熱燗が合うのよね」
お前はどこの美食家だよ。メルヘンのイメージを崩すなや。とは今さらか。メルヘンに夢を見てイイのは空想世界のメルヘンだけだ。
とっくり四個とおちょこ、コンロと土鍋を創り出す。
「プリッつあん、日本酒出せや」
オレの無限鞄にも日本酒は入っているが、プリッつあんの好みなど知らん。文句を言われるのも嫌なので、自分の好みにあったものを自分の無限鞄から出しやがれ。
「じゃあ、岩窟でお願い」
日本酒にはいろんな名前があんだな~と思いながら受け取り、とっくりに注いで土鍋に入れる。
水を入れ、コンロに火をつける。
「あとは自分でやれな」
オレはここまでしか知らん。
「ありがとう~」
自分サイズに小さくして、いつの間にか出した炬燵って上に移動させた。
さて。オレもバリエの刺身、食おうっと。いただきます。
三人三様、食事を楽しんだ。
あ、ドレミといろは、あと、幽霊はテキトーになんかやってます。
◆◆◆
たらふく食べて、温かい寝床を作っておやすみなさい。
ZZZと心地よく眠ってたら、誰かに体を揺さぶられた。なによ?
瞼を擦りながらドレミクッションから上半身を起こした。
「マスター。囲まれています」
サブマシンガンみたいなのを両手に持ついろはが目の前にいた。あん? なんだって?
「多数の熱源体がここを取り囲んでおります」
え、えーと、誰かわかるように説明してくんない? と周りを見るが、メルヘンはプリッシュ号で就寝。ミミッチーは立ちながら爆睡している。
……こいつの野性が心配でならんよ……。
「熱源体、ね。こんなところに生き物なんていんのか?」
草一本生えてねーところだぞ。どうやって生きてんだよ?
「はっきりと断言できませんが、我々と同じ生命反応を感じます」
ん? 我々と同じ生命反応、だと? それはつまり、スライムってことか?
「……スライムがいるのか? オレらを囲むほどに……?」
「はい。かなりの数がいます」
なぜかは知らないが、アーベリアン王国近辺でスライムを見ることは滅多になかったりする。
オレが初めて見たのは海の中。クラゲかと思っていたのが、ハルヤール将軍と付き合うようになって、それがスライムだと知った。
他でも見たことはあるし、知識はあるが、スライムが群れる生き物だとは聞いたことがねー。精々、集まったところで三匹。それ以上だと共食いを起こすらしいのだ。
「危険な感じか?」
オレの考えるな、感じろは全然働いてないが……。
「殺気等はありませんが、こちらを補食しようとする気配は感じます」
生命体を食うのか? 益々こんなところで生きられている理由がわからんな。やっぱ共食いか?
「ドレミ。ミミッチーの側にいろ」
未だに目を覚まさねーダメ梟でもスライムの餌食にするには可哀想だからな。
オレはプリッシュ号に結界を施す。メルヘンが目覚めたところでなんの役にも立たんからな。大人しく寝てろ、だ。
「いろは、姿を見せるまでなにもするなよ」
「畏まりました」
オレの側へと寄り、二丁のサブマシンガンの引き金から指を離した。
しーんと静ま……りはしないか。ミミッチーがホーホー鳴きなながら寝てるからよ。
「窓から来ます」
いろはの声に窓を向くと、半透明のうにょうにょしたものが入って来た。
「レイコさん、出番ですよ!」
こんなときの幽霊。言われる前に出て来いや!
「──あ、すみませ~ん。ちょっと探険に出てました~」
この部屋のドアを通り抜けて現れた腐れ幽霊。憑いている設定はどこにいった?
「そのまま浮遊霊にでもなりやがれ」
「ちょっと、縁起でもないこと言わないでくださいよ。こんなところに放り出されたらリッチになっちゃいます!」
そんときは昇天させてやるから安心しろ。天国にいくか地獄にいくかは責任持てんけどよ。
す~とオレの背後に回り、なぜかよっこらしょとかかけ声を上げる幽霊。オレの知らない間に霊的なギミックが施されたのか?
「マスター。ドアからも来ました」
ドレミの声にドアへと目を向けると、ドアの隙間から部屋へと入って来るところだった。
「こっちのは乳白色か。種類が違うのか?」
意外と種類があるスライム。誰か研究している方がいたらヴィベルファクフィニーくんのところまで来てください。交通費、全額払いますんで。
「コルム系のスライムですね。なんでも補食する種ですが、魔力だけでも生きられます。多分、魔道具にある魔石を食べてると思いますよ」
「オレら、明らかに狙われてるよな」
ミミッチーはどうか知らんが、オレ、美味しくないよ。
「体を維持するには魔石でもいいんですが、成長するにはやはり生命を食らうのが一番なんです」
まさに飛んで火に入る夏の虫状態ですね。
「スライムは核を潰せば死ぬんだよな?」
「はい。ですが、粘膜や粘体で大抵の武器では突き刺さりませんよ」
「いろは、やってみ」
「畏まりました」
と、サブマシンガンをぶっぱなすいろはさん。同族だろうが容赦ねー!
全弾命中するも、表面を削っただけ。核には届いている様子はなかった。
この世界のスライム、つぇえぇぇぇっ! バンベルが超万能生命体になるのも頷けるわ。
「物理的な攻撃は強いですが、火には弱いですよ。あと、寒さにも」
まあ、水分多そうだものな。
ポケットから炎の仕込ませたクナイを取り出して、投げてみる。
ジュッ! と一瞬で消えてしまった。
「……サプルの炎が強すぎて判断できんな……」
オレの魔術じゃ一匹も燃やせんし、サプルの魔術は強力すぎる。なんか……あ、なければ創ればイイんだったわ。
イイ感じの火が出る投げナイフを創り出し、スライムに投げる。
今度はイイ感じに焼けた──が、耐性なさ過ぎだろう、スライムさんよ!
まあ、襲って来るなら退治すべし。容赦はせん!
「……のだが、無駄な殺生だよな……」
レベルアップするわけでもなければ金になるわけでもない。動きが遅いから投げナイフの練習にもならん。ただの無駄な殺生に無駄なことをしているだけだ。
「なあ、レイコさん。スライムって、なんか使い道ねーの?」
「昔は排泄物や死骸の処理に使われていたそうですが、今は魔道具や技術が発達しましたし、大きくなったスライムを処理するほうが手間なので、ほとんど使い道はないですね」
使えねーな、スライムは。いや、オレの周りにいるスライムは超便利ですぜい。
「ん? 待てよ」
なにか頭の中でピコンと閃いた。
……分裂分離ができるなら融合もできんじゃねーのか……?
「いろはかドレミ。あのスライムを融合することは可能性か?」
投げナイフを放ちながらいろはとドレミに尋ねる。
「……たぶん、可能です」
「可能、だとは思います」
「たぶん、なのか?」
「申し訳ありません。分裂体からの受け継いだ記憶の中に融合はありませんもので」
「ですが、スライムの記憶の中には融合があります。ただ、わたしたちにもできるかはやってみないとわかりません」
んじゃ、ちょっと試してみ。ダメならすぐに中止だからな。
「では、わたしがやってみます」
と、いろはが動き、スライムをわしづかみにし、にゅるんと体に取り込んだ。
ど、どうよ?
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