第28話 創造
「おい、デッカイねーちゃん」
「なんじゃ?」
なにか、迷子の子犬のような目でオレを見下ろしてくる。
まったくこれっぽっちも可愛くねーが、別に可愛さなど求めちゃいないんだから気にするな、だ。
「デッカイねーちゃんはオレが預かることにした。イイな?」
「養ってくれるのなら誰でもいいのじゃ!」
プライドは一ミクロンもねーようだ。逆にアッパレだよ。
「なら、ここから出ても問題ねーよな?」
ここがイイと言うのなら公爵どのにお返しするがよ。
「美味しいメシと寛げる寝床があればどこでも余は満足なのじゃ!」
何気に前世の知識が入ってねーか?
「わかった。旨いメシと寛げる寝床は用意してやる。なにか持っていくものはあるか?」
「あるが、探すのが面倒だからこのままでいいのじゃ」
物に執着心はないのか。ある意味、無欲。物凄く好意的に言えば修行僧の域だな。
「わかった。だが、まだ用があるんで待ってろ。ってか、デッカイねーちゃんはなに食うんだ? 寝るのか?」
色と形からデッカイねーちゃんの親は黒竜だろう。有名ではあるが、滅多には現れない竜としても有名である。
強さも竜の中では上位であり、銀竜や金竜より強いと言われている。まあ、お伽噺レベルの信憑性しかないので、どこまで強いかわからんが、あの咆哮からして竜子より上位なのは間違いねーだろうな。
……サプルより上かと問われたら悩むがな……。
「好きなものは菓子パン! 一日の大半は寝る!」
後半はわかる。竜は猫以上に寝るって言うし。だが、前半の菓子パンってなんだよ? 竜と言ったら肉じゃねーのかよ?
つーか、そんな昔から前の世界のヤツがこっちに転生してんのか? 時間軸とか滅茶苦茶じゃねーか? 菓子パンなんて千年も前にねーだろうが!
「ちなみに菓子パンでなにが好きなんだ?」
「蒸しパンが好きじゃ! 格別じゃ!」
渋い(?)とこ突いてくんな。そこはメロンパンとかじゃねーの?
さすがのサプルも蒸しパンは作ったことはねーが、揚げパンならよく作っている。なので、無限鞄の中にも入っている。
一つ取り出し、結界皿に乗せて三メートルくらいにしてみる。
「お! 揚げパンじゃ! 我、これもめっちゃ好きじゃ! うまー!」
めっちゃとか旨いのはともかく、味覚は人と同じなのか。ってか、子ども舌か?
「お代わり! てんこ盛りで!」
結界皿を二〇メートルくらいに広げ、揚げパンを放り投げてデカくする。
「美味いのじゃー!」
一つ一つ適度なサイズで噛みつき、ゆっくりと咀嚼している。意外と躾されてる?
「美味かったのじゃー!」
揚げパンを五つ食べてごちそうさまか。早食いでもなければ大食いでもないようだな。まあ、そのサイズでは似たようなもんだけどよ。
「眠いのじゃ。ぬっくいクッションが欲しいのじゃ」
無限鞄からクッションを取り出そうとして、手が止まる。
「ドレミ、お前って分裂できるか?」
スライムに幼体とか成体があるかわからんけど、超万能生命体なら可能なんじゃねーのか。
「はい。できます。ですが、わたしのレベルでは小さい分裂となります」
レベルとかあるんだ。まあ、理解できなさそうだからスルーさせてもらうがよ。
「能力も小さくなるのか?」
「いえ、わたしの能力が引き継がれますが、別個体となるため能力が変わることもあります」
つまり、不思議ってことだね。了解了解。
「まあ、小さくてもイイから分裂をやってくれ」
「では、分裂させます」
と、メイド型ドレミが髪の毛を一本引き抜いた。
……そんなんでイイんだ……。
感動もなにもあったもんじゃねーが、スライムの分裂になにか意味を見出だしたいわけじゃねー。ふーんで流しておけ、だ。
ドレミが引き抜いた髪の毛がうにょうにょ蠢き、水色のスライムとなった。
「どうぞ。名をつけてやってください」
「じゃあ、
得に意味はなし。響きで決めました。
「はい。マスターから贈られた名に恥じぬよう、誠心誠意、仕えさせていただきます。なんなりとご命令ください」
「なら、夜叉丸に重大な使命を与える。オレの代わりにそこのデッカイねーちゃんの世話をしろ」
「畏まりました。夜叉丸の名に誓い、お世話させていただきます」
ドレミに手のひらを出すと、オレの手のひらに飛び移った。
「これからお前を巨大化させる。問題ないな?」
「マスターのお心のままに」
手のひらに乗る夜叉丸をまず一メートルくらいにする。
「体に違和感は感じるか?」
「ありません」
「よし。なら、少しずつデカくしていくから違和感を感じたら必ず言えよ」
「畏まりました」
下に置き、少しずつ、夜叉丸の状態を確かめながらデカくし、デッカイねーちゃんが座れるくらいまで巨大化させた。
「デッカイねーちゃん! 今日から夜叉丸がお前の世話をする! イイな?」
「わかったのじゃ。夜叉丸、頼むぞ」
「はい。なんなりとお命じくださいませ」
「スライムは気持ちイイからクッションにしろ」
オレはもうドレミがいないと寝れなくなってます。
「おっ。なんだ、この気持ちのよさは!? こんなの初めてなのじゃ!!」
そうであろうそうであろう。スライムのよさを知った君を仲間と認めよう。
「用が終わるまでそこで寝てろ!」
こいつにしたら一〇年くらい放置してても構わんだろう。
「わかったのじゃ! いっぱい寝るのじゃ!」
お休み一秒で眠りにつくデッカイねーちゃん。の○太も真っ青だな……。
◆◆◆
「はぁ~。まあ、一旦、上に上がろうや。ドレミ。カブリオレを上昇させてくれ」
「畏まりました」
カブリオレが上昇。それに合わしてプリッシュ号も続き、開放扉を潜った。
プリッシュ号が出たら開放扉を閉め、カブリオレを小さくして無限鞄に仕舞った。
「……ベー……」
なにか、気落ちした感じの公爵どの。それに寄り添う夫人たち。愛されてるね~。
「らしくねーぞ。選択したことに後悔すんな」
イケイケが売りだろうが、それを貫いて見せろや。
「別にオレは、公爵どのの判断と決断に文句を言うつもりはねー。公爵ともなれば守るものも多いだろうからな」
ましてやデッカイねーちゃんなんて害でしかねー。世間には公表できんだろう。強力な存在は恐怖を生む。疑心暗鬼に捕らわれて謀反の疑いをかけられて、皇帝なり、他所から突き上げを受けるなんてこともある。
それならないほうがイイ。臭い物には蓋ってことだ。
「……すまない……」
「謝罪など不要だ。公爵どのが判断し、決断し、それをオレが受け入れた。双方合意のもとだ」
責めることなんてなに一つない。まあ、どちらが得をしたかはわからんがな。
「まあ、ちょっとお茶にしようぜ」
急展開に次ぐ急展開で疲れた。ここらで一服しようや。
ミタさんがいないのでドレミさん、お願いしやす。ってか、いろははどこだ? なんか姿が見えねーんだが?
「ここに、控えております」
背後からの声にびっくり仰天。いたんかいっ!?
「ちなみに、わたしもいますよ」
そんな幽霊の自己主張なんていらねーんだよ。ダマッてろ!
「……なぜ、お前はリオカッティーを取ったのだ? どう考えても厄介でしかないだろう」
「さすが大領地の当主だ。欲に溺れないか」
あれだけ得を説いても損を忘れない。他の誰がなんと言おうとオレは公爵どのを尊敬するぜ。
「……情けないとは言わないのだな……」
「情けない男に女は惚れないよ」
帝国の公爵ともなれば柵だらけのがんじがらめ。あちらを立てたらこちらから恨まれる、そんな立場だ。
並みのヤツなら気が狂いそうだし、偏った価値観で身を守るかだ。
そんな地位にいながら公爵どのは人の心を失ってない。バカなことに全力で挑み、生きることを楽しんでいる。
そんな男、なかなかいないぞ。奇跡のような存在だ。ダチとして鼻が高いぜ。
「オレは他人事だから気軽に言えるし、守る地位も誇りもない。すべては自分のため。イイ人生にするためなら躊躇いもなく他人を利用する。そこに罪悪感なんて微塵もねー」
畜生は受け入れられないが、外道なら喜んで受け入れよう。オレは裏で暗躍するのが大好きだ! 自分だけが知っていると思うとゾクゾクするぜ!
「最高にグズい村人よね」
………………。
…………。
……。
って、ことはすっぱり忘れてください。オレ、善良な村人。平和万歳。平々凡々に、悠々自適に、スローライフ最高な人生を送ってます!
「人は愛し、愛されてこそイイ人生を送れると、オレは思うんだ」
「人を利用し、騙してこそいい人生を送れるの間違いじゃない?」
もー! メルヘンは黙ってて。オレは平和を愛する村人なの!
「オホン! まあ、お互い納得しての取引だが、納得できないって言うなら取り消してもイイぜ」
オレはクーリングオフを肯定する男だぜ。
「いや、取り消すことはしない。今のバイブラストでは手に余る。引き取ってくれるならおれの娘をつけてもいいくらいだ」
「公爵どのを親父殿と呼ぶのは嫌だからいらねーよ」
カーレント嬢とか全力でノーサンキュー。オレは……いや、なんでもないです。好みは人それぞれです!
「うちの娘は引く手あまたなんだぞ」
「だったら欲しいと言うところにくれてやれ。オレはいらねーよ」
つーか、政略結婚とかやるのか? そう言うの嫌いなタイプだろう、公爵どの。
「まあ、欲しくなったら言ってくれ。四人までなら許すぞ」
「なんで四人なんだよ! 嫁は一人で充分だわ」
四人とか、ストレスマッハでもらったその日に死ぬわ! 自分の嫁くらい自分で見つけて、自分で口説くわ!
「オレが引き取るのはデッカイねーちゃんだけだ。他はいらねーよ。──いや、代理人の地位はもうしばらくもらうな」
「それは構わんが、下のはよいのか? おれはここをすべて差し出すつもりで言ったんだが」
「オレはこんなところに閉じ籠る趣味はねーし、ここは、バイブラストにあってこそ役に立つところだ。邪魔なものはいらねーよ」
クリエイトの間は魅力だが、代理人の地位にいれば利用できるのだから主になる必要はねー。間借りが一番楽な使い方だ。
「なんで、ここは、カーレント嬢が好きにしろ」
オレのポケットはそんなに大きくねー。入るだけで充分なのさ。
「下のは消却箱を創り出し、人を雇って片付けろ。記憶操作の指輪なり首輪なり創り出せばここの秘密は守られる。細かいことはバイブラストで考えろ」
そこまで付き合ってられんわ。
「代理人権限でここを探索させてもらうぜ」
下にいる骸骨嬢までの道程と創りたいものがあるんでよ。
「ミミッチー。案内役頼む」
テメーには、まだまだ吐いてもらいたいことがあるんでよ。
◆◆◆
ミミッチーを先頭に……って、視界が塞がれるので、横に並んだ。
ちなみにプリッつあんは、ミミッチーの頭にパイ○ダーオンしてます。
「ミミッチーの頭の上も気持ちいいわね」
なら、そこに引っ越せや。今なら敷金礼金は全額お返しますよ。なんなら引っ越し代こちら持ちでも構わんぜ。
「……迷惑……」
なぜオレに言う? メルヘンの行動はメルヘンの責任。文句があるならメルヘンに言いやがれ。
「……我慢する……」
なんでだよ! 言いたきゃ言えよ。なに我慢することがあんだよ! と、オレも言えないので、ガンバレとミミッチーの背を軽く叩いた。
「で、ミミッチーになんの用?」
「下の骸骨嬢がいる場所に案内しろ」
「骸骨嬢? なにそれ?」
まったくわからないって感じで首を傾げた。
「ここと、下の箱庭──フュワール・レワロの間にある場所のことだ。そこからここにこられる話だったぞ」
ミミッチーは知らねーのか?
「ああ、狭間ね。あそこ、放棄されて誰もいなかったはずだけど?」
「管轄が違うのか?」
「ミミッチーは、このクリエイト・レワロの盟約者。ここを任された。下は知らない」
よーわからんことするな。独立した構造にしてなんの利があるんだ?
「でも、いき方は知ってんだろ?」
「知ってる。こっち」
と、ミニクリエイトルームの端へと歩き出した。
「ルートオープン」
ってなことを口にすると、壁に通路が現れた。また摩訶不思議な……。
「これは、どこからでも開けられるのか?」
「うん。壁ならどこでも構わない」
テキトーな構造……いや、設定か? なんにしても雑な創りだな。やる気ねーだろう、これを創ったヤツは……。
ミミッチーの体ピッタリの通路を歩くことしばし。先ほどの廃棄場に出た。
「……時空やらなんやら滅茶苦茶だな……」
つーか、こんなことできんなら最初から言えや! アホ梟がっ!
「廃棄場の真ん中に狭間にいける扉がある」
「……真ん中ってどこだよ……?」
ここ、端が見えないくらい広くて、廃棄物で埋もれてるんですけど。
「あっち」
ざっくりした指示だが、指標もなにもねーところではしょうがねーか。
「よし、ミミッチー。飛べ!」
今こそファンタジーな鳥の真価を見せるときだ、とミミッチーの背にしがみついた。
「……梟に無茶なことを要求しないで……」
「お前ならできる! 自分を信じろ!」
「ミミッチー、ゴー!」
プリッつあん様からの命令だ、根性見せろや!
「……悪魔だ、この二人……」
お前が飛び立てるのならオレは鬼にもなろう。いざ、大空へ!
翼を広げ、羽ばたくミミッチー。そうだ、やればできる子だ、ガンバレ!
「……重い……」
「ミミッチー、もっと高くよ!」
なぜかプリッつあんに逆らえないミミッチー。下僕を手に入れた、って感じか?
なんとか廃棄物より高く上昇し、真ん中へ向け飛び進む。
「……いろんなものが捨てられてるね……」
「だな」
建物が多いところを見ると、地上に出る前にクリエイトルームに街を造っていたんだろう。一面建造物の海だぜ。
「もったいないね。あれなんてちょっと直せば使えそうなのに」
あの高さから落ちてどんだけ頑丈なんだよと突っ込みたいが、プリッつあんが言うように形を留めた建物も見て取れた。
「再利用するかは公爵どの次第だな」
オレはこれと言って欲しいとは思わねー。地上にはまだまだ資源が溢れているからな。
「ただ、道具は欲しいな」
と言うか、魔道具が欲しい。
例えば回復薬を作る錬金釜とか、鱗を加工できる機材とか、古いものを元に戻す箱とか、木材を曲げる木槌とか、秘密の魔道具が欲しいぜ。
「ミミッチー。中心部に到着したら教えろな」
結界で体を固定させ、想像を爆発させて創造する。
さあ、どんどん創るぜ!
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