第180話 衝撃的事実!
外に出ると、雪がちらほらと降っていた。
「馬車でいくか」
のんびり歩いていくと集落まで一時間はかかる。
馬小屋──ってか、厩舎と呼んだほうがイイくらい立派に建て代えられてんな。自分がいなかった長さを感じるぜ。
「よう、リファエル。元気にしてたか?」
誰だテメー? 不審者か? とか言わない馬でよかった。ただ、無反応なのはちょっと悲しいけど!
リファエルを出して、南の大陸で作った荷車を取りつける。
「さあ、乗れ」
うちの村ではワンダーワンドは乗杖禁止だ。
「ここに来たときを思い出すわね」
オレは思い出せないが、なんか思い出に残るようなことあったっけ?
「リファエル、いくぞ」
出発進行~茄子のお新香~。
時速三キロくらいで集落へと向かった。
「オレ、村人してんな」
「馬車に乗ってるだけで?」
そうだな。最近、馬車でないものばかりに乗ってたからな。馬車に乗るだけで村人感が出てくるぜ。
山部落のだれとも会わずに山を下りてしばらく進むと、バンたちと遭遇した。
誰? と思う方は最初からオレの華麗なるスローなライフの物語を読み直してくださいませ。
「誰に言ってるんですか?」
オレの華麗なるスローなライフの物語を楽しみにしてくれる大きな友達にさ。
「よっ。これから仕事帰りか?」
時刻的に午後三時くらいです。
「ああ。ってか、べーって村を出たんじゃなかったのか?」
「おいおい、オレはこの村で生きて、この村で死ぬことを誓った男だぜ。出ていけと言われても居座ってやるさ」
「お前が言うとまったく説得力がないよな」
わかってもらえないこの悲しさよ。寂しぃ~っ!
「ま、まあ、オレはボブラ村を愛する男。村が平和であるよう陰日向にガンバってんだよ」
「そうだな。お前がいないと平和だと言われてるよ」
ん? あれ? なんか意味違くね? それだとオレが騒がしくしてるように聞こえるんですけど?
「まあ、べーは好きにやればイイさ。じゃあな」
と、バンたちが去っていく。
なんだろう、この寂しさは。誰よりもガンバっているのに認められない。オレに足りないのは承認欲求が低いのだろうか?
「べー様は、自分がよければ他がどう思おうと気にしないですからね」
「やってることは自己主張が激しいけどね」
幽霊とメルヘンの漫才なんか求めちゃいねーんだよ。他でやってろや。
集落に入ると、ここも静かなものだ。外を歩いているヤツが誰もいねー。
「どこに向かってるの?」
「オババのところだよ」
確か前に会ったの秋だったはず。なんで会ったんだっけな?
「領主さんの奥さんがキノコ病にかかってたときですよ」
あ、ああ。あのときか。希に珍しい病気より濃い出来事がありすぎて忘れていたわ。いや、思い出したくない出来事だけどよ!
薬所に到着する。
「ん? なんだ?」
薬所からなんか凄まじい魔力が感じるんだけど、なんなんだ?
「こ、これって!?」
「か、館長の魔力よ! なんでいるの?!」
あ、叡知の魔女さんの魔力だ、これ!
魔女さんがいっぱいいると魔力渦が起きて判別できなくなるが、魔力がないところで感じると叡知の魔女さんの魔力の凄まじさがよくわかる。この圧力、ご隠居さんレベルだな……。
リファエルを木に繋ぎ、薬所へと入る。
「お、ニーブ。久しぶりだな」
こいつとは一年振りくらいだな。
ちなみにニーブはオレより年上だが、弟子としてはオレの下になります。
「本当にね。定期的に師匠に顔を見せに来なさいよね」
「オババならあと一〇〇年くらい死なんだろう」
理由はないが、オババなら百年先でも生きている生命力を持っている気がする。
「叡知の魔女さん、なんでここに?」
奥にいくと、叡知の魔女さんとオババがお茶を酌み交わしていた。老人会か?
「懐かしい友と昔話だ」
ん? 友? え? オババと叡知の魔女さんが?
「オババ?」
「まさかお前がララと知り合うとはな。縁とは不思議だよ」
あ、叡知の魔女、ララだった。ララちゃんと被るやん。改名しろや。
「あー。あのとき訊いたの、こう言うことだったのか」
魔力回復薬のとき、驚いていた理由はオババが友だちだと気がついたからか。
「ん? 友ってことは、オババ、魔女だったの?」
つまり、そう言うこと?
「バイオレッタ・ライジス。本当ならわたしの代わりに大図書館の館長をする女だった者だ」
………………。
…………。
……。
「──オババ、名前があったんだ!?」
ここに来て衝撃的事実をぶち込んで来やがった。
「いや、驚くとこ違うでしょっ!」
オレには名前があったことにびっくらポンである。
◆◆◆◆
「──まあ、そんなことどうでもイイや。オカンのことなんだが、オババから見てどうだった?」
「いや、重大なことを軽く流しすぎでしょう!」
レイコさんが全力で突っ込んで来た。本当に自己主張が強い幽霊である。
「オババの過去に興味もねーよ」
昔、魔女だろうが、大図書館の館長候補だろうが、オレが知っているオババはこの村の薬師。恩ある師匠である。過去が今のオババを作ったとは言え、完成した今がすべて。過去に悪さしてたわけじゃねーんだがらどうでもイイわ。
「お主が気に入るわけだ。よく似ておる」
「わしはこやつほど破天荒じゃないよ」
「なんだオババ、昔ははっちゃけたのか?」
そんな過去ならチョー気になるぞ。
「お前ほどはっちゃけてはおらんよ。お主も黙れ。そして、もう帰らんか」
いつものオババとはキャラが違っている。
「アハハ。昔の悪行を知ってるヤツは厄介だな」
誰も知らないなら誤魔化しもできようが、同じ時代を生きて、苦楽をともにしたヤツには誤魔化すこともできねー。誰よりも恥部を見られてんだからな。
「まったく。誰もおらんところに逃げて来たと言うのに」
「実際、お主の弟子の口から魔力回復薬の話を聞くまではお前を見つけられんかったよ。ふふ。縁とはおもしろいものだ」
「オババのおもしろい昔話はあとで聞くとして、オカンを診た見解を聞かせてくれや」
「聞くでない。お主もしゃべったらわしも話してやるからな」
どうやら叡知の魔女さんもはっちゃけていた時代があるようだ。
「ふふ。やぶ蛇じゃったな」
いつも無表情だった叡知の魔女が笑っている。そして、戦々恐々としている見習いどもがこの世の終わりのような顔をしている。
「そりゃ、雲の上の人の過去なんて知ったらあとでどうなるか。処刑台に立つより生きた心地がしないでしょうね」
連れて来てメンゴ。と謝っておこう。
「シャニラも子も良好だ。異常なことはないよ」
「オババが言うなら安心だな」
「ただ、わしも竜の心臓を口にした妊婦は初めてだ。見えないこともあるぞ」
それはしかたがないと諦めている。ただ、何百人と取り上げてきたオババの見立てを聞きたかっただけだ。
「叡知の魔女さんは、医学にも精通してるのかい?」
あるなら是非ともオカンを診て欲しいんだが。
「多少は噛ったが、生憎とわたしは攻撃専門だ。バレッタほど詳しくはない」
バレッタって、なんとも可愛い愛称だな。いや、豆粒みたいなオババにはお似合いか? バレッタばーさんだもんな。
「そうか。それは残念だ」
まあ、専門外なら諦めるしかねーな。
「オババ。薬の材料は足りてるか? ねーなら用意するぞ」
「ニーブ。べーに渡してやりな」
「べー。これをお願い」
ニーブから材料のリストをもらい、確認する。
「随分と少なくなってんな。なにかあったのか?」
量がとんでもないことになっている。これ、四年分の量に匹敵するぞ。
「隊商の行き来が増えたからな。集落にも買いに来るんだよ」
あー。広場に商店ができたからオババのことも知られたか。
「それに、アバールからも頼まれてある。二人では追いつかんよ」
「なら、わたしのところから人をやろう。いいように使ってくれ」
「わしは、弟子は自分で選ぶ。お主のところの魔女などいらんわ」
確かに弟子にするのに何日か通ったっけ。
「それと、ニーブにちょっかいは出すんじゃないよ。この子はわしの跡継ぎなんだから」
そんなこと言ったらよけいにちょっかい出すと思うんだがな。オババの弟子とか、叡知の魔女さんとしたら喉から手が出るほど欲しがるだろうに。
「わかっておる」
まず、わかってない顔をしていると思うのはオレの勘違いじゃないはずだ。
「量は多いが、すぐに用意するよ」
この時期に生るものではねーが、ジャックのおっちゃん──バリアルの街なら揃っているはずだ。あそこは薬の材料が集まるところだからな。
領主がアレでも主要産業は守っているんだから不思議なものだ。
「すまんな。ジャックによろしく伝えておくれ」
「ああ。伝えておくよ。んじゃ、また来るよ」
薬所を出ると、叡知の魔女さんも出て来た。どうしたい?
「すぐに用意しに出かけるのか?」
「そうだな。明日の朝にでもいってみるよ」
もう夕方になるし、ジャックのおっちゃんに土産でも持ってってやりたいしな。カイナーズホームへ出かけるとしよう。
「なら、一人連れてって欲しい」
「見習いをか?」
そこの二人なら連れていくぞ。
「いや、薬工房の長だ。前にお主に会わせておる」
薬工房の長? そんなヤツと会ったっけ? まあ、名前を言われてもわからんけど。
「明日連れてくる」
と言って消えてしまった。独自で転移術を使えるとか、さすが大図書館の魔女だよ。
「ニーブ。ワリーが、うちにリファエルを連れてってくれや。あと、うちのヤツに言って食料をもらえ。オババに肉でも食わせてやれ」
トロトロに煮込んだ肉が好きなんだよ、オババって。
「あんたんちいくの気が引けるのよね」
「まったく、気の弱いヤツだ。もっと図太く生きろや」
「あんたが図太いだけでしょうが。まあ、わかったわよ。ジャム、ある?」
「あると思うから欲しいだけ要求しろ。あ、小遣いやるから館の店で欲しいものを買え」
無限鞄から千円札を出してニーブに渡した。
「なにこの紙?」
「うちで使える金だ。使って学べ」
「よくわかんないけど、やってみるよ」
学ぶことには遠慮はするな。オババの教えが身についててなによりだ。
「んじゃな」
と別れを告げ、皆でカイナーズホームへと転移した。
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