第63話 ブルー島に帰宅

 次の日、朝早くチャンターさんが旅立っていった。


 って話を昼過ぎに聞きました。ゴメン、チャンター。よき旅路となるのを海鮮スープをいただきながら祈ってます。


「……いつか背中を刺されるわよ……」


 大丈夫。オレの背中には怨霊にも勝る幽霊さまが見張ってますから。レイコさん、背後は任せた。あと、腐死系からも守ってもらえると助かります。


「ごちそうさまでした」


 海鮮スープ、大変美味しゅうございました。


「ミタさん。緑茶ちょうだい」


 お願いするとサッと緑茶が現れる。あんがとさん。


 イイ感じの渋味を出した緑茶を飲んでいると、ミタパパが入って来た。お昼だけどおはよーさん。


「エルクセプル、移し終わりました」


「ご苦労さん。後の管理と販売は任せる。好きにやってくれ」


 得た金はこの島の維持と用心棒なカイナーズに使い、残りはミタパパの取り分。ゼルフィング商会は専用の港を一ついただいて終了です。


「ありがとうございます」


 ミタパパの一礼に湯飲み茶碗を掲げて答えた。


「あ、オレら明日には帰るから娘と団らんでもしな。ミタさん、明日まで休暇を与える。団らんして来な」


 これは命令。反論は許しません。


「……畏まりました」


 不承不承ながらも承諾するミタさん。そんな顔、父親に見せないの。泣くよ、ミタパパ。


 って感じではねーが、話し合いはしておきなさい。ダークエルフの今後とかさ。


「帰るとき、なにで帰るの? クルーザー? プリッシュ号改?」


 と、メルヘンさんが尋ねてきました。


「そうだな。そう急ぎじゃないし、プリッシュ号改で帰るか」


 クルーザーで外洋とか厳しそうだし、飛んだら味気ねー。もし、客が来たら転移バッチで帰ればイイだけのこと。なんもなければゆっくりでイイだろう。


「なら、出発準備をするわね!」


 バビュンと飛んでいくメルヘン船長。よろしく~。


「人生急がば回れ。急いでないのなら遠回りしろだ」


 ん? なんか今のフラグっぽかったな。ちょっと変えておくか。


「人生急がば回れ。急ぐならさらに回れだ」


 それでフラグは折られたようで、三時のオヤツを過ぎても急変はやって来ませんでした。ふぅ~。


「ドレミ。部屋を掃除するから手伝ってくれ」


「はい。お任せください」


 スライムからメイド型へとトランスフォーム。なぜか割烹着スタイルにハチマキをして箒を持っているのはサラリと流させてもらいます。


「ベー様。お掃除でしたら我々が行います」


 ミタさんの配下のメイドが声を挟んできた。


「ワリーな。薬関係は誰にも触られたくねーんだよ」


 ミタさんなら構わんが、ミタさんと同じ能力を求めるほうが間違っている。非常識になるのはイイが、論外になるのは止めなさい。当たり前の幸せを失うから。


 まあ、最初から論外なら構わんが、途中で論外になったら目も当てられないことになるからな。イイ証拠は考えなしに三つの能力を得た転生者だ。


 エリナ然り。タケル然り。チャコ然り。それを修正するオレの身になってみろ。どれだけの労力を必要とするか考えてみろだ。


 ……まあ、それはそれでおもしろい人生になったがな……。


 軽く準備運動してから部屋へと戻り、散らばった器具や器材、中途半端な材料を片付ける。


 ドレミには片付けたところから掃除機(箒どこいった!?)をかけ、デカいゴミはどこか異次元に吸い込んでいた。


 とりあえず片付けに集中! とばかりにえっさこらさとがんばりマス!


 で、夕暮れ近くに片付け&掃除、終~了~で~す。はぁっ、疲れた……。


 なんか新品に変えた? と問いたくなるソファーに腰を下ろし、メイドさんに冷たい果物のジュースをお願いする。


「この島で採れた果物を絞ってみました」


 なんか白っぽい液体に訝しみ、メイドさんに目で問うたらそんな答えが返って来ました。


 出したからには飲めるんだろうと口に含むと、リンゴっぽい味がした。


「……旨いな、これ……」


 濃くはないが、あっさりしててオレの好き味だ。


「この島特有のものかな……?」


「いえ、チャンター様のお話では東の大陸のものだそうで、カコットと言うそうです」


 オレの呟きにメイドさんが答えてくれた。こりゃどうもです。


「これ、まだある?」


「はい。二〇〇リットルはあります」


 結構生ってたんだな……って、忘れてた。ピータにビーダ、それにウパ子を放置してたわ!


 念のため内ポケットを覗くが、珍獣どもはいなかった。あいつら生きてる!?


「ピータたち、なにしてる?」


 デカくしまままだから目立つはずだ。園花館から出ず、放置していたオレのセリフではありませんけどねっ。


「ピータ様とビーダ様なら館の前に巣を作って眠っております。ウパ子様は海で海竜を食しております」


 まあ、敵対してても死ねば餌。マヌケな顔をしていても弱肉強食な世界で勝ったんだから大いに食らえだ。


「魔石の回収と海竜の素材はいかがなさいますか?」


「婦人に任せる。ここじゃ売買もできんしな」


 賑わうのは数年後だろうし、それまで死蔵させておくより商会で捌いてもらおう。竜の鱗は粉にして畑に撒くとイイ肥料となるからよ。


「畏まりました。フィアラ様にお伝えします」


 上手く説明しておいてよ。


「あと、ウパ子に明日出発するから朝には館の前に来いと伝えておいてくれや」


 聞かないなら置いていくまで。そのまま野生にお帰り、だ。


 園花館最後の夜、だからなんだと言うことはないが、まあ、夕食はミタパパといただくか。今度、いつ会えるか知らんしよ。


 メイドさんに頼み、夕食ができるまでカコットを楽しんだ。

   

  ◆◆◆


「プリッシュ号改、発進!」


 メルヘン船長の号令でプリッシュ号改が空へと旅立った。


 で、四日後、無事我が家に到着しました。


 え? 道中は!?


 とか言われても困ります。なにも起こらない平和な道中。語ることなんてなにもねーよ。景色を楽しみながらコーヒーをいただきましたってくらいだわ。


「村もすっかり冬だな」


 雪が降ってもうっすら積もるくらいの地域なので雪国のような必死さはない。


 薪は暖かいうちに集めてるし、冬を越せないような税の取り方はしてない。塩漬け文化や燻製文化もある。隊商の往来はなくなるが、馴染みの行商人は来てくれる。


 ……って言うか、オレが協力して来させてます……。


 まあ、この地域では暖かい時期に飢饉がなければ冬はそれほど怖くないのだ。


 ましてや日頃から備蓄しているオレにはのんびりできる季節。唯一、大変なことと言えば冬越し用の本を集めるくらいだろう。


「って、今年は忙しくて集めてなかったわ」


 春から忙しいこと。スローライフが詐欺だと言われちまうぜ。


「ベー。庭に降りるね」


「ああ。よろしく」


 ちなみにプリッシュ号改は、村が見えてから小さくさせてます。


 館の前はなにもなかったのに、いつの間にか花壇なんかできてる。


 まあ、今は初冬だから花は植えられてはいねーが、春になったら見事になるだろうよ。いや、誰がするかは知らんけど。


「ベー。プリッシュ号改専用の発着所を作ってよ。地面に降りるんじゃ味気ないし」


「あいよ」


 別に苦もない作業なので作ってやることにする。


 プリッシュ号改から飛び下り、体を元に戻して地面に着地。転移結界門の横にプリッシュ号改の発着所を土魔法で作る。で、ガリ──ではなく伸縮トンネルを作れば完成です。


 プリッシュ号改が発着所につき、結界で繋留させた。


 降りて来るメイドさんたちを眺めていたら、館からもメイドさんが出て来た。


 ……相変わらず無駄にメイドが多いところだよ……。


「お帰りなさいませ、ベー様」


 ダークエルフのメイドさんが代表して挨拶し、他は頭を下げた。


「ああ。ただいま。なにか問題はあったかい?」


「問題らしい問題はありません。平和な日々でした」


 それは羨ましい。オレの日々は波乱しかねーよ。


「それはなにより。親父殿やオカンは?」


「お館様も奥様も日々平和にお暮らしになっております」


 なんだろうな。まるでオレがトラブルメーカーだと言われてるかのようだぜ……。


「そうか。ありがとな、うちを守ってくれて。これからも頼むよ」


 伸縮トンネルからミタさんらが出て来たので、転移結界門の扉を開けてブルー島へと入った。


「こちらは夜か」


 未知の技術で創られた箱庭には、昼夜を決められる機能があり、ボブラ村に合わせることも可能なのだが、オレはあえて現地に合わせている。


 空飛ぶクジラ──ブルーヴィと箱庭は繋がっており、夜は寝るので静かにするようブルーヴィの時間に合わせてあるのだ。


「外灯までつけたのか」


 別にうちの回りまでつけなくても、とは思ったが、出入口がここだけなのだから設置は必要か。


「ミタさん。オレは海にいくから家に灯りをつけておいてくれや」


 まあ、いない間に他のメイドさんによって掃除はされているだろうが、家は住んでこそ命が宿るもの。その灯火をつけてください、だ。


「畏まりました。食事はいかがなさいますか?」


 外の時間は午後の二時くらいだが、帰って来たらイイ感じに腹が減るだろうから用意しておいてもらう。よろしこ。


「ベー様。車を出しますか?」


「いらない。歩いていくよ」


 最近、動いてないし、運動がてら歩いていくとしよう。


「わたしもいくー」


 と、いつの間にか着替えたメルヘンが頭にパイ○ダーオン。ちなみに左右には、猫型になったドレミといろはがいます。


 道には外灯が等間隔で設置され、歩くに不便はなかった。


「結構住んでるヤツが多いんだな」


 至るところで灯りが見て取れ、メインストリートな感じのところは、ちょっとした繁華街みたいになっていた。


「ってか、電気は大丈夫なのか?」


 これだけの灯りともなれば火力発電所並みの電気を生み出さなければ不可能だろうよ。


 カイナなら火力発電所の一つや二つ、造るのは造作もないだろうが、そんな大がかりの施設は見て取れない。どうなってんだ?


 まあ、それは後々で構わんか。オレ一人でブルー島を所有するにはデカすぎる。家と同様、島も人が住んでこそ命が宿る。のどかな感じが壊れない程度には発展したらイイさ。


「牛でも放って牧場化するのもイイな」


 エリナに牛の番でも創ってもら……うのは止めよう。なんか変な牛になりそうだし。


 やはり、南の大陸から仕入れるか。ラーシュの手紙では水牛っぽいのがいて、その乳を飲んでるそうだからな。


 そんなことを考えてたらメインストリートに到着した。


「……店なんか建てて客なんて来るのか……?」


 なにか観光地のように見えるのはオレだけか? ってか、宿屋まであんのかよ。しかも二軒!?


 こんなときこそミタさん、なんだが、いないのなら仕方がないと、姉御がいる岬へと向かった。


  ◆◆◆


「ん? 石畳?」


 姉御の喫茶店へと続く方向へと石畳が敷かれていた。


 ちなみに結界灯を打ち上げているので足元くっきり。その細かに行われた作業まで見て取れた。


「職人がやってんのかよ?」


 ただ石を敷いただけではなく、地盤を堅め、加工された均等の石を隙間なく敷いてあるのだ。日曜日のおとうさんが、ってレベルじゃねー。その道うん十年の仕上がりだぜ。


 それが理由かは知らんが、石畳の道は一〇〇メートルちょい。喫茶店までは届いてはいなかった。


 喫茶店には明かりが灯り、何人かの客がいるのが見えた。


「他も明かりがあるってことは、まだ暗くなってそれほど過ぎてないってことか?」


 ブルー島に合わせた時計とかはないのでよくわからんし、飛んでいる場所の空を映しているので、住むとなったら時差ボケ必至だろうよ。


 ……オレのために作ったのに、一番オレのためになってねーとか自業自得すぎるぅ~……。


「まあ、海外旅行も楽しいしな。人生、遠慮なく楽しめだ」


 村人だってたまには観光旅行にいきたいじゃない。


「ベーの場合、トラベルと言うよりトラブル行脚よね」


 うっさいよ! そんなトラベルとトラブル似てるよね! 的な表現なんていらねーんだよ! つーか、誰もトラブルなんぞ求めてねーわ!


 クソ! 世界で一番平和を愛してるのはオレなのに、神はそんなにオレが憎いのか! 


「なんだかんだ言って、ベーは艱難辛苦を真っ正面から蹴飛ばすのが好きだしね」


 メルヘンがそんな難しい言葉使ってんじゃねーよ! ってか、その表現が意味わからんわ! 


 メルヘンとの会話(?)に付き合ってられるか! と頭の上から強制離脱させ、ドレミの背に強制装着させてやった。しばらくプリッナイトしてなさい! 


 これと言って姉御に用はないが、だからと言ってよらないのも不義理。ましてやウパ子の件を教えないわけにはいかない。姉御、メッチャ強いからな……。


 姉御の過去は知らないし興味もない。が、冒険者や吟遊詩人からいろいろ冒険譚、いろんな物語など聞いていると、昔の話や英雄譚は必ず出て来る。


 世に数人しかいないS級の冒険者なんかは特に語られることが多い。


 そんな話を他方向から聞いていると、なんかどこかの誰かに似てるな~って思って来る。


 で、そんな話を冒険者ギルド(支部)で話すと場がツンドラ級に凍るわけよ。


 なにがなんだかわからないが、勘がイイ者なら悟るでしょう。これ、この人の前で言っちゃダメなやつだってわかるでしょう。そして、やっちまったと理解するでしょう。


 ……世の中、触れちゃいけないことに触れたら殺されるより酷い目に合うんだぜ。皆、注意しろよ……。


 ただ、知らないままでは今後の生活に関わる。全容じゃなくても触りだけは知っておかないと、空気の読めないバカが取り返しのつかないポカをやらかす。


 オレの知らないところでポカするならお好きにどうぞだが、知るところにいるんだから好き勝手すんじゃねー、ボケがっ! と関わるしかないじゃない。


 たぶん、事情を知るだろう村長を村の外に連れ出し、結界に結界を張り巡らせ、丁重にお聞きしました。


 うん。あのときは大変だった。人は恐怖でハゲるって知ったよ。そして、本当にごめんよ、村長……。


 遠くもない過去を振り払い、姉御の喫茶店へとお邪魔します。


「ってか、喫茶店の名前、岬とか単純すぎね?」


「単純な名前も覚えられないベーにだけは言われたくないわね」


 ハイ、そうですネ。申し訳ありませんデス。


「岬、ここにしかないからいいのよ」


 とはカウンターの奥で、フルー○ェを作る岬のマスター。そこはコーヒーじゃね?


「コーヒー人気ないのよ。わたしも好きじゃないし」


 なんのための喫茶店だよ! コーヒーあっての喫茶店だろうが!


「この島、ほとんどが女の子だから甘い物が人気があるのよ」


 あ、うん、そうでした。ほとんど女ならしょうがないよね。好きにしてください……。


 喫茶店なんて馴染みがないから通うことはないし、コーヒーを飲むのに場所は問わない。そこがセイントマ○ダムだ。おっと。突っ込みはなしで頼みますぜ。


「中でもフ○ーチェが大人気ね。牛乳の消費が多くて大変よ」


 なにやらブルー島でフルー○ェが大人気です。ってか、それはいろいろアウトなことがあるのでパフェとかケーキとかに流行をシフトしてもらえると助かります。


「ネラフィラが作るフ○ーチェって絶品よね! 毎日でも通いたくなるわ」


 メルヘン。君の感想にはオレも同意だ。だが、世界は違えど守らなければならないアレやコレがあるのだ。それ以上は流行らせないでくれ……。


「うん。フ○ーチェうめ~!」


 まあ、それはそれ。これはこれ。フルー○ェが旨すぎるのが罪なのだ。


「とりあえず、メロン味でお代わり!」


 フ○ーチェよ、永遠なれ!

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