第90話 改造計画

 慰労会と言う名のなんだかわからない催しは無事、終了し、新しい朝がやって来た。


「いや、昨日は疲れたぜ」


 つい、結界パレードに夢中になってしまい、限界を突破してハチャメチャやってしまった。お陰で朝寝坊しちまったぜ。


 あ、プリッつあんが寝室に使っているプリッスル(だったかな?)の一室を借りました。


 柔らかベッドから起きて、洗面所へ向かい顔を洗い、すっきりさっぱりしたら貴族風の服に着替える。


 ちなみにだが、作業以外は貴族風の服ですごしてますよ。さすがにレヴィウブで村人ルックは目立つと言うか、浮いてしまうからな。


 部屋を出ると、ミタさんがいた。


「おはようございます、ベー様」


「あい。おはよーさん。朝食できるかい?」


 今は九時前。朝食はとっくに終わってる時間だ。


「はい。皆様も少し前に起きましたので」


 そりゃそうか。昨日は遅くまで起きてたしな。


 ミタさんの先導で食堂へと向かうと、皆さん、ちょっと眠そうな感じで食事をしていた。


「おはよーさん。眠そうだな」


 市長代理殿と同じ席に座らせてもらう。他には入り難そうなので。


「はい。楽しくてなかなか眠れませんでした」


 眠そうな感じではあるが、気持ちはさっばりしたような市長代理殿。よくわからんが、イイ休暇にはなったようだな。


「ってか、隣のは誰?」


 三〇手前の細身の男で、なにやら仲のよい感じですが? あれ? この男、昨日も市長代理殿の横にいなかったっけか?


「わたしの婚約者ですよ。来たときに紹介したじゃありませんか」


 あれ、そうだっけ? まったく記憶にねーわ。


「そりゃ失礼。婚約者さんはよく眠れたかい?」


 こちらはすっきりした顔してるな。どこでも寝れるタイプか?


「はい。あんな柔らかい長椅子で寝れて幸せです」


 長椅子? なんで長椅子?


「ナタリオはベッドで寝るより長椅子で寝るほうが好きなんです。変わった趣味ですよね」


 確かに変わった趣味ではあるが、市長代理殿はそれを許容してる、と言うか、愛おしそうに言うな。顔もいつもの仕事用ではなく女の顔になってるし。


「まあ、オレも長椅子で寝ることがあるからわからんではないよ」


 部屋には置いてねーが、秘密基地や隠れ家には置いてあり、よくそこで寝ている。まあ、結界を張らずに寝ると体が痛くなるけどよ。


「同志がいるとは嬉しいです」


「はは。長椅子が気に入ったなら結婚祝いに贈らしてもらうよ。あとベッドもな」


 長椅子で寝るのもイイが、ちゃんとベッドでも寝てやれよ。じゃないと捨てられるぞ。


「ミタさん。手配しておいて」


 オレが選ぶよりミタさん(か配下)が選ぶほうが確かだろう。オレだと自分の好みに合わせて固めのを選んじゃいそうだからな。


「畏まりました」


「あ、あの、よろしいんですか!? かなり高価なもののようですが?」


 そうなの? ミタさん知ってる?


「確か、一〇〇円均一商品だったような気がします」


 一〇〇円均一って、まあ、カイナーズホームに価格設定を言ってもしょうがねーか。


「安いから気にすんな。市長代理殿には気持ちよく働いてもらいてーし、そっちの婚約者殿と幸せになって欲しいしな」


 もう家族のようなもの。なら、健やかに過ごしてもらいてーからな。遠慮すんなだ。


「ありがとうございます。では、ありがたくいただきます」


「おう。もらっとけ。他に必要なものが出たらメイドに言いな。代金はこっちで払っておくからよ」


 丸投げ賃としたら安いもの。遠慮せず欲しいものはジャンジャン買えだ。


「ありがとうございます」


「おう。ところで、まだゆっくりできんのかい?」


 ごめん。君たちがいつ来たか忘れました。


「はい。あと二日くらいはゆっくりできます」


 そりゃよかった。ちゃんと任せられる人材は確保しているようだ。


「そうか。なら、残り二日、レヴィウブを楽しむとイイ。それと土産を買って帰るのを忘れるなよ。今も働いてくださる方々がさらに働いてくれるために、な」


 お土産一つで気持ちよく働いてくれるなら手前でもなければ高くもない。喜んで贈らせてもらうぜ。


「金はオレが払うから心配すんな。ケチらずイイもんをたくさん買って帰るがイイさ」


 土産だろうとなんだろうと買えるときに買い占めるもの。前に来たとき買い占められなかったから今回は買えるだけ買い占めるぜ。


「はい。遠慮なく買わせていただきます」


 うん。イイ感じに遠慮がなくなってよろしい。もっと貪欲になって悪辣な市長となるがイイさ。


 ◆◆◆


「ってか、なんでお玉さんがいんの?」


 しれっとさ。あと、美魔女さんの背後にいる理由もお教え願えたら幸いです。


「……なんの拷問よ……」


 たぶん、精神を苦しめる拷問だと思うよ。


「幽霊としての格は高いようですが、取り憑く者に不快を与えるようではまだまだですね」


 うん。背後の幽霊はちょっと黙ってようか。話がメンドクセーことになりそうだからさ。


「ごめんなさいね。この子、とっても取り憑きやすいから、つい」


 ……そう言うのあるんだ……。


「あ、それ、わかります~。取り憑きやすい人ていますよね」


 そんな幽霊女子のあるあるなんて聞きかねーんだよ。黙ってろ!


「暇なのか、お玉さんは?」


 あんたここの責任者じゃねーの? いや、幽霊がどんな責任取るか知らんけど!


「基本、暇ね。幽霊だし」


 あ、うん。そうだね。忙しい幽霊とかいないよね……。


「まあ、暇なら美魔女さんの相手してくれや。美魔女も暇してるみたいだしよ」


「わたしは、あんたに無理矢理連れて来られたんだけどね!」


「だっていきたくないとか駄々こねるんだもん」


 ほんと、引きこもりを外に出すってメンドクセーよな。まあ、一生引きこもらせておかなくちゃならない存在よりはマシだけど。


「そもそもわたしがここに来る意味はあったの?」


「ん~。あるかないかと言われたら『ない』だな」


 声をかけねーのもワリーかなと思って誘った(拉致ったかな?)だけだしな。


「ぶっ殺すわよ!」


 その前に背後の幽霊に呪い殺されそうな状況だがな。スッゲー悪霊な顔してるぜ。


「ダメよ。この子を殺したらわたしが許さないから」


 お玉さんや。なんか番長皿屋敷みたいな顔になってますよ。あと、その黒いの、マジヤバめなので押さえてください。皆さまがおしっこちびりそうな顔してるんで……。


「ま、まあ、せっかく来たんだし楽しんでいけや。金はオレが出すからよ」


 それで許してちょうだいな。


「……破産するくらい使ってあげるわ……」


 おう。その意気だ。どんどん使ったれ。


 美魔女さんのことはお玉さんにサクッとマルッと任せてコーヒーブレイク。あーコーヒーうめ~!


「ねえ」


 と、離れた席で静かにしていた赤毛のねーちゃんがやって来た。


「どうしたい?」


「どうしたい? じゃないよ。わたしらはなんのために連れて来られたのよ?」


 あれ? なんだっけ? 知ってる人、手挙げて?


「ぶっ殺すよ」


 ヤダ。あなたそんなキャラでしたっけ? もっと真面目なお嬢さんだと思ってたのに。


「ハハ。冗談だよ。ねーちゃんに新しい船を与えるためさ」


「あんたの冗談は冗談に聞こえないのよ……」


 うん。マジで忘れてたからね。


「まあ、いいわ。それで、どんな船なのよ?」


「一応、貨客船だな。前の船の三倍で、大陸間を航行できる性能は持たせるかな?」


「かきゃくってなに?」


 ん? あれ? こちらに貨客船はねーのか?


「荷物と人を運ぶ船のことだよ。冒険商人の船なんてまさに貨客船だろうが」


 会長さんの船も貨客船って感じだったろうがよ。


「船は船でしょ。なんで分ける必要があるのよ」


 あ、うん、この世界の海じゃしょうがねーか。分ける必要があるほど航海できるわけじゃねーしな。


「必要と言うか、区別だな。これから船が増えるからよ」


 東大陸との航路が確立されたら船の行き来は増え、物の流れも増えていく。そうなれば商機を求めて他にも流れていくことだろう。


 なれば船の需要も増え、先に征していたほうが勝つ。オレは海運業の王となる! かどうかは別として、ヤオヨロズ国の食料事情を少しでも早く改善しねーと。うちの倉庫も空きが出て来たからな。


「船はいつできるんだ? 明日か?」


「いや、船がそんな簡単に造れるかよ」


 なに非常識なこと言ってんだ、このねーちゃんは? 頭大丈夫か?


「……あんたにそんな目で見られるのが不愉快でしょうがないよ……」


 なら常識持とうぜ。


「船は春に向けてだな。大陸間を航行する船だからしっかり造らんとならんからな」


 ファンタジーの海をナメたらすぐに海の藻屑になっちまう。そうならないためにも時間をかけて造るのだ。シュードゥ族が、だけど。


「じゃあ、それまでは船に乗れないのか……」


 骨の髄まで船乗りなんだな、このねーちゃんは。


「いや、乗れるぜ。ねーちゃんの船……は、なんて言ったっけ?」


 ごめん。ねーちゃんの名前も船の名前も忘れました。覚える気もないけど。


「サリエラー号がなんなんだ?」


「本格的に改造して、高速魔道船にする」


 サリエラー号大改造計画、ここに発動だ!


  ◆◆◆


 と、その前に、朝食をいただきますか。


「って、パンケーキですか……」


「はい。こってりコトコト六枚重ねの生クリーム万歳スペシャルです」


 そんな笑顔で言われてもどう返してイイかわかんねーよ。


「朝から濃厚だな」


「はい。六つ子さんたちのリクエストでして」


 その六つ子がいる席を見ればパンケーキ祭り。朝から胃酸が元気ですこと。


「変なところで乙女なばーさんたちだ」


 怖い顔してなんとも幸せそうな表情をしやがる。できるのなら雰囲気もなんとかしろや。ここはハードボイルドな世界じゃねーんだからよ。


 はぁ~。オレのために出されたものは食べる主義とは言え、これはキツいな~。胃もたれどころか吐き気がして来たわ。


 だから食えぬとは言えぬ。下げてとも言えぬ。誰かの皿にも移すこともできぬ。ならばどうする? 決まってる。無限鞄にこそっと収納。あとでちゃんといただきます、だ。


 ……まあ、お腹空いている方がいたら優先して譲るけどでね……。


 バケットからトーストを取り、空になった皿へと入れ、牛乳をかけていただきます。うん、旨い。


 朝食が終わり、コーヒーを飲んでいると、赤毛のねーちゃんとその仲間たちがやって来た。


 仲間たちいたんだ! とかは止めてください。いたんです。ただオレの意識から外れてただけなんです。


「これからサリエラー号を改造するのか?」


「たぶん、もう始めてると思うぞ。シュードゥ族の連中は二日酔いとか知らねー種族だからな」


 昨日、終わった頃は陽気に酔っていたが、泥酔しているヤツはいなかった。一晩寝れば元通りよ! とか言ってたからもう作業を開始してるはずだ。


「あんたがするんじゃないのか?」


「そうしようとしたんだが、オレたちにやらせろと奪われちまったんだよ」


 クルフ族と言いシュードゥ族と言い、人から奪うのに容赦ねーよな。つけ入る隙がなかったわ。


「まあ、改造するのにそう時間はかかんねーだろう。新しい魔道剣に耐えられるようにして、船体の強度上げるとか言ってたからな。あ、できたらオレの力で内装や機能追加するから四日くらいじゃねーかな?」


 オレは一日あれば充分だし、親方連中もそんなに時間はかけねーはずだ。魔道船造りの職人もいると言ってたからよ。


「な、なあ。貨客船ができたらサリエラー号はどうなるんだ? 別のヤツに渡すのか?」


 なにやら不安顔。なんだい、いったい?


「船長はサリエラー号を失いたくないんです」


 と、確か副船長の少年がそう教えてくれた。


「いや、貨客船に載せるぞ」


 貨客船と呼んでるが、オレが考えているのはカーフェリーだ。


 いやまあ、船を載せるのでカーフェリーとは言い難いが、いずれ魔道車も造る予定。用途はそうなるのでカーフェリーでいかせてもらます。


「……船に船を載せる、と言うことか……?」


「簡単に言えばそうだな。ねーちゃんらには変に聞こえるだろうがな」


 シーカイナーズの艦に船──ホバークラフトが入ってるのがあった。


 サリエラー号には浮遊石も積んで船体を軽くし、風を噴射させて飛ぶこともできるようにする。格納はすべてを腕に頼ることになるが、そこは結界を張るので恐れず練習してくださいだ。


「確かに変に聞こえるけど、船に船を載せる意味ってなんなの? それだと荷物を載せる場所がなくなると思うんだけど」


「船の大きさはサリエラー号の約三倍。通常の船よりは集積率高いよ。それに、ねーちゃんたちには人を運ぶほうに力を注いで欲しい。飛空船より輸送力は高いからな」


 海路の開拓や海図とか欲しいし、今度はゆっくりクルージングがしたい。赤毛のねーちゃんたちにはたくさんの海を制覇してくれや。


「まあ、完成するまではレヴィウブを楽しんでおけ」


「いや、周りすべて貴族の中でゆっくりなんてできるわけないでしょう。吐いちゃうわよ」


 意外と繊細だな。ファンタジーの海を航海してんだから、鋼の心臓になれよ。


「人を乗せる船の船長なら口調を品よくしておけ。これからの海は荒くれなんて流行らねーからな」


 武力は必要だが、接客は必須だ。これからは客商売をするんだから貴族を見て身につけておけ。


「あと、口調だけじゃなく動きも優雅に上品にしておけよ。ねーちゃんちょっと雑だからよ」


 周り貴族だらけって言っておいて、いつものセクシー服はねーだろう。オレのように常に備えておけや。


「……そんなこと言ったってわたしの柄じゃないし……」


「親父さんはアブリクトの代表としての威厳と品を出してるぞ」


 カリスマまで求めはしないが、威厳や品は自力で手に入れろ。それらは必ず己の武器となるんだからな。


「……わ、わかったよ……」


 よろしい。楽しみながらしっかり学ぶがよい。オレは楽しく買い物するからよ。


 でも、パンと牛乳だけでは力が出んので、ご飯と納豆を食っておくか。ミタさん、よろしこ。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る