第123話 親友

 ほどなくしてカイナが現れた。


「遅かったな?」


 いつもなら召喚したらすぐ来るのによ。


「ここ、見えない力に守られて転移じゃ来れないんだよ。上からも見えないし」


 なにやらスペースワールドな力により守られているようです。


「見つかると困りますから」


 なにやら危ない者から狙われているようです。


「はぁ~。弱肉強食は宇宙的か……」


 ファンタジーワールドがあるんだからスペースワールドもあるんだろうとは思ってたし、地球外生命体は前世の頃から信じてたから驚きはねーが、これだけの技術を持った存在が逃げる敵とか胃に穴が空きそうだわ……。


「宇宙人的な魚さんなの?」


「ミチコさんな」


 失礼なこと言うなよ。いや、オレも失礼なこと言ってたけど!


「宇宙的存在にミチコと名付けるベーを素直に尊敬するよ」


 その目は軽蔑してるように見えるのは気のせいか?


「なんでもイイよ。お前も話に混ざれ。本当ならタケルも混ぜたいが、今リハビリ中だしな」


「タケルなら必死に籠城してるよ。おれも混ざってヒィーハーしてた」


 お前、反省させられてたんじゃねーのかよ? つーか、籠城ってなんだよ? タケル、今なにやってんの!?


「……ま、まあ、なんでもイイよ。お前がかかわってたなら命は保証されてるだろうからな……」


 どうせカイナーズの連中を忍ばせてるだろうからな。


「ナハハ。タケルの活躍を奪いそうで調整するの大変だったよ」


「お前はほんと自由だよな」


 キング・オブ・フリーダムの称号を贈りたいくらいだよ。


「いや、ベーに勝る自由人はいないから。そんなことよりおれを呼んだ理由ってなに?」


「ここに住む人魚の国を創るからカイナーズの支店を出せ。報酬はすべてお前にやるからよ」


「つまり、どーゆーこと?」


 いや、今オレ言ったよね? なんでミタさんに問うんだよ?


「す、すみません。あたしにはなんのことかさっぱりで……」


「あーわかった。了解了解」


 それでなにがわかったんだよ? 


「皆、下がって。ミタさんも。レイコさんは……まあ、いいや。なんか理解できそうだし」


「ですが……」


「大丈夫。ちょっと内緒の話だから」


 そんな説明で納得できるのはカイナーズのヤツらだけだよ。


「まあ、ミタさんは残ってイイよ。そろそろ隠すのもメンドクセーしよ」


 どうせカイナも信頼できるヤツには秘密を教えているはずだ。隠し事苦手な性格してるからな、こいつは。


「まあ、ミタさんなら知っていてもいいかもね」


「ありがとうございます!」


 嬉しそうなミタさん。秘密の共有とかしなくてもオレはミタさんを信頼してるんだけどな。まあ、人それぞれだからイイけどよ。


 カイナーズの連中は素直にカイナの命令に従い、宇宙(って言ってイイのかわからんけど)から出ていった。


「それで、ベーの真意は?」


「言った通りだよ。ここをカイナーズ、って言うか、カイナが守れ。将来のためによ」


「この宇宙船を、ってこと?」


「正確にはこの宇宙船から半径一〇〇キロ内を、だな」


 まだこの周辺のことなにも知らないが、半径一〇〇キロ内なら国としては成り立つはずだ。社会的にも環境的にもな。


「前にも言ったが、オレは一〇〇年も生きられない。必ずお前らより早く死ぬ。ミタさんも長命種だが、それでも数百年生きるのがやっとだ。だが、お前は千年先も生きてるはずだ」


 不老不死、ではないだろうが、人の外どころか生命体の外、神の領域に一歩入ったかのようなヤツなのは間違いねーだろう。


「これは勘だが、オレは死んでもまた転生するかもしれない。この世界に、記憶を持って、な」


 不老不死、ではないだろうが、人の外どころか生命体の外、神の領域に一歩入ったかのようなヤツなのは間違いねーだろう。


「これは勘だが、オレは死んでもまた転生するかもしれない。この世界に、記憶を持って、な」


「……ベーもそう思ってたんだ……」


「わかってたのか?」


「まーね。他の転生者と神とのやり取りを聞いたら、もしかしてベーたちは選ばれたんじゃないかな~って思ったんだ。大体、神様の失敗だからってチートな能力を三つも与えないでしょ。おれは一つだけなのにさ」


 そうなんだ。まあ、その肉体がもはやズルとしか言いようがねーけどよ。


「特にベーは神に気に入られてる気がする。ベーって前世の記憶を願ってないのに与えられた。神様が忘れたって思うより意図的に消さなかったと言ったほうが納得するし」


 それはオレも思った。まあ、気にしないようにして生きてきたがよ。


「おそらく、前の世界の神が能力を与えるとき魂に刻んだだと思う」


 この世界の神にも魂に刻まれた能力は消せない。か、どうかはわからないが、前の世界の神は介入と言った。それはつまり、神でも魂に触れるのは難しいってことだ。


「まあ、神の領域にオレらは干渉はできないが、この世界には干渉できる。未来に楽しみを残すことを、な」


 もちろん、次の生も今の記憶を持って生まれるかはわからない。が、可能性かがあるなら備えなければいけない。マイナススタートとか嫌だからな。


「オレはオレでいる限り、お前とは義兄弟だ」


 この言葉の意味をどう受け取るかはカイナに任せる。好きなようにしろ、だ。


「おれ、そんなに情けなく見える?」


「寂しん坊には見えるな」


 人の心を持ったお前はなにか求めるものがないと簡単に心を失う。そう言う意味では心がまだ未熟なのだ。


「正解。寂しいと死んじゃうな、おれ」


「そうか。まあ、オレがオレでいる限り、付き合ってやるよ」


 親友がいる。それだけで人生が輝くってもんさ。


   ◆◆◆


「……つまり、ここをカイナーズで占拠しろってこと?」


「お前の表現、暴力的だな。もっと平和的な表現で表せよ」


 言葉はイイよう物はイイようって言葉を知らんのか?


「同じことじゃん」


 うん。こいつは絶対政治家になっちゃダメなタイプだ。いや、やれと言ってもならないだろうけどよ……。


「……お前の参謀、ちょっと呼んで来い。そいつと話すから……」


 こいつは実務にも不向きな男だ。エリナと同じで君臨すれど統治せず、なタイプだ。


「わ、わかった。ミカホシを呼んで来て」


 カイナーズの一人に指示を出した。


「すぐ来ると思うよ。一応、ここまで連れて来たからさ」


「ミカホシって、あの青鬼族の女か?」


「うん。おれの代理でカイナーズの情報戦略局の局長を任せてあるよ。怒らせたら怖いから穏便に、ね」


 ハルメランであった氷のように冷たい目をした青鬼ウーマンさんか。確かに怒らせたらダメなタイプだったな。


「しかし、二度目になると新鮮味もないね」


「まあ、岩さんと衝撃的出会いをしたからな」


 オレとしては出会ったあとのことが衝撃だったけどな。魔大陸に連れていかれたりマスドライバーだったり爆発だったりな!


「宇宙、か。おれ、あんまりSFとか詳しくないんだよね。宇宙の戦士は好きだったけど」


「オレだって詳しくねーよ。宇宙戦艦は観てたけどよ」


 ジュール・ヴェルヌの作品は読んだことあるが、SF的なもんは読んだことはなかった。


「この宇宙にはこれだけの技術を持ったミチコさんたちでも逃げる存在がいる」


「バグズだったら燃える!」


 バグズって、虫、だっけ? 虫と戦いたいのか? だったら魔大陸でやって来いよ。いや、暴虐さんと魔王ちゃんが燃やしたっけ。つーか、この世界の生き物のほうが余程強いと思うのはオレだけか?


「うむ。腐女さんに出してもらおうかな?」


 腐女ってエリナのことだよな? お前らどんな関係なんだよ? 気にはなるけど、かかわり合いたくねーから訊かないけど!


 カイナが妄想に耽っている間に青鬼ウーマンなミカホシさんとやらがやって来た。息を切らして。ご苦労さまです。


「……お、お待たせしました……」


「まあ、これを飲みな」


 と、エクルセプルを渡した。栄養剤も兼ねたものだから疲労も回復するぜ。


「ありがとうございます」


 エクルセプルを飲み、完全回復した青鬼ウーマンさん。冷たい表情がステキです。


「それで、どのようなご用意でしょうか?」


 話が早いウーマンってオレ好きよ。この方とは仲良くできそうだ。あくまでも協力者としてな。


 ……イイかい、皆。こう言うタイプは身内にいたら絶対、上の手綱をつかむタイプだから協力者って位置にいさせるんだせ……。


「ここを国にしてカイナーズに守ってもらいたい」


「カイナーズに利点はあるのですか?」


「将来、カイナのためになるし、魔族に仕事を与えられる。なにより淡水人魚を仲間にできる」


 オレの上げた利点を考える青鬼ウーマンさん。


 鬼族は人と同じ寿命だと聞いた。まあ、身体能力は人の数倍上だが、中身はそう違いはないはず。


 前世のように教育を受けたわけでもないのに、利点を考える思考力は生まれ持った才能だろう。知性的で理性的。冷徹で現実主義者。カイナがカイナーズを仕切れてるのはこのウーマンのお陰なんだろうな……。


「カイナ様のためになるのは承諾しますし、魔族に仕事を与えられるのは助かります。ですが、人魚を仲間にする利点がわかりません。具体的にはどう利点なのですか?」


「人魚は水を操れる。ってことは海水を真水に変えれることを意味する。そうなれば海がある限り、日照り問題に苦しむことはねーさ」


 水がある、いや、飲めるありがたさを知っていたら淡水人魚の存在がどれほどのものかわかるはずだ。


「ゼルフィング家ではもう雇っているぜ。海の人魚も淡水人魚も、な」


 ニヤリと笑ってみせる。


「……本当にべー様は恐ろしい方です……」


 無限鞄から手鏡出して青鬼ウーマンに向けたい衝動に出るが、もしやったらオレは死ぬ。物理的にも精神的にも。オレにはわかる……。


「未来をつかもうとするのは大事だが、なにもかも自分一人で背負うもんじゃねーぜ」


 この青鬼ウーマンから気負いを感じる。あれもこれもとつかもうとし、なに一つ捨てれないで沈みそうなそんな感じをな。


「任せるものは任せるってことを覚えたほうがイイぜ」


「べー様は丸投げしすぎですけど」


 幽霊さん。大事なお話してるんだからシャラップです。


「カイナーズも他種族多民族の集まりだ。種族差による苦労を知っているはずだ。なら、種族に合わせた仕事場を用意したほうがイイ。ここなら野蛮人には住みやすいだろう?」


 魔族だって誰も彼も環境や状況について来れるヤツばかりじゃない。古いヤツもいるはずだ。


 ここなら野蛮人の法も通用するはず。そんなヤツらに任せたらイイさ。


「……わかりました。カイナーズで仕切らせていただきます……」


「ああ。オレも力を貸すよ」


 おそらく、ラーシュの国とも関係あるはず。争わないようにしなくちゃな。


   ◆◆◆


「淡水人魚を雇い入れて部隊でも設立しろ。オレから公爵どのに話を通してバイブラストにある湖を借りる。そこで訓練すればイイ」


 ダーティーさんたちの淡水人魚と仲良くするためにも武力はあったほうがイイし、淡水人魚に働く場を与えてもやれる。


「お、それおもしろそう!」


 おもろしくねーよ。必死に生きてる淡水人魚に殴られるぞ。


「魔大陸にも派遣したほうがよさそうですね。大河が二つありますから」


 へ~。魔大陸には大河があるんだ。初めて知ったよ。


「人魚の武器か。フフ。なにがいいんだろう?」


 ほんと、このミリタリー脳にも困ったもんだ。まずは生活を考えろよ。


「わかりました。カイナーズで仕切ります」


「頼むよ。食い物で懐柔すれば反抗はせんと思うしな」


 人魚にも三大欲はある。腹を満たしてやれば言うことを聞くだろうよ。


「ミチコさん。聞いての通りだ。カイナーズがここを守る。礼はカイナーズにやってくれ」


「感謝します」


 丸投げミッションコンプリート。お疲れさまでした!


「あ、トカゲさんたちとも上手くやってくれや。あっちも食料をやって国に取りこんじまえ」


 ジャウラガル族も纏めて引き込むのがイイだろう。環境丸ごととなるとジャウラガル族は必要だし、戦いとなったらメンドクセーからな。


「あの種族もですか?」


「カイナーズだけでこの湖をカバーするのは大変だろうし、環境に適した進化したジャウラガル族のほうが守りやすいだろう。自然は金を出したからって守れるもんじゃねーからな」


 自然保護教(狂か?)じゃないが、自然の大切さは知っている。なら、汚される前に支配したらイイ。こっち有利で進められるんだからな。


「カイナ様とべー様がいることを幸いと思います」


 深々と頭を下げる青鬼ウーマンさん。そんなもんいらんと言おうとして止めた。感謝するのは青鬼ウーマンさんの自由だからな。


「オレはサプルとレニスのところにいくよ」


 これからはカイナーズの管轄。イイようにやっちゃってくださいな。


「あ、おれも!」


「お前、いつかこのねーさんに刺されるぞ」


「なら、べーはとっくにフィアラに刺されてるよ」


「よし。二人でいこうぜ!」


 刺されるときは一緒だ、親友!


「……類は友を呼ぶ、ですね……」


 さあ友よ、どこまでも一緒だぜ!


「ちょっ、おれを巻き込まないでよ! おれ、べーみたいに丸投げしないよ!」


「うるせー! 死なばもろともじゃー! 一緒に刺されろや!」


 丈夫で言えばお前が勝ってんだ、オレの盾になりやがれ!


「刺されるならべー一人で刺されてよ! おれ、関係ないじゃん!」


 なんて親友同士の和気藹々。皆さまの視線が痛いが、死なばもろとも。二人なら痛みも和らぐってものさ!


「まあ、がんばってください。では──」


 颯爽と去っていく青鬼ウーマン。ステキー。


「もー! カホに嫌われたらどうしてくれんのさ!」


「大丈夫。そんなことでお前を捨てるタイプじゃねーだろう」


「そ、そうだけど、おれだってカイナーズでの立場を築くのに苦労してんだからね」


 まったく同意できる要素が思いつかねーが、カイナーズの内部なんて知らねーのだから余計なことは言わないでおく。


「まあ、自由を認めてくれる心優しき淑女たちに応えるべくサプルたちのとこいくぞ」


「……もしかして、レニスのところにいきやすくしてくれたの……?」


「別に。そんなつもりはねーよ」


 まったく、変に勘が鋭いヤツだよ。んなこと察しなくてイイのに。


「そっ。そう言うことにしとくよ」


 苦笑するカイナに肩を竦めてみせた。照れたら余計に恥ずかしくなるからな。


「いくぞ」


 わざと素っ気なく言い放ち、フュワール・レワロをくっつけたイルカ──ウルグのところへ向かった。


「ってか、自由に泳ぎ回ってんな!」


 クソ! 捕まんねーよ!


 結界を施してあるから居場所はわかるんだが、一ヵ所にいてくれねーから捕まえられねーよ!


「飼い主に似る、だね」


 うっさいよ! 飼ってもねーし、似てもいねーよ! つーか、お前も手伝え! 孫に会えねーんだぞ!


「はいはい。あらよっと」


 で、ウルグを魔力であっさり捕まえ、手元へと引きよせた。


「……お前、結構便利なのな……」


 魔力の便利さを今知ったよ。 


「べーを捕まえるのは大変だけどね」


 さあ、フュワール・レワロへとレッツらゴー! 


 カイナの非難の目から逃れてフュワール・レワロの天辺へと手を置き、中へと入った。

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