第122話 セカンドコンタクト

 しばらくコーヒーを堪能していると、淡水人魚に囲まれてるのに気がついた。


「見世物だな」


 動物園の動物ってこんな感じかね? まあ、気にしなければ気にならないからイイけどよ。


「すまない。すぐに下がらせる」


「これから地上の生き物にも慣れなくちゃならんのだから構わんよ」


 ララさんがいこうとしてるのを止めた。


「地上にはいろんな種族がいて、知らない光景が広がっている。今の内に変化に慣れておくことを勧めるよ」


 オレやミタさんで抵抗力をつけておけ、だ。


「……この地を去ることになるのだろうか……?」


「それは常に覚悟しておかなくちゃ滅びるだけだぜ」


 生まれた土地(いや、水地か?)を離れる辛さや思い入れはわかる。オレだって村を出ていけと言われたら力の限り反抗する。だが、どうしようもないときの覚悟は持っている。でなきゃ家族は守れないからな。


「生き残りたければ先に進まなくちゃならねー。それはどんな種族にも言えることさ」


 命は平等じゃねー。生きたいと思い、行動したヤツだけが持ってイイもんだ。


「なに、水を浄化できる力を持ったあんたらならどこでも受け入れられるさ。地上じゃ水がなけりゃ生きていけないからな」


 この世界でも飲み水を求めて戦いがあった。湖のある国は是非とも来てくれと言うはずさ。


 ……まあ、その前にヤオヨロズの国がいただくがな……。


「オレから助言できるとしたら世界を知れ。じゃないと、あんたらに未来はねーぜ」


 この星の頂点に立つなら生き残れるだろうが、まず、淡水人魚に頂点に立つことはねー。絶対と言えるほどに種として汎用性がなさすぎる。この世界に国際自然保護連合があれば淡水人魚はレッドリストに載るだろうよ。


「我らはベーに従う。だから我らに未来をくれ!」


「それはあんたらの行動次第。オレはなにもしねーヤツを助ける趣味はねー。すがりついて来たら蹴り飛ばしてやるわ」


 オレには共存共栄、ギブアンドテイクが大好きだ。一方的な依存などクソ食らえだ。


 家長さんやララさんは黙ってしまったが、そう簡単に意識改革ができたら種としてステージアップしてるわ。


 まあ、自分たちの未来だ、じっくり考えろ。それが先へといく糧となるんだからよ。


「ベー様。戻りました~」


 と、レイコさんが戻って来た。お帰んなさい。


「どうだった?」


「銀色の大きな魚がいました」


 魚? 水槽だったのか、コレ?


「かなり知能が高そうでわたしの存在に気が付きました」


 知能が高いと幽霊が見えるのか? それは知能じゃなく別の能力じゃね?


「話しでもしたのかい?」


「いえ、なにか話したそうな視線は向けて来ましたが、生憎と意志疎通はできませんでした」


 まあ、魚と幽霊が意志疎通している図ってのも理解できんがよ。


 ……いや、こうして幽霊と意志疎通している時点で理解してるようなもんだけどな……。


「知能が高いとなると、あちらから接触して来そうだな」


「まあ、ベー様ですし」


 なんでオレだからなんだよ。オレ、なんも関係ないじゃん。


「魚の他になにか興味をそそられるものはあったかい?」


「いえ、ほとんどが空洞で水が満たされてました」


 やはり水槽なのか?


 ──ガコン。


 なにかが金属がぶつかる音と振動が結界を揺るがした。


「さっそく接触して来ましたね」


「レイコさん、怒らせてないよね?」


「意志疎通もできなかったのに怒らせるもありませんよ」


 いや、不法侵入してますから、あなた。まあ、オレがいかせたんだけど!


「ベー様。あそこの壁が……」


 ミタさんの言葉に宇宙船に目を向ける。どこや?


「あそこです」


 と、頭をつかまれ、強制的に向けられた。プリッつあんみたいなことしないで! 首がもげるぅ!


 急いで無限鞄からエルクセプルを出して飲み干す。


 ……オレ、エルクセプル中毒になりそうだな……。


「す、すみませんでした!」


 イイよ、もう。


「あれは、入って来い、ってことですかね?」


 壁の一画が開いている。


「だろうな」


 それ以外、どう解釈しろって話だ。


「いくしかねーか」


 無駄な抵抗するだけ無駄。歓迎されてると思ってありがたくお邪魔させてもらおうぜ。


「オレだけいく」


 ミタさんや家長さんたちは来るなよ。


「ですが……」


「大丈夫だよ。嫌な予感はしねーからよ」


 面倒な予感は天元突破してるけどな……。


   ◆◆◆


 接地面がない壁に開いた通路。これだけで超技術ってのがわかる。


「……まさか二度も未知との遭遇をするとは思わなかったぜ……」


 岩さんだけでもお腹一杯なのに、人魚の……なんだ? 元? 祖先? 創造主? まあ、よくわからんけど、宇宙からの使者的なのは勘弁してくれだ。


「なのに、会いにいくんですか?」


「逃げられると思うか?」


「無理でしょうね。根拠はありませんが」


 オレも逃げられないって、よくわからない根拠が言ってるよ。


「ミタさんやカイナーズは来るな」 


「できません」


「カイナ様が来てからにしてはいかがですか?」


 まあ、止めるわな。こんな得体の知れないものに入ろうってんだからよ。


「大丈夫だよ。危険な感じはしねーからよ」


 不安はあるが、嫌な感じはしねー。考えるな、感じろも騒いでねー。これは、岩さんのときと同じく呼ばれている感じだ。


「ですが……」


「別に連れていっていいんじゃないですか! 指定されてるわけじゃないんですから」


 まあ、そうではあるが、団体でお邪魔するの失礼じゃね?


「あたしはいきます!」


「我々もです!」


 絶対退かぬ! な目をする皆にしょうがないと諦める。好きにしな……。


 宇宙船の主が開けてくれた通路に入る。


 通路はツルツルで継目はない。まるで金属が飴のように溶けて広がった感じだ。


「……不思議ですね……」


 あんた一回入ったやん。


「なにも見えないところを通ったもので」


 機械的なものはないんだ。ナノマシン的なものか?


 通路は長い。なのに壁自体に光があって視界はクリアで、圧迫感はまったくない。と言うか、透明度がよすぎて宙に浮いてる感じだわ。


 一〇〇メートルほど進んだろうか、突然、大空間に出た。


 下を見れば水色の玉が敷き詰められていて、上を見ればクラゲみたいのがたくさん揺らめいていた。


「完全に水槽だな」


 そうとしか表現できねーぜ。


「で、その銀色の魚はどこだ?」


 透明度は高いが、中が広いのか主が見えない。


 どこにいるかわからないので、下に敷き詰められた水色の玉を見にいく。


「……卵……?」


 水色の玉は三メートルくらいあり、中には四〇センチくらいの卵らしきものが数十個入っていた。


「人魚の、ですかね?」


「人魚は哺乳類だろう」


 いや、哺乳類と分類するかはわからんが、人魚は交尾で交配して、赤ちゃんを生む──と聞いている。さすがに行為を見てねーから知りません。


「方舟だな」


「別の星から来た、ってことですかね?」


「だろうな。ここから旅立つって感じでもねーしな」


 いつからここにあるんだろうな? 感じからして天地崩壊の前からあるみたいだが……。


「マイロード。来ます」


 人魚型のドレミがオレの腕を引っ張って来た。


 周りに目を向けると、なにかこちらに向かって来るのが見えた。


「……確かにデカいな……」


 サイズはマッコウクジラくらいある……え? マンボウ? みたいな銀色の魚だった。


「誰も手を出すなよ」


 敵意はねー。なら、敵対する必要はねーさ。


 銀色のマンボウは、オレたちから三〇メートル手前で停止。八つある目をこちらに向けた。


 しかし、なんのリアクションもなし。オレたちを見るだけであった。


「……もしかして、念話で呼びかけてるんですかね?」


「人魚の親玉だからしゃべってくるんだと思ってたぜ」


 皆に纏わせた結界には精神攻撃や魔眼対策したものだ。この水になにが混ざってるかわからんからな。


「レイコさん。なんかあったら霊的なパワーでなんとかしてね」


「幽霊に過度な期待はしないでくださいよ」


 そこは謎の力を引き出してください。


 精神波的な結界をオレだけ解いた。


「……聞こえますか?」


 頭の中に女とも男ともつかない声が響いた。


「ああ。聞こえるよ。ワリーな、遮断してて」


「……遮断。この星の者にそんなことができるのですか……?」


「できるヤツもいればできないヤツもいる。が、オレは特別に入る分類だ。だから記憶を閉じることもできる」


 銀色のマンボウの言葉(念話)からして、記憶を読むことができると見てイイだろう。どうだい?


「……なるほど。特別のようだ……」


「そちらは感情があるんだな」


 驚いた感情が伝わって来た。


「わたしは、エイボルゴの守護者。リ・ガ・アード・フィービー。遠い星から来ました」


「オレはベー。地上の生き物で、人魚に助けを求められてここに来た」


 変な自己紹介だが、ファースト──いや、セカンドコンタクトならこんなもんだろう。いや、知らんけど。


  ◆◆◆


「こちらへ」


 と、リ・ガ・なんとかかんとかさんが回れ右。つーか、名前が長いよ。絶対、三メートル進んだら忘れるわ。


「いや、一歩も動かないうちに忘れてますから」


 三秒前までは覚えてたんよ。ただ、展開に驚いて維持できなかったんや。ほんまやで。信じてチョンマゲ。


「あの、リ・ガなんとかかんとかさん。名前が長いんで縮めてもよろしいでしょうか?」


 おもいっきりへつらいながらお尋ねした。


「構わない。好きに呼んでください」


「じゃあ、ミチコで」


「なぜに?」


 それこぞなぜ幽霊に問われねばならん? 


「では、ミチコと呼んでください」


 度量がある魚さんです。ヤダ、惚れちゃいそう!


「……なんなの、この二人は……」


 いや、一人と一匹だから。幽霊の目にはどう映ってんのよ?


「イイじゃん。ミチコ」


「まあ、ベー様が覚えられる名前なら構いませんが、どこからミチコなんて出て来たんですか? わたしのレイコって名前もあまりない響きですが……」


「神からの啓示」


 それ以上は聞かないで。あと、思考を読んでも無駄。幽霊の理解言語で思考を誤魔化すから。


「……そう言う器用なことできるからベー様ってアレですね……」


 アレってなによ? 絶対、イイほうのアレじゃないよね? いや、訂正しなくてイイから。堪えられないアレだったらイヤだからさ……。


「んお?!」


 突然、世界が宇宙へと変わった。へ?


「ここは、カペラ。エイボルゴの記憶だ」


 レイコさん。通訳プリーズ。


「なんでもかんでもわたしに聞かないでください。これはベー様の管轄です」


 ねーよ、そんな管轄。逆にあったら人に押しつけるわ!


「すまんな。ミチコさんの言うこと、まったくわからんわ。オレをここに呼んだ理由はなんなんだい?」


 スーパーテクノロジーや悠久の歴史やら興味はあるが、人生をかけてまで聞きたいとは思わねー。二日くらいで語られる話なら聞くけどさ。


「わたしたちは、滅びる星から逃げて来た」


 やはり方舟か、これ。


「新たな星を求めて旅立ったが、好戦的な生命体と遭遇してこの星へと落ちた」


 なんか聞きたくないことを聞いてしまった感に心が押し潰されそうである。


「コンルグランドが治るまでここにいさせて欲しい」


 って、確か、この宇宙船のことだったよな?


「いつ治るんだ?」


「星が約三億回回れば飛び立てる」


「……それは、この星が太陽の周りを回る回数かい? それともこの星が回転する回数かい?」


 まあ、どちらにしてもオレの寿命のうちに治らないのは理解したよ。


「やはり、わかるのですね」


 あ、試されたっぽい。そんなことまでできるのかよ。オレが想像するより知性は高そうだ。


「そんなに詳しくはねーぜ。あんたの一万分の一もわかってねーよ。ただ、詳しいヤツに知り合いはいるな。ミチコさんと同じく宇宙から落ちて来たヤツがな」


「それは∉∂∈℘∇∆∑ですね」


 ん? 上手く聞き取れなかった。もう一回プリーズです。


「すみません。あなた方の耳には届かないようですね。惑星外固形生命体、と言ってわかりますか?」


「あ、まあ、なんとなくはな。オレは岩さんと呼んでるよ」


「では、わたしも岩さんと呼称します」


「……それ、絶対未来の人から非難されるヤツ……」


 その頃にはオレは天に召されてるので気にしません。


「岩さんと話すことはできるのかい?」


「はい。空にあるものを使わせていただけるのなら」


 カイナーズのヤツらを見る。


「人工衛星、上げたのか?」


「はい。まだ二基だけですが」


 ほんと、カイナの野郎は自重を知らねーヤツだよ。


「ベー様。カイナ様よりベー様が決断したことには無条件で従うと言葉をもらっております。ベー様のいいように決めてください」


 はぁ~。ときどきあいつは性格を偽ってんじゃねーかと思うよ。いや、何十年と生きてんだからそのくらいは察せれるか。


「わかった。ミチコさん、使ってくれて構わないよ。岩さんと連絡し合いな」


「それは助かります。岩さんと繋がれば情報共有できますから」


 なんかこの星に謎のネットワークができた感じです。


「ベー。いずれこの星を旅立つときまでこの地を守って欲しい」


 また無理難題を言ってくれる。ここは南の大陸なんだぞ……。


「守っていただけるのなら星図を差し上げます」


 んなもんもらってもオレの手には余るわ。


「オレ一人では決められねー。もう一人、ここに呼んでイイかい?」


「構いません」


 了承は得られました。カイナ、ここに召喚!

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