第121話 コンルグランド

 レニスのことはサプルやいろはの分離体に任せるとして、オレは探索させていただきます。


 宇宙船があるピラミッド内は、完全に淡水人魚のコロニーとなっている。


 上を見ればドーム状となっており、なんか光る点がドーム全体についている


 ライト、ではねーよな? 宇宙船自体が微かに光っているから必要ねーし。なんかのイルミネーションか?


 気になると確かめたくなるのオレ。上へと浮上する。


「ベー様。減圧障害に注意してください」


 と、ミタさんが横に来て注意勧告してくれた。


「オレは大丈夫だからミタさんらは急がず浮上しろ」 


 五トンを持っても平気な体は減圧障害も跳ね返す。その辺に抜かりはありません。


 減圧障害なにものぞと浮上し、光る点を確かめる。


 光る点はテキトーに配置され、なんの規則性はねー。思いのままにつけた感じだ。


「なにか気になることでもあるんですか?」


「まーな。人魚たちに芸術を楽しむ文化があると思うかい?」


 海の人魚は多少なりとも芸術文化はあるが、淡水人魚にあるとは思えねー。いや、昔の淡水人魚ならあったのか? だとしてもドーム状に光る点をつける芸術センスが理解できねーよ。象徴芸術か?


「ん~。ないですね。暮しが原始的ですし」


 レイコさんの見立てならそうなんだろう。


「なら、これは芸術作品ではねーよな。いたずらでつけた感じもしねーし」


 光る点が真円で、蛍光塗料っぽい感じがする。これはかなりの技術がなければつけられない。


「と、なると、だ。光る点は意図的につけたと言うこと。……星図、か?」


 そう考えるとドーム状の光る点も納得できる。


「故郷まで星図か? それとも宇宙から来た証か? なんなんだ?」


 オレの頭では答えは出せませんわ~。


「レイコさん。この中に入れるか?」


 未知の金属だが、幽霊に関係はないはず。壁を通り抜けられるんだからこれもいけるはずだ。


「どうでしょうね?」


 と、背後から前に出て宇宙船へと向かった。


 ……この幽霊、絶対着脱可能な幽霊だ……。


 宇宙船の外壁に触るような仕草をして、腕を押し込んだ。


「入れそうです」 


「体は大丈夫かい?」


 そのまま昇天とかしないでね。するなら遺言書いてからにしてください。先生に顔向けできねーからさ。


「縁起の悪いこと言わないでくださいよ。怖くなるじゃないですか」


 幽霊が縁起とか言うのもどうかと思う。いや、喜怒哀楽ある時点で幽霊として間違ってますから、あなた。


「大丈夫なら中を見て来てよ」


「どこにもいかないでくださいよ。絶対ですからね」


 夜中のトイレみたいなこと言わないの。幽霊と一緒にトイレとか途中で漏らすわ。  


「ちゃんといるよ。ミタさんの名にかけて」


「……なぜ、あたしの名にかけるんですか……?」


 ノリと勢いと雰囲気からです。


「わ、わかりました。じゃあ、見て来ますね……」


 宇宙船へと消えるレイコさん。君の無事を祈る。いや、幽霊って時点で無事じゃないけどな。


「ベー様。これはいったいなんなんですか?」


「まあ、飛空船の発展版だな」


 宇宙船と言っても理解はできまい。いや、ミタさんなら理解できるか? 理解力が飛び抜けた人だからな。


「おそらく、人魚は遠い星からこれに乗って来たと思う」


「宇宙船と言うことですか?」


 ミタさんの成長がハンパないです。去年まで魔大陸で原始的な生活してたのに宇宙船を知るまでに至ってます。いや、カイナーズから仕入れたのかな? 現代兵器やらメルヘン機まで操っているところだしな……。


「そう、だな。宇宙船と言ってもなにによるかで変わって来るな」


「どう言うことですか?」


「移住か侵略か事故か、理由いかんでは対応が変わってくる」


 岩さんで宇宙人(仮)がいることは証明された。なら、他にいても不思議ではない。ましてやこんな多種多様な種族がいる世界。宇宙人が混ざっていても不思議じゃねーよ。


「……危険、なんですか……?」


「まあ、危険だとしてもなんとかなるだろう。カイナがいるし」


 それに、転生者がいる。タケルはアニメな世界の潜水艦を持ってるし、エリナはメルヘン機を創り出せる。あと、タケルの潜水艦を潰した謎の転生者。あれは確実にヤバい能力を願ってる。インディペンスなディが起こっても勝てる未来しかねーよ。


「不安ならカイナに世界防衛軍を創ってくださいって進言してみろ。喜んで設立すんじゃね?」


 あいつなら喜び勇んで設立する。金貨一億賭けてもイイぜ。


「わかりました!」


 と、カイナーズの連中がヤル気満々。何人かが戻っていった。


 ちなみにカイナは謹慎させられてます。どこで、誰に、かは知りませんけど!


  ◆◆◆


 巨大な宇宙船を調べるのに時間がかかるだろうから、その場に結界を張り水を抜く。


 さすがに水の中で土魔法は使えないので、結界でテーブルと椅子を創った。


 カイナーズの連中も入れて休ませる。訓練していたとは言え、もう一時間近く潜っている。さすがに疲れて来ただろうよ。


「しばらく休んどけ。ミタさん。なんか出してやって」


 無限鞄を持ってるヤツもいないだろうし、大したもの持って来てねーだろうからな。


「最初からこうすればよかったのでは?」


「まーな。だが、いつまでも妊婦を水ん中にはいさせられんだろう。珍しいものを見せたらこっちのことは忘れんだろう」


 好奇心で動くヤツは新たに現れた好奇心にすぐ目を奪われるからな。


「さすがベー様。経験者は語るですね」


 なにか褒められてる気がしないが、突っ込んでも藪蛇な感じがする。ここはサラリと流しておこう。


「あ、ベー様。トイレって出せますか?」


 魔族も食えば出す生き物。ましてや水の中では近くもなろう。


 前に創ったトイレの腕輪をいくつか出してカイナーズの連中に渡してやる。他人様の家で垂れ流しは迷惑どころか嫌がらせでしかねーよ。


「ありがとうございます」


「好きにしてイイからカイナーズで作らせろ」


 そして、売り出したら買わせていただきます。


 あ、家長さんたちもご一緒にいかが? と誘うと、恐る恐る結界に手を突っ込み、上半身だけを出した。


「そのまま入りな。ちゃんと不自由なく動けるからよ」


 家長さんやララさんには結界を纏わせてある。水の中と同じ──とまではいかないまでもそう不自由はない動きはできるはずだ。


 まず家長さんが入り、続いてララさんさんが入った。


「……あなたは、神なのか……?」


 なんかオレを見る家長さんたちの目が畏怖色に染められていた。


「オレは人だよ。まあ、人とは思えない力は持ってるがな」


 別に力があることは隠す気なねー。が、どんな力かは隠すぜ。オレのプライベートなだからな。


「オレからすれば人魚の魔法のほうが神の力だと思うがな」


 こうして言葉や発音がまったく違うのに、自動翻訳の首輪で当たり前のように会話できてる。これ、とってもスゲーことだからな。


「コンルグランドはなんなのだ?」


「コンルグランド? あれのことかい?」


 宇宙船を指差す。


「ああ。我らの神だ」


 神として受け継がれているのか。まあ、賢い方法だな。神にしとけば下手にいじられることもないからな。


「……そうかい……」


 だったらレイコさんを宇宙船に入れたのは間違いだったかな? ってか、人魚に幽霊とかいるんだろうか? 


「まあ、確証はないし、間違ってるかも知れん。それでもイイかい?」


 この宇宙船──コンルグランドがなんのために造られたかなんて造ったヤツにしかわからねー。宇宙船じゃなく本当に神ってこともあるからな。


「ああ。構わない。実はコンルグランドが水を浄化してくれないのだ。それから水が汚れ、ブランガが実らなくなったのだ」


 実らなくなった、ってことは植物なのかな?


「水が汚れたって、あんたら自身ではできないのかい? 海の人魚はできたが?」


「我らもできるが、ブランガは神の実と言われ、ここの中でしか育たないものなのだ」


 ここの中でしか? 水の中になにか含まれているってことか?


「ミタさん。この中の水は絶対口にするな」


 クソ! 水を疑えよ、オレ! 微生物とかで体を壊すことを知ってんだからよ!


「ですが、シュノーケルしていれば少なからず口にします」


「カイナーズ、こっちへ来い」


 一三人いるカイナーズの連中に腹パンを食らわせ、胃の中のものを吐き出させる。酷いとか言っちゃイヤン。


「吐け! すべて吐け!」


 ナノサイズとかだったら手遅れかも知れんが、そんときは結界で探し出して排除するまで。今は胃に留まっていることを信じて吐かせるまでだ。


 吐いた物はすぐに結界で包んで消滅させる。


「ベー様。サプル様やレニス様は大丈夫なんでしょうか?」


「ああ、大丈夫だ。ちゃんと防いである」


 もちろん、ミタさんにも結界は纏わせてあるよ。家族だからな。


「では、レニス様についていった方々も吐かせたほうがよろしいんでしょうか?」


「そうだな。体に回る前に吐かせたほうがイイかもな」


「ベー様。我々がいきます」


 オレの腹パン食らって動けるとはカイナーズの連中ってスゲーのな。まあ、ピクピクしてるのも何人かいるけど……。


「オレがいくまではサプルやレニスを出させるなよ。あと、地上にも誰かいかせてカイナ呼んで来い。オレじゃ対処しきれんからよ」


 ここは最終兵器にご登場してもらおうじゃねーか。


「わかりました。すぐに呼んで参ります!」


「ああ。頼むよ」


 元気な六人に結界を纏わせ、三三にわかれて地上とフュワール・レワロへと向かった。


「……ベー様……」


「大丈夫。悪い予感はしねーからよ」


 心配そうなミタさんに笑ってみせる。


 これは、厄介事の流れだ。ハァ~。


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