第120話 核心
揺らぎを越えるとそこは森だった。
え、なに? トンネルを抜けたらのパクリ? とか言わないで。マジで揺らぎを抜けたら森があったんだよ!
いや、そこ水の中じゃん。なんて突っ込みはいらねーんだよ。知ってるわ!
名前を忘れることは多々あるが、自分の居場所を忘れた……ときもあるけど! さすがに水の中にいて周囲を忘れることなんかねーよ!
「ベー様ならありそうですけどね」
ヘイ、ゴースト! 心の声に突っ込んじゃダメ。絶対!
「しかし、水の中に森ですか。ベー様といると世界の広さを感じます」
オレも自己主張の激しい幽霊を知ったことでオレの中の世界が広くなったけどな!
「葉は生えてないんですね?」
枝が伸びた、なんだっけ? 星の王子さまに出て来る木。バブバフの木? じゃねーな。パオパオ? なんだっけ? まあ、ともかくそんな感じの木なんだよ。気になる人は勝手に調べてくれ。木だけに。
「なんかよくわかりませんが、滑ったってのはわかります」
わからないでください。オレのハートが凍てつきそうだから。
「なんて木だろうな?」
「もしかすると、水典の樹かもしれません」
「ミタパパの──じゃなく、ハイルクリット島にある海典かいてんの樹の一種かい?」
世界樹の亜種という海典の樹。それになる
「本での知識でしかありませんが、種としては違うようです」
「まあ、形も違うしな」
水の中に生る木とびっくりはしたが、驚愕するほどでもねー。じっくり眺めることができた。
……なんか人工的な感じがするな……?
家長さんに結界を繋ぐ。
「あれは、なんて木だい?」
「リュグールと言います。我々の住み処を守っております」
「守ってる? なんか天敵がいるのかい?」
そんなの湖にいるのかい?
「ボフガットよけだ。あいつらは我々まで襲うのでな」
地上で言うところの狼かな? つーか、ファンタジーのワニは水温が低くても行動できるんだ。いや、だから水温を低くしてるのかな?
「ワニ──ボフガットはあんたらの暮らしを脅かしてるのかい?」
「いや、それほどではないが、油断すると襲われたりはする程度だ」
やはり地上で言うところの狼みたいだな。狼も油断をついて襲って来るからな。
「リュグールはなんか実が生ったりするのかい?」
水の中に季節があるか、季節になにかなるのか想像もつかんわ。
「ああ、地上が暑くなるときに生る。我々の口には合わんがな」
人魚の口には合わないは人の口に合うときがある。勘でしかないが、なんか食える気がしてならない。
「生ったら食ってみたいな」
「早いのは生ってるかもしれんな。気になるなら誰かに採りにいかせよう」
それはサンキューです。
家長さんはララさんに伝え、ララさんは配下に伝える。お願いしますね~。
「我々の集落はこちらだ」
家長さんのあとに続く。
リュグールは植林したように等間隔に生えており、道? 通路? があり、なにか標識? みたいな看板がつけられたりする。
……思ってる以上に文明文化が発展してるな……?
「ベー様。申し訳ありませんが、温度を下げてもらってよろしいでしょうか?」
あ、忘れてた。そう言う話してましたね。メンゴメンゴ。
カイナーズの連中が纏わせた結界温度を三度ほど下げる。どうやろ?
「もう少し下げてください」
魔族は平熱が人より高いのか? オレはちょうどだし、サプルもレニスも暑そうにはしてないしな。
「ベー様。あたしもお願いします」
ん? ミタさんも? 魔族と言うより魔大陸出身者は平熱が高いってことか?
さらに五度。水温にしたら一七か一八度くらいかな?
「ちょうどいいです。ありがとうございます」
カイナーズの連中も適度だと言っている。
「ミタさん。うちって健康診断とかやってる?」
「健康診断ですか? 健康管理はしてますが」
やってねーか。まあ、そんな概念あるわけないんだからやるわけもねーか。
「カイナーズはどうだ?」
「カイナーズでも健康管理しかしてません」
カイナも転生……ではなく交換か。まあ、元の世界で一六まで生きたのだから健康診断は受けてるはず。知らなわけはねー。それをやってないのらトップとしてダメだろう。
「カイナーズって医療班いたよな? 血は採取してたりするか?」
「え、ええ。しますが……」
ってことは現代医療の技術はあるってこと。なら、健康診断と言う知識は持ってるはずだ。
「医療班、ゼルフィング家に出向させることって可能か?」
「我々ではなんとも。上と相談する必要があります」
そりゃそうだ。
「ミタさん。カイナーズと話し合って、ゼルフィング家で健康診断できるようにしてくれや。種族による違いを知りたいからよ」
今後のことを考えたら種族の違いは知っていたほうがイイ。なにかあってから動いたんじゃ手遅れになるかもしれんからな。
「畏まりました。早急に話し合います」
「頼むわ」
ミタさんに任せたらあとは安心。できるメイド長もいるし、つつがなくことは運ばれるだろうよ。
「ベー様。あれが我らの住み処です」
家長さんが指差す方向に……ピラミッドがあった……。
◆◆◆
ピラミッド、と言ってもエジプトにあるのじゃなく、アステカ文明っぽいピラミッドだ。
オベリスク、って言ったっけ? それがいたるところに立っている。
とても人……ではなく人魚が住めるとは思えねーけど、屋根とか必要ない環境だ。地上の常識は通用せんだろうよ。
「……しかし、やけに透明度が高くねーか……?」
それにやけに明るい。LED電球のような明るさだ。どんな摩訶不思議な技術なんだよ?
「魔法ですね。おそらく天地崩壊前の技術でしょう」
かもな。これ、海の人魚だって飛び抜けた魔法だったが、これはもう……なんだ? 技術が飛び抜けてよーわからんわ……。
「公爵どののリオカッティー号も天地崩壊前のもんだが、まだ理解できる技術だ。だがこれは、さらに技術が上をいっている。つーか、技術体系が違うんじゃねーか?」
そこまで技術的知識はねーが、西洋文化と日本文化くらい離れてる気がする。
「そう、ですね。わたしもこんな建造物、見たことありません。人魚さんたちが造った感じもしませんし」
「だな。これだけの石、湖にあると思えんし、石と石の接地面とか鋭利なもんで切った感じだ」
紙一枚入らないほど隙間がない。これ、手仕事でやったら一〇〇年単位でかかる仕事だろう。いや、魔法があったら年単位で可能かも知れんけどよ。
「なんの石碑なんですかね?」
「記念品か墓か宗教的儀式か、なんなんだろうな?」
オベリスクっぽいものが剣山のように建てられている。巨大生物でも襲って来るから建てたとか?
「家長さん。これに触ってもイイかい? 大事なもんなら諦めるが」
「あ、いや、構わん。ブラッガは我らの守り柱。槍で突いても壊れんものだからな」
そう言うので遠慮なく触ってみる。
確かに硬い肌触りだ。鉄、ではねーな。この世界に生まれて初めて触ったものだ。
土魔法で反応を見るが、ピクリとも反応しない。石ではないのか?
「これ、殴ってもイイかい?」
「あ、ああ。構わんが……」
では遠慮なくと、結界で足場を創り、踏ん張る。
「殺戮技が一つ、結界パンチ!」
竜だってぶっ飛ばせるだけの威力でオベリスク──守り柱を殴った。
「──ってー!」
メッチャ痛い。拳が砕けたと思うくらい痛いでござる!!
「ベー様!?」
急いで無限鞄からエルクセプルを出して一気飲み。痛みが消えてくれた。
「……し、死ぬかと思ったぜ……」
前にも思ったが、やはり痛みに弱くなってるな、オレ。拷問受けたらすぐにゲロっちゃいそうだわ。
「……ベー様……」
周りはオレの醜態に戸惑い顔。はずかち~!
「だ、大丈夫だ。心配はいらねーよ」
「なにをなさったんですか? ベー様が痛がるなんて……」
「ちょっとこの守り柱の強度を確かめただけだよ。想像を絶する硬さだったぜ」
オレの力で凹みもしないとは、戦車砲ですら傷つけることは無理だろうな。つーか、なにから守ろうとしてんだ、この柱は?
「この世にはどんだけヤベーもんがいるんだよ?」
つーか、これだけのものを造れる技術を持ったヤツはどこにいったんだ? 宇宙の果てにでも旅だったのか?
「まったく、謎が多い世界だよ」
明らかに進化とか文明とか種族とかが狂ってる。ファンタジーだからって許されると思うなよ。
……まあ、神とか出て来てる時点で狂ってるけどな……。
「ワリーな、寄り道しちまってよ」
気になったら寄り道道草上等よ! な今生。悪いと思うが、スルーすることはありません。
「あ、ああ。では……」
オベリスクの謎はまた今度。暇ができたときにすればイイ。世界の歴史に挑むほどオレの寿命は長くねーからな。
剣山のようなオベリスクの間を通り──と言うか泳ぎ、ピラミッドのほうに向かった。
ピラミッドの周辺には淡水人魚の家? 水草で編んだような籠みたいなのが何百とあった。
……文化レベルがいっきに下がるな……。
「遺跡に住んでる感じですね」
生活感があることからして何百年とここに住んでいるんだろうな……。
「こちらだ」
集落? を抜けてピラミッドへと入った。
長い通路を抜けると、そこに銀色に輝く巨大なものがあった。
「……う、宇宙船……?」
なんか謎の核心っぽいものに出会っちゃったよ!
◆◆◆
触らぬ神に祟りなし。
世界のタブーに挑む勇気はオレにはねー。これはパンドラの箱。厄災しか詰まってねー。見なかったことにしよう。
「それほどのものですか?」
「少なくともオレは触れたくねーな。タケル辺りならイイかも知れんけどよ」
アニメな潜水艦ならこの宇宙船を調べることも可能だろうし、なんかあったときに対処できるはずだ。アナクロなオレでは見てるしかねーよ。
「気になるならオレから離れてタケルに憑けばイイさ。あいつならもっと先にいきつくと思うからよ」
オレは先にいくより今を生きることを選んだのだ。これ以上は無理だ。
「今はベー様に憑いてほうがおもしろいのでまだ憑いてます」
イイ雰囲気だが、幽霊に言われても素直には喜べねーな。オレが死ぬとき、無理に引き止めないでくださいね。次は幽霊なんて笑えんからよ。
「ふふ。ベー様なら最強のリッチになりそうですね」
「エリナの同類とかなりたくねーよ」
そうなったら魔王ちゃんか勇者ちゃんに退治してもらうよ。どっちかなら倒せんだろう。
まあ、未来のことは未来に考えるとして、今は淡水人魚の暮らしを見物しましょうかね。
「ベー様。いったん休める場所を築いてもらってよろしいでしょうか? レニス様も休ませたいので」
あ、イカンイカン。妊婦がいたの忘れたったわ。申し訳ありません。
「わかった、創るよ」
って、どこに創るかね? カイナーズも休ませるとなると結構場所を取るな。
宇宙船(仮)はかなり……と言うか、全容がわからないほどデカく、下に続いてて、平らな場所がありません。
壁には水草で編んだ家? がびっしりくっついていて入る隙間ナッシング。立ち退き要求したら暴動が起きそうだ。
どうしたもんかと悩んでいると、イルカが現れた。
「え、イルカ? なんで?」
いや、元の世界にも河イルカがいたからこの世界にいても不思議ではねー。だが、やたらと警戒心が薄くね? まるで犬がじゃれて来てるみたいだぞ。
「家長さん。これは?」
「ウルグと言って、懐っこい性格で、戯れで飼う者がいるのだ」
まさしく犬やな。つーか、人魚が愛玩動物を飼うとか、淡水人魚はそう言う性質があるんだな。
イルカ──ウルグがさらによって来て、オレらに体を擦りつくて来る。野生がまるでナッシング。まあ、これも存か。オレも癒しをくれるのと共存したいぜ……。
「プリッシュ様に蹴られますよ」
内緒でお願いします。お供えものを捧げますので。
何匹かのうち一匹がオレへとよって来て、体を擦りつける。
「なんか可愛いな」
こうも懐かれると飼いたくなって来る。が、責任が持てないようなら飼ってはダメだ。
「あ、そうか」
こいつにフュワール・レワロを取りつけたらイイやん。ブルーヴィと同じくな。
「お前、オレに飼われるか?」
と言う以前に飼ってイイかを家長さんにお尋ね申す。
「構わぬよ。個人で飼っているウルグは、皮を巻いているのでな」
首輪ならぬ尾輪か? う~ん。語呂がワリーな。テールリングにしておこう。
「お前、オレに飼われるか?」
ウルグの目を見て問うと、わかったのか体を強く擦りつけてきた。
「ウルグってなに食うんだい?」
「魚だ」
そこは元の世界と変わらんか。
「家長さんたちは食わねーの?」
「我々は食わん。体が受けつけんのだ」
そこは海の人魚と同じか。同種ってことかな?
「オレは世話できんので代わりに頼めるかい? その分の礼はするからよ」
さすがに連れていくことはできんし、クレイン湖にいきなり連れていくのも危険だ。ここに合わせ進化したり病気とか持ち込まれてクレイン湖がバイオなハザードになったら嫌だしな。
「それは構わんが……」
承諾はいただきました。ではと、無限鞄からフュワール・レワロを出して、ウルグの背に結界ドッキング。少々行動は阻害されるだろうが、これから食いっぱぐれがないのだからガマンしてちょ。
「レニス。これはフュワール・レワロ。ブルー島と同じものだ。レニスを管理者とするからこれに触ってくれ」
フュワール・レワロの大きさはバレーボールサイズ。個人用なのかフュワール・レワロの容量? は小さい。ボブラ村の半分くらいだ。
「わたしでいいの?」
「構わんよ。ブルー島と繋ぐからダイビングしたくなったら来たらイイさ。管理者なら離れていても思うだけで入れるからよ」
「わたしだけ?」
「ああ。その辺は融通利かねーんだよな、フュワール・レワロって」
管理者が許可してフュワール・レワロを触らないと出入りができない。製作者、もっと簡単に創ってくれや。
「まあ、しょうがないね」
そう言ってフュワール・レワロに触れ、中へと入った。
「レニスねーちゃんが消えちゃった!?」
「大丈夫だよ。サプルもそれに触ってみろ」
素直なサプルはフュワール・レワロに触り、レニスと同じく中へと入った。
「カイナーズの連中も入って休みな」
レニスを一人にできないと、半分くらい中へと入っていった。
「ドレミ。レニスに分離体をつけてるよな?」
「はい。いろはの分離体を密かにつけております」
超万能生命体に隙はない、か。ありがとうございます!
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