第46話 衣替え

 なんてことやってみたが、それ以上のイベントはなし。


 プリッつあんも考えてないようで、ただニコニコするだけ。いや、仕切れよ!


「そんで、どうすんだ?」 


「なにが?」


 あ、うん、考えてないってことね。了解了解。


「ミタさん。決まった三〇人を順番に乗船させてくれ。プリッつあん、居住区に上がらせるが構わんだろう?」


 嫌だと言われたらキャプテン命令で乗船拒否にしてやるよ。そのときは、オレ関係ねーで逃げさせてもらいます。


「いいわよ。まだなにもしてないから」


 あれ? クリエイト・レワロでなんかしてなかったっけ? 勘違いか?


「了解。ミタさん、よろしく」


 まあ、オレも人任せですが、ちゃんと道筋は示してある。丸投げ道にも決まりがあるんです。


「畏まりました」


 はい。お任せします。


「プリッつあん。プリッシュ号に機能を一つ追加するな」


「なにを追加するの!」


 なんか嬉しそうにするプリッつあん。君の趣味嗜好がマジわかりません。


「ワープ機能だ」


「ワープ?」


 首を傾げるプリッつあん。それは知らないんだ。君に情報を発信してるの誰よ?


「まあ、簡単に言えばシュンパネによる転移だよ」


 ほれと、シュンパネが一〇枚入ったそれっぽいレバーを渡した。


「操舵輪を握ったまま転移できるように足で発動するようにしてあるからよ」


 操舵輪を握り、どこが手頃(足なのにな)な場所を探る。


「ん~。やり難いな」


 レバーにしたの失敗。ハイ、ボツ決~定~。


 中のシュンパネを取り出してレバーはポイ。キャッチしたミタさんに処分を任せます。


 う~ん。ギミックがダメならディスチャーか?


「どうなったの?」


 プリッつあんの格好を見て、ふと思いついた。


「プリッつあん、その帽子貸せ」


 疑問に首を傾げるも、素直に海賊帽子を取って渡してきた。


 受け取り、海賊帽子をいろんな角度から見て、自分の感性のままシュンパネを二枚飾りつけた。


「どやろ?」


 お洒落メルヘンに尋ねる。


「ベーにしてはいいんじゃない。シュンパネは地味だけど」


「結界で色つけたらイイさ。小さくしてイヤリングにすんのもイイんじゃね」


「そうなるとペンダントにするのもいいわね」


 お洒落魂に火がついたようで、結界でペンダントを創り始めた。オレの能力、使えるの最近なのによくそこまで使えるものだ。器用なメルヘン。


「ベー様。人員が決まったので乗船させます」


「あいよ」


 そっちを見ずに返事して、無限鞄から金塊と銀塊、鉄とガラスを出して錬金。羅針盤の様に形作り、右側に設置する。使い難いならまた位置を変えたらイイさ。


 あとは結界を組み込めば完成です。


「ベー様。なにをなさってるんですか?」


 その声に振り向けば、フミさん以下、たくさんの男女が壁となっていた。キモいわ!


「ゴンドラは一〇人までだ! 残りは上にいけ!」


 広くは作ってるが、三十人は多いわ! 満員電車か!


「フミさん、一〇秒以内に一〇人決めろ! できなきゃ叩き出すぞ!」


「──はい! わかりました!」


 フミさんの厳しい選択により七秒で一〇人が決まりました。


 ……もしかして、フミさんって怖いおねえさまなの……?


 ま、まあ、おっかない想像はクルッと纏めて遠くへポイ。誰か適切な処分をお願いします。


「プリッつあん。発進準備だ!」


 なんかクルクル舞ってるキャプテンプリッシュに声をかけた。なにやってんのよ?


「アイアイサー!」


 だからそれは……まっ、イイか。本人が気に入ってんならよ。


「で、発進準備ってなにするの?」


 うん。オレもノリで言ったからわかりませんわ。


「揺れはないと思うが、ゴンドラ部に乗る者はセーフティ……安全棒につかまれ。居住区にいるヤツもだ!」


 居住区からゴンドラ部を覗くヤツらに指示を出した。


 オレもプリッつあんの背後にあるセーフティバーをつかむ。


「キャプテンプリッシュ。発進準備完了。いつでもどうぞ」


 やる気満々なプリッつあんに水をさすのもなんだと、そのやる気に乗ってやる。


「アイアイサー! プリッシュ号、抜錨!」


 アンカーなどないけど、浮遊石を包んでいた結界が解かれ、プリッシュ号が浮かび上がった。


 両脇の回転翼も回り出し、徐々に空へと上がっていく。


「視界オールクリア。発進どうぞ」


「アイアイサー。プリッシュ号、発進!」


 ってなノリノリな感じでプリッシュ号が発進しましたとさ。やれやれ……。


  ◆◆◆


 ゴンドラを下げ、着陸態勢に入る。


「ベー。どこに降りるの?」


「水輝館みずきかんの前で構わんだろう」


 オレらは今、小人サイズ。プリッシュ号もそれに合わせてあるから、車二台分の長さくらい。ロータリーな感じだから余裕で降りられるはずだ。


「ダメなら湖のほうに降ろせばイイさ」


 ここの持ち主はオレ。オレがイイと言うのだからイイのである。キャプテンプリッシュ、降りちゃいなさい。


「アイアイサー!」


 まだキャプテンゴッコに飽きないのか、それとも責任感があるのかはわからないが、キャプテンの設定を忘れず、ちゃんとプリッシュ号を水輝館の前に着陸させた。


「プリッシュ号、水輝館に無事到~着~!」


 ご満悦なキャプテンプリッシュ。何事なくてオレもご満悦だよ。


 下船イベントはこれと言ってなく、伸縮トンネルを潜ってプリッシュ号から降りた。


「お帰りなさいませ」


 と、たぶん、水輝館を任せているメイドさんたちに迎えられた。


「ただいま。婦人いる?」


「いえ。お出かけしております。御用でしたらお呼びしますが」


「いや、呼び出す必要はねーよ」


 会う必要があるならオレの出会い運が黙ってねーさ。


「ゼルフィング商会の者はいるのかい?」


「全員、領都に移りました。ここですと不便とのことで」


 まあ、バイブラストといろいろ調整しなくちゃならん。不便どころか問題しかねーか。


「わかった。オレは湖にいるから、なんかあったら呼んで」


 今日はゆっくりする。マンダ○タイムの続きだ。


 自分のペースで過ごしているつもりでいたが、マ○ダムタイムをする時間もなかった。出会い運も働かないならゆったりまったりするまでだ。


「ベー。どこにもいかないのならちょっと空を飛んで来るね」


 飽きないキャプテンだ。好きにしな。


 片手を挙げて了承し、外から湖へと向かった。


「……これと言った変化はなしか……」


 あ、いや、遠くの高い山に雪が積もっていた。


 気温も前より下がっており、ちらほらある広葉樹が色づいている。まさに初秋。いや、冬が始まる、って感じか。いつまでも眺めていたい季節だな。


「衣替えするか」


 何月から夏服、何月から冬服なんて決まりどころか衣替えなんて概念は……あるか。まあ、季節に合わせるのら当たり前のこと。秋になっても腕捲りしているオレが変なのである。


 またうちに戻るのもメンドクセーし、前回のを使うか。


 成長期なもんで毎年トアラに作ってもらっている。だから今年も作ってくれているとは思うが、なんかトアラの元にいっちゃいけないとオレの勘が言っている。


 勘がそう言うのなら従うまで。オレは誰よりもオレを信じる男だ!


 ってまあ、別に自慢したいわけでも主張したわけでもねーが、今、いっちゃいけないのなら前からあるのを使うまで。幸い、プリッつあんの能力があるし、結界コーティングしているから新品同様。オレが気にしなければ問題ナッシング、だ。


「ミタさん。空いてる部屋ある?」


「ベー様の寝室があります」


 え、オレの部屋なんてあったの!? って、ないほうがおかしいか。いや、あると思ってなかったオレの頭がおかしかったですねっ!


 ミタさんの案内でオレの寝室だと言う部屋に到着。って、どこのスイートルームだよ! オレは王さまか!


 なんて今さらなこと言ってもしかたがないので、さっさと着替えることにする。


 いつもの服を脱いでまっぱとなる。


 ちなみに誰もいませんからね。さすがのオレもミタさんの前でまっぱになる勇気はありません。プリッつあんの前ではなれるけど。


 無限鞄からカイナーズホームで買ったボクサーパンツに無地のTシャツ。厚手のズボンと厚手のシャツを今の体格に合わせて着る。


 ベストの裏は秘密のポケット、なので着用。で、冬用のジャケットを羽織る。


「冬服への衣替え、完了!」


 誰に宣言してんだよ! って突っ込みはノーサンキュー。たんに心も冬に向けて切り替えたまでさ。

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