第45話 キャプテンプリッシュ

 プリッつあんをたずねて三〇メートル。意外と近くにいらっしゃいました。


 ハイ、オレの旅、ここにて終~了~。イイ最終回だった……。


「じゃっ、次回はピーターパンで」


 ピーターパン、イイよね。特に相棒のティンカーベルが最高だ。


 ツンデレっぽくて天真爛漫。相棒にするならそんな子だよね。 ピーターパンさんにお願い。ぜひともうちのプリッつあんとティンカーベルさんを交換してください。オレ、ティンカーベルとなら仲良くやってける気がするんだ。


「なに言ってんの、このバカは?」


 そんな蔑んだ目なんていらねーんだよ。悔しかったらティンカーベルみたく光ってみろや!


「夢も希望もねーってことだ」


 まあ、リアルメルヘンに夢も希望も求めても無駄。リアルにはリアルを求めるほうが建設的である。


「なにしてんだ、こんなところで?」


 ヴィアンサプレシア号のドックにいったんじゃなかったのか?


「プリッシュ号の外観を聞いておりました」


 答えたのはフミさん。別に聞く前に出したらイイじゃん。大きさ自由自在なんだからよ。


「それもそうね」


 と、プリッつあんが自分の無限鞄から一メートルくらいのプリッシュ号を出した。


「これが船なのですか?」


 興味津々な感じでプリッシュ号を見回すフミさん。君の琴線がわからないよ……。


「本来はガスで浮かんで回転翼で進むものだが、オレの力で浮かして、進むようにしてある。この上がキャンピングカーのように居住区。下で操縦する」


「こんな形で本当に飛ぶんですか? 風の影響をもろに受けそうですが? 上と下を繋ぐ鎖も脆そうですよ?」


 まあ、飛ぶ形ではねーわな。


「こいつは遊覧船。のんびりゆったり空の散歩を楽しむための船だ。まあ、万が一のときを考えて飛竜並みの速度は出せるようにしてあるがな」


 この世界の空、めっちゃ危険だしな。


「この形で、ですか?」


 信じられませんと呟くフミさん。オレにしたらここにある飛空船すべてが飛ぶような形には見えねーけどな。


「なら、乗ってみるか? そのほうが理解すんの早いだろう」


 どうこう説明すんのもメンドクセーし、フミさんなら勝手に理解してくれんだろう。


「よろしいのですか!?」


「改造してもらうんだから構わんだろう。イイよな?」


 プリッシュ号のキャプテンに訊く。


「うん、いいわよ。ここで乗る?」


「あ、あそこの桟橋でお願いします。あと、何人か乗せてもよろしいでしょうか?」


「まあ、別にいいわよ」


 ありがとうございます! とどこかに走っていくフミさん。走り方がコミカルゥ~。


 プリッさんが指した桟橋へと移動し、プリッシュ号をデカくするキャプテン。もちろん、キャプテンサイズですよ。


「ちょっと着替えてくるね」


 こちらは飛んでプリッシュ号に乗り込み、居住区へと消えていった。なんやねん?


 作ったのはオレでもプリッつあんに渡したからにはプリッつあんのもの。メルヘンとは言え、乙女(笑)の領域に無断で入るのはご法度。なので許可が出るまで待機です。


 コーヒーを飲む気分でもないんでクレイン湖を眺めていた。


 ……ルンタやカバ子はいねーのかな……?


 静かな湖面を眺めていると、ドッドッドっと地面を踏む音が耳に届いた。なんだ?


 辺りに目を向けると、フミさん以下クルフ族の方々がこちらに駆けて来るのが見えた。


「……う、運動会か……?」


 なんてわけねーが、妙な迫力に押されて変なことを口走ってしまった。


「お待たせしました!」


 軍隊までの規律性はねーが、フミさんの指導力の賜物か、全員が桟橋に乗ることはなく、一〇名だけ連れてやって来た。


「あ、いや、プリッつあん待ちだから構わんよ。ってか、大人数で来たな。なんなんだ、いったい?」


「勉強をしにきました」


 勉強? なんのよ?


「ベー様の考えや思想は我々にないもの。学ぶべきものばかりです」


 そ、そんなもんか? 別にオレは飛行船や飛空船に詳しくはないし、なにか専門的な技術があるわけでもねー。学ぶものなんてねーぜ。


 とは言っても、学ぼうとするなら壁の落書きからだって学べるもの。好きなように学んでちょうだいな。


「お待たせ~」


 と、なんか海賊船のキャプテンっぽい格好になって戻って来たプリッつあん。うん。意味わからんわ。


  ◆◆◆


「わたしも船長服が欲しいからカイナーズホームで買ったの!」


 説明は求めてないけど、説明ありがとう。でも、なに一つ理解できませんでしたわ~。


「なぜにそのチョイス?」


 プリッシュ号は海賊船だったの?


「店員が言うには今年の流行りはこれなんだって」


 今年ってなんだよ? カイナーズホーム、今年できたばっかりだろうが。流行りって、どこで起きた流行りだよ? どこのアホだよ、そんなこと言ったのは?


 つーか、そんな口車に乗る君もどうなのよ。君のお洒落は他人任せなのか?


「なかなか可愛いでしょう。ウフフ」


 一回転するキャプテンプリッシュ。どうやら自分に合った服のようです。そりゃよかったね。ほら、褒めてあげてとミタさんを前に出した。オレには無理だからさ。


「え? あ、えと、はい素敵です。似合ってますよ」


 ミタさんに追随する様にニコニコ顔で頷いた。


「エヘヘ」


 ご満悦なキャプテンプリッシュ。喜んでもらえてなによりだ。いや、オレ、なにもしてないけどねっ。


「フミさんたちに見せてあるうちにオレは飛空船をもらって来るよ」


 プリッシュ号の仕組みはキャプテンプリッシュに教えてある。知りたいなら持ち主に訊いてください。


「ミタさん。コーレン借りてきて。湖に浮かんでいるのもらうからよ」


 空に浮いてるのは未来的過ぎる。たぶん、機能も湖に浮いてるものより未来的だろう。さすがに公爵どのだろうとやるわけにはいかない。つーか、世間に出せんだろうが。解体して再利用しろや。


「コーレンでしたらあたしが持ってます」


 なんでも持ってるメイドだよ。


 ミタさんにコーレンを出してもらい、乗り込んだ。


 ふわりと浮かび上がり、スムーズに発進する。なんでも持ってて、なんでも動かせるメイドだよ。まあ、今さらだけどよ。


「無人かな?」


「無人のはずです。今、四隻を保管しておく島──集船島しゅうせんじままで運んでますから」


「島? この海域に飛空船を保管できる島なんてあったっけ?」


 まあ、すべての海域を飛んだわけじゃねーが、飛空船を集めておける島なら結構デカいはず。それなら見つけてると思うんだがな。


「いえ、海ではありません。空にある島です」


 上かよ! って、それこそあんのかよ? 浮遊島ならさらに見つけやすいぞ。


「あたしもよくは知らないのですが、小人族がその昔住んでいた島らしいのですが、資源が枯渇してしまい廃棄されたそうです。それを思い出したコノガ様が使ってはどうかと提案され、調べたところ充分に使えるとわかったので集船島とすることになったそうです」


 充分過ぎるほど知ってるよ。この世の情報はミタさんに集まるようになってんのか?


「ま、まあ、使ってイイのなら使え、だ」


 オレがどうこう言うことじゃねーや。好きにしろ。


「無人なら小さくして無限鞄に仕舞う。まずはあれからやる」


 近くにあるからスタートして、計八隻の飛空船を無限鞄へと仕舞い込んだ。


「八隻でよろしいのですか? 帝国の技術ならあそこの二隻も行けると思うのですが」


 万能メイドは、ちゃんとオレの趣旨を理解しているようだ。


「あんま持ってっても買ってくれるかわからんし、運用もできんだろうしな。もっと売ってくれって言われてからでイイさ」


 そんな手間でもないしな。言われてからで充分さ。


 ミタさんからこれと言った提言もないので戻ることにした。


 プリッシュ号のもとに来ると、なんかさらに人が増えていた。なによ?


「小人族のようですね」


 あ、小人族ね。ってまあ、今は伸縮トンネルを潜って大きくなってますが。


「そんなに興味を引くものか?」


 ここのヤツらにしたら不思議な形だろうが、結界で動かすもの。飛空船のようなギミックは少ない。プラモデルみたいなもんだろう。


「ああ、興味を引かれるね」


 と、横にいたドワーフ系のおっちゃんが答えた。どこによ?


「船体のどこにも溶接されたところもなければネジ一本使われていない。回転翼ってのもおもしろい。形も利に叶ってる。なのに魔力炉も積んでないのに、動くばかりか操舵輪だけで動くとか謎すぎる。それに、万が一のとき飛竜よりも速く飛べるとか意味わからんわ」


 言われてみれば確かにそうだな。なんも仕掛けのないプラモデルが飛んだらオレでもそう言うわ。


「まあ、オレの魔術で飛ばすからな」


「そこが非常識すぎて益々意味がわからんよ」


 わかったら逆に意味わからんわ。


「非常識ってより邪道だな。意味なんてわからなくてもイイさ。技術者なら王道を進んで技を極めな」


 あんまり進められても困るからよ。世界がな。


「いや、ベー様の考えは王道を進んだ遥か先にあるように思える。学ぶべき技だ」


 え、なに、このおっちゃん? 勘がよすぎねーか?


「ベー様!」


 と、フミさんが駆けて来た。な、なによ?


「プリッシュ号にわたしを乗せて飛んでください!」


 ヘイ、キャプテンプリッシュ。説明よろしこ。


「どう飛ぶか知りたいんだって」


「別に飛ばしてやったらイイじゃん。なんか不都合があんのか?」


 別に隠した技術……はないけど、説明できん能力はありましたね。


「ベー、その間にバイブラストにいっちゃうじゃん」


 まあ、いっちゃいますね。待ってる必要もないし。


「だからベーがなんとかして」


 なにその無茶振りは? プリッシュ号はプリッつあんのものなんだから自分でなんとかしろよ!


 と、思って閃いた。バイブラストに技術者を連れていくのも手だな、と。


「なら、プリッシュ号でバイブラストにいくからいける者は乗り込め。ただ、乗船できるのは三〇名な」


 それ以上は無理だ。狭くなるからよ。


「わかりました! 三〇名を募る! 乗りたい者は手を挙げろ!」


 と、ここにいるほぼ全員が手を挙げた。


 で、始まるジャンケン大会。まあ、コーヒーを飲みながら待ちますか。


 あーコーヒーうめ~!


  ◆◆◆


 ジャンケン大会、昼になっても終わらず。


 まあ、そんな予感がしたのでのんびり工作して待つことにした。


「ベー様。食事はどうなさいます?」


 同じテーブルで編み物するミタさんが尋ねてきた。


 メイドが主と同じ席につくのはいただけませんとか言って来たが、背後に黙って立たれるのも邪魔クセーと座らしたら、なぜか編み物を始めたのだ。


 ……つーか、君は全自動編み機か? 大量生産し過ぎだわ……。


「ここで食うよ」


「わたしも」


 ヘイ、キャプテンプリッシュ。あそこで白熱してる者たちは、君の船に乗るためにジャンケンしているんだぜ。その君が優雅に読書(いつの間に文字とか覚えた?)しててイイんかい?


 まあ、これがリアルメルヘン。ティンカーベルさんと比べるほうが間違ってるぜ。


「では、すぐに用意しますね」


 山積みになった編み物を自分の無限鞄に仕舞うミタさん。


 無人島に一つだけ持ってっていいって言われたらミタさんを選ぶかも。あ、ドレミも捨てがたい。もうドレミベッドじゃないと寝られないし。プリッつあん? ああ、釣りするときの疑似餌にイイかもね。


「昨日のけんちん汁がありますが、どうします?」


「食べる」


「わたしも」


 あの嫁さんが作ったけんちん汁は毎日食っても飽きないぜ。あ、でも、タマネギと豚肉の味噌汁も飲みたいかも。芋煮汁も捨てがたいな。


 なんてことを考えながらミタさんが出してくれたオムライス(なぜに?)とけんちん汁をいただいた。


「ねぇ、ミタレッティー。今の卵とケチャップを使ったのなんて言うの? スゴく美味しかったんだけど」


 なにやらメルヘンのお口に合ったのか、興奮気味にミタさんに尋ねてます。


「オムライスと言ってカイナーズホームの社員食堂で作ってもらったものですよ。気に入りましたか?」


「うん! スッゴく気に入ったわ! 夜も出して!」


 オレに異議なし。あと、小さなグラタンがあると嬉しいです。


 食後のコーヒーを頼み、まだジャンケン大会をしている紳士淑女どもに目を向けた。


「この分じゃ今日は終わらんかな?」


 あそこまで白熱できる理由がよーわからん。


 急ぎじゃないとは言え、いつまでもジャンケン大会に付き合ってる気分ではねー。つーか、見てても楽しくねーよ。


「今何人なんだ?」


 ってか、造船所で働いているヤツ結構いるんだな。どこで仕事してんのよ?


「やっと半分になったようですね」


 なにを持って半分と言うのかは知らんが、ミタさんがそう言うならそうなのだろう。で、半分って何人よ?


「七十人ってところでしょうか? あいこが連発して長引いているようです」


 本当に今日いっぱいかかりそうな雰囲気だな。


「もうメンドクセーから六十人になったら締め切れ。半分はプリッシュ号に。残り半分はシュンパネでバイブラストにいかせろ。まずは水輝館にいくからよ」


 さすがに領都に連れていくわけにもいかんしな。


「畏まりました。そのように整えます」


 ミタさんが右手を掲げると、どこからからともなくメイドさんが数人出て来た。なによ!?


「ナーリルは水輝館へ。タリルはフミとともに六〇名を分けなさい」


「「畏まりました」」


 優雅に一礼し、シュバッと消えるメイドさんたち。ほんと、誰がどう教育したらこんなになるんだろうな? 怖くて訊けねーよ。


 ジャンケン大会へと目を向けると、先ほどの白熱はなくなり、まるで紅白戦が行われたかのように歓喜する者らと落ち込むヤツらに分かれた。


 ……そこまでのことか? 意味わからんわ……。


 でもまあ、勝敗がついたのならもうすぐだろうと立ち上がり、プリッシュ号へと向かうことにする。


 また、どこからか現れたメイドさんがうずくまって悲しむ敗者を排除しながらプリッシュ号までの道を作ってくれる。あんがとさん。


「プリッつあん。プリッシュ号を大きくしろ。伸縮トンネルを設置するからよ」


「アイアイサー」


 敬礼するキャプテンプリッシュ。


 いや、それは船長じゃなく船員が使うものだと思うが、まあ、気に入ってんなら好きにしなさい。どうせ知ってる者なんてタケルくらいだろうからな。


 自分サイズにプリッシュ号を大きくし、プリッシュ号へと乗り込んだ。


 乗船口に伸縮トンネルを創り、オレらもプリッシュ号へと乗船させてもらう。


「ようこそプリッシュ号へ」


 敬礼で出迎えるキャプテンプリッシュ。君も形から入るタイプかい?


 なんかゴッコ遊びをしている気にならないでもないが、その気になっているプリッつあんに水をさすのもワリーと、敬礼で応えてやった。

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