第47話 天高く馬肥ゆる急展開

 どうも、オレです。ヴィベルファクフィニーです。


 誰や? とかマジで言われたらオレの物語、ここに終了させてもらいます。


 だが、ああ、あのバカね。とか言われちゃったら俄然、はりきってオレの物語がネバーなエンディングにしちゃうよ。もうイイわと言わせちゃうんだから!


「ん~マン○ム」


 今日もコーヒーが旨い。


「……なぜかしら? 今のベーを一言で表現したら停滞って言葉がよく似合うわ……」


 炬燵の上で炬燵に当たるメルヘンさんが意味のわからないことを呟いてます。なんでしょうね?


 まあ、よくわからんが、日に日に冬へと変わるバイブラストの山々、そして、色づいていく木々を眺めて詩人な心が目覚めちゃったんでしょう。ほっときましょう。


「ベー様。そろそろお昼ですが、なにか食べたいものはありますか?」


 同じ炬燵に当たるミタさんが、パソコンを閉じて訊いてきた。


 パソコンでなにをしているか、メッチャ気にはなるが、世の中には知らないほうがイイこともある。きっとネットゲームとかしてるんだと自分を偽っておこう、うん。


「鍋焼きうどん、甘辛で」


 甘辛なんてあったか知らんが、今はそんな気分。ミタさんならなんとかしてくれんだろう。昨日は鱒鮨って言ったら出してくれたし。


「はい。甘辛ですね。わかりました」


 どうやら問題ないらしい。なら、よろしくお願いします。


 炬燵から出ると、パソコンを脇に抱えてクルーザーのキッチンへと向かった。


 ちなみに、ここはクルーザーの前甲板。四畳半の空間に畳を敷いて電気炬燵を置いてるのです。


 炬燵のテーブルにアゴを乗せ、読書するプリッつあんをぼんやりと眺める。


 メルヘンが読書とかチョーウケるんですけど! とか言ったら鼻で笑われたのも三日前。もうなんとも思わなくなったけど、なにをそんなに真剣に読んでるのよ? そんな眼鏡までしてさ。


「○ラスの仮面よ」


 なにそれ? ガ○スの仮面って? なんかの古典劇か?


「アヤネがおもしろいからって貸してくれたのよ」


 アヤネ? 誰や? メイドの誰かか?


 まあ、なんでもイイわと座椅子の角度を変えて、天高く馬肥ゆるバイブラストの空を眺める。


「イイ天気だなぁ~」


 こんなのんびりしたときを過ごすのは久しぶり……だよね? まあ、自分のペースで生きてるから忙しい日々……だわ! これってないくらい波乱万丈な日々だったよ!


 あれを忙せわしくないと言ったらオレの人生どんだけ慌ただしいんだよ! いや、慌ただしいか? 慌ただしいよな? ん? あれ? え? どうなの?!


 ……なんか自分の人生がよくわかんなくなってきたわ……。


「まあ、今がよければイイか」


 刹那的な生き方をしている頭のおかしいヤツっぽいセリフだが、弱肉強食なファンタジーな世界でスローライフをしようと思ったらまともな神経ではやってられない。


 その日その時を楽しめ。今がよければすべてよし、だ。


「平和だね~」


「ベーの頭の中はね」


 うっさいよ! 黙って読書してやがれ!


 冷たい湖に投げ飛ばしてやろうかと手を伸ばすが、ひょいと炬燵から逃げ出しやがった。


 ふふんと小馬鹿にしたような顔でクルーザーの後ろへと飛んでいってしまった。トイレか?


 なんでもイイわと、また天高く馬肥ゆるバイブラストの空を眺める。


「こんなことならうちでのんびりしてればよかったぜ」


 オレがなぜこんなにのんびりしてるかと言うと、婦人からこれ以上仕事を増やすなと怒られ、領都から閉め出されたんです。


 なら、帰ろうとしたらブルー島の工事が始まるから落ち着けませんとミタさんに言われ、水輝館でのんびりすることにしたんです。


 あと、帝都にも来るなと言われました。今、帝都は社交シーズンとかで、お前が来るとなにが起こるかわからんから、だとさ。


 オレはトラブルメーカーかっての! 問題なんて起こした……こともあるけど、大体は巻き込まれだわ!


 ……まあ、おもしろければかかわるけどさ……。


「お待たせしました~」


 と、お盆に鍋焼きうどんを乗せたミタさんがやって来た。


 炬燵のテーブルに置かれた鍋焼きうどんは、オレの分だけ。プリッつあんのは?


「プリッシュ様は水輝館で食べるそうです」


 まあ、好きにしたらイイさ。あのメルヘンもその日の気分で生きてるからな。


「んじゃ、いただきます」


 ミタさん特製……かは知らんけど、甘辛鍋焼きうどんをいただいた。


 うん。冬を感じながら食う鍋焼きうどんは旨いぜ!


  ◆◆◆


 平和である。


 剣と魔法の血生臭いファンタジーワールドのクセに平和である。


 まあ、剣も魔法も関係なく生きてる者は沢山いるし、常に戦争や弱肉強食がある訳ではねー。オレも魔法は使うが、バカとアホのファンタジーワールドで生きてると自負する。


 そんなオレの日々はこんな感じである。


 朝起きて軽く運動した後、所定の場所となった炬燵に浸かり、ゆっくり朝食を摂り、食後はコーヒーブレイク。昼食までのんびり。


 腹は減らないので昼食はフ○ーチェを一杯。また夕食までのんびり。


 夕食は鍋やすき焼きと、ちょっと豪勢にいただく。腹ごなしのコーヒーを飲みながら夜空を眺める。


 一〇時くらいに風呂に入り、一一時には就寝する。


 なんとも平和な日々を過ごしている。だが、これがスローライフかと問われると首を傾げるしかないだろう。


 ぶっちゃけ、スローライフの意味なんか知らねーし、なんか田舎でのんびり暮らす的な感じだと思ってた。


 今になって完全否定!? とか言っちゃイヤン。文句があんならもっと早く言えや! スローライフとはこう言うものだとか示しやがれ! 今さら否定されてもキョトンだわ! なに言っちゃってんの、だよ。そう言うのは誰もが認めるスローライフの定義を語ってから言いやがれ。後出しの言葉にはなんら重みも説得力もねーんだよ! スローライフを語ってイイのはスローライフを知っているヤツだけだ!


 うん。真っ先にお前が黙れ、だな。


 ………………。


 …………。


 ……。


 オホン! まあ、なんだ。叫んだところで意味はなし。オレの考えた最強のスローライフを初志貫徹しましょう、だ。


 で、だ。平和なんですよ。これってないくらい。いや、オレのいるところ限定ですが。


 いや、どう思うも平和でイイじゃねーか。なにが不満なんだよ?


 不満ではない。ただ、この平和が怖い、的な? 感じ? なに事もなさすぎて逆に不安になるわ! この平和の揺り返しが怖いわ!


 なんかあると、オレ勘が言っている。これが外れないと、どうしようもなくわかっている人生だから怖くてしょうがねーよ?


「ベー。いくら暇だからってダラケすぎよ。もうちょっとしっかりしなさい」


 ケッ。見る目のないメルヘンが。人はうわべでなく、うちで悩むものなんだよ。


 いつの間にか流れたヨダレを温かい濡れタオルで拭いてくれるミタさん。あ、サンキューです。


 タオルをもらい、顔全体を拭いた。あー気持ちイイ~。


「一〇日も平和とか、どこかで魔王が暗躍してるのかもな」


「え? ダラケてた姿しか見てないけど」


 なんでオレを見ておっしゃるんですか。どこかで暗躍している魔王に言いなさいよ。


「はぁ~。暇だなぁ~」


「全身全霊をかけてダラケてるのを楽しんでいるようにしか見えないんだけど?」


 だから見た目に騙されちゃダメ。内心は暇過ぎて死にそうなんですから。


「あ、ミタさん。ミカンある? なんか酸っぱいものが食べたくなった」


「では、デコポンはいかがです?」


「じゃあ、それで。あと剥いて」


 デコポンの剥き方なんて忘れたよ。ってか、この世界にデコポンがあったことに驚きだよ! 産地どこよ!?


「ジオフロントで試験的に栽培してるんです」


 あ、うん、さようですか。生産に乗れるとイイね。


 器用に内皮まで剥いてくれたデコポンを爪楊枝に刺してありがたくいただきます。うん、こんな味だったっけ?


 旨いのは旨いんだが、記憶にあるデコポンと一致しない。デコポンってより夏みかんっぽくね? まあ、前世でそう食ったわけじゃねーので気のせいかも知れんけどよ。まあ、デコポンと言うならこれはデコポンなんだろう。


 適度な酸味とほどよい甘味。適度とほどよいってなにが違うんだろうと思いながらデコポンをムシャモシャ。あーウメ~。 


 ──パン!


 突然、破裂音が轟いた。


「きゃっ!」


 炬燵の上で炬燵に浸かるプリッつあんが跳び跳ねた。


「なに事ですかっ!?」


 銃を構えたミタさんと武装したメイドさんが三人、もうクルーザーが沈むよってくらいのいろは団が現れ、オレを取り囲んだ。


 頭は冷静に状況を把握しているのに、感情が追いついてくれない。


 あり得ねー! マジあり得ねーよ!! なんだよこれ!? なんだって言うんだよ!? カイナ級のが他にもいんのかよ!! この世界マジおかしいだろう!!


「ベー様!」


 ミタさんに揺さぶられて感情を取り戻した。


「シュンパネでクルーザーごとブララ島の沖合いに転移する! ミタさん操縦しろ。やり方はプリッシュ号と同じだ!」


「畏まりました!」


 炬燵から飛び出し、船首に立つと同時にクルーザーが発進する。


「いろは、ドレミ、本気のカイナと戦えるくらいの武装をしろ! 万が一のときは分離体を犠牲にしろ!」


 それならカイナから一〇秒くらいは稼げるはずだ。


「「イエス、マイロード」」


 あんたらどこでかぶれてきたん! とか突っ込んで緊張をほぐしたかったが、思った以上に緊張して突っ込めなかった。


 深呼吸を三回。気を引き締めてシュンパネを出して構える。


「ブララ島へ!」


 沖合いを思い浮かべ、クルーザーごと瞬間移動した。


  ◆◆◆


 無事、クルーザーごと瞬間移動できた。が、思った以上に沖合いすぎた。


「ミタさんはこのままクルーザーで来い! オレは先にブララ島にいく。ドレミ!」


 なぜか幼女型メイドになるドレミに手を伸ばし、つかんだと同時に転移バッチ発動。タケルの潜水艦が停めれる桟橋に転移する。


 ブララ島に来るは久しぶりだが、それほど配置は変わってなかった。


 モコモコ族に食料を運んだり、予備の弾薬を保管しておく場所なので、そういじる必要はないのだろうよ。


 桟橋に潜水艦は係留されていない。


 今タケルたちは、東の大陸へと向けて旅をしている。途中、親父さんの腕を奪った海賊を退治すると、出発前に聞いている。


「海賊にやられたのか?」


 目的の場所、モコモコ族が荷物の搬出入の間に休憩するため置いたコンテナハウスへ向かいながら埒もない考えをしてしまう。


 コンテナハウスの前にはモコモコ族が数名いた。


「ベー様だ!」


「ベー様休憩所の中に!」


 見た目はモコモコでも獣人なだけあって、呼びかける前に気づかれた。


 やっぱりか。いや、そうするように設定したのだから当然なのだが、見るまでは信じられなかったのだ。


 説明されるより見たほうが早いと、モコモコ族を押し退けてコンテナハウスへと入る。


「やはりメルヘンか」


 あの破裂音──ではなく、纏わせた防御結界はメルヘンの一人にしかけたものだとはわかった。


 一瞬、オカンに仕掛けたものかとびっくりしたが、自由自在のお陰か、すぐにメルヘンとわかった。が、すぐにあり得ないことに感情が乱れてしまったのだ。


 オカンに仕掛けた結界と同じく、並大抵の力で結界を破れるようには纏わせない。それこそ火竜のブレスだって防いでみせる。


 なのにパン! だと? 一瞬で破られるなんてどんな威力なんだよ? 核ミサイルでも撃たれたのか?


 いや、そこはイイ。いや、よくはないんだが、破れるような人外を知っているから許容はできる。問題は第三の仕掛けまで発動したことだ。


 あり得ないと思いながらもファンタジーな世界に絶対はねー。保険は大事だと、第一の結界が破れたら第二の結界が発動するように仕掛けた。


 なのに、第二の結界まで破れ、第三の仕掛け、身代わりの術の応用、シュンパネの術が発動したのだ。


 破裂音が一回からして第二の結界どころか、シュンパネの術まで一瞬のことだろう。すぐには信じられんわ!


 体格からメルヘンとはわかったが、スゴい火傷で誰だかはわからない。結界からしてバリアルの街へ一緒にいったあいつだろう。


 なんてことはどうでもイイ! ちゃんと生きてんだろうな!?


 パイロットスーツは溶け、羽は文字通り燃えてなくなり、肌はどす黒くただれている。


 死んでいても不思議じゃないが、メルヘンの生命力はしぶとい(プリッつあん参考)。このくらいでは死なないと、小さなヘルメットを外し、息を確かめる。


「よし! 生きてる!」


 さすがメルヘン! しぶとい生命力だ!


 無限鞄からエルクセプル(エクサリー的なやつね)を取り出し、結界スポイトで数滴吸い出して、メルヘンの体にかける。


 かけた場所から、それこそ魔法のように治っていく。


「…………」


 メルヘンが動き、瞼がうっすらと開いた。


 体の表面は治ったが、体の中も酷いことになっているようだ。やはり、飲ますのが一番なんだな。


「薬だ。口を開けて無理にでも飲め」


 結界スポイトを口につけ、ゆっくりと押し出す。


「…………」


 エルクセプルが口の中に入り、体がほんのりと光る。


 一秒、二秒──もいらなくメルヘンが完全復活。瞼を全開にして弾丸のように飛び出した。


「タケル!!」


 やはりタケルになんかあったのか。


 外に出たメルヘンを追い、オレもコンテナハウスから出た。


「タケル! タケルどこなの!? パーナは!? ラミーは!? 皆どこなの!!」


 体は全快しても記憶の混乱までは治してくれないのか。エルクセプルもまだまだ改良の余地はあるな。


「アネム! いったいどうしたのよ!?」


 あ、アネムって言うんだ。


「プリッシュ! なんであなたがここにいるよ!?」


 びっくりする二人のメルヘン。だが、今は説明し合ってる暇はないと、全快したメルヘン──アネムをつかみ、クルーザーに向けて走り出した。


「ミタさん、出るぞ!」


 降りて来たミタさんに叫ぶ。


 万能メイドに説明は不要とばかりにクルーザーへと回れ右。忍者のように素早くクルーザーに乗り込んだ。


「プリッつあん、戦闘機が通れる転移結界門を開くからカイナと一緒に来い!」


 片割れ転移結界門を球体にしてプリッつあんに投げる。


「なんかよくわかんないけど、わかった!」


 頼むぜ、相棒。


 クルーザーに乗り込み、全速力で発進した。

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