第48話 試合開始

「アネム! シュンパネだ! 使い方はわかるな?」


 食料補給のためにタケルにも渡してあるし、カーチェなら念のためにと乗組員には教えているはずだ。


「わかる!」


 奪い取るようにシュンパネをつかんだ。


「パーニグル諸島へ!」


 アネムがシュンパネを掲げると同時にクルーザーを結界で包み込む。


 シュンパネが発動。パーニグル諸島とやらに飛んだ。


 で、現れたところは……え? 空? なんで?


「──って、メルヘン機のパイロットだったわ!」


 そりゃ空に現れるわ。アハハ。


「じゃねーよ! こん畜生が!」


 当然のように自由落下するクルーザー。こんなことならプリッシュ号改で来るんだった!


「ヘキサゴン結界!」


 クルーザー全体にヘキサゴン結界を纏わせた。


 後悔とは後で悔いるから後悔と言うのなら、今する必要はねー。まだ、なにも終わっちゃいねーんだからな!


「いろは、なんか見えるか?」


「九時方向で戦闘が行われています」


 直ぐ様、九時方向にクルーザーを向ける──が、遠くてわかんねー! 辛うじて光が乱舞してるのがわかるだけだ。


「ミタさん! プリッシュ号の操作を覚えてるか?」


「はい! 記憶しております!」


 さすが万能メイド。隙がない。


「今からクルーザーをプリッシュ号と同じにする。あと、モコモコビームを両舷に取りつける。撹乱しろ!」


「お任せください!」


 プリッシュ号の操縦系は完璧に身に刻まれている。なので十秒で完了。あとは、モコモコビーム銃を五倍にデカくして両舷に設置。モコモコエネルギータンクをあるだけ出して、銃と繋げる。


「ミタさん! 操舵輪の左右にボタンが現れただろう。両方押せ!」


「はい!」


 とミタさんが返事して一秒後に両舷のモコモコビーム銃から光が発射された。ちょっとタイミングがワリー。こうか?


「ミタさんもう一発!」


 今度は押したと同時に発射された。よし!


「試し射ちしてイイから完璧にしろ!」


 ミタさんには余計なセリフだろうが、おれの技術ではこれが限界。あとはあなたの万能にお任せです。


「いろは! お前も撹乱だ。攻撃を散らせ。ドレミはタケルのところだ。誰も死なすな」


「「イエス、マイロード!」」


 いろは団とドレミ団がクルーザーから文字通り飛び立った。うん、超万能生命体万歳!


「ベー! わたしにも戦うものちょうだい!」


 そんな都合のイイもんなんてあるか! と思ったけど、都合のイイ能力なら持ち合わせていましたわ。


 無限鞄から以前、カイナがアホみたいに出した銃の余りを吐き出した。


「アネム、銃は使えるな?」


「使えるけど、そんな豆鉄砲じゃあいつに勝てないよ!」


「勝てないまでも戦えるようにオレがしてやる」


 まずは裸なアネムに結界武装を纏わせ、銃が握れるサイズにする。


「お前は近接戦闘タイプか? それとも遠距離戦闘タイプか?」


 メルヘンに問うセリフではねーな。


「近接戦闘が得意」


 そして、メルヘンが答えるセリフでもねーな。


「なら、拳銃だな」


 吐き出した銃の中から結界で拳銃だけを選び出し、アネムの左右に並べる。


「片方ずつ八〇丁だ。何発入ってるか知らんから無駄弾は避けろ。握る拳銃を離せば新しい拳銃が手に現れる。つかんでみろ」


 アネムが頷き、両脇に浮かんだ拳銃をつかんだ。


「残りの拳銃は収納する。離したら新しい拳銃が出る。わかったな?」


「わかった!」


 伸縮収納結界で拳銃を仕舞う。


「お前には結界武装って言う強化鎧を纏わせたが、どこまで耐えられるかはわからん。だからなるべく避けて攻撃しろ」


「わかった!」


 よしと頷き、アネムを手のひらに乗せてデカくする。


 一〇メートル。二〇メートル。多分、メルヘン機が人型になったときがこのくらいだろうってところで止めた。


「体を慣らせ。それまではオレが時間を稼いでやる。それまでに絶対、体を慣らせ! わかったな!」


「わかった。絶対に慣らす!」


「よし、いけ!」


「アネム、いきまぁーす!」


 と、アウトなようなかけ声を出してクルーザーから飛び立った。


 なんか知らんけど、その勇姿を敬礼して見送った。


「ベー様! そろそろ戦闘領域に入ります!」


 おっと。ノリに流されている場合じゃねーなと、転移結界門を設置した。


「さあ、オレもやるとしますかね」


 ズボンのポケットから殺戮阿吽を抜き放ち、前方に放り投げる。


 続いて無限鞄から轟牙ごうがを出して装着する。


「轟牙、出る!」


 とかアネムに刺激されて、らしい言葉を叫んでクルーザーから跳び出した。


 轟牙に飛行能力はないが、空飛ぶ結界は創り出せる。


 足に空飛ぶ結界を創り出して乱れる体勢を整え、戦闘領域に向かう。


 途中、投げ放った殺戮阿吽をつかみ、吽のほうを背中に回して結界で固定させる。


 阿を振り回し、肩を慣らす。


 イイ感じに肩が温まったら、ホームラン宣言をするように相手に突き出した。


「オレの家族に手を出すとはイイ度胸だ」


 炸裂型結界球を創り出し、殺戮阿を大きく振りかぶる。


「今宵のオレはひと味違うぜよ!」


 脇を締め、体を捻るように殺戮阿をフルスイング。さあ、試合開始だ!


  ◆◆◆


 未来的潜水艦と未来的戦艦が戦っている。


 そう。そこは、ファンタジーな世界からSFな世界へと変わっていた。


 ビームみたいなものが尽きることなく乱舞し、ミサイルが雨のように降り注いでいる。


 ──オレはどんな世界に転生したのよ! 誰か教えて!!


 とか叫びたいが、もはやそんなことを言えるような空気ではねー。ってか、こんな殺伐とした空気はノーサンキューだわ!


 オレの考えた最強のスローライフには戦闘の文字はない。が、降りかかる火の粉は絶対零度で振り払う主義。一切の妥協はねーのだ。


 殺戮阿で打った炸裂型結界球は、乱舞するビームに撃ち抜かれたが、それは想定内。お前の敵が来たことを教えてやったまでだ。


 轟牙の今のサイズは二メートル。敵の目がどんなものかは知らないが、炸裂型結界球の爆発は見えてんだろう。節穴なら殺戮技が一つ、炸裂拳を食らわしてやるわ。


 が、敵はモコモコビームを撃ったときからこちらを警戒した。


 誰かは知らんが、こちらに向けてくる明確なまでの殺意と敵意は強者のそれだ。勘に近いまでのレーダーでオレを認識したのだろう。


 そうなるよう、炸裂型結界球を打ったんだからな。


 とは言え、全砲塔をこちらに向けるのは勘弁してください。さすがに股間がキュッとします。


 全砲塔がキラリと煌めき、たぶん、波動砲の光ってこんなんなんだろうな~とか言うくらいピッかてる。


「結界一〇枚張り!」


 前方に能力限界までのヘキサゴン結界を一〇枚創り出した──その直後、太陽が爆発したんじゃないかと思うくらいの光がオレの視界を奪い去った。


 一瞬にしてヘキサゴン結界が八枚まで破られ、不味い! と思った同時にさらに十枚を張る。


 だが、光は収まらず、一九枚まで破られた。なんつー威力だよ!!


 最後の一枚が辛うじて光を遮ってくれた──が、オレの考えるな、感じろが緊急警報を最大で鳴らした。


「──転移バッチ発動!」


 で、ブララ島へと転移する。


「──クソ! 強すぎんだろうが!!」


 なんて怒る暇はなし。考えるな、感じろに任せて二四数えて転移バッチを発動。もとの位置に転移した。


 転移元に爆煙が残っているところを見ると、ミサイルを射って来たのだろう。容赦ねーな!


 未来的戦艦から注がれる殺意と敵意からまだオレに集中している。


 意識を向けてもらうようにしてはいるが、オレは戦いをおもしろいと思う癖はねーし、とっとと終わらせたい質だ。去ってくれと切に願う。


 だが、あの未来的戦艦に乗ってるヤツか、指揮しているヤツは確実に戦いを楽しむタイプだ。賭けてもイイ。自分が満足するまで止まらないだろう。


「ならば、付き合ってやるよ!」


 オレは試合は全力で楽しむタイプ。お前にドデカい一発──いや、七回コールドにしてやんよ!


「まずは殺戮技が一つ、ジャイロボール!」


 五トンのものを持っても平気な体とは言え、あの未来的戦艦の装甲を破れるとは思えない。だから、逆に包み込んでやるわ。


 空飛ぶ結界の上で投球を構え、能力最大で投げ放った。


 大リーグワンを撃ち落とそうとミサイルをアホみたいに射ち出すが、オレのジャイロボールは予測不可能。ミサイルで射ち落とせると思うなよ!


 ミサイルが雨霰とジャイロボールに襲いかかるが、一発も当たらないし、爆風でも軌道は逸らされない。まるで生き物かのように未来的戦艦にストライク。


「おっしゃー! オレ天才!」


 なんて喜んでいる場合ではない。未来的戦艦に近づかねば!


 ジャイロボールから生み出される結界では未来的戦艦の一部しか覆えない。いや、やろうと思えばすべてを覆えるが、強度が薄くなる。それでは目的が果たせないのだ。


 当たったことに動揺したのか、攻撃が止んだ。


 与えられた隙はありがとうの精神で突かせてもらうと、さらにジャイロボールを投げる。


 そして、ツーストライク。さらに未来的戦艦を包み込む範囲を増やした。


 先ほどより弱いビームを躱しながら第三球。その結果を見ることなくビームが直撃。意識が飛びそうなくらいの衝撃に襲われた。


 だが、必死に意識を繋ぎ止め、荒れる空飛ぶ結界を正常に戻す──と、また未来的戦艦の砲塔が輝いた。


「ケッ! 同じ攻撃が二度も通じるかよ!」


 S級村人をナメんじゃねーぜ。


 視界いっぱいに光が占める。


 が、すぐに光が弾け、爆発音が轟き、掠めるようにビームが通りすぎていった。


「ストライク! バッターアウト! さあ、オレたちのターンだ、ガンガンいこうぜ!」


 誰かに向けて拳を突き出しながら落下していった。

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