第50話 救出

 ベッタベタのクラーケンが現れた。


 脚を広げながらこちらを威嚇している。


 デッカイ銃を持った三人のメイドがオレの前に現れ、攻撃コマンドを選択。連射するように弾丸をぶち込んだ。


 蜂の巣になるベッタベタのクラーケン。


 そして、力なく海に沈んでいく。


 パラッパー。デッカイ銃を持ったメイドが勝利しました~。


 これ、三〇秒での出来事。まさに瞬殺である。


 ──誰かオレに突っ込み力をわけてくれ!


 ………………。


 …………。


 ……。


「ベー様。なにしてるんですか?」


 突っ込み力も突っ込みする人もなし。ファンタジーは理不尽である。


 天に掲げた両手を下ろし、空気の読めないベッタベタのクラーケンに弔を捧げた。


 ……君の勇姿は忘れないよ……。


「あ、あの、ベー様? いったいなにをなさっているんですか?」


 それはオレが言いたいよ。なんなの、そこなメイドは!? なんの躊躇いもなく殺しちゃったよ? 一寸……ではなく三〇メートルの命にも数十トンの命があるんだからね!


「なんでもない。そこの入り江に潜水艦を入れてくれ」


 ミタさんが率いるメイドさんズに突っ込むだけ無駄。サラリとスルーだ。 


「しばらくここを拠点にする。カイナたちも来るだろうからメイドを何人か連れて来てくれ。あと、フミさんらも。一時間してもタケルたちが出て来ないのならこじ開ける」


 結界が消えてないから生きてはいるだろうが、心のほうは瀕死だろう。下手に動かすより、ここで落ち着かせたほうがイイだろう。未来的戦艦も気になるしよ。


「畏まりました」


 ミタさんが頷き、二人のメイドがシュンパネを使い瞬間移動した。


 入り江の真ん中辺りでクルーザーと分離させ、接岸できそうな場所へクルーザーを着けた。


 ほぼ断崖絶壁だが、我が土魔法の前では荒野と変わらない。


 テニスコート一面分の空洞を生み出し、上に続く階段を作って地上を目指す。


 たぶん、ビル四階くらいで地上に到達。岩だらけの周辺を平らに均した。


「一応、ここにもテントを張るか。ミタさんお願い」


 細かいことはミタさんにお任せ。つつがなくよろしこ。


「お任せください」


 またミタさんが返事して背後にいたメイドさんがシュンパネを使ってどこかに瞬間移動した。


 配下打ち止めかな? と思ったら、階段から沢山のメイドさんズが出て来た。


 ……無限増殖するメイドとか止めてくれよ……。


「ヘリポートも作っておくか」


 すぐ山なので滑走路は無理でもヘリポートなら余裕に作れる。降りるときはパイロットさんの腕にお任せです。


 五〇メートル四方を均し、結界でHマークをつけた。万が一、着陸に失敗したときクッションになる仕掛けもな。


「さすがにこっからは見えねーか」


 海に目を向けるが、島の反対側なので見えるわけもない。が、カイナーズの駆逐艦っぽいものは見えた。


「ミタさん、アレと連絡取れる?」


「はい。可能です」


 うん、ミタさんだもんね。知ってた知ってた。


「上陸して島の探索を頼むわ。ヘリで来てもイイからよ」


 それもイイように伝えてちょうだい。


 どこからかデッカイレシーバーを出して、どこかへと繋げ、いろいろ指示を出している。


 ……ミタさんの立ち位置もよくわからんよな……?


 オレの専属メイドと言いながらカイナーズのヤツらを手下のように扱う。多分、カイナーズでも上層部に入るくらいの地位にいると思う。


 まあ、副業を持ってても構わんのだが、うちとカイナーズのかけ持ちは大変じゃねーの? 別にカイナーズに重きを置いても構わんのよ。


 と言って聞くようなミタさんではなかろうが、これだけの万能を独占しようとしないカイナーズも変だよな。


 これだけの万能なら右腕にするなり、魔大陸の基地を任せたりと、魔族にはプラスとなると思うんだがよ。


「……ベー様、なにか……?」


 おっと。ミタさんを見詰めすぎたか。


「なんでもない。カイナーズはなんだって?」


 まあ、ミタさんにはミタさんの事情があるんだろう。オレが口出すことじゃねーや。


「空母から上陸班が出るそうです。あの駆逐艦は護衛として警戒に当たるそうです」


「空母って、岩さんを引き上げたときのかい?」


「いえ、カイナーズホームに所属する艦隊です」


 なんだろう。いや、ホームセンターに所属する艦隊ってなんだよ! って突っ込み待ちなのか? あんまりアホすぎてどう突っ込んでイイかわかんねーよ。


「まあ、カイナーズホーム所属と言っても他の艦隊と質は同じなので安心してください」


 ニッコリ笑うミタさん。どこにニッコリする要素があったんだろう。カイナーズジョークにはついていけねーよ。


「あ、うん、カイナーズホームだし、心配はしてないよ」


 不安ではあるがな。


 どこからかドバドバと音が聞こえてきた。


「上陸班が来たようですね。さすがカイナーズホーム所属です」


 なにがさすがなのか、まったくわからんが、まあ、カイナーズにお任せします、だ。


 現れたヘリをしばし眺めてから下へと向かった。


  ◆◆◆


 下ると、プリッシュ号改がこちらに降下して来るのが見えた。


「プリッつあんも大活躍だな」


 いろいろ突っ込みどころ満載のメルヘンではあるが、今回ばかりはいてくれて本当に助かった。


 アネムに仕掛けた結界から自分だけでは無理と悟り、カイナの力を借りることを選んだ。


 カイナの性格と転移結界門を渡したことから戦闘機で来ることは予測してたが、まさか戦艦や空母まで連れて来るとは予想だにしなかった。


 どちらの考えかは知らんが、まさにナイス! と叫びたかった。とてもじゃないがオレだけでは追い払うこともできなかっただろう。それどころか殺されてたかもしれない。


 今回はその機転に助けられた。


「ありがとよ」


 と、プリッシュ号改から降りて来たキャプテンプリッシュに礼を言った。


 ……ってか、あの緊急時に着替える余裕があったことにびっくりだよ……。


「なによ、らしくない。タケルやアネムは家族なんだから助けるのは当然でしょう」


 ちょっと照れたようにそっぽを向き、オレの頭にパ○ルダーオンした。


 まあ、らしくないことを言ったのは事実なので、それ以上のことは言わなかった。


「それよりタケルたちはどうなったの?」


「わからん。中から反応がない。まあ、ドレミが入ったから死んではいないだろう」


 仕掛けた結界の数は揃っている。


「ってか、射ち落とされたのはアネムだけなのか」


 他のメルヘンに仕掛けた結界は中から感じるんだから、外にいたのはアネムだけなんだろうけどよ。なにしに出てたんだ?


「哨戒に出てたんじゃない? 飛行機を大きくすると格納庫がいっぱいになるから哨戒の順番が決まってるって言ってたから」


 そんな話をいつしてるか謎だが、そう言う理由からなのはわかったよ。


 ちなみに、メルヘン機が使えるようにとせがまれて、造船所のようなものを創りました。


「ベー様。フミたちが来ました」


 どこから? と見ればプリッシュ号改から完全武装ってな感じのデフォルトなお姉様方々が降りて来た。


「ベーを真似て転移結界門を創ったの」


 そんなに器用なら自分の伸縮能力も活かしてよ。使い道を考えるって大変なんだからさ。


「ベー様。遅くなって申し訳ございません!」


 なぜかスパナを持って胸に当てるフミさん。そんなコアな謝罪いらんよ。


「構わんよ。万が一のときのために呼んだんだからな」


 さすがのカイナもアニメ的潜水艦の知識なんぞないだろうし、力業になるはず。なら、ファンタジーな技術も呼んでいたほうが対処しやすいだろう。


「一時間してもタケルが出て来ない場合は扉を焼き切る。用意しててくれ」


「畏まりました。では、タケル様の船を少し調べてもよいでしょうか? 金属が特殊なように見えますので」


 確かになんのアニメ的金属。知らないではどうしようもないか。


「わかった。落ちてる金属を使って焼き切れるか確かめてくれ。ダメなときようにオレも用意しておくからよ」


「はっ!」


 短く答えて作業に取りかかった。機敏だこと。


「ミタさん。タケルたちがいつ出て来てもイイように食事を頼む」


 これだけ壊されたら無限に食いそうだな。


「畏まりました。上で作らせます。ベー様も少し召し上がりますか? 顔色が余りよろしくないように見えますが?」


 そう? これと言って調子は悪くねーんだがな。でも、ミタさんがそう言うならなんか腹に入れておくか。


「なら、簡単なものを頼むわ」


「はい。おにぎりとけんちん汁を用意しますね」


「よろしく」


 その辺の、座るにちょうどイイところに腰を下ろした。


「タケルたち、無事だよね?」


「生きてはいる。が、心にはダメージを受けているかもな」


 死人は出なかったが、手も足も出ずに負けた。これは相当なショックだろう。


「でもまあ、考え方を変えたら望外の状況かもな」


「どう言うこと?」


 プリッつあんの疑問には答えず、万が一のときの道具を作り始めた。


  ◆◆◆


「ベー様。一時間経ちました」


 ん? ああ、もう一時間か。早いもんだ。


 ミタさんの言葉に頷き、立ち上がる。


「フミさん。やってくれ」


 手を振り、作業開始を伝えた。


「皆、始めて」


 フミさんが短く言葉を発し、デフォルトなお姉様方らが動き出した。


「フミさん。手持ちので焼き切れないときはこれを使え。余程の金属じゃなければ切れるはずだ。ダメなら違うのを考える」


 モコモコエネルギーを利用した切断器を八つ、フミさんたちに渡し、使い方を説明する。


「ありがとうございます。ダメなときは使わせていただきます」


 あいよと答え、フミさんたちの邪魔にならないよう潜水艦から降り、クルーザーに移った。


「コーヒーお願い」


「わたしは紅茶ね」


 出しっぱなしの炬燵に入り、ミタさんにお願いする。


 頭の上のメルヘンさんも自分の炬燵へと入る。


 ……海賊スタイルのメルヘンが炬燵に入るとかシュールやわ~……。


「着替えないのか?」


 疑問に思ったので尋ねてみた。


「皆が出て来て落ち着いたら着替えるわ」


 未来的戦艦から逃げたヤツがまた来るとは思わないが、プリッつあんなりのケジメなんだろう。好きにしろ、だ。


「お待たせしました」


 三〇秒も経たないでコーヒーと紅茶|(プリッつあんサイズね)を出す万能メイドさんに感謝していただく。あーうめー!


「そう言えば、ここに来るのが遅かったが、なにしてたんだ?」


 との問いはプリッつあんにだよ。


「カイナのおじさまが戦艦が沈んだときのために潜水艦を放っておいてって頼まれたのよ」


 救助目的か。結構考えて行動してたんだな、アホ魔王は。


「そのカイナはなにしてんだ?」


 この問いはミタさんね。


「不明戦艦の調査を行ってます」


「なんかわかったのかい?」


「いえ、まだ連絡は入ってないので調査中かと」


 まあ、未来的戦艦なんだから時間はかかるか。


 あとは聞くこともなく、することもないので、静かな時間を過ごした。


「ベー様。よろしいでしょうか?」


 日が沈んできた頃、ミタさんが声をかけてきた。なんですのん?


「暗くなってきたので明かりを灯します」


 構わんけど、どうすんの? と目で問う。今、デコポンが口の中に入ってるんで。


「小型艦と崖の上から照らします。眩しい場合はクルーザーの方向を変えますのでおっしゃってください」


 デコポンを噛みながら了解と頷く。


 しばらくして崖の上から眩しいほどの光が放たれたので、方向を変えてもらった。スゲー明るさのライトがあるもんだ。


 方向がタケルの潜水艦に向いたので、眺めながらデコポンをいただく。


「始まってからどのくらい経ったの?」


 オレ的には一時間だが。


「もう少しで三時間になります」


 随分と手間取ってんだな。そんなに硬い材質なのか?


「フミの話では凄まじい圧力で骨格が歪み、隔壁を一枚一枚焼き切るしかないそうです」


 そんな手間取るものを壊すとか、未来的戦艦は凄まじいな。まあ、受けた身としては今さらながらにして股間がキュッとするぜ。


 ──ピー! 


 と、なにやら笛が鳴らされた。なによ!?


「生存者を発見したようです」


 あ、そう言えば、皆生きてることを伝えてなかったわ。


 今さらそんなことが言える空気でもないので、黙っていることにした。


「皆!」


 と、飛び立とうするプリッつあんをわしっとつかんだ。


「救助隊に任せろ。いっても邪魔になるだけだ」


「でも!」


 感情的なプリッつあん。落ち着いてるように見えたが、内心では焦ってたようだ。


「死んでなければどんな怪我でも治せる薬があるんだ、なにも心配はねーよ」


 隔壁を焼き切って進まないといけないところにいたのなら、そんな深い怪我は負ってないはずだ。


「どこに運ぶんだ?」


「先ほどベー様が作られた空洞に運びます。カイナーズの医療班が用意してますので」


 準備がよろしいようで。


「ミタレッティ様。羽妖精と子どもを救出しました。外傷はありませんが、長い間閉じ込められていたのが原因か、精神が消耗しているようです」


 まあ、なにもわからず閉じ込められたらそうなるわな。


「いく!」


 と言うのでメルヘンを解放してあげる。


「ベー様」


 と、デフォルトのお姉様が現れた。なんでしょう?


「先ほどの断切器の予備はあるでしょうか? 想像以上に硬く、残り一つとなってしまいました」


 モコモコエネルギーは結構な数があるので、四つ残してすべてを渡してやった。どうせ断切器は返ってこないだろうからな。


「ありがとうございます!」


 なんでか嬉しそうに戻っていった。


「未知の技術に触れることが嬉しい種族ですから」


 いっきに技術を押し上げないでくれよ。空を飛ぶ車……あ、うん。そんな時代がくるとイイねっ!


 口の中が酸っぱいので、口直しに豆大福を出してもらっていただいた。なんかさっきから食ってばかりだな、オレ。


 腹一杯にならないとか、やはりオレも動揺してんのかな?


 いつもなら一個で充分なのに四つも食ってしまった。あ、渋目の緑茶をくださいな。


 ズズズと緑茶を飲んでいると、また笛が鳴った。


 数秒後、先ほどのデフォルトなお姉様が現れた。


「タケル様らを救出しました!」


 緑茶を一口飲み、炬燵から出る。


「ミタさん。フミさんたちを労ってやって」


 今回、最大の功労者たるフミさんたちの面倒をお願いして、オレも空洞に向かった。

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