第138話 どうした!? 

 熱狂するシープリット族を十二分に騒がせてから黙らせる。


「五名の勇者よ、前に出よ!」


 スタンバっていた五名が闘技台に上がって来る。


 シープリット族の顔を識別できんが、体毛や体つきは五名とも違った。


 人の髪の毛と同様、地域や環境で異なるのかね? なら、魔大陸全土に広がっていたと見るべきか。結構、数が多い種族なのかもな。


 五名がオレの前に順番(旗を持ってます)通りに並ぶ。行儀がよろしいこと。


「よく戦った。感動した!」


 どこかの大臣のパクりだが、見てない者からしたら便利な言葉である。


「……口が達者なんだから……」


 オレは口下手ですよ。


「一番の旗を持った者、オレの前に」


 オレから見て右が一番だ。


 前に来たのは灰色の毛を持つ、筋肉ムキムキの男だ。


「高らかに名を告げろ」


「おれは、バンドラー! ジャルジーの生まれ。シャルザーの息子なり!」


 エルフのような名乗りだな。


「勇者バンドラーに我れが作りし鉄拳ガイザーを与える」


 ネタ武器、白銀鋼製の鉄拳(左右)を出してバンドラーに渡す。


「嵌めてみな」


 もちろん、人用に作ったのでバンドラーの手には合わないが、我にはプリッつあんの伸縮能力があるので問題ナッシング。ピッタリと合わせた。


「シープリット族に近接戦闘術があるかわからんが、竜に噛まれても傷はつかんし、岩を殴っても体に負担はかからない。鉄拳を使った戦いを考えてみろ」


「はっ! 鉄拳ガイザーに誓って」


 そう言って元の位置に下がった。


「二番の旗を持った者、前に」


 黒い毛を持つ片目の男だ。


「高らかに名を告げろ!」


「イップスなり!」


 ん? それだけか?


「勇者イップスに我が作りし雷撃の槍、雷電らいでんを与える」


 イップスに雷電を渡す。


「轟天の言葉で雷が溜まり、投げ放つと竜ですら焼き尽くす一撃必殺の槍となる。強敵と対峙したとき使うがよい」


「はっ!」


 短めに返事して下がった。


「三番の旗を持った者、前に」


 五名の中で一番体格のイイ男だな。ゾウでも吹き飛ばせそうだ。


「高らかに名を告げろ!」


「我はガオウ。バンバドアの生まれ。ババードの長なり!」


 長? なんか民族の集まりって感じっぽいな。纏めるの大変そうだわ。


「勇者ガオウ。当たりを引いたな。オレの最高傑作、黄金の鎧、サジタリウスを与える」


 聖衣と書いてク○スと読ませるアレなヤツだ。デザインはオレオリジナルだけど。


 金色に輝く箱をガオウの前に出す。


「サジタリウス装着と叫んでみろ」


「サジタリウス装着!」


 箱が開き、黄金色の鎧が現れてガオウに装着される。


 これ、カーチェ用に作ったのだが、派手すぎると断られたものなんだよな。カッコイイのに……。


 弓と胸当ては白銀鋼を使っているが、他は結界で創ったもの。なので、ガオウの体に合わせてデザインを変えました。


「近接、遠距離に対応したものだ。派手に暴れろ」


「はっ! サジタリウスの名に恥じぬ戦いをします!」


 サジタリウスを纏ったまま下がった。ちょっと眩しいです。


「四番の旗を持った者、前に」


 茶色い毛をした、なにかカミソリのような目をした男だな。なんか、剣客さんに似てんな。


「高らかに名を告げろ!」


「ラドリー」


 こいつも短めかい! ってか、高らかにって言ってんだからもっと声を張れよ!


「勇者ラドリーに斬剣、月読つきよみを与える」


 ラドリーの体格に合わせて月読をデカくする。


「折れず曲がらず砕けぬを極めたものだ。極めたら竜の鱗すら斬れる。それは妹のサプルがそれを証明した。極めよ」


 うちのスーパーガールが最強すぎる。


「はっ。必ずや」


 そう静かに、だけど強い決意を感じさせる目をして下がった。


「五番の旗を持った者、前に」


 上半身が黒く、下半身は灰色と言う珍しい毛色の……女? が前に来た。


「高らかに名を告げろ!」


「わたしはミザーニ。マダルの生まれ。ダイドの娘です」


 やはり女か。胸が──ゲフンゲフン。なんでもございません。


「勇者ミザーニに魔闘衣、百式ひゃくしきを与える」


 盾ではなく、ネックレスを渡す。


「マジカルチェンジで魔闘衣を纏える。百式は所謂強化服だ。ギア1からギア5まである。ギア1から力を確かめろ。防御力はサジタリウスよりは劣るが、衝撃吸収は百式が上だ。百式に合った戦いを極めろ」


 これはダリエラ(赤き迅雷の獣人だよ。覚えてる?)に創ったものだが、元々バカ力なので不採用になったのだ。


「はい! 極めてみせます!」


 マジカルチェンジはしないで下がった。


「勇者たちに栄光あれ! さあ、万雷の拍手で勇者たちを讃えるがよい!」


 闘技場が爆発したように歓声が上がり、勇者たちを讃える拍手が鳴り響いた。


 オレの仕事、終わり。とホッとしたところで思い出した。バルナドがいないことに。ど、どうした!?


  ◆◆◆


 なんやかんやで譲渡会(?)が終了した。あー疲れた。


 解散したシープリット族はテキトーにバラけたが、なぜかネタ武器を与えた者たちは残った。あと、ルダールも。


「我々をベー様の家臣にしてください」


「いや、お前らカイナーズじゃん」


 つーか、家臣ってなんだよ? オレは村人だってーの。


「数百人のメイドを抱えた村人ですけどね」


 幽霊さんは黙っててくださいませ。


「カイナ様からは許可は得てます」


 ルダールの言葉にミタさんを見る。どーゆーことよ?


「カイナーズも人余りしていて、仕事不足に陥っているそうです」


「ヤオヨロズ開発に人手不足してんじゃねーのか?」


 まあ、なにやってるか知らんけど、国を創るんだからやることはたくさんあるだろうが。


「シープリット族には……」


 うん、無理だね。こいつらには。


「わかったよ。ゼルフィング家で受け入れるよ」


「自分が、と言わないところがベー様ですよね」


 ほんと、最近の幽霊は突っ込みは怪奇現象より厄介である。


「オレがやるより適任者に任せるほうがイイだろう。それに見合った給金をやるんだからよ」


 ちゃんと見合った給金出してるよね? とミタさんを見る。


「はい。使い道がないくらいいただいております」


 ホッ。よかった。足りないと言われたらどうしようかと思ったよ。


「じゃあ、ゼルフィング家に防衛部を創るか」


 海はタケルがいるからイイが、地上はいない。まあ、カイナーズがいるから必要ねーと言えば必要ねーんだが、武力があるに越したことはねー。オレがスローなライフをエンジョイする備えはしておくに限る。


「一応、保安部がありますが」


 あるんかい!


「うちのこと、なにも知らなくてごめんなさい」


 突っ込まれる前に誠心誠意謝罪しておく。誰にかは知らないけど!


「あ、いえ、ベー様が必要と言うなら新たに設立しますが」


 ん~どうすっぺ?


 保安部がどんなもんかわからんが、たぶん、武装したヤツらがそうなんだと思う。アレがそうなら防衛もで余裕でやれるだろうしな~。


 まったく、戦闘にしか使えないってのは厄介だよな。自衛隊みたいに災害とかに使えたならまだイイんだがよ。


「ここにオレの別荘でも建てるか?」


 もう侵略したみたいなものだからここに住み家を建てるのもイイだろう。文句言われたらラーシュにお願いして許可を得ればイイんだからな。


「ルダール。どこか人が来ないところに宿営地を築いてくれや。オレの名でカイナーズホームから必要なものは買ってイイからよ」


 こいつらなら踏み潰して均しそうだけどな。


「ゼルフィング家に移りたいと言う者を誘ってもよろしいですか?」


「一〇〇人までな。さすがにすべては受け入れられんからよ。あの基地を空にもできんだろう?」


 あそこはシープリット族がほとんどだったはず。いきなり空にはできんやろ。


「女たちは一〇〇人に入りますか?」


「別でイイが、女も百人までだからな。カイナと違ってうちは有限なんだからよ。それに、お前らも戦いばかりに頭使ってないで生きることにも頭使いやがれ」


 好きにしろとか言ったらすべて連れて来そうだから苦言しておく。


「ミタさん。メイドを何人かつけてやってくれや。なんか不安だからよ」


「畏まりました」


「ルダール。シープリット族を仕切るのはお前に任せるが、メイドが上だ。お前らはまだ新参者なんだからよ」


 上下関係ははっきりさせとおく。後々メンドクセーからな。


「もちろんです。ゼルフィング家のメイドは怖いですから」


 そうなの? と、メイドさんたちに目を向けるほど無謀ではねー。ゼルフィング家のメイドは皆優しいの。そう思っておけばオレは幸せでいられるのだ。あ、幽霊さん。黙ってなさいよ。


「…………」


 背後から視線を感じるが、全力全開でスルーダゼッ!


「ところで、バルナドはどうした? 闘技場にはいなかったが?」


 シープリット族の判別はまだできてねーが、バルナドの体格──左腕に傷があるから判別できるのです。


「団長たちなら別の方法で力を見せようと動いてますよ」


 たち? 別の方法? なんのことだ?


「ベー様、食える果物を見つけてこいとおっしゃったじゃないですか」


 あ、そんなこと言ったな。すっかり忘れてたわ。


「団長はカイナーズから離れられませんからね、特別賞を狙いにいったんですよ」


 あ、特別賞とか言っちゃったな。すっかり忘れてたわ。


 忘れてばかりの人生ですんません! と、突っ込まれる前に誠心誠意謝罪します。


「特別賞なぁ~。なににすっぺ?」


 ネタ武器はまだあるが、同じにするのも芸がねー。それに納得もせんだろう。特別賞に賭けたんだからよ。


 特別賞狙いのヤツらが来るまで考えるとするか。


  ◆◆◆


 闘技場の真ん中にテーブルと椅子を置いてマン○ムタイム。


 マ○ダムタイムなんだよ? と、平成生まれのご新規さんに突っ込まれるオレ、ヴィベルファクフィニー・ゼルフィング。一六歳の男の子です。


「急になんの自己紹介ですか?」


 オレの人生を観賞するイマジナリーフレンドへの自己紹介さ。フッ。


「……この人、本当に理解できない……」


 大丈夫。オレのイマジナリーフレンドは理解してくれるさ。し、してくれるよね? オレはそう信じるからねっ!


「そんなことより特別賞をなににするかだよ!」


「いや、わたしに逆ギレされても……」


 イマジナリーブレーンなんだからイイ案出してよ!


「あちらの世界の言葉で言われてもわかりませんよ。わざとなんですか?」


 思考するときは元の世界の言語や経験を頼るからそうなるんです。


「前世の知識があるのも面倒ですね」


 まったくだよ。


 いやまあ、前世の知識があることで助けられたことも多々あるが、前世に捕らわれすぎて奇人変人扱いされる欠点もある。


「奇人変人なのはベー様の本質ですよね? タケル様は至極まっとうですし」


 タケルは前世の体のまま転生だからだよ! 別の個体に生まれてたら奇人変人になってました。あと、あの腐女と比べるのは絶対に止めてくださいませ!


「……まあ、よくも悪くもベー様ですしね……」


 なんの納得の仕方だよ。いや、オレはオレだからどうでもイイけどよ。


「それより特別賞だよ。なににしたらイイんだよ?」


「考えて特別賞とか言ったんじゃないですか?」


 あのときはネタ武器を考えてたんだよ。なのに、千人規模で競争しやがて。こっちのことも考えやがれってんだ。


「ネタ武器でよろしいのでは?」


「特別賞とか言っちまったからな、同じじゃ芸がねーだろう」


 変な拘りなのは理解している。が、それを疎かにしたらオレじゃねー。拘ってこそのオレである。キリッ!


「それで悩んでいたら元も子もないじゃないですか」


 はい。まったくもってその通りでございます。


「どうすっかな~?」


 野蛮人なシープリット族が武器や名誉以外になにをやったら喜ぶんやろな? 


 カイナーズにいれば大抵のものは手に入るだろうし、住むところもあるはずだ。


「勲章でもやるか?」


「カイナーズにも勲章はありますよ」


 と、静かに控えていたミタさんが声を出した。


 いたんだ!? とかは面倒だからサラッと流してもらうよ。あと、ミタさんの他にもメイドさんはいますから。


「さらに言うならベー様を見張るように武装メイドさんも配置されてますね」


 もうオレには一人になることも許されんのか?


「気を許したら一人になるからの配置だと思いますけどね」


 君はプリッつあんの代わりか! オレに突っ込み担当はいらねーんだよ!


「そう言えば、プリッシュ様たち遅いですね? 何かあったんでしょうか?」


「なにかあったら呼びに来るよ」


 どうせメイドもついてるだろうし、ドレミの分離体もついている。タケルたちを襲ったヤツでもなければ立ち塞がることもできんよ。


「ドレミ。プリッつあんは?」


「嵐を避けるために無人島に停泊しています」


「停泊? なんで?」


 嵐になったら雲の上に出ればイイじゃん。浮遊石なら雲の上までいけるし、結界で気圧調整できるようにしてあるぞ。


「サリエラー号がついて来てますので待避したそうです」


「なんだ、赤毛のねーちゃん、ついて来たのか」


 ラーシュのところにいったら呼ぼうとしてたのにな。せっかちなねーちゃんだよ。


「ベー様が放置しすぎるからでしょうが」


「天の時、地の利、人の和ってな、物事にはタイミングがあるんだよ」


「だからあちらの言葉で言われてもわからないんですって」


 心を読めるんだから意味も読めろよ。万能幽霊なんだからよ。


「ベー様の深い思考なんて覗いたら奇人変人になるどころか廃人になりますよ」


 幽霊を廃人にするオレの思考、どんだけだよ? ってか、幽霊って廃人になんのかよ? なったとしてもそれ、フォログラフと変わらんとちゃう?


「……ベー様って、本当に意味不明です……」


 オレも幽霊がなに考えているか意味不明だけどな!


 ……つーか、オレの周り意味不明なのばっかりだけどな……。


「あ、プリッつあんで思いついた。アレにするか」


 喜ばれるかはわからんが、名誉にはなるはずだ。まあ、不満そうにしてたらネタ武器を渡せばイイさ。


「ミタさん。ちょっと──」


 考えていることを話すと、ちょっと考えてからスマッグを出してどこかにかけた。通じんの?


「……はい。はい。そうです。どうでしょうか? はい。そうですか。ありがとうございます。では、お願いします」


 スマッグをポケットに戻し、オレを見てにっこり笑った。


「式典部が全面的に協力してくださるそうです」


「それはなにより。ご苦労さんな」


 できるメイドとカイナーズホームに感謝です。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る