第139話 チョコバナナ
特別賞の賞品を決めてから一日。果物狙いのヤツらがやって来た。
「……結構特別賞狙いのヤツがいたんだな……」
上半身の背中に背負子を背負った(ややっこしいなもー)のが何十人といた。
「すべてがすべて戦いに誇りを持った種族はいませんからな」
「だな」
そんな種族がいたら真っ先に滅んでるわな。
シープリット族の顔の判別はできんが、体のサイズや毛色はさすがにわかる。
「一回り小さいな。若いヤツらかい?」
闘技場にいたヤツらは雰囲気で大人とわかったが、特別賞狙いのヤツらからはその感じがなかった。
「はい。まだ戦いに出たばかりのやその前のヤツらです」
バルナドはその引率か。副司令官になるヤツにはそう言う理由があるわけか。カイナーズって割りと真っ当な組織だったんだな。
「遅くなりました」
「この分、イイ仕事をしたんだろう?」
バルナドって表情筋が豊かだよな。ニヤって笑いやがるぜ。
「はい。くまなく探して採って来ました」
各自、背負っている背負子を下ろし、一ヶ所に纏めた。
「ちゃんと誰が採ったかわかるようにしてるよな?」
「もちろん。籠に名前を記入しております」
やはり副司令官になるヤツはそつがない。アッパレだよ。
「ミタさん。村の薬師殿と魔女さんたち、あと、メイド何人かで記録してくれ。写真つきで」
「データとして残すのですね」
ファンタジーの住人がデータとか言っちゃイヤン。いや、オレが言うな、だけどねっ。
「残してどうするの?」
と、委員長さん。いつの間に!?
「いたわよ。朝から」
そ、そうだっけ? まったく気がつかんかったよ。もっと存在感をアピールしろよ。
「あなたがなにを考えてるかわからないけど、その顔は無茶なことを言ってるのはわかるわ……」
口ほどに目はものを言うならぬ口ほどに顔はものを言うようです、オレの顔は……。
「オホン。魔女さんたちは学術名をつけてくれや」
「学術名? どう言うこと?」
「世界標準にするためだよ。帝国も南大陸になにがあるか知りたいだろう?」
ニヤリと笑ってみせた。
オレは、人のふんどしで相撲をとり、升席で楽しませてもらう。金と名誉はそちらで自由にしてくたざい、だ。
「南の大陸のことを知りたくないのならやらなくてイイぜ」
大きな利益がいらないと言うならそれもよし、さ。
「やるわ」
「物事がよく見えてなによりだ」
話のわかるヤツは大好きだぜ。
「あなたにどんな利益があるの? 損ばかりじゃない?」
「帝国がオレに付き合ってどんな利益があるかを考えれば見えて来るよ」
オレは帝国を利用する。だから帝国もオレを利用したらいい。持ちつ持たれつ仲良くいこうぜ。フフ。
「…………」
「そう怖い顔しない。こればかりは経験が物言うことなんだからよ」
「年下に言われても説得力がないわよ」
「アハハ。そりゃごもっとも。クソガキのセリフじゃねーな」
失敬失敬。こりゃ失言でしたね。
薬師殿が来て、シープリット族が集めた果物のことを教えてくれた。
その中にはバナナがあった。まだ緑色だけど。
「バナナはサプルとトータの大好物で助かるぜ」
去年、ラーシュが送ってくれたバナナは食べてしまったのだ。
「チョコバナナが食べれますね」
ミタさんも大喜び。ってか、なぜチョコバナナの存在を知ってんのよ?
「ファミリーセブンで売ってます。人気商品でなかなか買えないんですよ」
あのアウトよりの売店か。カイナーズホーム以上に混沌としてんな、うちは。
「じゃあ、熟したのでチョコバナナでも食うか」
オレにそんなに思い入れはないが、懐かしいものではある。せっかくだから食ってみるか。
「はい! すぐに準備します!」
甘いものには自己主張全開な万能メイド。いつもの三倍の力を見せて屋台を用意してチョコバナナを作り出した。
……出店かよ……。
「ベー様。試食をお願いします」
ミタさんが作るものにハズレはないのだから試食もないだろうが、まあ、オレが言い出しっぺなのだから毒味はするのが筋か。
この世界のバナナを食っているので躊躇いはない。パクりと食らいつき、モグモグゴックン。うん、チョコバナナやね。
「旨いんじゃね」
可もなく不可もないチョコバナナ。語れと言われても困ります。
「ミタさんも食ってみなよ」
誰よりも食いたいって顔をするミタさんに勧めた。
「美味しいです!」
それはなにより。どんどんお食べなさいな。
オレは一つ食えば充分。あとは好きにしてちょうだいな。
流れるようにチョコバナナを作るミタさんを眺めながらチョコバナナを完食。ごちそうさまでした。
「あなたのところに来ていろいろ食べたけど、これはもっとも美味しいわね」
委員長さんや他の魔女さんたちにも好評のようだ。
「チョコもバナナも南の大陸で採れるもんでできてるんだよ」
チョコはカイナーズホームのものだろうが、南の大陸には砂糖もカカオもある。このレベルになるまでにはたくさんの工程はあるだろうが、作れることは間違いねーさ。
「そうなの!?」
「ウソは言ってねーよ」
魔女さんたちの目の輝きが一段階アップした感じ。まあ、たくさんの工程を乗り越えてこの世界百パーセントのチョコバナナを作ってくださいな。
◆◆◆
今、チョコバナナがムーブメントを巻き起こす!
「その心は?」
チョコバナナが食卓に上がりそうで怖いです。
「あーそうなりそうな勢いですね」
なぜかチョコバナナの屋台が増え、工場か! と、突っ込みしたくなるくらい作られている。
「いつも思うのですが、なぜあんなに作るんですかね?」
それを訊いちゃいけないサンクチュアリ。でもねーが、貯められるときに貯めるのが我が家の家訓──にしました。
「レイコさんは、飢えって覚えているかい?」
「もう覚えてないですね」
幽霊になると三大欲がなくなるのか。いや、たまに寝てるな、この幽霊。まったく、常識が通じない幽霊だよ。
「いや、非常識に言われると傷つくんですけど」
傷つくような繊細さがあるんなら幽霊なんぞになってるわけないやろ。笑わせんな!
「……それ、パワハラって言うんですよ……」
どこで覚えて来たか知らんけど、それは上司から受けるやつだからね。
「忘れてるかもしれませんが、わたし、ご主人様のメイドで、今はべー様に貸し出されてる身ですよ。べー様が上司になるじゃないですか」
メイドと言うその設定は完全に忘れていたが、オレは先生から押しつけられた気持ちでいたよ。あの先生、いらないものはオレに押しつけてくるからな。
「つーか、シープリット族までチョコバナナにハマるとはな。見た目、肉食なのに」
魔大陸のヤツらって意外と雑食なんだよな。長年の食料不足で雑食になったのか?
「魔女さんたちもある意味肉食ですよね」
「だな」
女は甘いものが好きとは言え、チョコバナナにかける情熱で湯が沸かせそうな勢いだ。チョコバナナ片手に果物を記録しているよ。
「コンビニのバナナシェイクが飲みたいな」
シェイクなんてシャレオツなもん、そんなに飲んだ記憶はねーが、夏の暑い日に喉が渇いてコンビニで飲んだバナナシェイクは今も覚えてるよ。量が少なくて作れなかったのが残念だよ。
「──シェイクですか! べー様、なんですか、それ!?」
三〇メートルは離れていただろうミタたさんが大声を上げた。
「ミタレッティーさん、お菓子のこととになると耳がいいですよね」
耳が大きいだけに聴覚はイイが、ミタさんの耳は特別。お菓子のことは騒音の中でも聞き分けるのだ。
……耳がピクピクしてるときはお菓子のことを聞いていることをオレは知っている……。
「べー様! シェイクってなんですか?」
「カイナーズホームにハンバーガー屋あっただろう」
Mなバーガーを売る店。
「潰れてミセスドーナツに変わりました」
あ、あったね。ミスターに謝れってドーナツ。つーか、カイナーズホームで潰れるとかあったんだ。あそこで潰れるとか謎すぎんだろう。
「そのミセスなドーナツではシェイクは売ってねーの?」
「ありません。ドーナツだけです」
カイナーズホームの運営方がほんとよーわからんわ。
「シェイクはどんなものなんですか?」
「え、えーと確か、ミキサーにバナナと氷と牛乳入れて混ぜる、だったかな?」
テレビで観た記憶はあるが、細かいことまでは覚えてねーや。
「わかりました!」
で、わかるミタさんがマジパネー。あれだけの説明でコンビニのシェイクにも負けないバナナシェイクを作ってしまった。
「どうですか?」
「あ、ああ。旨いよ」
花が咲いたように満面の笑みを見せるミタさん。それを別の男に見せれば引く手あまただろうに。才能の使い道を間違ってねーか?
「べー様も似たようなものじゃないですか」
「オレは好きな方向に全力に正しく使ってます」
嫌いな方向になんて一ミリグラムも使いたくねーよ。
「メイドさん。ストローあったらちょうだい」
オレを監視する蛇の目をしたメイドさんにお願いする。
「畏まりました。べー様にストローを」
と、赤鬼のメイドさんに指示を出す蛇の目をしたメイドさん。蛇のような慎重さである。いや、蛇が慎重か知らんけど。
「べー様。ストローです」
赤鬼のメイドさんからストローを受け取り、シェイクを飲む。やっぱりシェイクはストローで飲むものだよな。あーうめ~。
シェイクを作る屋台が新たに追加され、大量に生産されてるのを見てると、綺麗になったバルナドと特別賞狙いのヤツらが戻って来た。
「お前ら、毎日風呂に入るようにしろや。綺麗にするのも文明人の証だぞ」
見た目は獣でも中身まで獣になることはねー。文明人の心を持ちやがれ。
「風呂に入る習慣がない者には難しいですよ」
「なら、入る習慣を作らせてやるよ」
蛇のような目をしたメイドさんを呼ぶ。ミタさんにお願いしてたことはどうなってる?
「少々お待ちください。衣装部に問い合わせます」
そう言うとスマッグを取り出して通話をすると、何度か頷いてから振り返った。
オレもそちらを見ると、メイド服を着たシープリット族の女が五人やって来た。
ちなみに特別賞の商品とは関係ないよ。綺麗にする計画の一環でシープリット族の女をメイドに雇ったのだ。
なにか犬に服を着せるような気がしないでもないが、そこはシャレオツなセンスを持つヤツがやると男を魅了する仕上げにできるようだ。
特別賞狙いの野郎どもがメイドに目を向けていた。
「フフ。男に種族は関係ねーな」
男は綺麗な女が好き。あ、特殊な趣味の持ち主は排除させていただきますぜ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます