第140話 受賞者

「特別賞優勝者はバナナを見つけたハイリーさんです!」


 え、なにが起こってるの? と戸惑いの方々はこのウェーブに乗ってどこかへと消えてくださいませ。


「ベー様はもっと周りがついてこれるよう努力したほうがいいと思いますよ」


 オレはオレのペースで生きる! ついて来れる者だけついて来い!


「それ、孤高の道ですから」


 おっと。それはゴメンこうむる。オレは誰かついて来てくれないと寂しい人間なんだよ!


「だったら周りにも目を向けてくださいよ」


 ハーイ、了解でーす! 


 では、周りがついて来れるよう説明しよう。


 メイドさんによるメイドさんのための投票により、特別賞優勝者はバナナを見つけた者に与えられることになったのです。で、その受賞式を闘技場で行っているわけですよ。オッケー?


「……この人に説明を求めたわたしがバカでした……」


 そう自分を卑下すんなって。レイコさんはバカじゃないよ。


「その優しいさがムカつきます」


 優しさにムカつかれたらオレはどうしたらイイのよ? 気難しい幽霊さんだよ。


 メイドさんによるメイドさんのための投票と審査が行われたので、オレの疎外感がハンパない。オレ、必要か?


 なんて思いもしたけど、オレの存在を示すためにはいなくてはならねー。笑顔で受賞を讃えましょう、だ。


「二位はミヤボを見つけたバイガさんです!」


 普通、下位から受賞すると思うのだが、仕切っているセイワ族のメイドさんは、上位から発表するタイプなんだ。


「ってか、ミヤボってなによ?」


 なぜかオレの横にいる委員長さんに尋ねた。


「これよ」


 と、なんかアケビに似た毒々しい赤いものを出した。


「食えるんだよな?」


 食えるから二位になったんだろうが、この毒々しい赤い色が納得させてくれないのだ。


「甘くて美味しかったわ。わたしは、バナナよりこちらのほうが好きだわ」


 チョコレートに目の色を変えた委員長さんが好む味か。勇気を出して実(?)を口にした。


「……確かに甘いな……」


 糖度にした一六はあるんじゃないか? あ、甘い桃くらいね。味は……なんだ? 枇杷? いや、マンゴーに似たような味だな。


 まあ、マンゴーなんて片手で数えるくらいしか食ったことねーが、マンゴーゼリーは両手で数えられないくらい食った。その味に似てるような気がする。


「三位はリルリルを見つけたダイオールさんです!」


 なんとも個性的な名前だな。アニメでそんな名前のキャラいなかったっけ?


「これよ」


 リルリルがなんであるか尋ねる前に委員長さんがピンポン玉くらいの白いなにかを出してくれた。亀の卵?


「蒸して食べるそうよ」


「ベー様、こちらです」


 と、メイドさんが灰色になったリルリルを出してくれた。


「色はともかくイイ匂いだな」


 味は……サツマイモ? より甘いな。食感も繊維があって女が好みそうな感じだ。


「四位はシャニードを見つけたザザーさんです!」


 三位までじゃねーんだ。まあ、何十種類とあったから三位だけでは文句が出そうだな。


「シャニードはこれよ」


 完全にオレ担当になってる委員長さん。お世話になります!


 黄色いイチゴなシャニード。味は……完全にイチゴだな。糖度は低いが、練乳かけて食ったらちょうどイイかもしれん。


「メイドさん。練乳ちょうだい」


 って言ったらすぐに出された。 


「お願いしておいてなんだが、よく持ってたな」


「ミタレッティー様が持参しておりました」


 うん。ミタさんなら納得です。


 シャニードに練乳をかけてパクリ。うん。思った通り練乳に合う。


「わたしにもちょうだい」 


 一個食えば充分なので委員長さんに練乳チューブを渡した。


「五位はアルを見つけたタードンさんです!」


 シャニードに練乳をかけて食う委員長さんがアルを出してくれません。そこはちゃんとやってくださいよ。


「ベー様。どうぞ」


 と、メイドさんが代わりに笹のような葉っぱを出してくれた。


「食えんの、これ?」


 パンダなら食えるかもしれんが、人が食うには繊維が強そうだよ。


「これはお茶になるそうです」


 急に変化球が来たな。まあ、元の世界にも笹茶があったし、驚きはねーか。


「これを飲んでいると太らないそうです」


 うん。そりゃ五位に入るよね。ってか、シープリット族のヤツがよく知ってたな。


「植物に詳しい方だったようです」


 ほーん。シープリット族にもそう言うのがいるんだ。それはなによりだ。


「ベー様。受賞者にお言葉をお願いします」


 突然の振り。段取りがあるなら教えて欲しかったです。


 まあ、臨機応変なるようになるがオレの人生。てきとーにいけ、だ。


 席を立ち、受賞者の前へと向かった。


  ◆◆◆


 オレが受賞者の前に立つと、五人の受賞者が前脚を折った。なに!?


「シープリット族の服従の姿勢です。戦士は後脚を折ります」


 あ、そう言えばしてたな。受け取りやすいからやってるとのかと思ってたよ。


 司会のセイワ族のメイドさんからマイクをもらう。


「オレに服従はいらない。立て!」


 知らなければなんとも思わなかったが、知ったからには不愉快でしかねー。オレの前ですんじゃねーよ。


「まず、特別賞を狙いにいった者たちに賞賛と賛美を送る」


 言ってから賞賛も賛美も同じじゃね? とか思ったが、誰も気にしちゃいないのだからサラッとサラサラ流しましょう。


「今の時代で力は正義だ。弱い者に生きることは許されない! オレが言うまでもなく魔大陸で生きて来た者なら骨身に染みていることだろうからな」


 ってなこと、勇者たちにも言ったような言わなかったような? オレのボキャブラリーは貧困だぜ。


「だが、どんな強者でも食わなきゃ死ぬ。飢えを知る者ならわかるだろう」


 生きている上でオレが一番怖いのは空腹だ。あの胃を絞めつけるような痛みと腹を空かせるオカンやサプルの顔が今でも頭に残っている。


「ただ力があるだけが強者ではない! そんな強者はなんら怖くはない! なぜならそんな獣は知恵で軽く屈服させれるからだ!」


 まあ、そんな強者バカばかりだと助かるのだが、なぜかオレが対峙するのは厄介な強者ばかり。胃が痛くなるばかりだぜ。


「手玉にしているようにしか見えませんけどね」


 そんな簡単ならオレはここで演説なんてしてないよ。


「受賞者たちが見つけた果物はこれから発行する書に発見者の名前を残す」


 まあ、発行するのは帝国。書くのは魔女さんたちだけどな!


 これぞ漁夫の利作戦(あ、今考えました)である。


「知恵の勇者たちよ。お前らの名はこの世界が続く限り残るだろう。同胞たちよ、五人の勇者たちを讃えよ!」


 闘技場がドッと湧いた。


 ってか、こいつら暇なのか? どうやって生きてんだよ?


「大半がカイナーズに所属してるみたいですよ」


 それを知っている幽霊さん。君の情報収集能力が怖くてたまらないよ。


 イイ感じに湧いたら腕を高々と挙げて黙らせる。


「受賞者にはカイナーズホームで使える商品券とオレから勲章を与える。優勝者、オレの前に!」


 バナナを見つけた……なんだっけ?


「ハイリーさんですよ」


 幽霊さん、ナイスアシスト!


 黒い毛の男が前に来る。戦士並みにデカいな。


「優勝者ハイリーには一〇万円分の商品券と金の勲章を与える」


 勲章なんていつの間に? と疑問に思う方もいらっしゃるだろう。だが、我の土魔法なら勲章の百や二〇〇余裕で創れるのだよ。


「ありがとうございます!」


 ミタさんが商品券を渡し、オレが勲章を上半身と下半身の間に結界でつけた。いつでも脱着可能だから安心してね。


「バイガさんですよ」


「二位のバイガ、前に」


 茶色の毛をした男は見ただけで若いとわかるヤツだった。


「二位のバイガには五万円分の商品券と銀の勲章を与える」


 八万円にしようと思ったけど、バナナがメイドさんたちに好評だったので差をつけさせてもらいました。


「三位はダイオールさんですよ」


「三位のダイオール、前に」


 さらに若いとわかる──いや、女か? 胸がちょっと膨らんでいるが?


「まだ未成年の女性ですね。名前は男っぽいですけど」 


 やはり女か。獣顔だとわかんねーな!


「三位のダイオールには三万円分の商品券と銅の勲章を与える」


 つーか、三位までにして欲しかった。勲章、三種類しかねーんだしよ。


「四位はザザーさんです」


「四位のザザー、前に」


 こいつも女だ。胸の膨らみから言って成人だろう。


「四位のザザーには一万円の商品券と銅の勲章を与える」


 まあ、金の勲章の価値を高めるためと思って銅の勲章にしておこう。


「五位はダードンさんで」


「五位のダードン、前に」


 全身灰色──いや、白か、これは?


「かなり年配の方ですね。八〇歳はいってるんじゃないですかね?」


 傷が多いことからして元戦士って感じだな。


「ダードンには五千円分の商品券と銅の勲章を与える」


 あっさりした受賞式だったが、特別賞なんだからこんなもんでイイやろ。


 受賞者たちが下がり、闘技場を見回す。


「シープリット族よ。お前たちはオレに力を示した。次に知識を示した。それがどう言う意味を示したかをわかる者はいるか?」


 まずいないだろうから沈黙が返って来ました。


「それはつまり、シープリット族は種としてさらに先に進めることを示したのだ! シープリット族よ、進め! 立ち止まるな! お前たちの未来は輝いているのだから!」


 さあ、湧けとばかりに両手を天に掲げた。


 起こる歓声。結界で耳を塞いでなければ鼓膜が破裂してるところだわ。


「……ほんと、べー様は人を煽てるのが上手ですこと……」


 豚もおだてりゃ木に登る、だよ。


「よくわかりませんが、適当ですよね?」


 ハイ、テキトーです!


  ◆◆◆


「激動の日々だった」


「確かに激動でしたが、それはベー様以外が激動なだけですよね。その中心でコーヒー飲んでるだけでしたよね」


 ねえさん、大変です。幽霊がオレを追い詰めて来ます。


「そのいまじなりーお姉さんも追い詰めてますよ」


 ヤダ。幽霊さんは到頭オレのイマジナリースペースまで侵略して来ました! そこはオレのサンクチュアリーなのに!?


「ベー様がナニヲイッテルカワカラナイ?」


 なにか言葉がカタカナになってるレイコさん。あなた、誰よりもオレの心読んでるじゃん。


 まあ、幽霊に理解されるのもそれはそれでお仕舞いのような気がする。なのでサラッとサラサラ信濃川~。


「今日もコーヒーがうめ~」


 湖畔で飲むコーヒーの旨さよ。オレは今、幸せである。


「ベー様~!」


「気持ちいいです~よ!」


 たぶん、美女たちが湖で戯れている。


 これが人、または人型をしていれば目の保養ともなるのだが、獣型では犬が湖ではしゃいでいるとしか見えねーよ。


「いいもんですな」


 種が違うオレに同意を求められても困るわ。


 いったいなにが起こっているの? とお悩み中のあなたにズバッと解決。ズバッと回答。ハヤテに跨がって散歩に出たらシープリット族のメイド隊がついて来て、ルダールたちがついて来て、熱いから湖で泳いだらこうなったんだよ!


「誰になにを説明してるんですか? いや、いつものように説明になってませんけど」


 そこは考えるな、感じろダゼ!


「独身な野郎どもはいってこいよ」


 あの中に入ったらオレは潰されるか溺死させられる。つーか、死を予感してさっさと上がって来たよ。


「はい!」


 喜び勇んで湖に入っていく野郎ども。欲情に素直で羨ましいよ。


 オレも年齢を重ねたら欲情が出て来るのかね? このまま賢者のような精神とか酷すぎんだろう。


「ベー様なら選び放題じゃないですか。立候補してる子もいるんですし」


 それは止めてください。シャイボーイには気恥ずかしいお話なので。


「複雑怪奇なベー様です」


 人の心は複雑怪奇だよ。誰にも解き明かすなんてできないさ。


 若人(?)たちが湖で戯れる光景を眺めながら頭を空っぽにして流れる風を感じる。


「嵐の前の静けさですね」


 ちょっと、不穏なこと言わないでよ。それでなくてもオレのスローライフがどこかにいっちゃってんだからよ!


「いいじゃないですか。激動も日常になればいつものことですよ」


 そんないつもの日常などいらんわ! スローライフ詐欺で訴えられるわ!


 スローライフは心穏やかに過ごしてこそ。ハラハラドキドキなんていらねーんだよ!


「ベー様、どんな激動になろうとハラハラドキドキにならないじゃないですか。それどころか楽しんでるでしょうに」


 ほんと、人の心をそんなに見ないでください。プライバシーの侵害よ!


「ベー様。出発の準備が整ったと報告が来ました」


 出発の準備? なんだっけ?


「勇者様の手がかりを求めてバルザイドの町へいくための準備です」


 あ、ああ。そうだったな。一月以上前のことで忘れてたわ。


「いつものことですね」


 違うと反論できないのが悲しいです。


「じゃあ、準備をしてくれた村の方々に感謝として祭りでもするか。復興祭ってことにして」


 祭りに名前がないと苦労させる人がいるからな。


 ほんと、なにも考えてなくてごめんなさい!


「誰に謝ってるんですか?」


「偉大なるクリエイターにだよ」


「……もう、なんでもいいですよ……」


 はい、なんでもいいんです。これはオレからの謝罪と感謝なので。


「ミタさん。よろしく」


 オレは水輝館みずきかんでやる気も使命感も使い果たしたし、もう誰かに任せたほうが受け継ぐ手間もない。ミタさんに丸投げです。


「畏まりました。シープリット族を中心に用意します」


 そうだな。あの地はいずれシープリット族が治める。なら、重要な祭事には出ておいたほうがいいかもな。


「侵略してる自覚あります?」


 もちのロンよ。


 ここは、ラーシュの国かも知れんが、ちゃんと治めるとは思えねー。なら、どさくさに紛れていただくまで。その対価はいくらでも用意できるんだからな。


「もうベー様が世界を征服したほうがよいのでは?」


「オレのポケットにはデカすぎるよ」


 世界征服したいのならいくらでも協力してやるが、自分が先頭に立ってやるのはゴメンである。責任の重さで早死にしたくねーわ。


「祭りの用意ができたら教えてくれや」


「畏まりました」


 よろしこ~。


「まるで世界の裏で暗躍する魔王ですね」


 そんな魔王がいるなら是非とも紹介して欲しいよ。オレが誠心誠意、支えてやるからよ。


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