第141話 バルザイドの町へ向け出発

 出発の準備ができた。


「自分が準備したわけでもないのに、よくそこまで自信満々に言えますね」


 皆の仕事はオレのため。オレの仕事はオレのため。世界はオレのために回っているのだよ。


「どこの悪役ですか」


 そこはどこのガキ大将でしょうが。これだからファンタジーの住人は困るぜ。


「……この理不尽の非常識村人は……」


 怒りの鉄拳が襲って来るが、幽霊なのでまったくこれっぽっちも効きませ~ん。


 無害な幽霊はいないも同じと、荷車に積まれたものを見る。って言っても木箱が積まれているのが見えるだけなのだがな。


 荷車は全部で一二台。ん? あれ? もっと作ったような気がするんだが、一二台だけだったっけ? 


 なにか遠い昔のようで思い出せん。覚えてる人、オレに記憶をわけてくれ!


「何台か先行させた」


 と、エース的オネーサマ。あれ? なんか着るもの変わってね?


 初対面のときは革のビキニアーマーの類似品を着ていたはず。なのに今はビキニ(水着か?)になっていた。


「──なんでやねん!?」


 思わず突っ込んでしまった。


「な、なんなのだ?」


「なに防御力下げてんだよ! 意味わからんわ!」


 ビキニアーマーにも突っ込みどころはあるが、まだ革なだけに布(水着の材質など知らんわ)よりは防御力はあるはずだ。いや、知らんけど!


「誰だ、ザイライヤーに余計な知恵を授けたヤツは!!」


「べー様も大概余計な知恵を授けてますよね」


 うぐっ。そ、そう言われたなんも言えません……。


 はぁ~。もういいよ。ビキニアーマーがビキニになってもオレには関係ねー。見て楽し──いや、なんでもありませぬ。


「そんで、先行ってどう言うことだい?」


「こんな意味のわからない集団がいきなり町にいっても追い出されるだけだ。だから、村の者と我らが先行して根回しをするのだ」


 へ~。アマゾネスな集団なのに根回しとか知ってるんだ。


「我らはあまり町から歓迎されてないからな。入るときは付き合いのある者に頼んでいる」


 オレの表情を読んでか説明を付け足してくれた。サンキューです。


「それは手間をかけさせたな」




「構わない。我らはべーに助けられているからな」




「行動してるのは周りなんですけどね」




 幽霊さん、ちょっとお黙んなさいな。まあ、レイコさんの姿と声はオレが選んだ者にしか見えないようにしてるがな。今さらな説明で申し訳ございませんです。




「オレに得があるからやってるまでだ、気にすんな」


 すべては将来、ゆったりまったりスローライフするための布石。この弱肉強食なワールドを住みやすくするためのことだ。


「ところで、この……隊商? の、かしらって誰よ?」


 と、訊いたら周りにいるヤツらが一斉にオレを見た。


「え? オレ?」


「他に誰がいるのだ?」


「いや、村のヤツから選べばイイだろうが」


 オレはそのつもりでいたぞ。


「あの集団を仕切って──いや、頭はべーだろう」


 なぜ言い変えた? いや、仕切ってないからイイんだけどさ!


「あ、いや、そうだな。説明不足だった」


「いつものことですがね」


 黙らっしゃい! ゴースト・オブ・ザ・レイコ!


「まあ、頭はオレでイイや。副頭として村とザイライヤーから一名ずつ出せ。ルダール。奇異の目を向けられても平然としてられるヤツを四名選べ。援護部隊はルダールに任せる。カイナーズはカイナーズで勝手に決めろ」


 隊商? の数は言ってるのだからその中から選べや。


「わかった」


「了解です!」


 エース的オネーサマとルダールが代表して答え、それぞれが動いた。


「ミタさん。メイドからも何人か出してくれ。なるべく人の姿をしたヤツをな。細かい部分はオレの力で変えるからよ」


「畏まりました」


「ってか、見習いたちはどうした?」


 何人かの見習いはいるが、委員長さんら性格の濃いのが見当たらなかった。


「先行隊でいきました。町を見たいと言うので」


 一足先に見たいと思う町だったか? まあ、外国の町なら珍しいかもしれんがよ。


「あいよ。じゃあ、出発は明日の朝とする。出発する者は早めに寝ておけよ」


 そう言ってオレはハヤテに跨がり、夜眠れるように遠出に出た。のんびりまったりしすぎてまったく眠くねーんだよ。


「べー様。我々もお供します」


 シープリット族のヤツらが三〇人ほどついて来た。


「なんか暴走族になった気分だな」


 まあ、ジャングルで生きてる者からしたら暴走以外の何物でもねーんだがな。


 パラリラパラリラグォングォングォ~ン!


「なんですか、それ?」


 若き血潮の自己主張さ。


  ◆◆◆


 パラリラから帰って来てすぐに寝て、起きたら雨が降っていた。


「幸先悪いわね」


 ビニール傘をさした魔女。童話の題名にしたい光景だが、生憎とオレに童話を創る才能はないのさっさと諦めた。


「そうかい? オレは幸先イイと思ってるけどな」


 この大陸に来て初めての雨だ。つーか、今まで乾期だったのか?


「どうして?」


「旅は苦難の連続。快適な日のほうが珍しいくらいだ。うちのところでは出発の日に雨が降ると隊商の面々の気が引き締まるって喜ばれるよ。まあ、それは隊商の頭だけだがな」


 快晴で心浮かれるより、雨で心落ち込んで苦難があってもそれほど気落ちはしない、ってことらしいよ。


「ところ変われば、ってやつね」


「まーな。朝食を済ませたら出発するぜ」


 テントの下で朝食をいただき、コーヒーを飲むことなくメンバーに声をかけて馬車に搭乗させた。


 オレはハヤテに跨がる。馬車──ではなく、竜車の御者は村のヤツに任せたからな。


「ザイライヤーが先頭だ。人数は任せる。ルダールは最後尾だ。カイナーズは臨機応変にやれ。では、出発だ!」


「あっさりした出発なのね?」


 リジャーに跨がった委員長さん。獣魔──いや、使い魔にしたのか?


「行進じゃねーんだ、派手なことはしないよ」


 まあ、村に残るヤツやシープリット族がいるので歓声がスゴいことになってるけどな。


「ところで、この隊商に名前はあるの? 記録するのに不便なのだけれど」


 あ、名前な。すっかり忘れてたわ。


「ゼルフィング商会コファー隊にしておけ」


 ゼルフィング商会のマークもコーヒーカップにしてあるし、コファーはコーヒーだ。オレが率いるにはちょうどイイ名前だろうよ。


「ゼルフィング商会って、またフィアラさんに怒られますよ」


 あ! 婦人に話を通しておくの忘れてた! ど、どーすっぺ?


「ミタさん。金勘定が得意なメイドっている?」


「はい。何人かおります。必要であれば会計部より連れて参りますが」


 会計部とかあるんだ。いや、もう何部があっても驚きはしないけど。


「じゃあ、隊商の会計をやらせてくれ。ゼルフィング商会とは別会計にするからよ」


 それなら婦人も怒らんでしょう。たぶん。きっと。そうであって欲しいです。


「畏まりました」


 できないと言わないミタさんがカッコイイ!


「では、隊商の名簿と給金も決めますね」


「ああ、頼むよ」


 これで心配はなくなった。あーイイ旅立ちができてなによりだぜ。


「ベー様! 我らは離れて護衛します!」


 雷撃の槍、雷電を掲げた……なんだっけ?


「イップスさんですよ」


 カンニング幽霊さん、サンキューです。


「イップス。羽目を外すなよ。やるなら静かにやってくれ」


 周りで騒がれたら隊商としていく意味がなくなるんだからよ。


「お任せあれ。静かにやりますとも!」


 自信満々にイップスたちがジャングルへと消えていった。


「波乱がないとイイんだがな」


「波乱が起こる前にシープリット族が抹殺しそうですけどね」


 だな。魔王でも襲ってこなけりゃ隊商まで辿り着けんだろうよ。


 ザイライヤーのビキニ戦士が二人、リジャーに跨がり先頭をいく。


「あの少ない布にどれだけの防御力が秘められてるんですか?」


「防御力ではなく夢と希望が込められてんだろう」


「どう言う意味ですか?」


「女にはわからないことだよ」


 オレには上手く説明できんが、男なら感じてくれるはずだ。


 軽い荷物を牽く竜車が続き、四台目と五台目の間に入った。なぜか委員長さんも続いて入った。


「なぜここなの?」


「ここが隊を指揮するのにイイからだよ」


 まあ、隊商もいろいろだからここが決まりと言うことはねー。先頭にいたり最後尾にいたりする頭もいるからな。


「本当なら隊商にこんな護衛はつかん。イイところ一〇人くらいだろう。護衛費だけで儲けが飛んじまっては意味ねーからな。オレらはザイライヤーにシープリット族が前と後ろばかりか周りにまでいる。そんな状況で頭は中心近くにいたほうがイイ。なにかあれば指示しやすいからな」


 なんてのはこじつけだ。これだけの護衛がいたら竜車でゆっくりしてられるわ。


 だが、隊商を組織するなんて初体験。どんなもんか味わうのもイイだろう。またこんなことがあるかもしれんからな。


「まっ、何事も経験。そして、勉強だ。いろいろ学んで失敗しな」


 これだけ揃っていればどうとでもリカバリーできる。これからの人生の糧にするんだな。


「そうするわ」


 やる気があってなにより。さあ、バルザイドの町へ向けて出発だ!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る